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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
74/155

24.連戦

 滋賀での生活も少し安定してきて、いや元々不安定ではないが、慣れてきた頃。




 曄雅が指揮台で録画を見ながら、皆の欠点と自分の欠点を探していると優羽から電話がかかってきた。



「もしもし?」

『二人とも、界魔出たよ』




 滋賀県に来て初。そう、初。

 なんで界魔が多くもない、界魔屋も決して少なくない滋賀にこの優秀三人組が飛ばされたか。



 一つの鏡界から行ける鏡界は一つ。それが割れるとまた別の話。

 だが、延々に割れずに残っていた場合は何年、何百年経とうと鏡界は同じだ。




 今界館が目を付けている鏡界は主に八つ。


 琵琶湖

 伊勢神宮

 富士五湖

 皇居御所


 水は非常に綺麗な反射を作り出すためどんな界魔でも湧きやすく、どんな界魔も住みやすい。故に入った弱い界魔が喰われ強い界魔が成長しやすい。

 また、どんな界魔でも入れるため鏡界が頻繁に開く。人が消えた、人形(ドール)になったと言う話はよく聞く。



 伊勢神宮と皇居御所に関しては未知数なので一応目は付けているがまぁ放置しかないよねという状態。天皇様には逆らえない。




「どこ?」

『竜王』

『知らねー……』

『僕も知らん。車出るからそこ集合で』

「了解」



 未だ滋賀の地図を把握できていない三人は、教えている皆に声をかけると山の階段をかけ降りる。


 なんせ建っているのが山の崖、車は上がって来れない。だから本館と駐車場は離れた場所にある。駐車場は廃校に扮した建物。




 三人階段で合流し、車に乗り込んだ。


「すみません竜王までお願いします」

「はい!」


 各々準備を始める。








 民家から出てきた低ランク界魔を殺し、緊急で向かっていたマネージャーと合流した。



「お疲れ様です。教育期間中にお疲れ様です」

「いえ」

「さすがです、まさか実際の戦いを見学させるなんて」

「……ん?」

「ん?」

「何見学って」

「え? だってそこの車……」


 路肩に停まっていた普通の車、結楽が問答無用で開けると絶対車には乗れない人数で、しかも数人落ちてきた。



「うわっ……!」

「逃げろ!」

「付いてきてるし! おい!」

「まぁいいじゃん」


 怒る優羽を落ち着け、曄雅はマネージャーに一言声をかけると車に戻った。帰ったら付いてきてサボった分しごかないとな。










 そう思って帰れば帰るでこっちにも界魔が湧いていた。今まで鏡界も開かなかったくせにいきなりすぎる。



「曄雅!」

「結楽援護頼む!」

「優羽情報」


 優羽から飛んできた無線をキャッチした曄雅は階段より格段に早く木々を飛び移っていき、ハンドガンを用意した。




『優羽!』

『情報が来ない! 木と山でドローンも飛ばせないし……!』

「結楽、地形覚えてる?」

『ある程度』

「今から言うの想像しろ」



 体高十二メートル、幅四メートル弱の人型界魔。

 比率は人間と同じで、崖に片手を突いて校庭に手を突いている状態。既に人形(ドール)がかなりの数落ちているのでランク的には二か三程度のはず。



『……おっけー見えた! 顔面に入れるから首切って』

『待って。そこで殺したら校庭潰れるから下に誘導する』

「了解」



 結楽が二発撃ち、曄雅が界魔の顔面を蹴って重心を崩させる。人間と同じなら頭の重心が移動すれば斜面の山では勝手に落ちていくはず。




 二、三度蹴り飛ばし、眉間を殴って後ろに倒した。


 手が地面から離れ、落ちかけたのを足を突いて踏ん張った。曄雅は飛んできた手を蹴って離れる。



「二人とも怪我は?」

『ない!』

「上がってきといて。叩き落とすわ」

『そこより下だったらどこでもいいからね』

「了解」



 一度校庭に降りた曄雅は上着を脱ぐとチョッキもホルスターも外す。引っかかる可能性のあるものはいらない。


 短剣を逆手で両手に持つと、深くしゃがんだ。優羽と結楽が視界の端に映ったのと同時に地面を蹴り、山へ飛び出す。




 山に座り込んだ界魔の肘に一発、肩に一発入れた。

 顔面を横殴りにし、頬骨を殴り飛ばす。


 界魔がその衝撃に耐えきれず横に倒れたことで山に轟音が響き、曄雅は倒れた隙に界魔の頚椎を断ち切った。

 そのまま界魔の首を切り離す。



「終わり」


 溶け出した生気を見下ろし、優羽の声をかけた。


『おつかれさん。早く戻ってきて』

「何?」

『蜘蛛の界魔で結楽失神した』



 いきなりなんだ次から次へと。

 どこかの鏡界が開いたにしても一つの鏡界に界魔が共存してるなんて珍しい。こっちに来ないなら仲間というわけでもないだろうし、竜王の界魔ともほぼ同時だったし。




「優羽しゃがんで」


 優羽の後ろから校庭にはびこる蜘蛛の一体の頭を蹴り潰す。何体いんだこれ。



「怪我は? 顔の血」

「かすり傷。結楽があっちにいるんだけど……」

「行くぞ」


 逃げ足だけは鍛えている優羽と共に気絶して守られている結楽のそばに行った。



「日蔓さん! こいつら無限に湧いてくるんですけど……!」

「どっかに親玉がいんの。優羽、作戦」

「耳塞いでねー」



 いきなりカバンから小型スピーカーを取り出した優羽に周囲の皆が耳を塞ぎ、優羽はよく通る声で声をかけた。



『近距離戦可能な奴は全員山で親玉探して。中、遠距離専門は最上階から狙撃準備』

葉花広(はなひろ)(すすき)は上の護衛。結楽連れてけ。あとペットボトルに水』

「日蔓さん! ここは!?」

「いけるね曄雅」

「よゆー」



 優羽の合図で皆が分散し中に逃げ始め、入口を葉花広と芒が守る。

 この中でも既に(くすのき)課一班並の実力はある。ただし、二人揃っている時に限り。



『曄雅こいつら建物上がってくる!』

「葉花広! お前上行け!」

「行くぞ空狼(くうろう)!」

「おう!」

「アホか一人は入口守れ!」



 曄雅は怒声を発しながらも一人で校庭の中心で蜘蛛数十を相手に互角か、曄雅の方が少し押しながら戦っている。



『曄雅!』

「結楽起こして対応させろ! あの二人離れたら結楽以下だ!」

『了解!』


 少しして、結楽の吐くような声が無線から聞こえてきた。水が口に入ったんだろうな。



『ゲホッ!』

『安心して防水完備だから』

『誰も心配してねぇよ。それより吸われんぞ』



 結楽はボヤける視界のまま傍にあったライフルを取ると走って柵に飛び乗った。真下に向かって乱射し、一体目を落とすと手榴弾を下に落とした。

 大丈夫、建物への被害は蜘蛛で緩和されるはず。


「優羽ショット」

「はいはい」


 ライフルと持ち替え、一瞬怯んだ蜘蛛の顔面をショットガンで吹き飛ばした。




 昔、いじめで蜘蛛を顔に付けられた女の子を助けたことがある。その時は無視は嫌いではなかったし今も蜘蛛以外は大丈夫。

 でも、女の子の蜘蛛を払った時に顔に怪我をしたそうで、夜に親が怯えた女の子を連れて家に怒鳴り込んできた。両親に弁解する間もなく怒られ叩かれ殴られ、結局夜も朝も何も食べず一晩寝ずに締め出された。


 翌朝にはやっぱり学校の荷物だけ投げ付けられて学校に行ったが、学校では当然の如く悪者扱い。でも女の子の言葉を拒絶したのは自分からだったかな。

 泣いてるのか笑ってるのか近付いてくる顔を突き飛ばして、気色悪いと言い放った気がする。


 そう、気色悪い。



 ようやく守られたみたいな顔した女も傷は悪だと罵る大人も人が孤立して嗤ってるいじめっ子も。

 あぁでも家は近くだったし、もしかしたら()()界魔被害で死んでるかも。親もさっさと死んでくんないかな。




「結楽、もういいよ」


 柵に立つ結楽の横に優羽は身を乗り出し、界魔が死んだことを確認して結楽の銃口を塞いだ。

 引き金を引きかけた結楽がピタリと止まる。



「美味しいもの食べたいね」

「食べたーい。皆お勧めは?」

「この辺りはチェーンが一番美味しいですよ」

「……逆に珍しい気がするね。行ってみようか」

「ごーごー!」



 柵に座った結楽はライフルに持ち替えると曄雅から遠い蜘蛛の頭を撃ち抜き始める。

 さっきから何十人が狙撃してようやく二、三体だったのを、目が弱点だと見抜き多い目のそれぞれに撃ち込んでいく。

 見えない反対側は頭の上から貫通させるんだから、さすがの腕と頭だ。



「曄雅、どう?」

『んー弱い。弱いし脆い。親玉まだ?』

「数が減ってきてるし……もしかしたら逃げたかもね」

『ならいいけど。これ一体捕縛した方がいい?』

「いいよ全滅で」



 曄雅のスピードが上がり、中心で戦っていたのを少しずつ動きを外に広げ始めた。

 遠い蜘蛛は前の蜘蛛の上に乗って先へ進もうとし、やがてドーム状の蜘蛛の山ができあがる。

 蜘蛛が顔から突っ込むので狙撃は無理だ。



「曄雅、グロいよ」

『暗すぎて全然見えねぇし。結楽、一箇所穴開けれる?』

「お任せあれ」


 結楽は片手に手榴弾を持つとピンを噛んで抜き、すぐに蜘蛛の山に向かって投げた。

 ちょうど最後尾の蜘蛛の間に入り、さっきより大きな爆発が起きる。



『ゲホッ!』

「結楽何あれ。曄雅大丈夫ー?」

「俺も初めて見た。大丈夫か?」

『ゲホッゲホッ……! でかいわボケ!』

「よっ……がの声の方が大きい!」

「どっちもどっちだねー」


 優羽は頬杖を突いてスマホをいじり、曄雅は黒煙の道から山を抜けると上から蜘蛛を潰し始めた。


 生気を吸おうとするだけで糸も特に害悪な攻撃もないただのデカブツ、曄雅なら一瞬。








「終わり! 今度こそないよな!?」

『ないね。おつかれさまー!』

『美味しいステーキ食べに行こう!』

「山いるやつに終わり告げて」



 優羽の終了の声が響き、数分もすると皆が戻ってき始めた。

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