会いたかった
手紙を書いてから一週間。ルミナスはお気に入りのワンピースを身にまとい、今か今かとそわそわしながら到着を待っていた。
祖父母に手紙を書いてから早々に『可愛い孫が会いたいと言ってくれるなら、じいじはすぐそちらに向かおう』と返事をもらい、指定されたのは今日の日付。
ここ数日妹も大人しいし、加えて礼儀作法に大変厳しい祖父母に会うのを嫌がるため、今玄関先にいるのはルミナスと、ルミナス付きの使用人のみ。
「まだかしら…!」
「お嬢様、まだ先程から5分しか待っておりませんよ」
「でもでも、久しぶりにおじいさまに会えるのよ?楽しみなんだもの!」
こうしていると、先日のあの父母や妹への対応が嘘のように歳相応だ、と。傍らに控えていた老執事は目を細める。
自分の孫よりも少し幼いルミナスと視線を合わせるようにそっとしゃがんでから、優しく頭を撫でた。
「お嬢様、もう少しできっといらっしゃいますよ」
頭を撫でられて嬉しそうに目を細めるルミナスにつられるようにして、老執事も笑う。
先日の件以降、ルミナスは気を許している人に対してはこうして歳相応の表情を見せてくれるようになった。侯爵家令嬢として振る舞わなければならない時には、勿論幼いながらもきちんとしている。
その様子に、祖父母の代から仕えてくれている人や出入りの業者は感心した。さすが、侯爵家令嬢だと。
実際のところ本人は『猫かぶり得意ですし』と内心鼻ホジ状態だったりしたが、まぁそんなもん出す訳もなく。
なお、今この瞬間に関しては、本当に祖父母に会えるのが楽しみすぎて素が出まくっているという事が真実なのである。
ガラガラ、と車輪の音が聞こえてくると、ルミナスの表情は更に明るくなった。
ドアが開き、老人というよりも老紳士、という風貌の男性と上品な老婦人が連れ立って降りてくる。
ルミナスは2人の前に立つと見事なカーテシーを披露し、すっと頭を下げる。
「親愛なるおじいさま、おばあさま。ようこそいらっしゃいました、お出迎えにわたくししかおらぬ事、誠に申し訳ございません。ルミナス=フォン=ラクティ、おじいさまとおばあさまの訪問、大変嬉しく存じます」
「うむ。……さぁさぁ、おいで、ルミナスや」
孫娘の挨拶を満足そうに聞き、そしてすっとしゃがみ、愛おしげに目を細めた老紳士が両腕を広げる。
迷うことなく駆け出して、ルミナスはその腕の中に勢いよく飛び込んだ。
「おじいさま!!お会いしたかったわ!!」
「おお、大きくなったのう!ははは、少し重くなったか?」
「あなた様、ルミナスを抱き抱えて回らないでくださいまし。ルミナスが目を回すし、ぎっくり腰をまたやらかしますわよ」
「む」
飛び込んできたルミナスを抱き留めてそのままくるくると回っていた老紳士、もとい侯爵家前当主。
呆れたような声で己の夫を諌める前当主夫人。
そんな2人のやり取りを聞いて、ルミナスはにっこりと笑う。
「大丈夫ですわおばあさま。おじいさま、ちゃんと手加減してくださっているもの!」
「まぁまぁ。けれどルミナス、気を付けなければなりませんよ?」
「はい、おばあさま」
「よろしい」
柔らかな笑みを浮かべ、孫を眺めていれば慌てた様子でようやくやってきた父母。そして父に抱かれた妹もちゃんといた。
「…おぉ、ようやっと来たのかそなたら」
「すみません、父上」
「構わん、わしの可愛いルミナス直々に出迎えてもろうたのでな。さ、中に入ろう」
「父上、マリアもご挨拶が…」
「後で良い。わざわざ幼子に強要するものでは無い」
「………はい」
少しだけ突き放したような口調に、父は溜息をつくが抱き抱えられたマリアの視線は、自分と同じように抱き抱えられた姉へと向けられていた。
いよいよ本格的に始まろうとしている姉との別れを何となく察しているのか、マリアは普段よりも元気がないが、逆に普段より遥かに嬉しそうな顔をしているルミナスを見て、実感してしまったのだろう。愚図りはしなかったが、ぎゅう、と父に抱き着いてそのまま応接室へと全員が歩き出したのだった。
ついに出てきたおじいちゃんとおばあちゃん。
名前や詳しいあれこれは次回でがっつり書きます!