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鏡界館  作者: 織優幸灔
四章
143/155

3.連絡

「ゲホッ! ゲホッ……!」

「息止めといてって」

「死ぬ死ぬ死ぬ……!」

「失血死? しょーがないなー」



 さらに包帯で首を絞めてくる優羽を線蓮が蹴り倒し、包帯を緩めた。


 尊音に説教される優羽に代わって線蓮がやろうとしたら包帯を取られ、日蔓はそれを解くと軽く血を拭った。



 もう血も止まってるし筋が切れる前に避けたし、大丈夫だな。




阿菫(あとり)、こっち向いて」

「なん……」


 阿菫の首にガーゼを貼っつけると、阿菫は気道が閉まったのか大きく咳き込んだ。



「日蔓さん、首大丈夫ですか?」

「久しぶりだね篠懸(すずかげ)。来たなら言ってくれりゃいいのに」

「後ろから切りかかろうと思って」

「行動は早い方がいいよ」



 日蔓は自分の短剣の刃を持つと柄の部分を篠懸に向けた。


「あげる。僕もう一本できるから」

「いいんですか!? ほんとに!?」

「いいよー」

「いーなー! 僕は?」

「いーよ」



 後ろから乗ってきた優羽の片腕と胸ぐらを掴んで背負い投げにしようとしたが体をズラして大内刈りをされかけたので、引っ掛けられた足を上げて腕を掴んだまま腹を蹴り飛ばした。


 肩と腹に衝撃が走った優羽は飛んで後ろに下がり、そのまましゃがんで膝に腕を置いた。



「包帯巻きなよ。結楽(けいらく)みたいになるから」

「やだよ邪魔だし」

「カッコイイよー?」

「出たセンス皆無の優羽」

「あんだと?」

「売られた喧嘩は買う主義なんだけど」

「……たぶん殺されるからやめとく」



 優羽は立ち上がると飛んできた尊音の頭に手を置き、開いた扉に目を向けた。



「せんせ〜! 久しぶりー」

「相変わらずいい顔してるな!」

「そうでしょ。弟子より断然若いし」

「弟子?」

「ほら」



 皇雪の頭を丸めた書類で殴っている線蓮を指さし、にこっと笑った。


 日蔓はそれを鼻で笑う。


「ごめん優羽、歳相応と年齢詐欺って言っとく」

「僕今なら曄雅の首元掻っ切れる自信がある」

「根拠のない自信だね」



 日蔓と優羽がバチッと火花を散らした時、尊音が大きく二度合掌した。



「兄さん、始めよう?」

「どーぞ」

「座ってくれる?」



 皆が各々の席に着き、尊音は空席の隣に座ってパソコンを開いた。


 優羽と日蔓は壁際、尊音は優羽の、静璐と未優は日蔓の前に。




 あとはいつも通り会議が始まったが今回は少しわけが違う。


 最重要事項、戦い日時の決定と作戦の完成。

 その二つを明日までに決める。



「……まずは作戦の方がいいな。これは優羽」

「やっぱり主戦力は静璐と未優ちゃんになりそう。曄雅は確実に殺されるし、向こうも界魔を入れてくるなら尊音と曄雅は喰われる対象になる。支配人が界魔を確実に統率できるわけじゃないなら支配人に静璐と未優ちゃん守らせながら後ろを突いてもいいだろうけど。そうなると支配人は喰おうとした界魔を殺す可能性も出てくるから頭脳戦と言うよりは押して押して押し切った方が勝ちって感じ」


 優羽はタブレットに視線を落としながら、そんな簡易的な説明をした。


 もっと熟考して考えているがこいつらに理解できるとは思っていないしそもそも理解を求めていないので言わない。



「それは俺らも入んの?」

「当たり前。主戦力はいくつあってもいいからね」

「じゃあ緋愴(ヒソウ)一人で勝てるだろ」


 恐念(キョウネン)はそう言うと緋愴の腰を指で刺した。

 緋愴はそれを痛がる。



「生気一体も取り込んでないし……! 鬱陶しいこの指! ちぎるぞ!」

「やめろよ!……お前なら喰ってなくても勝てるだろ。反光籃(ハンコウラン)も手に入れたらしいし」

「ねー、その反光籃ってどういうものなの? 反射するだけ?」



 優羽の問いに二人は首を傾げ、顔を見合せてからまた首を傾げた。


「さぁ?」

「そこまでの知識はないからな……」

「確かに平安に生まれたにしては現代っぽいよね」

「ほら、人間を知らないとどこで喰えるかも分かんねぇしさ?」

「お前は人間が好きなだけだろ」

「俺はただの好奇心」


 にこっと笑いかけてくる恐念の顔を突き返す。

 こいつ、ますます犬っぽい人間に染まってる。



「言うて界魔もそんな四六時中人間監視してるわけじゃないでしょ」

「俺はしてる。人間に扮してた方が支配人にも見つかりにくいし」

「右腕の一人じゃないの?」

「怖いもんは怖いんだよ」

「界魔がどうやって人間監視すんの? スマホとか?」

「俺はこっち」



 そう言うと、恐念は一歩踏み出した。

 瞬間、界魔が人間に変わり、その人間は静璐と同じ顔になる。


 かと思えば緋愴が足を振り上げて後ろから頭を横に蹴り倒れした。



「やめろ殺すぞ」

「痛い……!」



 恐念は頭を抱え、緋愴はそれでも背を蹴り続ける。



「痛いッ……!」

「お前なら背骨抜いても生きられる」

「やめろ……!」

「良い溺愛具合だこと」



 優羽は緋愴に関心し、慌てた静璐は緋愴を止めに入った。


 緋愴が足を止めた瞬間恐念が姿を変え、今度は遥かに小さくなった。



 助かったと思って顔を上げた瞬間、日蔓の足の裏が顔面の目の前に。



「死ぬか?」

「地獄かよ……!」

「線蓮にでもなっときゃいいじゃん。誰も怒らないよ」

「その場合僕と曄雅のストレス発散道具に」

「いや僕は丸一体欲しいから本体殺すかな」

「飛び火ヤバないか」


 誰も線蓮の言葉に反応せず、恐念はまた姿を変えた。

 着物の、誰か違う男の人。


 しかしまた緋愴が頭を殴る。



「頭潰すと死ぬよな」

「もういいよ……」


 界魔に戻った恐念は頭を抱えたまましゃがんで壁に背を付け、緋愴を睨んだ。睨み返されて、視線を逸らす。



「なんなんだよ……」

「お前ぐらいなら腕一本で潰せるぞ?」

「そこで潰されたら困る」



 突然聞こえた声に、皆が首を振り日蔓だけが尊音のポケットからスマホを抜き取った。



「なんでわざわざそこなわけ?」

「支配人から逃げてたら緋愴が見えて」


 日蔓は尊音にスマホを返し、スマホの黒い画面から飛び出してきた(ネイ)はしゃがんでいた足を伸ばした。




「なんで追いかけられてんの?」

「フルーツと界魔盗ったらバレた」

「なんの? 食えた?」

「いけたいけた。いい力。緋愴のが役に立ってる」



 緋愴の問いに寧はふわっと浮くと手を握ったり開いたりを繰り返し、緋愴の方に寄った。



「場所も分かった。見付けた」

「変わってなかったか」

「変わったけど変えた奴に吐かせた」

「緋愴、説明」



 静璐が緋愴の手を緩く振ると緋愴は頷き、しかし説明は寧に丸投げした。



 寧は静璐を愛でて上機嫌な緋愴とうずくまっている恐念に呆れ、仕方なく二人の代わりに説明を始めた。







 支配人は臆病かつ心配性だ。

 緋愴が予想外の裏切りをして力が把握出来ていなかったことを知るやそれは悪化、現在は一人で部屋に篭もることが多くなった。


 その性格が故か、力の暴走が懸念されるフルーツは誰にも食べさせていない。

 しかしそれを保管している部屋、緋愴が知っている場所ではなくなったが、寧が見つけた部屋には寧の力で簡単に入り込める。


 そこからフルーツを奪ったのだ。

 緋愴が恐念の力を奪って寧に付与した力、識別でフルーツの力が見分けられるようになった。




「なんの異能?」

界概(かいがい)。この力があれば……支配人の力を奪える。支配人そのものの力。全生物の形を変える力を奪える」

「……マジ?」

「正確には寧が奪うわけじゃないけど……」

「緋愴、一月前に少女が来た。……支配人の力を創り出した者の娘と名乗るもの」

「支配人の元に? 誰と」

「二十か三十の茶髪の女の人を一人と……男は全員子供だった。三人、一人は二十歳前であと二人はたぶん十五ぐらいの子供」

「赤い髪の女の子は? 銀の髪をした幼い女の子と、赤い髪の……」

「いや……」



 おかしい。おかしい、おかしい。

 何故彼女が来ない。容姿は変わっていないはずだ。


「十五の少年、一人は赤い目?」

「赤い目に青い髪。青い目に紫の髪。二人とも燕尾服だった」

「……少女は?」

「ピンクの髪に青と紫の目の」

「紫? 左右で?」

「右が青で左が紫だった。杖を突いて」



 違う、彼女は両方青のはず。

 紫の瞳はもう一人の、彼女よりももっと幼い子の目の色。



「あ……妹がって。妹の欠片に手を出すなって怒ってた」

「いも、うと…………姉……?」



 姉が二人。育てた姉と、姉か親友か区別が付かない子。

 なんで姉が来る。なんであの子が来ない。


 そもそもなんで自分の欠片なんて。



「他は……?」

「えぇ……? うぅん……えーと……。……あ、女神だって。今はこの世界を管理する女神だって言ってた」


 あの子はどこに行った。

 死ぬことはないのに、仕事も庇護対象も放棄してどこかに行くなんて有り得ない。


 なんで、向こうで何が起こってる。



「緋愴……何の話?」

「……いまはまだ、なんとも……」

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