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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
132/155

42.希愛

 自室で目を覚ますと、何故か別室で寝ていたはずの未優と静璐が日蔓の布団の上に乗って寝ていた。

 いや、未優に関しては潜り込んでいる。



 めくれない布団から抜け出し、未優によって遠くに置かれていたスマホに手を伸ばしメールを確認する。と、白梅(はくめい)から二、三分前に着信が三件。




「もしもし」

『かけた時に出ろ。緊急だ』















 バラバラの新幹線と電車で東京に帰り、荷物を置くや一番に医療棟へ向かった。


 日蔓と未優と静璐。ベッドに座った希愛空は額には包帯。右腕と言うか、二の腕の中間からない腕の先にも包帯を。



「訃報じゃなくてよかった」

「よかねぇだろ。右腕欠損と左目失明。五体満足の希愛海は刀組」

「片目はいらないでしょ。右腕も義手で補える。今この二人が辞めたらこっちにしわ寄せが来る。それは無理」

「お前の後輩にやらせろよ! 滋賀は数十いれば十分だろ!?」

「琵琶湖の鏡界が不安定だから滋賀に人材補充してんの。全国の大きい鏡界が揺れ始めてる。今回の界魔だって新しく出てきた奴にやられたんだろ」

縢成(かがな)希愛空(ののあ)もまだ若い! 今休ませたら支配人戦のあとだって……!」

「今休ませて滋賀から補給したら滋賀で何百人死ぬと思ってる。二百年前に開いた時に界魔屋含め千人近く死んだ界魔がまた暴れようとしてんだぞ。界魔屋が衰退した今古来の界魔が!」



 二人に熱が篭もり未優が少し怯え静璐の元へ逃げると、希愛海がやってきた。



「お姉様……!」

「……訓練は?」

「それよりお姉様が……!」

「私より訓練してなさいよッ!」




 突然の希愛空の怒声に皆が黙り、希愛空を見た。


 痛む傷を押さえ、涙で震えた溜め息をついた。



「兄さんは専務に上がって希愛海は刀組。なんで姉の私だけこんなことになるわけ? 幼い頃の姉妹喧嘩なんて皆やってる事でしょ。歳上は歳下のものを奪って歳下は泣いて親に怒られる。それが普通の姉妹でしょ。なんで一卵性の双子ってだけで皆から同じこと同じ服同じ髪型。嫌になるわ……。挙句妹の方が才能があるからって私は見向きもされなくなったのよ。ちょっと前まで私が引っ張らないとなんにもできなかったくせに……」



 親も兄も主任も繰紫も、全員が口を揃えて希愛海の方が希愛海なら希愛海だったら。


 普通の姉妹なら別人として区別されるのに、何故一卵性の双子は比べられて同一人物のように扱われるのか。



「知らないだろうけど、親も兄さんも皆口を揃えてあんたの方が便利だって言うのよ。私がいる部屋でも聞こえる場所でも、ずっと私たちを比べてる。いつだって私が褒められることはないのよ」

「そんなの知るか!」



 希愛海は希愛空の傍まで歩くと希愛空の胸ぐらを掴み、自分の方へ引き寄せた。



「姉が妹の奪うのが当たり前ってんならいじめられる妹が親に可愛がられんのも当たり前だろ!? 今の今まで私はあんたの付属品! おまけだ影だ脇役だって何十、何百回言われてきた! それが今度は自分に向けられたら私と兄貴のせいかよ!? 馬鹿にされて当たり前だろ!」




 日蔓は姉妹喧嘩に興味がないので窓辺に腰掛け、ちょうど扉から覗いていた三人を手招きした。



「ずいぶんな惨状みたいだけど……入って大丈夫?」

「へーきへーき」


 三人と思ったら四人いたらしい。



 お久しぶりの丁字(ちょうざな)と弟の玄利(ひろり)、皇雪、蝶草(ちょうそう)


 兄と主任がいてくれたら落ち着くか、逆に火種となるかな。



 未優は玄利に手を振り、振り返そうとした玄利を丁字が殴った。

 頭を抱えた玄利が見れば知らん顔で姉妹喧嘩を鑑賞する。



「双子って大変だね〜」

「お前も双子だろ」

「大変だよ? 一括りにあの双子でまとめられるから区別されることがない。まとめて呼んだらその度に好感度下がって殺意が高まる。ねぇ玄利君」

「俺が知ってたら殺されかけることはなかったと思います」

「殺したいから教えないんだよ」

「殺意!」



 丁字は喚く玄利の頭に手を置き、よしよしと撫でるふりをして真下に突き落とした。



「で、なんの用?」

「兄さん……」

「義手作れるでしょ。希愛空の作って」

「……イマイチ作り方が」

「先生呼んどくよ」

「じゃあ採寸だけさせてね。腕の長さ分かるならいいけど」




 丁字が玄利とともに希愛海と火花を散らす希愛空の腕を採寸していると、病室にノックが鳴って扉が開いた。



「曄雅少年! 呼んだか!」

「まだ呼んでねぇ」

「連絡してないのに……!」

「静璐君よ、常にアンテナは張っておくものだよ」

「人間にアンテナなんかついてねぇよ」

「で、なんの用だ?」

「義手の作り方教えてもらおうと思って」

「構わんが。まだ人間の腕取れる界魔がいたとはな」

「何体か古いヤツが残ってる」



 やってきた七竈(しちくど)は人の手の皮膚とほぼ同じ手触りのグローブを脱ぐと二の腕を掴み、少し動かした。

 手首を持って引っ張れば、ジャジャン。


「わぁ!?」

「うわッ! そいつ義手かよ!?」



 蝶草は後ずさり、皇雪は驚いて飛び付いてくる希愛姉妹を庇うように移動した。


 七竈は舌打ちしながら丁字に渡す。



「これ仕組みは?」

「そっちは右腕と背中で手首と肘を引っ張って動かす。足は脳のなんか電波みたいな」

「あぁ筋電」

「そうたぶんそれ」




 丁字は色々とサイズを測るとスケールの先を踏んで七竈の身長も測り、脳内で設計図を組み立てた。



「……まぁ作れるけど……これ素材何? 金属加工なら大扇さんの方がいいかも」

「金属とプラ」

「このぐらいなら僕もいけるけど……。未優さん、三代前の青い靴って重かった?」

「ちょっと。歩いたらかかと浮いた」

「強度性重視したら重くなるかも」

「強度より機能性重視で。希愛空の専属にも作れるよう指導お願い」

「はいはーい」


 筋電義手は誰もが使えるわけではなかったはず。ちょっと検査が必要か。

 医師と義肢装具士と相談が必要かな。



「玄利君これ覚えといて」

「はい」

「期限は?」

「できれば来週末」

「一週間ね。ふざけてんの?」

「……なるはやで」

明夏(めいか)さんこれ作ったの誰?」

「私」

「さいですか。日蔓、一人呼んでいい?」

「また親戚?」

従姪(じゅうてつ)。姉妹で義肢装具士やってるらしい」

「広ッ……」

「日蔓ん家も家系図辿ればいいだけでしょ。うちは辿って見つかったら仲良くなって集まるから」


 すげぇ。



 玄利はすぐに従姪に連絡を取り、丁字は七竈に義手を返した。



「……あぁ妹いるじゃん。傷口綺麗なら妹の腕移植もできるよ」

「い……いや……」

「それ本当にできますか」

「できるできる。双子なら拒絶反応も少ないかも。動く事例はあるし、妹より姉の方が強いんでしょ。妹の分カバーしたらいいじゃん」

「妹は刀組なのよ」

「刀なんか腕一本ありゃいいでしょ。阿菫(あとり)君だっけ? あの子も一時期右肩と手首と親指骨折して左手だけでやってたんだよね?」

「ん〜……あぁなんかあったねそんな話。小葉(このは)じゃない?」

「知らないけど」



 やる気満々の希愛海が止めきれない皇雪を威圧していると、希愛空が背を向けていた希愛海の首根っこを掴んでいきなり耳元で大きく叫んだ。本当に、ただ叫ぶだけ。


 希愛海は目を丸くし、慌てて耳を塞ぐ。



「何!? うるさい!」

「右腕はいらない。三本あるなら三本だけでいい。義手があるなら四本揃うし。他人の腕なんかいらない」

「そう? じゃ義手作るけど、リハビリはしばらくかかるよ。日蔓、どうする」

「僕やっていいの?」

「普通のリハビリじゃ置いてかれるよ」

「じゃあそれはこっちで引き受けるよ。優羽も暇だろうし」



 元界魔屋の丁字と日蔓は色々と都合を合わせながら相談し、結局義手を付けたその日から射撃と一対一で訓練を付けることになった。

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