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 この世界の占いというものは魔術の一種であり、地球における一般的な『占い』のそれとは根本的に異なる。

科学的に理論化された占魔術は、抽象的な未来やイメージしか写すことはないが、地球の占いのように「本物かどうかわからないもの」という扱いは受けない。


「蓄積された『マジカ』からその人の過去を読み取り、未来を予想したり探しものを見つけたりするのが占魔術です」


「マジカ……?」


「簡単に言うと、人の体内に蓄積された魔力のことです。それ以外の魔力がマナと呼ばれています」


「へぇ……?」


魔法や魔術と聞くと、呪いやおまじないを連想する冬依だったが、この世界の魔法や魔術はしっかりした技術として確立されているようだ。

ちなみに冬依は話の半分くらいしか理解できていない。


 「今から行うのは、あなたのマジカを分析して過去そのものを、抽象的な3つの単語で表すものです」


ノエルがソファに座る冬依の後方に立つ。

冬依は少し不安になり度々後ろを振り向こうとするが、「大丈夫ですから前を向いていてください」とノエルに笑われた。


「―あ、あれ?おかしいな……」


背後でガサゴソと紙束を漁る音が聞こえる。


「どうかした?」


「い、いえ。なんでも……記憶を失っているからでしょうか……あなたのマジカが全然感じ取れなくて……」


考えてみれば当たり前のことだった。

冬依がこの世界にやってきたのは数時間前。

それまで彼は、魔力など存在しない場所にいた。

ノエルが冬依のマジカを感じ取れないのは必然だった。


「体内に蓄積された魔力……か……」


もし冬依がこの世界の人間と根本的に違えていれば、そもそもマジカが蓄積されない可能性もある。

冬依が諦めようとした時だった。


「あの……やっぱりもう大丈夫で―」


「ま、待ってください!魔術師としてここで引き下がるわけにはいきません―深層域まで潜り込めばきっとマジカはあるはずです。『この世界に生きる者なら』……!」


「ど、どうやって調べるの?」


「まず、目を閉じてください。それから自分の心の奥深くを想像して―あと……で、出来ればあまり余計なことはか、考えないでください……ね……?」


ノエルの声が少し裏返る。

動揺しているのだろうか、少し震えた手を後方から冬依の脇下をくぐらせ、そのまま両の手を交差させる。

どうみても冬依がノエルに後ろから抱きつかれているようにしか見えない。


「ちょ、ちょちょ!」


「が、我慢してください!私だって恥ずかしいんですから……!」


「こ、これがホントに占いなの……?」


「ま、魔術は正しい方法と正しい手順で行わなければ必ず失敗します。は、早く雑念を取り除いてください……!」


「そう言われても……」


心を無にするとはこれほどまでに難しいものかと冬依は思った。


「記憶の手がかりを探すことなんて普段はしないし……お客さんはだいたい女性の方だし……ごめんなさい。こんなの初めてで……」


冬依は彼女の言葉のせいでさらに鼓動を高鳴らせてしまう。

―記憶はないけど、生前の僕は間違いなく童貞だったろうな。

他人事のように心のうちに語る。

意外にも冬依の心臓は彼の言うことを聞き、胸の高鳴りが収まりつつあった。


「あ、あの……」言いづらそうにノエルが耳元で囁く。記憶抜くとまたドキドキしそうだった。


「な、何かな」


「その……心臓の音がうるさくて……よく感じ取れないんです」


「ご、ごめん―」


何かを喋られると余計に落ち着かなくなる。

そこからさらに数十秒が経過し、部屋を包んでいた妙な緊張感と静寂をノエルが切る。


「異邦人、死、忘却―?」


「……いほーじん?」


「……ふぅ……ようやく見つけました!さっきの単語があなたの過去を端的に表したものです!」


「ど、どういう意味なのか検討もつかないのだけど……」


テーブルにおいてあった紙にスラスラと単語を並べる。

が、冬依にはなんと書いてあるのかさっぱりわからない。


―言葉がわかっても文字が読めない?

女神が


「異邦人というのは……やはり炎の大陸からという意味でしょうか……?死……は、よくわかりませんね……忘却は忘れているという意味で間違いないでしょう」


「そう……だね」


異邦人とはつまり、地球から来たという意味。

死は一度死んでいるという意味。

忘却は、彼女の言うとおり記憶がないことなのかもしれない。


「―死を忘れるため……」


そう女神は言っていた。

死と忘却が、必ずしも地球での死と記憶喪失を表しているとは限らない。


「何か引っかかりましたか?」


「い、いえ!何も……」


反射的にそう答えてしまった。

冬依はここで、この世界の占いがいかに地球のものと違うか改めて思い知らされる。


「でも、当たってると思いますよ。なんとなくそんな気がします」


「そ、そうですか。それはよかった……です」


異邦人と忘却だけなら、ノエルの知り得る情報で出てくる言葉かもしれない。

しかし、『死』という単語は、冬依か女神フランリーノでないと知り得ない情報だ。

彼女の占いが当たっている可能性は高い。


「その……ちょっと気になったんだけど」


「なんですか?」


そのうえで、ノエルの占いが信憑性にたるかを確認するためには、以下の質問が必要であった。


「君の髪色と、瞳の色って……珍しかったりするの?」



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