第10話 どこへ合宿に行く?
私たち5人は部室で顧問の小海 陸子先生を待っていた。
元文芸部の望月と隅野は、全然知らない先生なのか、そわそわしている。元茶道部の川野は多少は聞いているのか、そこまで心配してなさそうだった。音谷は難しい顔をしながらも、ちょっと期待をしているような笑みが見え隠れしていた。
「こないねぇ」
「そうだねぇ」
なんて、会話していたら、いきなりドアがガラッと開いて、顧問の先生が入ってきた。
先生は5人を軽く目で見た後に、私のほうを見た。
「全員いるようね。私が顧問の小海です」
「たしか、茶道文芸パソコン部だったわよね」
忘れてた~。略称はパソコン部だけど、正式名称は茶道文芸パソコン部だった。元茶道部の顧問なら、油断していると乗っ取られるかもしれない。まあ、今はパソコン部が乗っ取っているようなものだから、人の事は言えないけど。
「私はパソコンの事はあまり知らないので、部長さん? 柊 鈴さんでしたっけ? 頼みますよ」
そう言って部室を出て行った。
たまに部室に顔を出すタイプか。それなら乗っ取りは大丈夫かな。噂と違って、あまり厳しくもなさそうだし、部に干渉もしなさそうだ。よかった。
まあ、それはいい。しかし、まだパソコンが無く、部室はがらんとしていた。
することないし、どうしようかなぁと思っていたら、川野が立ち上がった。
「あの~、そろそろ夏休みですよね。部の合宿でも計画してみませんか? ですの?」
合宿かぁ。みんなで遊ぶ……、いやいろみんなで高めあうのもいいかもしれない。って、何を?
「いいねぇ」
「いいんじゃないかな」
「やろうです」
とみんなやる気だ。もちろん私もオッケーなので、すぐに合宿に行くこと自体は決まった。
合宿と言ったら、山か海だろうね。
「山が良いのですの」
「山が良いです」
元茶道部の川野と音谷が言った。
「海です」
「うん。海だな。やはり」
元文芸部の望月と隅野が言った。
……
視線は私に集まった。多数決で決めるとは言ってないけど、おそらく私がどちらが良いかで決まるのであろう。
なんか面倒だなぁ。こうなったら、コインの裏表で決めよう。
コインを投げて、落ちてきたところを手の甲にコインを乗せ、手のひらで覆って、ほんのちょっとしてから、確認っていうのは映画みたいで照れくさい。
なので、床に投げて、決めることにした。表が出たら、山。裏が出たら、海。そういうことにしよう。
そういうわけで私はコインを投げた。
チャリーン。チャリチャリチャリ……
カラカラカラン。
カラカラカラン。
カタン。
なんだか、うるさい音がして、ちょっと気まずくなった。
……
「やったです」
「よっしゃ!」
裏だ。そういうわけで海になった。
しかし、部で初めにやることが合宿の決め事で良いのだろうか。
翌日、まだパソコンがこないので、私は元文芸部の人たちとトランプをしていた。
やはり、トランプと言えばババ抜きよね。
トランプで遊んでいる脇では、元茶道部がお茶を点てている。相変わらず、異様な空間だ。
ガラッ
「ダメじゃない。トランプで遊んでちゃ」
顧問の先生がやってきた。
噂ほど怖くない。むしろ、やさしい部類じゃなかろうか。
「パソコン部で合宿をやるって、聞いたんだけど、あなたたちだけでやるの?」
そういえば、私たちだけで決めたんだった。当然、顧問の先生も来る予定はなく……
「遊びみたいなものだし、大丈夫かと」
私はちょっと焦りながら言った。
「日帰りじゃないよね?」
「はい……」
「じゃあ、親が許さないでしょ。私も行きます!」
というわけで、顧問の先生も来ることになった。
スケジュール表も先生に渡したのだが、いろいろと修正されて返ってきた。なんだか、よくわからないけど、スケジュールに茶道が追加され、しかもそれが異様に多い。海に行って、茶道かぁ。
うーん。よくわからない。
そして、なんだかんだで夏休みが始まり、合宿へ行く日が来た。