第28話 不穏な出来事
「美術部の部室で、棚の上のほうにある画材を取ろうとしたら、バランス崩しちゃって、尻もちをついたときに、手を骨折したみたいで。ゲームの原画、描けなくなっちゃった」
よく見ると、右手に包帯をしていた。
私はまず最初に謝ってきたことに驚いた。まあ支子らしいけど。
「大丈夫、大丈夫。なんとかするから。右手、早く治ると良いね。こっちのほうこそ、余計な心配させちゃってごめんね」
私はそう言ったが、コンテストまでそんなに時間がない。支子の怪我はもちろん心配だが、ゲーム作りのほうを進めないといけなかった。
授業が終わり、部室へ向かった。
みんなに事情を説明し、原画はとりあえずみんなで描いてみようということになった。
動物型、人型、機械型だと、いろいろな種類の敵がゲームには出てくる。図書室やネットのサイトで資料を集めた。
「小説でも、SFだとメカとか出てくるので、どんなものかは知っているつもりでしたけど、いざ描いてみると難しいです」
「まあ、小説を読んでも、ちょっと挿絵があるぐらいだしな」
たとえ小説を読んでいても、普段、よくアニメとか観察してないとわからないよね。
「正座しているキャラなら描けると思ったのですが、意外に難しいですの」
「人の体、特に姿勢には気を付けているが、やってみると、あまりよく描けないものだな」
人の身体とか、普段からよく見ているけど、それで描けるようにはならないよね。
私もゲームとかはよく観察しているけど、それでもいざ描くとなると、なかなかうまく描けない。
それでも1枚の基本パターンはなんとか描けたけど、いつも支子に頼んでいた中間のパターンが全然描けなかった。
「うーん」
あまりよく描けないのか、部員のモチベーションも下がってしまった。
翌日。
間に合いそうもない……みんな、そう思ったらしく、以前の部活の活気がなくなってしまった。
ガチャッ
「学校になにか書類が来ていたわよ」
小海先生が封書を持ってきた。
エントリーしたコンテストの詳細の書類だった。
ただ、ゲームが完成するか分からないので、みんな『どうしようかな』みたいな顔をしていた。
最近、部は早く終わることが多くて、今日も例外ではなかった。
下校途中、私は河原に腰を落とした。ぼ~っと川を見ていると、背中に気配を感じた。
「ずいぶん早い、お帰りだな」
振り返ると、ツインテールの女の子、宮崎 二嗣が立っていた。
「えっ? どうしてこんなところに?」
宮崎が隣に座って、こう言った。
「宮野も悔しがっていたぞ。ゲームの絵が描けないって」
その発言に私は驚いた。どうして、支子の事を知っているのだろう。
「支子……宮野は従妹でね。たまに話を聞くんだ。まさかあんたの友達だったとはな」
従妹だったんだ。そういえば、文化祭の時にこの宮崎と少し会話をしていた気がする。
「コンテスト、楽しみにしているぞ。まあ、あんたが本選に残れるかはわからんがな」
宮城はそう言って、去っていった。
しかし、宮城に言われても、部員はやる気が出るだろうか。宮城と従妹だからって、なにか変わるわけでもない。
なんか、もやもやしながら、私は帰宅した。
翌日も、そこまでやる気がなく、とりあえずゲーム作りの作業を続けていた。
ガチャッ
部室のドアが開いた。
「ゲームの原画、描いてきたよ!!!」
部室に支子の声が響いた。
「怪我はどうしたのですの?」
「まだ治ってなさそうだけど」
「どういうことです?」
「まだ、包帯も取れてないじゃないか」
支子が左手を挙げながら、叫んだ。
「原画を直接使うわけじゃないから、頑張って左手で描いたんだ。右手が使えないのなら、左手だよ!」
支子の目が輝いているように見えた。
「ありがとう」
そう言って、私はノートを受け取った。
支子が頑張ってくれたのに、こちらが頑張らないわけにはいかない。
「ノートをコピーして」
「はいですの」
部員のみんなで原画からドット絵を起こし始めた。
カチカチ…
カチカチ…
中間のアニメパターンのイラストまであるのはやはり心強い。
翌日にはすべてのパターンが出来上がった。
あとは敵キャラクターをマップに配置して、バランス調整だ。
みんなにマップを作ってもらっている間に、コンテストの詳細の書類を読んでおこう。
ペラッ
まずゲームが出来上がったら、期日までにゲームを郵送か、決められたサイトにアップロードする。
審査員が1次選考、その後、2次選考をし、それに残った者が会場でゲームのプレゼンをしてもらう。
複数の審査員に改めてゲームをプレイしてもらい、ゲームの出来などを評価し、優勝者を決める。
なるほど。最終選考まで残らないと会場には行けないんだね。
会場の場所を調べると、割とここから近いらしい。これはラッキーだ。宿泊とかあると、準備が大変だしね。
マップ作製も順調に終わり、明日あたりは完成しそうだ。




