第20話 左から読むか右から読むか
今日は日曜日だ。
私は窓から射している陽を浴び、そしてパソコンへ向かった。まだ朝ご飯の時間ではないが、なんとなくゲーム造りのやる気が出ている。
昨日、川野が使っていた、マップエディタを立ち上げた。吐き出されるデータの仕様を見ると、バイナリー形式だと、先頭のヘッダーにマップ全体の大きさなどが書きこまれていており、その後マップのデータ。つまりパーツの番号が左上からそのままベタで書き込まれるらしい。右端まで行くと、一段下がって、左端から始まる。
とりあえず、何か参考になるものはないかなぁっと、以前貰った本をいろいろと漁っていたら、ずばりマップデータを読み込む方法の記事がある本を見つけた。対応機種とかOSが違うけど、たぶん概念は同じだろう。私はそれを参考にプログラムを開始した。
……
うーん、プログラムを組んでみたけど、どうも動かない。マップの読み込みですぐに止まる。画面の一部さえ表示されない。
「ご飯よ~」
母の声がした。私は朝ご飯を食べに台所へ向かった。
テーブルにはご飯、納豆、卵、焼き魚、ほうれん草が並んでいた。結構好きなメニューなのだけど、プログラムの事を考えると、味がよくわからない。エラーの箇所はどこかなぁとか、早く食べ終わらないかなぁなどと思いつつ、ご飯やおかずを口にした。
「ごちそうさま」
さてと、朝の食糧補給の作業が終わった。作業と言ったら失礼だけど、プログラムが気になるのだからしょうがない。
私はパソコンの前に座り、プログラムを続けた。
いろいろ考えているうちに、ヘッダーにある全体マップの大きさの値をうまく取得できていないのでは? と思った。
デバッガの機能はまだよくわからなかったので、プログラムにヘッダーのマップの値を読んだ直後に、マップの値を表示するダイアログを追加した。OKボタンも出てくるけど、これは押すとプログラムの終了とすることにした。
ドキドキしながら、実行してみると、マップエディタで作ったマップの大きさよりはるかに大きな値が表示された。
「これはいったい!」
うーんと、腕を組んで考えていると、何故だが昨日、本屋で読んだ本のことが浮かんだ。
『正反対の意味を持つ文章 ~左から読むか右から読むか~』
そういえば、左側が0で埋められた数値って、反対から読むと、小さな値がとても大きな値になったりするよね。逆もまた。
それかな……
私はバイト単位で読みこむ値を逆にしてみた。
……
よし、起動だ。ポチッと。
画面にマップが普通に表示された。
「やった~」
しかし、表示されたら、満足してしまった。ちょっと散歩にでも出かけよう。
外へ出ると、まだまだ陽の照り具合が強かった。まぶしいなと思って歩いていると、前方から支子がやってきた。
「ひいらぎ~」
こちらに気づいたのか、私の名前を呼びながら走ってきた。
支子は息を切らしながら、鞄からノートを取り出した。
「ちゃんと描いてきたよ。はい、これ!」
頼んでいた原画を描いてくれたらしい。ノートを開いてみると、なるほど、半裸の男のパターンがたくさん描いてある。うん。あるね。
外で見るのはあまりよくなさそうだったので、ぱらぱらと見て閉じた。
「うん。ありがたく借りておくよ」
私はそう言い、暇だったので支子とファミレスへ入った。
カラン……
ドアを開けると、まだお昼になっていないのか、比較的空いていた。
「メニューをどうぞ」
メニューを見ると、イチゴパフェが目立つように載っていた。
指を指して、
「じゃあ、これを」
「じゃあ、わたしも」
と言うことで、パフェを食べることになった。
さっきのノートを見ようと思ったけど、誰かに見られることを危惧して、それはやめた。いくら空いているからって、人はいる。よく見ると同い年だと思われる客もいた。
支子の様子を見ていると、何やらキョロキョロしていた。店にいる客を見ているのだろうか。
「あっごめん。絵にする時の構図の参考にと思ってね。特に複数人いる構図なんて、なかなかいい勉強になる。あと動きなんかも勉強になる。こっちは絵と言うよりアニメーションかな」
アニメーション。なるほど、さっきのノートに描いてあるような、動きのパターンとかの参考になるのね。
再び支子が怪しげな動き、すなわち構図チェックをしていると、奥から店員がパフェを運んできた。
写真で見るより、大きく、美味しそうに見える。もっといい写真を撮れば、店の売り上げも……と、割とどうでもいいことを思いながら、食べ始めた。
「美味しい!」
「すごく美味しい!」
赤と白の美しいバランス。イチゴが花びらのように設置されている。設置ってなによ。機械かな。
まあ、それは置いといて、口の中のふんわりとした美味しさが広がり、イチゴがアクセントとなった。
食後は、今作っているゲームの進み具合などを話した。周りを見ると、もうすでに12時を過ぎていて、店内がざわざわと混雑していた。
店を出ると、陽射しが一層強くなっていた。




