怨み憾み
僕の世界は灰色です。
「灰色」という言葉しか出てきません。
僕の目は死んでいます。
「目が死んでいる」という言葉しか出てきません。
心が黒く染まっていきます。
「黒く染まる」という言葉しか出てきません。
今宵も星空がきれいです。
「美」を素直に訳すことしかできません。
何も、何も、生じません。
もっと回数を重ねれば、もっと思考を巡らせれば、
幾分ましなものができるでしょう。
ですが、己の傲慢と怠慢が、僕の成長を許しません。
そのくせ、世界や他人を見る目は厳しく、俗人とけなして遠ざけます。
「本物」でもないくせに、己の才能とセンスを過信し、
救済たる理論にいたっては、激しい怒りを以て切り捨てます。
俗人には侮蔑を、本物には憎悪を与え、己には癒しを与えます。そうして何とか生き残ります。
本物になれず、他人を見れず、世界を見れず。
代わりに自分を滅ぼす仇として見るでしょう。
それしか、己を救済する術がないのだから――――
喜劇を描きました。
失笑しか、生まれませんでした。
悲劇を描きました。
自虐にしかならず、野暮ったいものでした。
慈悲物も描きました。
すぐに他人を見ていないことがバレました。
怒りを物語にのせました。
読者に冷めた目で見られました。
無知であることが、バレました。いとも簡単に、バレました。しかたありません。教養人には、私の嘘など通じませんから。
かのソクラテスの境地へ至りたい。かの御仁のように知識に貪欲で、知識を得ることに全てを使いたい。
願望を語っているうちは、到底不可能ですがね――――
こうしているうちにも「本物」は、どんどん高みへ昇っていきます。僕がまごついている間に、物凄い速さで昇るのです。
それが、本当に憾めしくて、恨めしくて、怨めしくて――――
今日も私は、理解の及ばぬファンタジーに日々を費やします。
終わり