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どでかいにゃんこを布団代わりにして永遠の眠りにつきたい。
世界のありとあらゆる『出来事』が内蔵された一部屋。
『黄金書斎』
エルリシアで起こったことがすべて記載された書物『夢幻日記』が蔵された書斎は、知識の探求者たちが求める理想郷と言われている。
「テラリオムは工芸品であることがほとんどですが、『知恵の神ゼメフォス』が作り出した『黄金書斎』は部屋そのものがテラリオムになっていると言われています。」
「世界中すべての……?そんなことしたら書斎が本で一杯になるんじゃ―」
「おそらく部屋の形をした『結界』なのだと思います。結界ならば無限に近い空間を生み出し続けるのも可能でしょう」
「結界……そんなもの見つけられるの?」
「いえ、書斎の在処はわかっているのですが、問題は―」
―タンタン。
自身の頭のすぐ後ろから窓を叩く音がして、冬依はあわてて振り返る。
ガラス越しに見えたのは、一匹の白い猫だった。
「あっ、さっき言ってた―」
「あ、リアラさん。帰ってきたんですね」
違和感に気がつくのに数秒を要した。
最初は遠近感でそう見えただけかと思った。
その次は、窓が小さいのだろうと感じた。
しかし、どちらも違った。
その猫は、あまりにも、大きすぎた。
「……リアラって言うんだね」
「はい。とても大きくてふさふさでかあいいですよ」
表情が綻んだノエルは少し幼く見えた。
相変わらずあの女神そっくりで、気を抜くと心を奪われそうになる。
「ちょっと……大きすぎません?」
ノエルが小走りで窓に向かい、カラカラと戸を開ける。
リアラは、とてもではないがノエルが抱きかかえられる大きさではない。
むしろその大きさはノエルと同じくらい……150cmほどはある。
のそのそと部屋に入ってきたリアラは、不思議なほど汚れていなかった。
こんな森の中をあるけば、土くらい付きそうなものだが。
「そ、そうですね〜確かに猫にしては大きいほうとは思いますけど……この森に住んでる生き物は巨大なものが多いんです」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
地球ではありえない大きさの猫が歩いている姿は、なるほどたしかに異世界らしい光景ではある。
その場のシュールな雰囲気に圧倒されて、冬依はリアラがソファに座り込むまで口を開けたままだった。
長いソファに座ったリアラの隣に、ノエルが再び腰掛ける。
「さっき、一緒に住んでるって言ってたよね?冒険はどうするの?」
「連れていきますよ?」
「め、目立ったりしないかな」
「大丈夫です。目立つのはなれてますし……こういうとリアラさんに失礼ですが、魔術師は変な生き物を連れて歩いているものなのですよ」
「へ、変な生き物か……」
ふとんに手足がついて歩いているようだと、冬依は思った。
寒い日に毛布代わりにするととんでもなく温かそうだ。
ノエルがリアラの頭を撫でると、返答するように頭を下げる。
ノエルはリアラに体を預けて崩れた姿勢になった。
「なんだか……似合ってるね。絵になるっていうか……」
「私達がですか?」
「うん。二人とも白くてきれいだから」
「ふふ、ありがとうございます」
そのとき、それまで一切泣かなかったリアラが、『ニャン』と一言喋った。
「へ?!リアラさん何言ってるんですか!そんなわけないじゃないですかぁ」
冬依は頭上に疑問符を浮かべながら、首をかしげる。
急に何を言い出すのだろうこの少女は。
もしや……いや、もしかしなくても、猫と会話をしているのではないだろうか。
「り、リアラと話せるの……?」
「はい。なぜか私とは話せるんですよ。不思議ですね」
実際に意思疎通ができているかどうかは別として……冬依はもう何をされても驚くまいと確信したのだった。
「ところでリアラはさっきなんて……?」
「うっ……えっと……その―秘密です!」
顔を真っ赤にしてきっぱり言い放ったノエルは、そそくさと飲み干したカップを片付けに行った。
ロマンスあり?なし?
もちろんありです。
全く関係ないですが、私は報われない恋がとても好きです。
全く関係のない話ですが。