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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
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10.酒盛り

 十二月末の帰省ラッシュ時、普段なら未優と界館で普通に過ごすのだが、今年は静璐と未優とともに熊本へ。

 白梅(はくめい)家で開かれる会議に参加しなければならない。



「静璐は飛行機乗ったことある?」

「中学の修学旅行で一回だけ。沖縄に」

「修学旅行でそんなとこ行くんだ」

「うちの学校は恒例ですよ」



 日蔓は迷子にならないよう未優と手を繋ぎ、搭乗口前で静璐と話す。

 未優はヘッドホンに、絡まれないようにフードを被っているが下を向いているのでよく脱げている。その度に静璐か日蔓が被せ直しているがそろそろ鬱陶しくなってきたようだ。



「日蔓、まだ?」

「もうちょっと待って」

「未優さんは初めてっすか」

「だねー。人が多い場所に来させるのも怖かったし、遠くなら基本新幹線だったし。九州も初めてだよね」

「うん」



 初めてだよねと言いながら、未優の出身地は未だ不明なのでなんとも言えないが。



「あ、日蔓さんそろそろ」

「行こうか。おいで未優」

「飛行機ってうるさい?」

「人は静かだよ。なるべく過ごしやすい席取ってるから二時間頑張ってね」

「……二時間?」

「寝てたらすぐだよ」






 飛行機に乗り、未優を窓側に、真ん中に静璐と通路側に日蔓が座った。


 十二月三十日十二時十八分。さて、未優は降りに起きれるか。



 普通よりも人は少ないし未優も過ごしやすいだろう。心做しか静璐もちょっと楽しそう。



「未優、スマホ貸して」

「はい」

「あ、俺も」



 未優に絶対喋るなと言いながらスマホを返し、未優はヘッドホンを付けるとすぐに眠り始めた。


 日蔓も寝れるわけがなかったので寝て、ある程度寝溜めしてきた静璐だけずっと起きていた。













「日蔓」


 熊本に着き、うとうとしている未優の手を引きながら空港を出ると前に白梅が立っていた。

 八人乗りの車に持たれている。重度の潔癖女が愛車のシボレーに人を乗せるわけがない。



「もう全員揃ってるぞ。お前遅すぎだろ」

「仕事が舞い込んでましてねー。静璐、未優後ろに乗せて」

「はい」



 未優を一番後ろに寝転ばせてシートベルトを締め、静璐と日蔓で二列目に座る。横に座ったら何言われるか。



天葵(てんぎ)白梅(はくめい)だけでしょ」

「一昨日の会議で松笠(まつかさ)も呼ばれた。二人だがな」

「で三班か」

「ちなみに西木(せいもく)と専務も揃ってるぞ。会長様も。苺米(まいべい)は来れなかったが」

「あいつか。珍しい」

「さすがに無関与ではいられないだろうからな」





 白梅家本家に着き、車を降りた。

 相変わらず馬鹿広い屋敷だ。いや屋敷より庭が広い。さすが武闘一本の家。仕事担当も出してる天葵家じゃこうもいかない。ましてや日蔓家なんて。



 ついに寝た未優を日蔓が抱っこして、白梅が家の扉を開けて声をかけると奥から人が出てきた。



「おかえりなさいうた。御三方も遥々お疲れ様です」

「お久しぶりです。年末年始にすみません」

「いえいえ。界館の役に立てるなら本望ですから。うた、未優さん部屋に連れてってあげて。……その顔続けるなら除菌シート燃やすわよ」


 新しい脅し。



 結局白梅譜凪(うたなぎ)に案内された静璐が連れて行くことになり、日蔓は譜凪の母親である真統(ますみ)は使用人に荷物を預けると日蔓を先に皆の揃っている居間へ案内した。



 一声かけ、襖を開けて皆に声をかけた。瞬間、日蔓は盛大に顔をしかめた。



「なんかいるし……」

「聞いてませんでした?」

「言ったら曄雅来んじゃろ」

「来るわけねぇじゃんこんな腐ったゴミの溜まり場」

「お前酷い言いようだな」

「事実だろ」



 なんでこうも日蔓家が全員揃ってんだ。天葵も白梅も揃ってるせいで大人数すぎる。だから一番広い白梅屋敷。



「久しぶりだな曄雅」

「ちょっと曄雅こっち来なさい」


 いきなり母親の礼焃(れいかく)に腕を掴まれ廊下で優羽のことを問い詰められる。



尊音(たかね)の意向なんだからしょうがないじゃん。文句言ってクビ切られたくないし。つーかなんでいんの? いても役に立たないでしょ」

「こっちが聞きたいわよ! 役に立つ人いないのに要出席って何……!? 貴方ちょっと働きすぎじゃない!?」

「言われたことやってるだけだし……」

「日蔓、お前まだ入ってなかったのか」

「静璐、眠たいでしょ」

「無視された……」



 譜凪(うたなぎ)は礼焃に助けを求め、日蔓は静璐に色々と釘を刺しておく。とりあえず、文句言われても反論するなと。喧嘩になって怪我でもしたら最悪だ。



「静璐なら大丈夫だと思うけど。あぁあと線蓮から守ってね。皆の前ではおとなしくするとは思うけど」

「線蓮さんですよ」

「そう線蓮だから」

「ていうか日蔓さんこそ部屋戻ってたらいいんじゃ……」

「やだよこっち来たら追い出すの面倒臭い。ホテル取ろうかな」

「安心しろ。お前以外の日蔓家の部屋は離れにしてある」

「なんも安心できねぇよ」



 廊下で日蔓と譜凪が言い合い静璐と礼焃で止めていると、いきなり居間の襖が開いた。瞬間ラムネが飛び出して日蔓に飛びつこうとするのを静璐が受け止め、日蔓はくしゃみをした。何度か咳き込み、酸欠で死にかける。



「ちょっと線蓮! ゲージ入れとけよ!」

「線蓮なら潰れたぞ」

「仕事しに来たくせに飲むなよ」

「だって酒好きがいるから」



 皇雪(こうゆき)の言葉に中を覗くと、さっきは気付かなかった丁字兄妹が日本酒の一升瓶を十本近く空けていた。


 線蓮は潰れて寝転がり、鬼燈も瀕死。

 こいつら何やってんだ。



 皇雪は飲んでいないようだ。誰もナルシストには関わりたくないよな。



「よく飲むねー」

「あ日蔓。未優さんは?」

「寝てる。その状態で近付かないでよ。襲いかねないから」

「新しいウェアができたんだよ。ついでに色々と測らせてもらおうと思って」

「早いね?」

「んーちょっと改良しただけだからね」


 どうやら酒が入った方が頭がよく回るタイプらしい。ただ、毎日飲むと肝臓がやられるのでこういう日に馬鹿ほど飲んで一気に進める、と。なんで酔わないんだろうか。


 二人で半分飲んだとして一升瓶五本ずつ。普通一瓶以下で酔うものかと思ってたのに。




「未優寝ててよかった」

「子供が入る場所ではないな」

「静璐、やっぱ部屋戻った方がいいよ。僕も帰りたい」

「戻りますか」

「あー頭痛い……」



 線蓮が目を覚まし、起き上がると頭を押えた。


 長い髪を手櫛で梳くと机に肘を突く。



「久しぶりにこんな飲んだ……」

「前もこんな飲んだのかよ」

「……十六ぐらいん時に」

「違法じゃねぇか」

「十六ってまだ界館来る前でしょ」

「曄雅!」

「ストップ」

「同居人と毎晩飲んで潰されとったし」



 飛び付いてくる線蓮の顔を挟み、やっぱこいつ気抜けるとじじい語抜けるなと確認する。元々そんな気はしていたが、酒で気が抜けたか。ちなみにじじい語抜けると関西弁。たぶん神戸弁かな。



「仕事すんのに飲むってどういう思考してんの? 二日酔いで動けないとかやめてよ。人の時間潰しといて」

「曄雅も飲む?」

「そういや日蔓さんお酒飲んだことないって」

「ないねー。酔って腐ってく人間を山のように見てきたから」

「マジで!? じゃあ今飲もう! 酔ったら介抱するから」

「やめろ酔っ払い」



 日蔓が線蓮の顔を蹴って嫌がっていると、廊下の奥から小さな足音が聞こえてきた。走ってきた未優が日蔓に飛び付き、丁字がそれに反応する。



「日蔓!」

「どうしたの」

「なんかいっぱいいるね」

「目に入れちゃ駄目だよ。頭腐るから」

「ちょっと日蔓さん、なんてこと教えるんすか」

「事実だよ。静璐も見ない方がいい。存在知らない方がいいぐらい。未優、寝てていいよ」

「ぬいぐるみ忘れた」

「あぁあの凶器」


 守明(もりあ)が静璐経由で未優に渡して丁字が改良したぬいぐるみ。寝る時の未優の相棒になっている。一人で寝るよりあれがある方が寝やすいようだ。



「未優さん足見せて足」

「なんか二人いるし」

「前会ったでしょ。妹の」

「へぇ」


 何も覚えていない未優は丁字に足を差し出し、静璐が捕まえていたラムネを抱っこした。日蔓が逃げていく。



「日蔓」

「ちょっとそれ持ったままこっち来ないで。死ぬから」

「曄雅、貴方猫嫌いなの?」

「アレルギーで死ぬんだよ」



 静璐は線蓮からもらった粘着テープで服の毛を取り、近付こうとする未優を止めた。

 驚いた礼焃(れいかく)は目を丸くし、寒くなってきた譜凪(うたなぎ)はとりあえず入れと四人と一匹を部屋の中に入れた。暖房が効いていたはずの部屋は少し寒くなっている。



「貴方アレルギーなんていつの間に……」

「んーたぶん生まれた頃から?」

「八歳の時にはなかったじゃない」

「知らないよ猫に関わる機会なんてなかったんだから。丁字左寄って」



 丁字と守明(もりあ)の間に未優と静璐を座らせ、日蔓は線蓮の鞄からパソコンを抜き取るとUSBを差して何かを始めた。

 線蓮は横に移動するとそれを覗き込む。


「酒臭い……」

「よしよし」

「触んな」

「ツンデレ!」

「嫌がらせだろこんなん……!」


 線蓮はパソコンを閉じると日蔓を上から押し倒し、日蔓はそれを断固として拒否する。


「ちょっと……静璐ヘルプ……」

「線蓮さん酔いすぎですよ」

「こいつ絶対本性だろ」

「線蓮さんはいつもこうですよ」

「ようがー」

「ちょっとマジで無理キモッ」

「あーねむ」


 静璐は線蓮の腕を掴み、日蔓が離れた瞬間線蓮はあくびをして気絶するように寝た。こいつなんなんマジで。



「静璐パソコン取って」

「日蔓さん寝なくていいんですか?」

「……忘れてた。それもそうだな」


 いやそれ普通忘れるか。



 結局は仕事を始める日蔓を横目に呆れていると、ふと正面の誰かが口を開いた。たぶんギリシア人なので日蔓家の人。



「その子供郎栗花(ろうりっか)に似てんな」

「私? 誰それ」

「女優。超大物女優」

「誰?」

「さぁ?」



 霖弦(りんげん)はスマホをいじると出てきた画像を未優に見せた。


 ふと未優の顔色が変わり、途端に横目でそれを見ながら呑んでいた丁字がライターのようなものを未優の口元にかざした。



「未優さん!?」

「日蔓、未優さんの記憶戻ったら支配人来るって言ってないの?」

「まぁ来て全員殺されるなら悪くないと言うか。未優に何したの」

「眠り香だよ。そのうち起きる」

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