第14話 夏休みの宿題
「ミーンミンミン ミンミン」
セミが鳴いている。8月下旬だけど、まだ暑い。私と支子、元文芸部の望月は駅前で隅野を待っていた。今日は隅野の家で夏休みの宿題をやるのだ。清水も来る予定だったけど、用事が出来て来れなくなったらしい。
「みんな、おはよう!」
隅野が迎えにきた。ブラウスと前にボタンがついたフレアスカートを履いてきた。ブラウスの裾は練ってある。なかなかおしゃれだが、暑いし、もうちょっと薄着でも良かったのでは……と思った。
まあ、それはともかく隅野の家まで歩いた。しかし、暑い。周りを見ると、朝からスズメが電線にたかって、ピーチクパーチクとうるさい。早く着かないかなって思ったら、5分ほどで着いた。
ずーんと隅野の家は建っていた。結構でかい。まあ、それでも所詮は2階建てで、庶民の域を抜け出していなかった。ひがみであるけど。
「いらっしゃーい」
母親と思われる人が出迎えた。かなりの美人である。まあこういうシーンではよくあることだね。
隅野の部屋へ通された。かなり広い部屋である。5~6人いてもなんともない。私たちは大きなテーブルのまわりに座った。そして、普段の彼女の口ぶりはちょっと男っぽい所があるけど、部屋はファンシーな感じで、女の子っぽかった。
しかし、よく見ると、ちょっとガタイの良いお兄さんのフィギュアが飾ってあった。あれはなんだろう。有名なキャラなんだろうか。
「狭いところ、ごめんねぇ」
いや。狭くないでしょ。木造で平屋の家より広いよ。他のみんなもおそらく心の中で同じ突っ込みをしたと思う。
さっそく、教科書や問題集を広げて、宿題を開始しようとした。
その時、ガタッとドアが開いて、飲み物が出された。
「どうぞ~」
母親が言い放って、去っていった。
メロンジュースにアイスが乗ったものである。メロンフロートってやつである。
出鼻をくじかれた。フロートの魅力に参ってしまって、もう勉強どころじゃなくなった。
「一口食べるごとに広がる、この雪のような甘さ。じゅわじゅわっと溶けていく」
って、雪のような甘さって、いったい何だ?
飲み物を口にしたら、なんだかお腹が空いてきた。普通は逆かもしれないが、先に飲み物がきたのだからしょうがない。
「お菓子、持ってきたよ~」
そう言いながら、隅野が持ってきた。グッドタイミング。
「美味しいね!」
「美味しいです」
「うまいだろ!」
ポテトチップスのようなものをしばらく食べていたら、お腹が膨れてきた。そして、眠くなってきた。
「おっ、枕を持ってきたぞ」
隅野が人数分の枕を抱えて持ってきた。
またまたグッドタイミング。
「……」
そう思ったが、これは幻覚だった。まあ、それはそうだよね。何しに来たんだかって事になるし。
「さて、そろそろ始めよう。時間が無くなるぞ!」
これは幻覚ではない。これは幻覚ではない。隅野の言葉だ。
と言うわけで宿題を始めた。
まずは数学だ。計算問題をやる。こういうのって、自分で解法がわからない計算って、どうするんだろう。なんかそれっぽく解答して、夏休み明けに採点してもらって、それで理解するのだろうか。それだと効率が悪すぎる。
まあ、今ここには人数がいるので、そういうことも少なくなるだろうけど、とにかく学校と言うものはいい加減だ。
なんて、大きなことを言いながら、宿題の部分を分担してやって、後で答えをそのまま書き写した。
さて、次は国語だ。
漢字の問題だったり、長文読解がある。
漢字の問題は調べれば終わる。問題は長文のほうだ。
「まずは文章の骨組みをつかめ」
「接続しに注目しろ」
「答えは文章の中にある。あんたらがどう思うとか、関係ないから」
などとみんなで攻略方法を聞いて、後は各々問題を解いた。同じ答えだと写したとばれてしまう問題が多いからだ。
なんやかんや、進めていったら宿題の8割が終わった。
この勢いで、最後までやり通すか、またはいったん休んでからやるか、どうしようかと思っていたら、ドアが開いた。
「お腹空いたでしょう。おにぎりとお茶、持って来たわよ」
隅野の母親がお腹に入れる燃料を持ってきた。なので、強制的に食事タイムになった。
「労働の後のおにぎりは美味いな」
「おいしいね」
「ほんとにね」
しかし、食べたら眠くなってきた。今なら、枕なしでも寝られる。
……
……
「あれ、いつのまにか寝てた」
「ほんとだ」
「うーん、今何時?」
起きて、時計を見たら、時間がだいぶ経っていた。
「早くやらなくちゃ」
「そうだね」
「早く早く!」
腹が膨れて、寝て起きて、焦ったら、エンジンがものすごく早くかかった。あれこれしているうちに、どんどん進み宿題は終わった。
ただし、正答率はどれだけのものはわからない。まあ、終わればいいのかな。そう思った。ちなみに支子は人のは写さず、自分でやって、おまけに他の人にも教えていたりした。
外は夏とはいえ、だいぶ暗くなっていた。
隅野の父親に車で各家へ送ってもらった。