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魂の依り代  作者: ドライフラワー
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引き裂かれる夫婦

ロボットの体に憑依した富士夫は八重子と思い出の地、沖縄にやってきた。

そして、海の綺麗な無人島にやってきて、二人だけの生活を始めた。


「何十年ぶりのキャンプかしら?」


八重子は年甲斐にもなくはしゃいでいた。

その時、何十歳も若返ったように見えた。

富士夫は八重子を眩しく見つめる。

若かりし頃を思い出す。


『俺と一緒に来て欲しい』


星空の夜、海岸で富士夫は八重子にプロポーズをした。


『ええ、喜んで、どこまでもお供します』

『ありがとう、一生を掛けて君を守るよ』


二人はこの地で永遠の愛を誓った。

その後、夫婦で都会に出て働いた。

八重子と将来生まれてくる我が子のために、頑張って稼いだ。

しかし、子供はできなかった。

それでも、老後に二人でゆっくり暮らそうと気持ちを切り替えた。

定年を迎え、やっとゆっくり暮らせると思った矢先、富士夫を病魔が襲った。

ガンだった。

手術を二度、三度繰り返したが、進行は止められなかった。

死ぬ前に、もう一度この地に足を運びたいと願い、叶わず、富士夫は死を迎えた。

だが、奇跡は起きた。

富士夫の世話をしてくれていたロボットが体をくれたのだ。

そして、今、八重子と共にこの地を踏んでいる。


八重子が富士夫に寄りかかってきた。


「始めからここに住めばよかったわね…」

「ソウダナ…」


二人は沈む夕日を眺めながら今までの人生を振り返った。

思えば仕事が忙しくて、八重子には寂しい思いをさせた。


「もう一人にしないでください」

「アア、コレカラハズット傍ニイル」


富士夫は八重子に誓った。






ロボットの体は便利だった。

食材のデーターベースもあり、力もあり、山菜や、魚の捕獲など食料採取には困らなかった。

料理は八重子が担当。

おいしそうな魚の塩焼きができた。

しかし、ロボットである富士夫は食べられなかった。

八重子だけが食事をするのを横で話をしながら見るだけ。

富士夫もエネルギー補給は必要だった。

そのために本島に戻って充電をしなければならなかった。

八重子も高齢のため、薬が少なからず必要だった。

そのため、本当の自給自足できない。

三日に一回、富士夫が本島に戻り、充電と買い物をするようになった。

そんな生活が二ヶ月続いた。


「タダイマ」


富士夫が本島から戻ってきた。

手には買い物袋をぶら下げている。

中には卵が入っていた。

魚ばかりでは飽きるだろうと思って買ってきたのだ。


「ありがとう」


八重子は卵を大事そうに受け取り、棚に置いた。


「鶏デモ飼ウカ、ソシタラ、毎日新鮮ナ卵が食ベラレル」

「いいわね」


八重子は自宅にいた時よりも元気になっていた。

いつも笑顔が絶えない。

富士夫が入院してからと言うもの、八重子はいつも不安げな顔をしていたからだ。

富士夫は元気な八重子を見れて喜んでいた。

もう絶対に八重子に寂しそうな顔はさせないと、富士夫は心に誓った。


その矢先、事件は起こった。


ガサガサガサ


風もないのに周囲の草木がざわつく音が鳴った。

獣か?

富士夫は八重子を背に庇う。

周囲の気配を窺っていると、正面に明かりが現われた。

懐中電灯の明かりだ。

真っ直ぐにこちらに向かってくる。

十人ほどの制服を着た男達だった。


「永島八重子と介護用人型ロボットN-220か?」


懐中電灯を持った制服の男が話しかけてきた。


「そうです…」


八重子が怯えた声で答える。

懐中電灯を持った男が手を上ると、他の男達が散って、富士夫達を取り囲む。


「永島八重子、介護用ロボットの窃盗の疑いで逮捕する!」

「きゃあ!」

「八重子!」


八重子が警官に捕まってしまった。

富士夫は八重子を取り返そうとするが、屈強な警官に取り押さえられてしまった。


「八重子ヲ離セ!彼女ハ盗ンデナンカイナイ!俺ガ彼女ヲココヘ連レテキタンダ!」


富士夫は訴えた。

だが、警官は取り合ってくれない。


「洗脳されているみたいだ。連絡しておけ」

「フザケルナ!洗脳ナンカサレテイナイ!」

「流石、人工知能、言うこと言うな。だが、お前はロボットだ。人間の命令なしには動けないただの機械だ」


富士夫は口籠った。


「詳しい話は署で聞く、連れて行け」

「八重子!」

「そのロボット、一旦、スリープ状態にしろ!」


警官がN-220の首の後ろにあるスイッチを押した。

薄れていく意識の中、八重子の悲し気な顔を見た。

もうさせないと誓ったばかりなのに。

富士夫は成す術もなく意識を失った。





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