時を巡る
「案ってなに?」
「時駆ちゃんに会ってみるのはどう?」
「どうして?」
「あの子なら、灯ちゃんが消えないように、方法を一緒に考えてくれると思うの」
米は、その後に、私が消えないようにも…と小さく言った。
時駆 輝界とは、別名タイムマシーン。
彼女は、時を越えることができる。
どんな時代でも行き来が可能だ。
そのため、灯達が生まれた時代にも行くことができる。
彼女達が生まれた意味を再確認することができるかもしれない。
そして、これから消えないためにどうすれば良いかも、全て。
「そっか。なら、私、時駆ちゃんにお願いしてくる!」
「ちょっと、灯ちゃーん!」
彼女は走り出した。
自分一人じゃ暗い気持ちで、ぐるぐると考えてしまいそうだったから。
最も苦手なものに、自分がなってしまいそうだったから。
「時駆ちゃん!いますか⁈」
「はいはーい。いますか?って見とるやん。何のようなん?」
「お願いがあって来たんだ!」
「お願い?うちが出来ることならするけど」
彼女が時駆 輝界。
彼女が、関西よりな喋り方をするのは、発明者が関西の人間だったからである。
発明した人物は、タイムマシーンが作れたと周りに自慢をして回ったが、信じてもらえなかった。
だから、長い間、彼女は押し入れの中にしまわれていた。
そんな彼女だったが、今では出してもらえるようになった。
長年押し入れにいたものだから、今の世の中のことはあまり分かっていない。
けれど、人の役に立ちたいと思っているのは事実なのだ。仲間のためにもなりたい、と。
「私が、私達が消えない方法を一緒に考えて欲しいの!」
「あんさんらが消えひん方法?なんやそれ?力になってあげたいんやけど、分からんわぁ。堪忍な…」
「元は機械だった私達が使われなくなって、どんどん消えてしまっているの。私もその内……だから、そうならないためにも私がこれからどうすればいいのかを考えたい!そのためには時駆ちゃんの力が必要なの!」
「うちの力?それって、時を越える力のことか?それならパスや」
彼女は自分の力を嫌っていた。
自分が生まれて、自分を作った発明者は嘘つき呼ばわりされて、家から出られなくなった。
けれど、嘘ではないと分かった瞬間、手のひらを返してくる人々が出てきた。
その人々は彼女の力を悪用した。
時を越え、歴史を改変したのだ。
それだけはしてはいけないことだったのに。
だから、彼女は自分の力を嫌うし、自分の力を悪用する人を嫌うのだ。
だから、いくら仲間のお願いだとしても応えることができない。
「あんさんがなにに使いたいかは知らんけど、うちはそのお願いに応えることはできひん」
彼女は真剣な眼差しで言った。
それでも、灯は引き下がらない。
「どうしても私は見つけたいんだ。自分の存在意義を。役割を…」
輝界はそんな彼女の、言葉に感銘を受ける。
自分の存在意義を考えていなかった輝界にとって、彼女の言葉は自分がこれから生きるのに必要な考えなどだと、思わされたのだ。
輝界は決めた。この子になら自分の力を使わせてもいいと。
「ええで。ただし、絶対に悪用しないこと!」
輝界は、灯に向かってビシッと指をさした。
「いいの⁈ありがとう!あっ、米ちゃんも一緒にいいかな?」
「こうなったら一人も二人も変わらんわ」
「ありがとう!」
その時、やっと追いついた米が来た。
「あっ、米ちゃん!米ちゃんも一緒に行こうね」
「えっ?どこへ?」
「そやな。どこの時代に行きたいんや?」
灯は考える。自分の役割を見つけられるのってどこなのだろうと。
やはり、自分が生まれた時代?それともまた別の時代?どこに連れてって貰えばいいんだろう。
そんなことが頭の中をぐるぐると巡る。
「ごめん。決まんないや…」
「なんっやねん!そや、こんなんはどうや?
いっそのこと、機械から生まれた子を全員見て回るっちゅうんは?そうしたら、あんさんの役割も見つけられるやろ。それに、うちも他の子らに会ってみたいしな」
そう、なにもこの時代から機械が人のように喋れるようになったわけではない。
ずっと昔からいるのだ。大事に使ってくれる人の想いから生まれるのだから。
けれど、それをすべて見るとなると膨大な量になる。
長い長い時を越える。
感覚も狂ってしまうだろう。
それでも、灯は——
「そうしたい!私は自分の役割を探すためならなんだってしたいんだ!」
「ほんなら、決まりやな。あんさんは?」
輝界は、米に向かって聞く。
「私もそれでいいと思うわ。私だってこのままなにもしないまま忘れられたくないもの」
「そか。ほな行きますか〜じゃあまずは初めて仕事を簡単にする物が生まれた時代やな。しっかり捕まっとってな」
これから三人は時を越える。
その中で何を想い、何を考えるかは分からない。
だが、きっと役割を見つけられるはずだ。
沢山の仲間に出会い、学ぶことができるだろうから。