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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
124/155

34.復讐

 ミニ界魔、天爾(テンエン)を殴り、未優が衝撃波で吹き飛ばした。




 既に地面は凹み荒れ、日蔓と阿菫(あとり)の刀組は悠々と休憩している。




「日蔓さん、なんでそんな気楽なんですか」

「界魔は知らないし未優と静璐は殺されないもん。殺そうとしたら僕殺せるし?」

「……強さゆえの余裕」

「自分の実力履き違えたら死ぬ世界だよ」




 ケラケラと笑う日蔓を見下ろしナルシストにでもなったのかなと考えていると、いきなり界魔戦側から地鳴りのような轟音が聞こえてきた。


 僅かに地面が揺れ、見れば緋愴(ヒソウ)忌厭(キエン)の上に立って剣のようなもので忌厭の首を突き刺している。




「依存しすぎだな」

「ナんデ……! セイきハくっテなイくせニ……!」

「なんでだろうな。支配人の腹心、右腕は全員に感情が与えられる」


 右腕が入れ変われば感情も変わる。

 与えられる感情になんの意味があるのかは知らないが、一つ確かなのはその感情を感じるごとに力は増していくということ。


 だから感じやすい(イタみ)は最古参だからこそ最も強いし、常に穏やかな(ネイ)も毎日がその感情なので力は上がり続けている。


 逆にだいたいは上機嫌な苛襍(カザツ)は苛立つことはないし、義務的に喰い続けている餓性(ガショウ)もそこまで。



 人格と感情が合っているのは緋愴、寧、天爾。最後に入った恐念(キョウネン)ぐらいか。




「ソんなハなシきイたコトが……!」

「ないだろうな。知ってるのは俺と自分で気付いた一部だけだ」

「しはイニんモしラねェのカよォ……!」

「……もぅいいか」



 イマイチ力を奪う時間というのが掴めないが、まぁできたしいいや。




 もう一本剣を出した緋愴が忌厭のこめかみに突き付けると、静璐と未優に袋叩きにされていた天爾が反応した。

 殴られた勢いを利用して後ろに飛び、地面を衝撃波で蹴り忌厭の元へ向かう。


 オレンジがドス黒い赤っぽい紫っぽい色へ変わり、緋愴は内心満面の笑みで剣を振り上げた。




 奪われる前に額から剣を串刺しにし、静璐達の元まで下がる。



「また新しいやつ……!」

「警戒しなくていい」

「ん?」




 忌厭と天爾の腕を掴んで浮いている寧は呆れ、二人を軽く振ると剣を消した。



(テン)(エン)、刀は?」

「あの刀壊れないよ……! 触れない!」

「鞘には守りの呪いが掛けられてる」

「抜けないんだよ!? (つか)組紐(くみひも)にも変な呪いみたいなん掛かってるし! そんなん聞いてない! 刀身は脆いのに!」

「うるさいよ」



 寧に睨まれた天爾はビクッとして頭を抱え、寧から離れると丸まった。



「……ほんとに壊れないんだよ。刀が(テン)と支配人を恨んでる。他の、弱いやつじゃないと」

「刀に殺されたら良かったのに」



 寧の呟きに反応する間もなく頭を抱えた腕を掴まれ、いきなり投げられた。



 緋愴がそれを受け止め、頭を掴むと天爾から生気を全て奪った。




 天爾は特殊で、界魔を喰っても意味がない。生気はいつ誰に奪われてもおかしくない状態で、しかしそれ故にか生気を体に馴染ませる時間がない。吸ったら即力になる。


 そんないつでも奪える体をしているからこそ忌厭に守られ、過去には支配人の一番のお気に入りだったこともあったのに。




 人間の記憶がないくせに欲と家族愛に目覚めてもただの足枷になるだけ。

 純粋な界魔として生まれたなら食欲にだけ忠実な界魔として生きたらよかったのに。





 天爾を寧に返し、生気とともに乗り移ってきたらしい力を確認する。別にいらなかったんだけど。



「天爾……!」

「はいはい帰るよー。……天、君は別のところに送ってあげるからね」











 薄緑の緋愴より小さい身長の界魔に連れられ二体が消え、倉庫の上に座っていた日蔓は緋愴の元へ降りた。



「界魔、仲間?」

「一応同盟的なものは組んでる。支配人殺してからは敵」

「それ強くしていいの?」

「……支配人を殺したあとに生き続けるのかは分からない。界魔嫌いの繋がりなわけだし」

「復讐のためだけに生きてるってこと。なるほどね。別に厄介にならないならいいよ」

「まぁ生きてたとして俺の方が強いし!」

「お前明るくなったね」



 日蔓の言葉に緋愴は静璐の頭に手を置き、何度もぽんぽんと弾ませる。


「……静璐面倒臭いのに気に入られたね。線蓮だけじゃなかったみたい」

「こういう気質多いんですかね……?」

「腐ったら癒しを求めるんだよ」

「日蔓も腐ってるよ」

「未優、自分に言って」

「子供になんてこと」



 降りてきた阿菫(あとり)は呆れ、疲れた未優は日蔓に手を伸ばした。

 日蔓は未優を抱き上げる。



「裏切りが二体もいるなら支配人来るんじゃないの?」

「俺の異能で館内の鏡界は全部閉じてる。支配人も開けれない」

「おぉすげぇ」

「全部閉じるか全部開くか、だっけ」

「監視もないし支配人が来ることもない。けど、たぶん破くなら寧を使って破いてくるから永遠に戦闘を避けるのは無理」

「寧の異能は?」

「百近くあるけど多く使うのは解除と同化、適応」

「攻撃系はないのか」

「素が強いから持ってるけど滅多に使わない。支配人に隠すよう伝えてる」



 界魔側でも色々動いてるらしい。というか、緋愴の計画の綿密性がすごい。元々相当頭がいいタイプなんだろうな。頭の回転率が優羽辺りのレベル。



「同盟は二体だけ?」

「もう一人いるけど今はどこにいるか分からない。俺が閉じてる以上向こうからもこれないし」

「右腕?」

「元右腕。俺の方が強くなって入れ替わった」

「てことは弱い?」

「……お前一人なら十分も掛からずに殺せるけど」



 緋愴は日蔓の額を指さし、日蔓は目を丸くした。

 静璐も未優も、阿菫もギョッとする。ギョッとするが、緋愴の実力を見る目は間違いがないので唖然とする他ない。



「それは楽しみ。じゃあ緋愴はその三人の中で一番強いってわけだ。心強い」

「復讐するためだけに力を付けたからな。復讐で言えば俺が一番強い」



 家族を殺され、人間の記憶を持ったまま家族を喰わされ、どうなるか分からない自分の体に怯えながら毎日フルーツを喰わされる。その繰り返しに戻るなら今すぐ死んで地獄に落ちた方がマシ。

 まぁ、人道を外れた時点で地獄行きではあるんだろうが。




「いいねー僕そう言うの好きだよ」

「変人」

「人を一番動かすのは復讐心か欲望だよ。誰も正義感で悪には挑めない」

「ちょっと日蔓さん未優さんが呆然としてますよ」

「未優もそのうち分かるからね」

「分かっちゃ駄目ですよそれは……!」



 阿菫は未優の耳を塞ぎ、未優はフードを被ると日蔓の服を掴んだ。心の奥にあるもやもやとした何かが少し大きくなった気がする。




「よしよし」

「じゃあ静璐、また夜にでも」

「あ、うん。暇になったらまた行く」



 

 緋愴が迎えに来た(うつ)とともに去っていくのを見送り、静璐達を訓練生の方へ送り出してから日蔓は未優の部屋に向かった。

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