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次回、全裸ヒロイン登場
エルリシアに転生する予定である濤川冬依少年は、今まさに異世界に降り立とうとしていた。
「天界って……どう降りればいいんですか?」
『飛び降りるだけよ。慣れてるでしょ?』
「慣れてる……?」
『あ、こっちの話』
生前の自分はバンジージャンプでも嗜んでいたのだろうか。
死に向き合うとはつまりバンジーのことなのでは?
そんなくだらないことを考えながら女神の言葉を軽く聞き流して、冬依は顔半分だけ島の外へ出す。
目に飛び込んできたのは雲海。
その隙間から除く地上の景色。
雲がはるか下に見えるほど高い場所のはずだが、息苦しさは一切感じない。
ここが『天空都市』だからだろうか。
「む、無理無理無理!無理ですよ!死んじゃいますって!」
『死なない死なない。天空に浮かんでいるように見えるけど、そこは別次元の空間だから。飛び降りることによってエルリシアに降り立つことができるの。』
「そんなこと言ったって……」
化け物の入った檻を覗き込むように、冬依は再度空を見下ろした。
眼下にあるのは森、川、湖。
いかにもな山中の景色で、人気のある場所には見えない。
遠くの方には少し賑わっていそうな町が見える。
『―この世界には『加護』と言うものがあるの』
「カゴ?」
あまりにも突拍子のない言葉に思わず聞き返す冬依。
しかし女神は全く意に介さず話を続ける。
『加護は神から与えられる力の欠片。特別な人間である証、そして、人生を閉じ込める檻―』
加護によって人間が得る力は大きい。
天武の才をもつ人間が一生をかけてもなし得ない業を、加護を持つ人間はいともたやすく叶えてしまう。
人類が偉業と呼ぶべきことを実行するのに必要な努力、才能、運。
すべてを跳ね除けて成就させる力。
世界そのものを変える力と言っても過言ではないだろう。
それほど強力な力を持った人間が、この世界には多数存在している。
しかし、加護に欠点がないわけではない。
加護は人類規模の神業を簡単にこなせる力を所有者に与えるがそれと同時に、加護は所有者の人生、生き様を強く縛ってしまうのである。
加護を授かった人間は、文字通り神によって定められた運命のとおりの人生を送る。
幸も不幸もすべてが加護によって決まる。
それが良い方向に働くこともあるが、ほとんどの場合『ろくな目に合わない』
それが、唯一の加護の欠点と言われている。
『私は君に、私の加護を持たせるつもりだったんだけど、なぜか君は『すでに持ってた』の。それもとびきり特別な強いやつをね』
「すでに持ってた?」
『うん、理由はわかんないけどね。その加護、『エルリスの加護』はエルリシアでは最上級のものかもしれないけど、それは同時に、この世界で最も強く君の運命を縛り付けるものなの』
「運命を縛り付ける……?」
神の視点でものを語られても、イマイチしっくりこない。
きっとそういうものなのだろうと、冬依はむりやり安易に納得することにした。
『―気をつけてね』
最後の一言だけは、背中のすぐ後ろで聞こえた気がした。
いや、むしろ、その一言が風にのって吹いてきたのかもしれない。
強く優しい風だった。
冬依の身体をほんの少しだけ傾け、バランスを崩すだけの暖かい風。
しかし、冬依が立っていたのは島の端。すこし押されれば、地上が目の前の紐なしバンジーだ。
冬依は既のとこで体制を持ち直し、島にとどまろうとした。
―最初に聞こえたのはパラパラという音。
土や砂が崩れるような、軽い音だった。
そして、次の瞬間には、胸の奥まで響くような鈍い音とともに、軽い浮遊感に包まれる。
風をきる音が聞こえてきたあたりで、少年はようやく自身の身に起きた事態を理解した。
つまりは、齢16の少年の全体重が、消して頑丈とは言えない地盤にかけられた衝撃で、島の一部が根こそぎ崩れ落ちたのである。
「う、うそおおおおおおおおお―」
何も無い空中に突如として現れた一人の少年。
響き渡る情けない絶叫。
濤川冬依が現れた場所には、不幸にも人間の姿があった。