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軍に所属して、一年と少し経った頃。友人、という者は出来てないけれど、気にかけてくれる仲間は出来た。戦闘部隊は前線に行くところもあるらしいが、僕らの部隊は後方支援が多かった。
「シアン、飯行くぞー。」
訓練も終わり、特に何も予定のない休日に、部屋でのんびりしていると、ノックも早々に僕の返事を待たず、部屋のドアを開けると同時にそう声を掛けられた。声でも分かったし、僕の部屋へこんなふうに気軽に来てくれる人は限られている。隊長のクダンさんと、いつも楽しそうに笑っているセンさんだ。センさんは僕より十年上で、無表情の僕をどうにか笑わせようと、こうして声を掛けてくれるようになった。
「・・・お腹、空いてないです。」
「なら、お前は、チビのままだなぁ?」
「・・・・・・少しなら。」
身長のことを言われると、どうしようもない。僕は平均よりは小さいらしい。隊長にも、センさんにも「もうちょっと大きかったらなぁ。」としみじみ言われてしまうので、少し気にしてはいた。
「よし、行っくぞー。」
センさんの声に、「・・・はい。」とだけ返事をして、先に出て行ったセンさんの後をついて行く。こういうのが続けばいいのになぁ、とこっそり思っては、小さく息を吐いた。
そんな今までより、緩い日常を送っていたある日、その日常が一気に崩れ去ってしまう様な出来事が起こってしまうなんて、思わなかった。
その日は、陛下からの勅令が下った。・・・初めての前線部隊への配属命令だった。それから、クダン隊長もセンさんも、それからその他の人たちもピリピリとした空気を醸し出していた。
毎食の度に、誘いに来てくれていたセンさんとは、会うことも少なくなってしまった。クダン隊長も作戦会議などで会うことも、会ったとしても今までの様に、柔らかく笑ってくれなくなってしまった。
僕自身も、戦闘訓練を重ねて、ゆっくり出来ない日々を送り、そして、前線へと出発する日になった。
城下町では、出発式が行われた。それは、戦いの勝利を祈るものであった。・・・僕らの無事を願ってくれるような声は聞こえることなく、少し残念な気持ちが広がった。盛大な見送りをされ、なんとなくではあるが、戻ってきたいな、と思った。
・・・それと同時に不安を感じ、クダン隊長やセンさんへ視線を向けるものの、誇らしげな表情をした二人と視線が交わることはなく、暗い何かが、心にかかったのが分かった。