第11話 さあ合宿だ!
私は駅で待っていた。朝早いのだけど、もうすでに周りは暑くなっていた。セミの鳴き声も聞こえる。
少し早く来すぎちゃったかな。なんて思っていたら、元文芸部の望月と隅野が来た。
「おはよ~です」
「早く来たつもりだったけど、もっと早いのがいたか」
ここでの待ち合わせは私を入れて、3人だ。後は途中の駅で合流することになっている。このまま今来ている電車に乗ると、合流できないので、ちょっと待って、あらかじめ決めておいた時刻の電車を待った。
3人とも普通のサイズのリュックを背負っている。水筒や軽い着替えなども入っているが、大半は合宿先へあらかじめ送ってある。重いのは嫌だからね。会話しながら待っていると、急行の電車が来た。
電車のドアが開いても、降りる人はいなかったので、待たずに乗り込んだ。ただ、中はガラガラというわけでもなく、座席も少し空いているだけだった。ちょうど3人が座れるスペースがあったので、そこへ座った。
ここら辺はちょっと田舎なので、窓の景色を見ると畑がちらほら見えるが、10分ほど経ったら、だいぶ建物が多くなってきた。何駅か停まった後、元茶道部の川野と音谷が乗ってきた。
「おはよう。ちゃんと乗れてよかったですの」
「おはようございます」
2人は5人が一度の乗れるスペースが無いので、ちょっと離れたところへ座った。
都心へ近づくたびに、線路のカーブが多いのか、減速することが多くなった。
さて、そろそろ乗換駅だ。終点の駅の一つ手前の駅で私たちは乗り換える。
電車が停まり、一度駅を出た。そのまま乗り換えもできるが、顧問の先生との待ち合わせがあるからだ。
先生はすでに待ち合わせの場所にいた。さすがに先生は遅刻とかはしないよね。
「おはようございます!」
皆が一斉に挨拶すると、「おはよう!」と返ってきた。
そして、また電車に乗った。各駅しかない路線で25分ぐらい乗り、さらにそこから別の電車に1時間ほど乗り、目的地へ着いた。
「やっと着いた~」
「まあ、時間的には短いほうよね」
改札を出ると、海はまだ見えないが、なんとなく潮風が吹いているような気がする。そこから車は通れるがわりと狭い道を5分ほど歩くと、青い海が見えてきた。砂浜には人もたくさんいた。
ザザァァ……
ザザザザザァ…
波の音だ。
「さて、私の別荘までもうちょっと歩くわよ」
そう隅野が言った。
えっ、泊るところを聞いてなかったけど、隅野の別荘なの。っていうか別荘持っているの?
「あなたたち、知らずに来たの?」
顧問の先生は知っていたようだ。しかし、直前までどこに泊るか疑問に思わなかった私たちっていったい……
歩いていくうちに、大きなログハウス風の建物が見えてきた。
「ここよ」
入ってみると、外装はログハウスに見えるが、内装は現代風であり、豪華な別荘とかわりがなかった。窓は大きく、中からも海がよく見えた。
「なかなかいいわね」
「これはすごい」
隅野の家ってかなり裕福なの? お金持ちすぎる!
「さて、荷物を置いたら、さっそく水着に着替えて海へ行きましょう」
隅野がニコニコしながら言った。
っで、部屋で着替えたわけだけど……
まず川野はまあ、普通だね。うん。
音谷は泳ぐとちょっと水の抵抗を受けそうね。
望月も普通で、隅野は、あれだね。泳ぐとかなり水の抵抗を受けそうだ。
小海先生はとても泳ぎやすそうだ。
私? うーん。どうでしょうね。まあいいわ。
まあ、準備もしたし砂浜へ行きましょう。
スタスタ……
砂浜へ着いたわけだけど、まだ太陽の光がジリジリと照らしている。
「あちっ」
砂がとても熱い。サンダルを履いてきたけど、まだ熱い。
とりあえず、足だけでも海に浸かろう。
「つめた」
冷たいけど、なかなか良い感じだ。
「ビーチボールを持って来たわですの」
川野が両手でボールを持って、やってきた。
というわけで、適当にボールを上へ向かって両手ではじいてみんなでパスして遊んだ。ホント適当に。
先生は隅で、シートに座ってくつろいでいた。
しばらくして、スイカ割りをしたいということになったのだが、スイカがなかったらしく、隅野が別荘からカボチャを持ってきた。
「これしかなくて…… いいよな」
いやいや。いくらなんでも、おかしいよ。
「まだ、夏だとカボチャは早いんじゃ。もう少し寝かしたほうが美味しくなりますです」
望月がそう言ったが、そういう問題ではないと私は思った。
まあ、なんだかよくわからないけど、カボチャ割りが始まった。
「右右~~」
「まっすぐ~」
「そこだ」
ベシッ
「んもう。割れないじゃない」
今、音谷がカボチャ割りをしているのだけど、茶道のときと違って、なかなかフレンドリーなキャラになっている。そういえば、お茶がかかわってなければ、割と普通だった気もする。
その後もかわるがわる、カボチャ割りに挑戦したが、誰も割れなかった。
そして、日が暮れた。
あのカボチャは夕飯コースだろうか。
別荘へ帰ると、先生がこう言った。
「お食事前に、お茶を飲みましょう」
もちろん、ふつうのお茶を飲むではなく、茶道式で飲むということだ。場違いな場所に先生と、川野、音谷が茶器の準備をしている。
音谷さんがまた怖くなるなぁ、なんて思っているうちに準備が終わった。
「お手前、頂戴します」
私はそう言って、両手で茶碗を持ち上げた。静かに飲もうとした。
「茶碗を半分回す!」
「茶碗を半分回す!!」
先生と音谷が同時に発声した。
心の中で、(そうだった)と思いながら、私は焦って茶碗を半分ほど回した。先生も怖いじゃん。音谷と同様、お茶関連だと怖いと思った。
その後、いろいろあったが、やっと終わった。
後で聞いたが、私を含め、3人は飲んだ心地がしなかったという。川野は慣れているので大丈夫だったようだ。
さて、夕食である。
食卓には魚の刺身や天ぷらが出された。全部が地元の物というわけでもないらしいが、だいたい地元のものらしい。
「このアジ、美味しいです」
「キスの天ぷらも美味しいぞ」
「ホタテの刺身も美味しいですの」
「かぼちゃの天ぷらもあるよ」
しかし、今日は結局、海で遊んだのと食事だけで終わってしまった。いや、茶道教室もあったね。
このあと、お風呂に入って、明日に備えて就寝した。