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第4話 独立への小さな決意

 無事テイマーライセンス証の再発行手続きが終わった頃には日が暮れていた。

 電車で地元に戻った時には時刻は19:00。

 普段なら当然のように働いている時間だ。


「街が……キラキラしている……」


 駅を出た時の街のきらめきに驚いた。


「普段仕事している間って、街ってこんなに輝いているのね」

「きゅぴ……?」


 知らないわけではなかったが、実際見てみるとなんだか心に来るものがある。

 人生の大切な時間を手放しているような感覚。


「配信業で独立かぁ。副業にできたらくらいに考えていたけど……もうちょっと真剣に考えてみてもいいのかもね」

「きゅぴぴ」

「おっ、君はやる気だね。頼りにしてるよ、相棒」

「きゅぴー!」


 駅前を抜けて帰り道。自然公園の前を通りかかる。

 公園の入り口に警備員が立っていた。


「きゅぴ?」

「気になる? あれはね、公園の中でランキングバトルをやっているんだよ」


ランキングバトル。

 テイマーランクとは別に設けられた制度で、一年間ごとに行われるテイマー同士の モンスターバトルの勝敗を競い合う。

 ランキング上位になればスポンサーもつき、モンスター育成のための施設を自分で経営することも可能になってくる。


 ランキングバトルの配信も人気があり、今やダンジョン配信と双璧をなす人気コンテンツだ。

 そしてダンジョンに潜るより安全ということもあり、中学生~大学生の若者がよくバトルの様子を配信しているらしい。


 だが皆が好き勝手にバトルを始めれば日本は滅茶苦茶になる。


 だから、毎日様々な場所(大体は広い公園)で時刻を決めてバトルが行われている。

 外に攻撃が漏れないように結界も張られている。

 おそらく中では上を目指す若者テイマーたちが熱いバトルを繰り広げていることだろう。


「って今日教わった」

「きゅぴ~」


 ランキングバトルという言葉が気に入ったらしいテフテフ。中に入りたいと頭上で暴れ始める。

 小さくてもモンスター。バトルをしたいらしい。


「流石にまだ早い気が……」

「きゅっぴ! きゅっぴ!」

「まぁいいか。自分の強さが今どの程度なのか知るのもいい勉強になるだろう」

「きゅっぴ!」

「あっ……ちょっと待って。すみません警備員さん。ここって何時までやってますか?」

「今日は22時までだねぇ」

「ありがとうございます」


 まだ時間はある。

 一果は一端家に戻り、身元がばれないように変装してから再度公園に戻ることにした。


「こんな所に有名人なんていないと思うけど……一応ね」


***


***


***



 公園内では、モンスターバトルが配信されていた。


「はい~5連勝~どもでーす」

「ウオオオオオオオオ」


 明るい茶髪の女子高生がドローンカメラに向かって勝利のピースを決める。

 彼女の名は漆外秘恋しちがい ひれん。動画チャンネル【ヒレンチャンネル】を運営する配信者である。

 専門はテイマーバトル。

 動画投稿開始から半年で登録者1万人に到達したやり手である。


「いや~羅刹もありがとう」

「気にするな。我がマスターの頼みとあれば、このくらいお安いご用よ」


 秘恋ひれんは自身の為に戦ってくれたモンスターを労う。

 そのモンスターは種族レッドオーガ、名を羅刹。

 2メートルほどの身長に侍のような鎧を装備した姿は一見人間に見える。だが肌は真っ赤で大きく伸びた二本の角はまさしく鬼。


「うわぁ秘恋ちゃん強すぎ」

「視聴者ニキも対戦ありがとうね~楽しかったよ」


『ヒレンチャン強すぎ』

『視聴者ニキもお疲れ~』

『同接5000超えてる~』


 秘恋がスマホでコメントを読み上げる。


「嘘!? 5000人も見てくれてるの!? みんなありがとう~これも秘恋が強すぎるからか!」


『それはないwww』

『全部レッドオーガのおかげ』

『レッドオーガは卑怯過ぎるwww』

『一般テイマーでレッドオーガに勝てるヤツおらんやろw』


「へへ~登録者数1万人記念のために兄貴から借りてきた最強のモンスターだからね! 強くて当然だよ!」


 レッドオーガ。

 人間に並ぶ高い知性。そして人型でありながら人間以上の筋力と柔軟性を併せ持つ戦闘のプロ。手なずけるのは大変だが一度認めた相手には一生の忠義を尽くすことで知られるモンスター。モンスターバトルにおいて、もしレッドオーガを使えばランキング1000位以内は楽勝と言われるほど強いモンスターである。

 だが強いものの希少種で繁殖も難しく、テイムしているテイマーはそう多くない。


『ヒレンチャンの兄貴何者!?』

『初見です強くて可愛いヒレンチャン好きになったので登録します』

『今日はいつまでやりますか?』


「う~ん私はまだやりたいけど……相手がねぇ?」


 ビジュアルのいい秘恋と是非一戦! と周囲から様子を窺っていたテイマーが何人かいたのだが、先ほどの戦いを見て戦意を喪失したのだろう。

 誰もいなくなってしまった。


 協会から派遣されているレフェリーだけが「まだやります?」といった顔で秘恋の様子を窺っている。


「当然だ。我の強さを見れば戦う気が失せるのも無理はないだろう。妹殿、今日はもういいのではないか?」

「ええ~せっかく同接5000人もいったのにここで終わりはつまならい~。羅刹はもう疲れた?」

「笑止。寧ろ手応えがなさ過ぎてな。ウォーミングアップにもなっていない」


『え? 視聴者ニキネキたち結構強かったけど……』

『あれがウォーミングアップとかマジかよ』

『やっぱレッドオーガは格が違うな』


「それじゃあ満足してない羅刹のためにもう一戦。ええと……あっ! テイマー発見! ねぇねぇそこのお姉さん。私とテイマーバトルしませんか?」


「え……私?」

「きゅぴ!」


 秘恋ひれんが声をかけたのは、たまたま通りかかった一果とテフテフだった。

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