第19話 本屋さんの、あるコーナー
今日も授業が終わってから、部室へ向かう。
ガラッ
おや、今日はすでに先客がいるみたい。望月と隅野だ。モニターの画面を見てみるとレンガやブロックなどのドット絵を打っていた。
「背景も作らないといけないと思ったのです」
「動くキャラは難しいからな」
みんなやる気みたいだ。私は少しキャラを作って、後はプログラムに専念できそうだ。
今日はプレイヤーがミスをした時のパターンを作ろう。手抜きをするなら点滅させて、そのあと消せばいいけど、それは敵キャラでやればいい。プレイヤーキャラはミスのアニメーションが欲しい。敵キャラも時間があれば、ミスパターンは欲しいな。
プレイヤーキャラをドットエディタで20度ほど回転させた。ドットが結構崩れてしまうけど、だいたいのアタリは分かる。そこからポチポチとドットを修正し、脚をちょっと上げるようにした。ちょっと転んでいるみたいに。後は目を驚いているような感じにすれば、このパターンが終了だ。次にさらに20度ほど回転させて、また同じような感じで修正した。
少し疲れたので、一息つこうと席を外して周りを見ると、いつのまにか川野と音谷がパソコンの前にいた。
こちらもまたドット絵を打っているようだ。画面を覗いてみると、ふすまや畳、和風の壁などを作っているようだった。
いやぁ。興味がある事だと、みんな頑張ることができるねぇ。まあ、自分もそうだけど。
背景のパーツを見て、ふと思い出した。
「そうだ。マップエディタが無いんだった」
私のその声に、川野が反応した。
「あっ、それならフリーソフトで良いのを探しておいたのですの」
そう言って、そのフリーのマップエディタを目の前で立ち上げた。
見た感じは一通りそろってそうである。後はどういう形式で保存できるかである。
「保存形式? なんですの?」
川野はそういうことは分かってないようであったので、私がソフトに付属してある説明書を読んでみた。
……
「ふむふむ。テキスト(csv)かバイナリー形式を選べるのね」
ぶつぶつと独り言を言いながら思ったけど、よく考えてみたらマップデータの読み取りのプログラムも作らないといけないことが分かった。
まあ、何とかなるでしょう。後でマップを読むサンプルプログラムを探してみようかな。
さて、帰ろうかな。私は部室を出た。
廊下を歩いていると、ちょうど支子が美術部の部室から出てきた。
「いま、おかえり?」
「そうだよ」
支子の顔を見ていたら、何かを忘れていたような気がした。
うーん。私は腕を組みながら思い出そうとした。
「?」
支子が不思議な顔をしてこちらを見ている。早く思い出さないと……
「おいっちにい、さんし! おいっちにい、さんし!」
外から奇妙な掛け声がしている。外を見てみると、水泳部がグランドで体操をしていた。
なぜグランドで……、まあそんなことはどうでもいい。しかし、何か心に響くものがあった。
「半裸のお兄さん……」
私がつぶやいた言葉に、支子がさらに不思議な顔をした。
そう、私は思い出した。隅野が作った半裸のお兄さんのキャラクター。そのキャラの他のパターンを作ってほしかったことを。
しかし、ちょっと相談しづらいなぁ。こんなキャラクターは描きたくないだろうし。そう思いつつも、そのドット絵を印刷した紙を支子に差し出して、説明をした。
「いや。別に引き受けなくてもいいよ。変なキャラだし」
私がそう言って、支子の顔を見ると、なんだか輝いているようだった。
「大丈夫。大丈夫。ちゃんと他のパターンの原画も描いておくよ。今あるドット絵の原画もね」
なんか、急に張り切りだした感じがした。いったいどういうことだろうか。まあ、わからないけど、引き受けてくれるのなら、そうしてもらおう。
その後、支子と一緒に帰り、私は本屋へ寄るために途中で別れた。
本屋に入り、パソコンコーナーへ向かおうとしたら、『正反対の意味を持つ文章 ~左から読むか右から読むか~』というタイトルの本が平積みになって置いてあった。なんだか、こっちのほうが気になり、その本を読んでいたら、もう夜遅くになりそうなったので、本屋を出た。
「うーん。本当はプログラムの本が読みたかったけど、ちょっと脱線しちゃったかな」
そう言いながら、私は帰路についた。