表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
119/155

29.刀剣部

 日蔓がギリシアに飛んだ数日後、界館に来客がやってきた。




「お久しぶりです礼焃(れいかく)さん、兎結(うゆね)さん、霖弦(りんげん)さん」



 松笠(まつかさ)が出迎えたのは日蔓家の三人で、兎結は例のアレが入った布袋を持っている。



「お久しぶり松笠君。これ、持ってきたわ」

「遥々ありがとうございます」

「ほんま疲れたわ。大阪から二日で宮城経由して東京来いとか……」

「界魔屋の皆さんの役に立てるならなんのこれしきですよ」



 元はおとなしい性格だった礼焃も、今や曄乃(あきの)に感化され頭を掴んで無理やり押し下げるほどの力をつけた。日々の進化だな。




「日蔓は今ギリシアに行っていて」

「私、今日は界魔見に来たのよ。おとなしいらしいじゃない?」















 未優が退院した翌日、日蔓のメニュー通りにそれぞれ別の訓練をする。


 静璐が一人校庭で頑張っていると、本館から守明(もりあ)と後ろに二人の女性が出てきた。

 前の正月にいた、日蔓のお母様と知らない人。



「せいろー! きゃくじーん」

「日蔓さんのお母様ですよね?」

「そそ。礼焃(れいかく)さんと日蔓の大伯母の兎結(うゆね)さん。美人だろ」

「めっちゃ」

「分かる? れいちゃんのこの可愛らしさ。いい大人の母親とは思えない若々しさ」

「兎結さんも日蔓さんの大伯母とは思えないぐらいめっちゃ綺麗っすよ。姉妹かと思いましたもん」

「あら〜!」



 いや、お世辞とかじゃなくて本気で綺麗。同世代のいとことか言われたらへ〜ってなるぐらい綺麗。

 なんだろう、綺麗に歳をとったら老人感は出ないのだろうか。




「でも未優ちゃんも超美人で可愛いんでしょ? 静璐君美人に囲まれてるわね!」

「ラッキーボーイっすね!?」

















 妙に軽い幻水刀(キョウスイトウ)を片手に、技術屋に向かう。


 日蔓によれば、時間が経って錆びている可能性があるので点検する必要があるらしい。

 それに抜擢されたのが支配人の腕をも切り落とす短剣を作った、日蔓の専属技術屋大扇(おおおぎ)。玉鋼を扱う腕なら技術屋の中でも群を抜いていると、あの他人に厳しく自分にも厳しくの日蔓本人が言うほど。





 日蔓経由で連絡が来た通りの指定された部屋に行くと、既に大扇が座って待っていた。



「あこんにちは」



 日蔓には堂々と甘え、他人には至って普通の女性。



「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。……それが例の」

「はい」



 口が縛られた袋の紐を解き、黒と金の鞘に入った幻水刀を渡した。

 鞘側が異常に軽いのは、やはり刀身半分がないからか。




 大扇が少し体から離れたところでゆっくり刀を抜くと、刀は錆びることなく保たれていた輝かんばかりの白銀の刀身を現した。

 しかし記述にある通り本来は二尺三寸(約70センチ)あるはずの刀身が一尺(約30センチ)しかなく、しかも折れたと言うより割れたような状態になっていた。

 残っている刀身にも少しヒビが入っており、たぶん研ぎ直している時に欠ける。




 大扇が刃に手を伸ばすと、触れるか触れないかの時に突然刃がぐにゃりと曲がった。二人とも驚いて思わず後ずさる。



「……え?」

「見た?」

「み、見ました……みにょんって……」

「曲がったよね……?」

「曲がっ……いわく品!?」

「まぁいわくではあるんだろうけど……」



 別に刀で死んだわけじゃないよな。殺された原因は刀にあるんだろうが。




 二人で触ろうとするがやはり曲がり、しかしヒビの入っている先一センチ程度は触れた。少しでも押したら確実に欠けるが。



「……研げるか?」

「だ……大丈夫です! 日蔓さんの短剣も怖くて触れないので!」

「ほんとに大丈夫……?」

「がんばります」



 硬い表情でそう言われ、心配になりながらも預ける他ないので鞘と鞘袋ごと預けた。



「そこまで状態が悪いわけではなかったので明後日か、苦戦してもその次の日にはできると思います。またできたら日蔓さんを通して連絡します」

「ありがとうございます。こちらは使い手を探しておくので」

「お互い頑張りましょう。特に私。ファイト!」



 自分の頭に手を置いた大扇に苦笑いを零し、またよろしくお願いしますと頭を下げた。












 校庭に出て、既に集まっていた皆の元へ行く。




 専務、前専務は強制で計六人、部長は多いので日蔓が厳選した三人、主任は日蔓含む五人、班所属厳選四人、その他三人。


 部長は万能型衝羽、班が嫌いだからと部長に跳ね上がった桃桜(とうろう)、真の才能でのし上がった西躅(にしちょく)。西躅から関連してその他三人、全盛期の日蔓の扱きを個別で受けた三人。


 西躅の彼氏らしい翠狼(すいろう)、刀使いの阿菫(あとり)、剣使いの小葉(このは)。たぶんこの中で実力一位二位、三位を争うなら専務よりこの三人だ。地方の討伐記録でよく名前を見る。


 主任からは罌粟(けし)下野(しもの)錨野(いかりの)蝶草(ちょうそう)、日蔓。

 小柄で隙を突きやすい罌粟、間合いの広い下野、要領のいい錨野、実力で蝶草、言わずもがな日蔓。


 班からは白梅課一班三人と一応の守明(もりあ)




 今日も今日とて訓練があるので七竈(しちくど)はいない。今日の指導は刀使いの阿菫(あとり)





 木刀片手に、黙ったままぼんやりとそれを見下ろしている。



「……軽い」

「お前それ素振り用じゃないだろ」

「素振り用なかった」

「これ使えアホ。常備しとけって言ったのに」

「やった」


 根暗だが純粋そうな阿菫は小葉から貰えた素振り用の重い、真剣と重さが変わらない木刀を受け取ってそれを握った。



 にこにこと笑い、小葉は軽い木刀を緩く振った。軽い。





「……もしかして俺以外全員素振り用だったりする?」

「当たり前だろ……。自分で取りに行ったくせに間違えたの取ってきたんだろ」

「素振り用あったのかー……」

「早く始めろ」

「じゃあ全員刀置いて。言われたら三秒以内に行動してね」



 全員が木刀を地面に置き、阿菫の言うよう両手のひらを上に向けた。

 阿菫はそれを順に見て回り、罌粟のところに来ると足を止めた。



 右手を触り、ひらと甲を何度も見て今度は空にかざす。



「あ、あの……」



 阿菫は満足したのか手を離して次を見始め、その行動は希愛海(ののみ)蝶草(ちょうそう)西躅(にしちょく)にもやって、翠狼と小葉の手は大きく振りかぶった木刀で殴ろうとしたのをさっと避けられていた。




「ん、小葉カイロちょうだい」

「お前人の骨折る気かよ」

「汚ぇ手と思って。全員刀持てー。打刀の柄は二十五センチ! それ以上の幅で慣れるともし持つってなった時に刃握ることになるから分からないなら二十五センチの場所に線でも引いといて。握った時両手は付けない。手首を入れすぎない肩に力入れるな。鍔に指ついたらマメできるか皮ずるむけになるから死にたくないなら付けんな」



 阿菫は全員の持ち方を確認し、だいたい大丈夫と確認してからある程度のスペースができるまで広がらせた。




 知ってるがままに素振りをやらせ、一人一人形を直していく。明らか持ち方が弱い奴は無言で木刀を叩き落とし、次。

 日蔓にやらせたら木刀で木刀叩き落とし手を叩き拾ってる途中に隙を突かれ足や腹を刺してくる。それがないだけマシと思え。

 日蔓のあれがあったから今後ろから襲われても気配で察知できるのだが。






 筋がいいのは希愛海(ののみ)蝶草(ちょうそう)西躅(にしちょく)も、我流を作らせたら化けるだろう。

 衝羽は指導したら飲み込んで体で作るまでが早いので本当に要領がいい。


 前専務組の(おどろ)は素振りが早いので型が収まったらいい線行くかも。

 その他は、まぁ実力的に差はあるがまぁまぁと言ったところ。日蔓が選んだんならある程度まで育ててみるか。


 とりあえず線蓮、桃桜、下野、繰紫(くりしき)希愛空(ののあ)、翠狼、小葉は捨てるとして。



 あとの日蔓除く十二人を頑張って育てるか。上手く育つといいが。






 日蔓に教えてもらって有益だったことを色々と思い出し、無意識に日蔓と同じようなことをしながらうんうん悩む。



 各々にあった方法を見付けるか、日蔓が帰ってくるまで基礎の基礎を叩き込むか。

 どっちにしようかなぁと悩んでいると、ふと体に冷たいものが当たった。


 空を見上げれば、雪。



「あ、雪だー」

「冷たッ……」

「誰も喋れなんて言ってなぁい」


 希愛海の木刀を叩き落とし拾っている間に横腹を突こうとしたら、それを手で防がれた。



「こういうことですわよね!?」

「でもその体勢でそう防いだらこっち突かれる」



 木刀を引くと腕が届かない背中を突き飛ばし、また歩き始めた。



















 もうすっかり日も暮れ、街灯が点くにも遠すぎてほぼ深淵の中、少し休憩した阿菫はまた木刀を持った。



「二人一組でペアになって。次手合わせやる」

「こ、この中でか……」

「だってまだ何時?」

「二十三。余裕だな」

「一時まではやる」




 この結果で明日の練習に来るかどうかの判断をすると伝え、阿菫対二で手合わせを始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ