ああ、場違いだ。
九番打者を打ち取っても、まだツーアウト満塁。打順は巡って一番打者。
こっちは三人しか打席に立ってないのに、向こうはもう十人目らしい。いい加減にしろよホント。
奇跡的に失点はない。けれどそれだけだ。ここからまた上位打線に入る。
フゥ、と息を吐いた。そろそろ悟ってきた。
打たれたら仕方がない。満塁だから塁を見る必要はない。ツーアウトだからバントもまあ来ないだろう。なんにも気にすることはない。
投げる。
「……制球はいいだろ?」
外角ギリギリ。ボールか迷って振ろうとしたバットを止めるが、ストライクゾーン。
「言われたトコに投げねぇと殴られたんだよ、先輩に」
挑発でまったく同じコースに投げる。打たれるがファール。
気分がいい。バッティングセンター代わりにされてた経験になんか感謝したくないが、あれもまあまあ役に立っている。
投げる。バカにするように同じコース。
それを怒りのフルスイングが迎えた。
「セカン!」
思わず声を張り上げた。
ボールは逃げるようにカーブし逸れて、バットの先に引っかけるように当たって、二塁手の正面へ転がる。
ボテボテのゴロ。教科書に載ってそうなクソ凡打。だがこの一番打者はとにかく足が速い。
ソージが走って引っ掴み、そのままファーストへ送球。
「アウト!」
高らかな審判の声。
「で、三者凡退するんだよな」
悲しい。俺はまだバッターボックスどころかネクストバッターズサークルにも立っていないのに、相手チームは二番打者からだ。
「ヒリついてんね」
三回にもなると暑さのせいか、それとも零対零でわりと自分たちもやれてると勘違いしだしたのか、守備の空気がピリついてくる。気のせいか観客席も固唾を呑んでいるようだ。
こんな場違いな舞台なのによくやる。
「……いや、違うか」
場違いなのは俺だけだ。怪我したのは一年投手だけで、他の奴らは県大会もしっかり打って守って頑張ってきた。
ベンチで腐ってたのは俺だけだ。
「自分らで来た甲子園だもんな」
場違いなんてことはないだろう。公式戦を勝ち抜いた八人だ。甲子園に立つのは相応しい。
俺だけが資格を持ってない。
―――ああ、場違いだ。
投げる。