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異端世界の超越者  作者: JM ゴメス
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プロローグ②【約束】

 かくして一人の優しき魔王と三人の時の権力者によって、人間界・魔人界・精霊界・神界、そして空界の五つに『世界』が隔たれた。


 魔王シージャス・カルヴァ―トの死後、天と地の真ん中に存在する空界にて彼の死を弔う会合が成された。


「あのシージャスがまさか、ここまでのことを考えていたとはね」


「あぁ、ほんとびっくりだ」


「‥‥‥‥。」


 創造神マルキナス、精霊王クラデュアル、剣聖レゼルの三人は優しき魔王によって変わった世界の空を呆然とただ眺めていた。

 そんな中、剣聖レゼルは魔王シージャスとの最後を思い返しているのだった。――彼に正義と悪について尋ねた時。


『‥‥なぁ、魔王。貴様は正義って何だとおもう? 悪って何だと思う?』

『それは我どころか誰にも分からない。この世のどこを探してもその答えはないだろう。ただ一つ言えることは、迷いのない限りそれは己の『正解』であることだ』

『すると、まだ俺が貴様を斬ることに対して少し迷いがあるこれは『正解』ではないということか』

『ふんっ、その解はお前自身で見つけろ』


 彼が最後に言い放った言葉が気がかりだった。

 剣聖レゼル一行は魔王シージャスの遺志を継がなければならないのだが、何をしたらいいか全く検討が付かないでいた。死後のことについては何も言われなかったからだ。

 創造神マルキナスと精霊王クラデュアルに関してはは考えようとする姿勢がなく、緑の地面に寝そべって流れゆく雲を眺めていた。

 ――もうこの世界に傲慢の魔王はいない。泰平が訪れたとしても、三人にとってはどこか寂しく儚い風景が広がっているだけだった。



 ふと創造神が口をひらいた。


「そういや転生召喚魔法ってしってるか、クラデュアル?」


 この一言が迷っている剣聖レゼルの興味を惹いた。彼もまた木の上で寝そべって、耳をぴくぴくさせている。


「あー、なんか聞いたことある。でもなんか良く分からない根源だった気がするな。いきなりどうしたんだ?」


「魔王城の中とても迷路みたいで、適当に歩いてたら図書館に入っちゃってさ、奥の机に一冊の魔導書が置かれてたから読んでみると『転生召喚魔法』について書かれたもんだった、って訳だ」


「なるほどね。ってか魔王城そんな迷うことなかっただろ。すぐ着いたぞ。まっすぐ一本道の廊下を進むだけだったから」


「へー、そうなのか。進む道間違えちゃったかもなー」


 常日頃から何をするにしてもこの能天気な態度が創造神マルキナスのモットーであり、ひとつの特徴である。

 そんな彼が、傲慢ごうまんの魔王シージャス・カルヴァ―トの命懸け大魔法作戦による死去後一週間の間なかなか食に箸が進まなかったということは、魔王の行いがそれほど凄く驚愕的だったことを暗示しているに他ならない。

 数千年前、この世を創り出したともされる創造の神。その性格は神らしくなく、とても人間味を帯びていた。


「お前それでも創造神かよ。んで、どうしたんだよ? その魔導書。ちょっとだけ読んだならその中身だけでも‥‥」


「あ、それなら。はい、ここに!」


 マルキナスが指を鳴らしてみせると、彼の手のひらへ赤色の分厚い本が何もないはずの虚空から落ちてきた。


「「おい、お前それ持ち出したのか!?」」


 これには木の上で試行錯誤していた剣聖レゼルもびっくりしたようだ。精霊王と剣聖の驚きが共鳴する。

 木の上から飛び降りた剣聖レゼルが続ける。


「マルキナス、それは下手したら魔王の禁忌に触れるんじゃないのか?」


 極度に能天気な彼にとって、剣聖のその問いかけは小さな風にしか過ぎないようだ。微笑んで答えた。


「まぁ、大丈夫なんじゃない?」


「いいや、お前の『大丈夫』は信用ならねぇよ!」


 流石精霊王。的確なツッコミを入れる。これには剣聖も深く頷いて同意を示していた。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。これが傲慢ごうまんの魔王の形見だと思えばそう悪い気はしないだろ?」


 目を閉じて思い出をいつくしむような表情でマルキナスは続ける。


「これがどうしても。どうしてもシー君が俺たちに残し託した最後の願いのように思えてならないんだ」


 シー君とは他でもない、傲慢の魔王シージャス・カルヴァ―トを指す。創造神と魔王は互いに馴染み深くあった。

 永劫不老不死身の創造神はまだ幼かった魔王シージャスに寄り添って、成長を見届けてきた。――彼にとっては身内以上の存在が死んだも同然。一週間なにも食べれなかったのも無理はない。それでも泣かないのはシー君ことシージャス・カルヴァ―トが泣かず立派な死に際、有終の美を飾ったからである。


 すると剣聖が口を開いた。


「仮にもしそうだとしたら、俺たちが出来るのはこんな所で変わり果てた空を仰ぐことじゃない。『転生召喚魔法』を行使することだ」


 これには精霊王も納得したようだった。


「そうだな。でも長いこと争い、いがみ合った敵仲のお前らに何があった?」


 マルキナスはともかく、魔王城でクラデュアルは上級魔法の行使でなにかと余裕がなかったので、死去直前の剣聖と魔王のやり取りを知らない。

 よって彼は互いに最後まで憎しみ合って終わりを遂げた、終始一貫して犬猿の仲と認識していた。


「もう今は敵仲じゃない。アイツは俺の友達だ。腐れ縁に近いがな」


 そう言って剣聖は満面の笑みを浮かべた。そんなレゼルを見て精霊王もまたガサツな笑みを溢すのだった。


「話を戻そうか。決めたぞ。この魔導書の術、『転生召喚魔法』を行使する。二人とも協力してくれるな?」


「それでこそ――」


「剣聖だ!」


 それからというもの、三人の時の権力者は魔導書の研究と実践に励んだ。内容が内容なだけにとても複雑で、彼らの知識・全力を以ってしても至らない部分がいくつも生まれた。

 それでも神と精霊と人間は一つの『願い』—―彼らの友、傲慢の魔王が残した『安寧の祈り』を大成するために、手あたり次第思いつく限りのことを尽くすのだった。






 ―― 一年の時が経ち、研究はついに最終局面へ。



「ようやく、ようやく最後の1ページだな」


「あぁ、ここまで長いようで一瞬だった」


 そして彼らは三つの手を薄っぺらい紙に添えて、同時にめくる。

 —―『生贄いけにえを少なくとも一人捧げよ』と書かれていた。最後の最後で一大の必須項目。

 場にいた一同、驚愕の事実に息をのむ。


 広がる沈黙を破ったのは――剣聖レゼルだった。


「‥‥いつかは覚悟していたさ。今の俺に何が出来るか、俺は何を為すべきか。この一年間ずっと考えてきた。そしてこの長い試行は一筋に繋がった。――俺が生贄いけにえになる」


 さらなる驚愕が精霊王と創造神にのしかかる。

 もう一度沈黙してクラデュアルが口を開く。


「お前がその目をしてるってことは、もう決めた証拠だ。だから引き止めはしない」


 マルキナスが続ける。


「同じくだよ。俺も止はしない」



「二人とも、ありがとう」


 かつて、友であるシージャス・カルヴァ―トに突き立てた聖剣を今一度抜く。あれ以来抜いていないからか、血を浴びた部分の刀身はサビていた。


「今すぐにでも始めよう」


 願いの終点が見えてくる。

 精霊王も創造神も半泣き状態でありながらも根源の限りのの魔力を込める。


「いくぞ、マルキナス!」


「オーケー、クラデュアル!」


「「術式展開じゅつしきてんかい—―」」


 レゼルを中心とする赤黒く光る五芒星の陣が展開される。

 その色を見て彼の胸に万感の思いが駆け抜けた――いつか巡り合うと心で誓った約束の地へ。


「「顎獄門あぎとごくもん失星しっせいの刻」」


 広大な術式の淵を赤色の光が空高くかたどり、その内側を無数の黒光の粒が天空へ駆けあがってゆく。――まるで輝きを失った星のような純黒の光。


「クラデュアル!」


「了解。 聖域展開サンクチュアリ—―」

「マルキナス!」


「オーケー、相棒。 ルインドサンクション!!」


 先程の陣のさらに外側に金色こんじきの輝きを放つ円形の陣が展開される。――いずれも中心はレゼルだ。


 すると、耐え難い重圧がレゼルを襲う。

 筋肉を極度に硬化させてなんとか立ってられる状態だ。


「ぐはっ。こ、これはすげぇや」


「「レゼル、やるんだ!!!」」


 二人の声が陣内の空間にこだまする。


「あぁ、今までありがとう。1999年後の世界へ!」


 硬化させた筋肉を無理やり動かしたせいか、前身の筋肉をつなぐ筋々が音を立てて切れる。その痛みに耐えながら、無理やりに自分の胸に刃を突き立てる。――かつてレゼルを汚した、刀身に塗られた魔王の古く錆びた血と今再び触れ合う。


 両腕両足はげ、首筋の筋肉だけが生き据わっている状態。胸を貫いた血友けつゆうの思い出は赤き鮮血を切り出し、空からの高圧によって四方八方に飛ぶ。


「シージャス、これが俺の『正解』だ‥‥」


 ――やがて聖域サンクチュアリの効果が発動し、生贄いけにえとして剣聖は天高く光と共に消えていった。







 目的は不明なものの三人が魔王の意志を継ぎ、大成された『転生召喚魔法』。――このさざ波はやがて大きな津波となるだろう。

 なにせ転生候補は、1999年後の日本に生きる普通の男子高校生なのだから。

 

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