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第12話 合宿での出来事

「コケコッコー」


 鶏が鳴く朝。うん、海に近いこの場所にも鶏はいるんだね。


「おきなさーい」


 音谷の声が聞こえる。周りを見ると、みんなすでに起きていた。


 そして、別荘の空いている部屋へみんな向かっている。どうやら、お茶の会があるようだ。部屋に着いたら、先生がすでに待っていた。



 とりあえず座っていると……


「両手を畳に付けて頭を下げる!」


「両手を畳に付けて頭を下げる!!」


 音谷と先生、張り切りすぎじゃないですかね。って、心の中で思っても、絶対に口には出せない。


 この後、なんだかんだいろいろあって終わった。お菓子も食べたんだけど、どこに入ったかわからなかった。


 とりあえず、お茶会が終わったので、みんなで海の散歩をした。


 ざっぱぁ~ん。ザザザザ……


 朝の海はなかなか良かった。ちょっと海に入って遊んだりもしたかったけど、そろそろ朝ごはんなので、眺めながら歩くだけで終わらせた。



 別荘へ戻ると、食事が用意されていた。


 ただ、昨日の夜と比べると質素で、納豆とみそ汁、それと生卵だった。


 まあ、結構好きな組み合わせだから、良いんだけどね。



 食事が終わったら、文化祭でなんのゲームを作るかの話し合いだ。


「やっぱり、アクションゲームが良いかな。一度作ってみたかったんだよね」


 私はそう主張すると、元文芸部がこう言ってきた。


「いやいや。シナリオ重視のアドベンチャーゲームが良い」


「そうそう。文芸を生かせるのはアドベンチャーゲームだよ」



 と言うわけで、どっちがいいか元茶道部に意見を求めた。


「どっちも嫌だな。お茶を点てるゲームが良い。より厳しく叱咤されるやつ」


 音谷がそう言った。


 川野のほうを見たら、もうどうにでもなれって感じで、なんでも良さそうな顔をしていた。


 しかし、ただ単にお茶を点てるゲームならまだしも、叱咤って何?

 

 いったい、どんなゲームなんだよ。


 なんて、思っていたら、先生がこちらを向いて、何か言ってきた。


「よし、お茶を点てるゲームにしよう。叱咤の種類も豊富にしよう」


 叱咤の種類って? 叱咤がメインのゲームに思えてきた。


 さすがにちょっと作りたくないゲームだったので、私と元文芸部が協力して、


 『シナリオのある、アクションゲーム』に収まった。


 ステージクリアごとに、キャラクターの会話が入るやつである。



 さて、昼ご飯も食べたし、午後はまた海へ。


 泳いだり、駆けまわったりするのも面倒なので、シートでだらんと寝っ転がる。しかし、暑いな。まあ夏だし海だし、当たり前かもしれないけど。


 波の音を聞きながら、空を見ると、白い雲が浮かんでいた。


「良い背景だねぇ。ゲームの素材にはばっちりだ。」


 そう私が呟いたら、元文芸部の望月がカメラを取り出した。


「いろいろな風景も小説や短歌の資料になると思いますです」


 私はカメラを借りて、空の雲を撮った。次第に視線を下へずらし、海と空が入る風景を撮った。


「こっちのほうが使えるかも」


 独り言を言いながら、あちこち撮っていたら、少し離れたところに洞窟のようなものがあった。私が洞窟の方向を凝視していると、それに気づいたのか、望月も私と視線を同じにした。


「ちょっと行ってみようよ」


 普段あまりしゃべらない望月の目が生き生きとしていた。実はこういう新しい発見事が好きな人なのだろうか。


「いやぁ。でも……」とちょっと拒否気味な私の手を引っ張って、軽く走り始めた。


 洞窟に近づくにしたがって、周りの人が少なくなる。だんだん不安になって来たけど、望月は私の手を引っ張る。そして、たどり着いたはしたが、木の柵で入り口が入れなくしてある。正確には入ろうと思えば、簡単に入れるけど。


 望月は洞窟の入り口をまじまじと覗いている。よほど興味深いのであろう。



 ぴゅ~~


 その時、突風が吹き、彼女は思わず柵に手をついた。


「えっ?」


 柵に手でちょっと力を加えた瞬間、柵が音もなく壊れた。木が腐っていたようだ。身体のバランスが崩れ、彼女は風の力も加わって、洞窟の中で転げ落ちてしまった。


 私も彼女の後を追い、彼女には追いついたのだけど、そこは少し坂になっていて、足場が滑るようで入り口に戻るのは難しいのに気がついた。

 

「ごめん。どうしよう」


 私たちは助けを求めたが、風の音と、波の音で周りには聞こえないらしい。そういえば、洞窟の周りは人も少なかった。他に出口があるのでは……と思い、私たちは奥に入っていった。


 暗闇の中を少しずつ進むと、頬が冷たくなる感じがした。向こうから、風が吹いているのかも。不安に思いながら、進むとわずかだが光が見えた。


 光の方法へ私たちは進んでいった。進んでいくと、その光は比較的、下のほうにあることが分かった。


「海の水がくぼみに溜まっている。どうやら、そこに光が反射したいただけみたい」


 そう、望月が言うと、私は上を見た。


 上を見ると、隙間からわずかに光が射している、それが下の水に反射したのであろう。これでは洞窟を出ることができない。しかし、よく見ると光が波打っている。あちらから風が吹いているのだろうか。その方向ほうへ私たちは向かい、出口を探し始めた。


 風の方向へ向かうと、そこは行き止まりだった。望月は疲れたのか、その場でしゃがんでしまった。私も疲れていたので、しゃがんだ。


「まさか、こんなことになるなんて。ごめんね。柊」


「いやいや。まだ諦めるわけにはいかないよ」


 ……


 しばらくお互い無言であったが、望月が話しかけてきた。


「私、小説読むのが好きでね。読んでいるうちに自分も書きたいと思ったんだ。前にゲームで作ったシナリオも元は小説なんです」


 彼女と長らく話していたが、話題がなくなったのか、またお互い無言になった。


 私たちは静かに目を閉じて休んでいた。



 ひゅ~~


 風はやはり壁のほうから吹いてくる。しかし、周りは暗くてよく見えなかった。


「あれ?」


 私はまだカメラがあることに気がついた。肩に掛けたままだった。


「このカメラのフラッシュで周りを見てみよう」


 そういうわけで、あちこちの方向をカメラのフラッシュを焚いて撮ってみた。


 パシャッ


 パシャッ


 パシャッ


 一瞬しか光らないが、よく凝視しながら撮ってみると、人がギリギリ入れそうな穴が見つかった。


 私たちはそこの穴へ入ることにした。穴の中の空洞をかがんで前進して、しばらくすると光が見えてきた。


 光の強さがだんだん大きくなってきた。


「やった。出られた!」


「よかったです!」


 洞窟の中にいた時間は長く思えたが、実際はそれほど長くはなかった。さほど騒ぎにもならず、みんなで別荘へ戻った。



 しかし、先生にはこっぴどく怒られた。


 そして、精神を安定させるために、なぜかそこで茶道教室が始まった。



「ほらっ、茶碗を左手に乗せて、頭を軽く下げる!」


「茶碗を左手に乗せて、頭を軽く下げる!」



 それも終わり、合宿はこれで終了になった。




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