表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂の依り代  作者: ドライフラワー
4/7

依り代

富士夫が本音を漏らしてから2日後の朝、容体が急変した。

八重子はいつものように花束を持って病院に現れた。

N-220は病院のロビーまで降りて、富士夫の危篤を知らせた。

八重子は真っ青になり、花束を落とした。


「あなた!あなた!」


病室に着くと八重子は必死に富士夫の下へ行こうとするも、医師が処置中のため、近づくことを許されなかった。


「八重子さん、落ち着いてください」


看護師が八重子を一旦別室へと連れ出していく。

N-220は留まって担当患者である富士夫の容態を確認する。

富士夫の荒かった呼吸はだいぶ落ち着きを見せていたが、


「今日が山だろう…」


と医師は重く呟いた。

富士夫の容態が安定したため、八重子は病室に入ることを許された。

八重子は意識のない夫の手をギュッと握り締め、


「あなた、私を独りにしないで…ずっと、一緒にいてくれるって言ったじゃない…退院したら、沖縄に行くって約束でしょう?」


ずっと語りかけていた。


「八重子サン、少シ休ンデ…」


あっという間に一日は過ぎた。

食事もとらず、富士夫の下から離れない八重子にN-220はコップ一杯の水を持ってきて声を掛けた。

八重子は泣き疲れた顔を上げて、小さく頷いて水を受け取って飲んだ。

すると、やっと『ありがとう』と言ってくれた。

しかし、すぐにまた富士夫の手を握って離さない。

最期の瞬間を見届けるために。

夕日の赤い光が病室に差し込んできた。

その時、富士夫の手が八重子の手を握り返してきた。


「あなた!私よ、わかる?」


八重子が呼びかけると、富士夫はうっすら目を開け、


『…すまん…』


と、一言、酸素マスクの下で呟いた。

それが最後の力だった。

富士夫の心拍するが一気に急降下し、二度と目を覚まさなかった。


「ご臨終です」

「あ、あ、あ、あなた…」


医師と看護師がしばし席を外した。

八重子は富士夫の胸の上に泣き崩れた。

N-220はその後ろ姿をじっと見つめていた。

差し込んでくる夕日の赤い光が一際強くなった。

日が沈む直前の光だ。

その光が人の形をとり、八重子の隣に立った。


『富士夫サン?』


断定できないが、推定した。

人の形をとった光がN-220の方を向いた。


『八重子を頼む…』


言い残すように富士夫の声が聞こえ、人の形の光は日没とともに消失した。

薄暗い病室で泣き続けている八重子を見て、N-220は胸が苦しくなる感覚に襲われた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ