4つの陶器
大人の童話となります。
ある小さな子は芸術を知りませんでした。その小さな子は今まで生きていく事で必死だったので、芸術に意識が向きませんでした。でも、小さな子は心を満たす何かをいつも探していました。
ある時、小さな子はある芸術の街を歩きました。その街には、色々な人がいました。絵を描く人、大道芸をする人、歌う人……
小さな子は、その街の人々が何か満たされたような表情をしていた事が羨ましくなりました。
「僕も何かやってみよう」
小さな子はそのように考え、陶器作りにチャレンジしてみました。なぜ陶器作りなのかはわかりません。おそらく小さい子は昔ちょっとした焼き物を作った事があったのかもしれません。
小さな子は、陶器を創っては街の作品置き場に飾りました。芸術の街なので誰でも創った作品を飾る場所があったのです。もちろん、沢山の作品が並べられているので、小さな子の作品は見向きもされません。それでも小さな子は作品を飾り続けました。
ある日、綺麗な水色の人が小さな子の作品の前で立ち止まりました。水色の人は言いました。
「私は陶器のことはよく分からないけど、作品から貴方が頑張っていることはわかるわ。良いものを見せてくれて嬉しいわ。もし良かったら、私の作品もみてくださる?」
水色の人がそう言ったので、小さな子は水色の人の作品を見に行くことにしました。水色の人はガラス細工職人でした。その作品は繊細で美しいものでした。
「凄くキレイですね」
思わず小さな子は呟きました。水色の人はニッコリと微笑み、小さな子に言いました。
「ありがとう」
それから小さな子は水色の人と話すようになりました。すると、二人の会話に緑色の人が加わるようになりました。緑色の人は彫刻家でした。緑の人の彫刻作品はとても優雅でした。
緑色の人は小さな子に街の事を色々と教えました。この街の領主は他の街や別の国とも交流している事も聞きました。
「そのうち陶器のコンテストなんかもあるかも知れないね」
緑の人が楽しそうに語ってくれるので、小さな子はもっと色々とチャレンジしてみようと考えました。
ある日のこと、芸術の街の掲示板に隣の街で陶器のコンテストがあることが発表されました。コンテストの応募作品を芸術の街で飾ってから、作品を全部隣の街に持っていく事が書かれていました。
隣の街は陶器の街でした。それ程大きな規模のコンテストではなかったのですが、陶器造りで生活している職人が品評を行うと書かれていたので、小さな子は作品を創ってみようと思いました。
小さな子は、お皿、茶碗、小鉢、レンゲの4つの陶器を作りました。コンテストの要項には作品を隣街に持って行ってしまうと書かれていたので、レプリカを創って家に飾り、オリジナルの作品をコンテストに提出しました。
コンテストの応募作品として、沢山の作品が芸術の街に並べられました。300作品はあったでしょうか? もちろん、小さな子の作品も並べられました。小さな子がコンテストに参加した事を緑の人も水色の人も喜びました。
小さな子は並べられた他の人の作品を見て回りました。応募した人によっては20作品も造っている人もいました。小さな子と同じように作品を見て回ってる人もいました。コンテストを通じて、小さな子は沢山の人と仲良くなっていきました。
本で生計を立てている紫の作家とも知り合いになりました。また、壮大な建築を続けている街の白い貴族とも仲良くなれました。紫の作家も白の貴族も陶器造りをしていませんが、芸術の創作ということで小さな子は知り合うことが出来たのでした。
小さな子は芸術の街がどんどん好きになりました。
芸術の街での展示が終わり、応募された作品は隣の街に運ばれていきました。小さな子は少し寂しいと思いましたが、手元に4つのレプリカがあったので、それらを眺めて毎日を過ごしました。
小さな子は、それから隣の街にも通うようになりました。コンテストの結果が気になったからです。コンテストは隣の街に出来る新しい店で行われることがわかりました。その店に職人がやってきて品評をしていくとの事でした。
そして、隣の街の新しい店はオープンしました。小さな子は結果の発表を凄く楽しみにしていましたが、その日は何も発表されませんでした。そして二週間に一回イベントをする話だけがされました。ただ、その時に職人達は言いました。
「僕達はお皿の陶器の職人です。これから幅広くお皿の作品の公募をして紹介していきたいと思います」
その小さな子は何かがあやしいと感じました。芸術の街との連携の企画だと聞いていたからです。なので更にお皿の公募をかけるという意味が小さい子には理解できませんでした。
それでも、小さな子は隣の街の店に通いました。二週間が経ちイベントが開催されました。そこで芸術の街の作品が紹介されました。小さな子の作品ではありませんでしたが、芸術の街で作品が並べられた頃に知り合えた黄色の人の作品でした。小さな子は芸術の街に戻って黄色の人にお祝いの言葉を贈りました。
その二週間後に小さな子は隣の街のその店に立っていました。イベントは行われましたが、次の作品が発表されることはありませんでした。更に二週間も小さな子は店に立っていました。でも行われたのは別途公募された陶器のお皿の作品紹介でした。
小さな子はモヤモヤした気持ちを胸に、もう一度芸術の街の掲示板を見に行きました。そこには一言「結果が発表されました」と書かれていました。小さな子は隣の街では作品を紹介していくと聞いていたので、違和感を感じて隣の街のお店に向かいました。
小さな子は隣の街のお店に着くと店内を見渡しました。すると店の奥の掲示板に一言だけ書かれていました。
「芸術の街のコンテストの最優秀作品は黄色の人の作品です」
そこには作品は置かれておらず、お祝いの一言もありませんでした。イベントのライブの発表では最優秀であることすら言っていませんでした。小さな子は悲しくなり、芸術の街に戻りました。その時、掲示板が目に入りました。よく見ると過去に終わったイベントの告知が放置されたりしていました。小さな子は絶望して家に帰りました。
「この街も隣の街も僕が大好きな人たちを小馬鹿にしてる……」
小さな子は作品を作ったことが嫌になり、こんな腕があったからと燃えさかる炎が舞う窯に腕を入れました。その行為は凄い痛さを生み小さな子は思わず叫びましたが、それでも腕を抜くことはありませんでした。痛さ以上に小さな子の悔しさは大きかったです。
腕を焼いている途中で、物を見ることが嫌になりました。そもそもコンテストの掲示を見なかったら悲しい思いを感じることもなかったと考えたのです。そして、小さな子は窯に入れていた手を抜いて片目をくり抜きました。
小さな子が残ったもう片方の目をくり抜こうと考えた時に、コンテストに出した4つの陶器のレプリカが目に入りました。目が見えなくなる前に4つの陶器を壊そうと思いました。すべての陶器を壊して全てがなかったことになったらよいと感じました。
そして、片目になった小さな子は、火傷を負った両手で4つの陶器に手を伸ばそうとしました。その時ドアが開き、小さな子の手を抑えられました。
手を抑えたのは緑の人です。熱く焦げている小さな子の腕を掴んだので、もちろん緑の人の手も焼けています。緑の人は言いました。
「それをしては駄目。私は君の作品をみて、新しい可能性を見出したんだよ。だから、そんな悲しいことはしないで……」
その後にもう片方の腕を抑えた人がいました。それは水色の人でした。水色の人の手も焼けていましたが、水色の人は小さな子供の焼けた腕に涙しながら言いました。
「貴方は今回のコンテストを通じて、色々な人と知り合えたのでしょう? それじゃダメなのかしら。貴方は、これから両目を潰さないといけないの?」
小さな子は残った片目から涙を流しました。緑の人も水色の人も決して熱さに強いわけではありません。でも、小さな子の為に体を張って止めてくれたのでした。
小さな子は結果的に人を傷つけてしまった悲しさに途方にくれました。そして、両目を潰すという行為は辞めることにしました。
その後、小さな子の行動は白い貴族の耳に留まりました。白い貴族は隣の街に物を申すほど強い立場ではありませんでしたが、芸術の街の今の在り方はおかしいと街の領主に意見を堂々と述べました。その結果、芸術の街で放置されていたイベントの告知は綺麗に片づけられました。
小さな子は今は何をしているのかは伝わっておりません。なので、お話はこれで終わりとなります。
FIN.