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見送る日々、過ぎ去らぬ日々

月明かり

 彼女の薄い髪が月の光を銀色に変換している。いくつかの抗がん剤の数クールをいくつおえても、彼女にはまだ髪が残っている。


 病室のカーテン越しに、月光が彼女の寝顔に差し込んでいた。その月光は黄金色であり、銀色であるはずがなかった。その月光さえも色あせさせてしまう。それが今目の前に眠っている彼女だった。


 たぶん、今夜、彼女は召されていくだろう。すでに病床での洗礼を終え、彼女の心は定まっていた。そう、今のつかの間の安らぎは、これからも彼女の心を包み込み、召天後の安らぎに繋がっている。


 ふと気づくと、彼女は何かを求めるように手を伸ばそうとしていた。

「何か、欲しいの?」

 彼女の手をつかんだ僕の手を握って、彼女はかすれ声を上げた。

「う、ううん」

 何かが欲しいわけではなかった。ただ、僕が傍にいることを確かめたかったのだろう。


 思えば、僕は彼女の傍にどれだけいてあげられたであろうか。僕の数十年の人生の中で、ほんのひと時だけ。それでも彼女は満足だという。

「ほんとなの?」

 そう口に出した時、彼女は目を少し開けて祈りを求めた。ともに祈ることを。


 再び、彼女は眠りについた。また目覚めたら、僕を求めるように手を伸ばすだろう。では、目覚めなかったらどうなるのか? 

 そうだった。その時には、再臨の御子が手を取ってくださる。


 こうして、何回かの目ざめと祈りの時を経て、彼女は息を引き取り、召されていった。次の目ざめの時は、ともに手を取り合ってまた言葉を交わそう。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 切ない中に美しさがありますね。 来世に救いがありますように。
2023/04/23 16:54 退会済み
管理
[一言] 死を目前にした彼女の傍にいる僕。 客観的に見ると悲劇的な情景であるはずなのに、僕視点で描かれた記載がとても幻想的で、印象に残りました。 彼女と僕がまた次の世界で出逢えたらいいなと思いました。…
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