家族+αの会議
「ルミナス、お座りなさい」
「は、はい」
ルミナスはアリューズ、アリア、アレクシス、ミーシャ、レノオーラ、ライルに取り囲まれるようにして座らされた。
全員、ルミナスが言った『もう、死にたくない』という台詞と、人生を繰り返しているという思いもよらない現象を聞いて、一体どういうことかと聞くためにずらりと揃った。
なお、アリアとアリューズに関しては早々にお泊まり許可をもらっている。
入浴する前にあれこれ話をして、落ち着いてから入浴して寝ればいい、ということになった。翌日は子供たち三人揃って休みだから、特に気にする必要もない。夜更かししようがどうしようが、誰も怒る人はいない。
「で、どういうこと」
ミーシャがじっとルミナスを見て、問いかける。というよりは、『さっさと話しなさい』というニュアンスで言ったものだから、ルミナスは震え上がっていた。
「あ、あああ、あのですね」
「ミーシャ、落ち着かんか。ルミナス、まず爺に聞かせておくれ。一体どうして繰り返しておる」
「……わから、ない」
「え?」
ルミナスの言葉に全員がぎょっとする。
やり直している原因が、やり直している本人がさっぱり分かっていないのだから、ルミナス以外の反応は当たり前だ。
そして、ルミナス自身もやり直していることは理解しているが、『どうして』やり直しをしているのかは、原理も何も分からないまま。
「……ルミィ、僕とは今回が初めての出会い?」
アリューズが問いかけると、ルミナスはブンブンと首を横に振る。
「違う」
「え?」
「アリューズは、あの、私の旦那様、だった」
「ルミィ……」
「そぉい!」
じーん、とアリューズがルミナスへの愛を自覚しているとアリアが容赦なくアリューズの後頭部を叩いた。
すぱん!といい音がして、アリューズが鬼の形相でアリアをにらみつける。
「おい……アリア……」
「ルミナスは可愛いから良いとして、今うっとりしてんじゃないわよ」
「叩くな!」
「正気に戻すのにはこれが一番よ!」
ぐっ、と拳を作るアリアと、全力でツッコミを入れるアリューズ。
割とカオスな状況になりそうだったが、一番怒りそうなミーシャが怒ってもいないし、何ならゆっくりお茶を飲んでいるではないか。
「アリアちゃん、アリューズくん、とりあえずそれで終わりよ」
んもう、と呟いてレノオーラがぱんぱん、と手を叩いた。
睨み合いを続けていた二人は割と早々に落ち着く。
なお、席順についてはルミナスを間に挟んでアリア、アリューズ。これはいつも通り。
子供三人の前に大人組が座っているのだが、向かいの席はアレクシスとミーシャが並び、レノオーラがアレクシスたちと同じソファーに、ライルは一人がけのソファーに座っている。
ライルがルミナスに視線をやってから、遠慮がちに話しかけた。
「ルミナス、ちなみに何回繰り返したんだ?」
「えーっと…」
ルミナスは指折り数える。1回じゃないの?!とアリアの驚いた声がしたけれど、即座にアリューズから『もう』って言っただろうが!というツッコミが入っている。
何とも良きコンビだなぁ、とのほほんとしているルミナスだが、すぐに数え終わって指を立てる。
「四回目」
「え」
「うそ」
ぽかんとしたアリアとアリューズを交互に見て、ルミナスはうん、と頷いた。
「ほんと。四回目よ、これ」
「四回目、って……じゃあ、三回も死んだ、ってことか?」
「……うん」
ルミナスが嘘をついているとは思えない。至って真面目な顔で、片手で指を四本示しているからミーシャたちは唖然としてしまう。
「そんなに…?」
「でも、何で…」
「わかんない…です」
しょぼん、としたルミナスに対して、レノオーラが慌てて手を振る。
「る、ルミナス!そもそも人が繰り返すとか、原因も何も分からないのだから、しょんぼりしないで!ねっ?」
「母様……」
元気が無くなってしまったルミナスだが、レノオーラの言葉には励まされた。
しかし、本当にどうして繰り返しを起こしているのか。
ルミナス自身は繰り返したい、だなんて思っていない。『早く終わってくれ』というよりは『普通に年取らせてほしい』と思っている。
「…何か法則でもあるのかしら」
「おばあさま?」
「繰り返す、ということは何かしらの理由があるということじゃろうからな」
「理由……」
一体何が、と全員が考え込む。
そしてふと、アリアがじーっとルミナスを見つめてから口を開いた。
「ルミナス、あのさぁ」
「ん?」
「死んだ理由とか、原因とかって話せる?無理?」
「あー……」
一回目、二回目、三回目、と思い出してから何ともいえない微妙な顔になったルミナスを見て、ルミナス以外の全員が『え?』という顔になる。
「あの、ルミィ?」
「えーっと……」
「ルミナス、言いにくいなら無理には……」
「一回目は、元いた国の、王太子殿下が原因です」
「「あぁ……」」
アリアとアリューズ、二人の声が綺麗に重なる。
だからルミナスは、そもそもの『王太子』という存在を警戒していたのだ。
死因が王太子なら、それが国関係なく、という可能性があるかもしれないから、避けていた。
避けたら避けたで、向こうからの意味わからん嫉妬で絡まれ続けたのだから、もはや最悪としか言いようがない。
「でも、どうして王太子殿下が…?」
「冤罪を、かけられまして…」
「えぇ…」
ライルとレノオーラ、二人揃ってドン引きしている。
ライルは仕事の関係で、王宮にも多少なりとも出入りしている。当代の伯爵なのだから、それはそうなのだが、王太子ともあろうものが冤罪ふっかけるとはどういうことなのだ、とドン引きしている様子だ。
レノオーラの顔にも『まさか王族が』と書いているのが目に見えるようだった。
「王太子殿下に憧れた女子生徒……えーと、私は知らないし付き合いもなかった令嬢に、見事にはめられまして」
あはは、と力無く笑うルミナスの手を、アリューズはそっと握る。
ありがと、と小さく呟いて、ルミナスは更に続けた。
「何もやってないけれど、私がやったことにされて、両親共々処刑されました。……十六歳の時です」
「それが、一回目…?」
心配そうなアリアの問いに、ルミナスは小さく頷いてみせる。
「誰も、何も聞いてくれなかった。だから、あの時は諦めるしかなかった」
「そんなこと…!」
酷いわ!とレノオーラの悲鳴のような声に、ルミナスは少しだけ救われたような気がした。
もう死んでしまって、あの一回目は終わったことになってしまったのだけれど、気持ちは、間違いなく楽になったから。
「……ルミナス、二回目は?」
酷だろうかも、と付け加えてからミーシャは問いかける。
「二回目、ですか」
「ルミナス、辛いなら少し時間を置いてもいいんじゃよ?!」
「あ、えぇと…」
「ルミィ、ちょっとだけ…ひと呼吸置こう」
「……うん」
皆が居てくれて良かった、と安堵する。きっと実家にいたらこんな風に落ち着いて考えられないし、マリアに色々と邪魔をされまくったに違いない。
「……二回目、は……」
「二回目は?」
問い返してくるミーシャを見据え、ルミナスは決心して告げた。
「二回目は、マリアが原因です」
「は?!」
わぁ、お祖母様があんなに大声あげたの初めて聞いたー!と内心ちょびっとだけルミナスが感動しているものの、ミーシャは怒りに満ち溢れてしまっていた。
「あの馬鹿孫…!」
「おばあさま、でもあのほら、結果的に私はマリアからこうして離れたわけで」
「そういう問題ではありません!」
「そうよ、ルミナス!」
ミーシャとレノオーラ、ほぼ同時に叫び、子供たちは思わずびくりと体を竦ませてしまった。
「人を何だと思っているのかしら、あの子は…!」
「あの、母様…」
「だからルミナスはアレから離れたがったのね…」
「おばあさま…」
「駄目じゃ、頭に血が上っておる」
「レノオーラ、少し深呼吸して。冷たいお茶でも飲んで、ほら」
「わたくし落ち着いておりますわ!」
「えぇ…」
女性陣が憤慨しているのだが、子供たち二人が『マリアって誰』という顔をしているのに気付いたらしい。
アレクシスは苦笑いを浮かべ、頬をかきつつ答えを返した。
「マリア、はルミナスの妹じゃよ」
「はぁぁぁぁぁぁ?!」
しまった、ここで叫ばれてしまうと私の耳が死んじゃう、と思いながらルミナスはそっと遠い目をしたのであった。




