第23話 ゲームが止まった
文化祭が明後日に迫っていた。
さて、私が部室へ入ると、今日は誰もいなかった。久々の一番乗りである。
「おつかれですの」
「おつかれ」
「おつかれです」
「おつかれ~」
一番乗り……だったが、すぐに他の部員も入ってきた。
とりあえず、急ぎでやることは無いので、マップの微調整などをやってもらった。これの作りこみでだいぶ変わる……はず。
各人にステージを割り当てて、マップをいじってもらう。よくできたと思ったら、他の人にプレイしてもらって、感想をもらい、また微調整をする。それを繰り返した。
「このステージはなかなかの自信作ですの」
「うーん、ちょっと難しすぎるかも」
「数回、タイミングよくジャンプするようにできているけど、あまり気持ち良くない」
「そうですか。ですの」
そして、息抜きにお茶を淹れる。
「お菓子をどうぞ」
「お先に」
……
……
みんな、慣れてきたのか、音谷に小言を言われることも少なくなった。
でも、あまり息抜きになってない気がする。むしろ今から本格的に作業を始めるから、そのために精神を集中させるって感じだ。
まあ、それはさておきマップ作り、いや、マップ調整の再開である。
カタカタ……
カチ……
カタカタ……
カチカチ
みんなキーボードとマウスでマップのパーツを置いている。
何回かマップのパーツ配置とテストプレイをしていたら、日もだいぶ暮れてきた。
さて、帰るかと準備しようとしているときに、後ろから大きな声がした。
「あ~~~! ゲームが止まった!」
隅野の声だった。
「体当たりをすると、崩れる壁に触れたら、止まった!」
体当たりすると壊れる壁はそれほど設置してなかったはずだ。それに他の人からはそういう報告はない。
「あ~。先に帰ってて、私がプログラムを修正しておくから」
そして、私はパソコンの画面に集中する。
崩れる壁のあるステージをいくつかプレイしてみると、隅野のプレイしたステージだけのようだ。
大丈夫なステージ、つまりエラーの起きないステージと何が違うのか。
あらためてゲームをしてみても、よくわからない。
うーん。どうしたものかと後ろを向いたら、隅野と望月はまだ居た。
「あれっ? まだ居たの?」
私はそう話しかけた。
「プログラムを修正したら、テストプレイする者が多くいたほうが良いだろ」
「やりますですの?」
両名、まだまだ付き合うぞという顔をしていた。
スッ
「どうぞ」
横からお茶が出てきた。音谷と川野が淹れてくれたようだ。
「ありがとう」
そう、私が言うと、続けてデザートのミルフィーユが出てきた。
茶道には使わなさそうなお菓子ではあるが、川野が事前に用意してくれていたのだろうか。音谷だとこういう菓子は拒絶しそうだ。
ミルフィーユ、パイ生地とクリームを何層にも重ねた菓子である。
この層を見ると、ほんと美味しそうだ。
うん? 層?
層は英語で言うとレイヤー。今作っているゲームのマップデータはいくつかのレイヤーに対応している。もしかしてそこに違いがあるのでは。
そう思い、すぐにマップデータのファイルのヘッダーを確かめてみた。
……
ううう!
隅野のプレイしたステージだけレイヤーが1層のようだ。
ひょっとして、2層目を書き換えようとしてエラーが出たのでは。そう思ってプログラムを見てみた。
「分かった!」
ゲーム中のパーツ書き換えにおいて、レイヤーの数に無条件で1層目も2層目も処理していた。存在しない2層目を処理しようとしたので、ゲームが止まったみたいだ。
私は必死にプログラムを修正した。お茶を飲んで、ミルフィーユを食べながら。
カタカタ
むしゃむしゃ
カタカタ
修正にそれほど時間はかからなかった。
そして、みんなでゲームのステージをテストプレイして、おそらく大丈夫であろうことを確認した。
ガラッ
「早く帰りなさい!!」
ちょうど終わったころに、小海先生の声が部屋中に響いた。
「あと、以前、提出したレイアウトで大丈夫だから、明日準備しましょう」
私たちは追い出されるように学校を出た。
外はもう真っ暗だった。
カサリ……
足元から音がした。
道にはいろいろな葉が覆っていた。
ピュ~
風が吹き、覆っていた葉が舞ってきた。そして、肌寒く感じてきた。そろそろ秋の本番って気がしたよ。
また、お茶が飲みたくなってきたけど、それはまた明日だね。
もう、今日はささっと帰ろう。
「じゃ、また明日です」
「また明日~」
「明日ですの」
「明日、また」
私たちは途中で別れた。




