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登板
「あー……あっつぅ」
気温三十四度。
空は雲一つないカンカン照り。
風はなくて、球場にはむわっとした空気が立ちこめていた。
立ってるだけで汗が吹き出てきて、体力が奪われていく気がする。帽子のツバをつまんで一度脱いだ。視界が開ける。
広いグラウンド。見上げるほど高い電光掲示板。観客席を見渡すと、俺たちが勝ち進んでしまったために動員された全校生徒が座っている区画が目に入った。……この暑い中、野球に興味ない奴らもいるだろうに。
甲子園。
夢にまで見た舞台。
「冗談キツいな」
帽子を目深に被り直す。目を背けるように俯けば、足元には白線があった。
俺が立つこの場所こそは世界の中心。
甲子園のピッチャーマウンド。
夏の甲子園第一試合。その先発投手。浅倉ヶ丘西高等学校三年、伏見祐介。
これが俺の、高校での公式試合、初登板だった。