6日目 結局泣くのか
乙男脱却計画も、いよいよ明日で終わりだ。
最初はぶっちゃけ……脱却なんてあり得ないって思ってたけど、努力すりゃ大抵は上手くいくんだなー。
「し、白井さん!!押忍っ!!!!」
「押忍、乙男君」
放課後に乙男君を呼び出そうとしていたら、あっちからオレを呼び出した。
場所は中庭――――あぁ、乙男君が告白してきた場所だな。
「乙男君、昨日はサンキュ。
お前のお蔭で怪我せずに済んだ」
「本当? あの時は白井さんを助けることに精一杯、だったから……」
「やればできるじゃんか。
もう、乙男っぽい感じは無くなってきたぞ?」
ちゃんとした立ち方、猫背、口調は……まあ、完全ではないがオドオドしてるのは少なくなった。
顔も良く見えるようになったし、パッと見ただけで立派な男だ。
問題は中身だが……
ところで、乙男君はどうしてオレなんかに告白してきたんだ?
いつも寄ってくるのは女子だけだったのに……うん、気になるな。
「そういや乙男君、どうしてオレに告白しようと思ったんだ?」
「え、えっと……入学式に白井さんが、ボクを助けてくれて……ずっと気になって……」
「……オレが、お前を助け……あー」
入学式といえば、オレが周りから《王子様》だとか言われる理由の原点だな。
あの日、入学式が平和に終わったオレは家に帰ろうとしてた時――――不良にカツアゲで絡まれてた男が居たんだっけ。
ソイツは泣きながら何度も「返して」とか「助けて」とか言ってたが、通行人は横目で見るだけで……誰も助けなかった。
その光景がやけに腹立って、たまたま持ってたスクールバッグを振り回して助けたんだよなー。
流石に女子に手を出すのは抵抗してたみたいだから、遠慮なくバッグで殴った後に警察呼んで……それを見た同じ学校の奴等が、オレの事を《ヒーロー》と呼んだ。
そこから大げさな噂が色々重なり、最終的には伝説みたいになってオレは《王子様》になった。
「じゃあ、お前はあの時の……」
「そ、そうだよ!!!!
……あの時はありがとう、白井さん」
「……!!」
い、今、乙男君が笑った時にキラキラした何かが見えたぞ……!!??
落ち着け、オレ!!!!
「それと……えっと……」
「……あ?」
「あ、あのね、ボク……まだ……」
「はっきりしろ!!!!乙男君!!!!!」
「ひゃいっ!!??」
せっかくある程度卒業したと思ったら、あんまり中身は変化してないってどういう事だ!!??
何に緊張してんのか分からないが、ハッキリしやがれ!!乙男君!!!!
オレが喝を入れると、乙男君は深呼吸をして手の平に何度も「人」を書きはじめた。
「よ、よし!!!!
白井さん、もう一度告白をしますっ!!」
「おう!!!
……って、は? 告白!!?」
「明日は最終日……でも、今日だけじゃ男らしさを磨くには時間が足りない。
だから明日でも今日でも、白井さんへの告白の結果は同じ……今、結果を知って諦めたい!!!!」
「あ、諦め……いや、オレは乙男君を一応認めて――――」
「無理だと分かってる!!!
でも、ボクは……し、白井さんが好きです!!!!ずっとずっと前から大好きです!!!!!!」
ぶっちゃけ、耳がキーンとする。
こんな近くで大きな声を出すな、乙男君……!!!!
いや、これは告白……だよな?
それにオレは乙男君が男らしくなったら認めるって言ったし、それに――――
「乙男君」
「わ、わわ、ごめんなさい!!!
無理だって分かってるけど、止まらなくて――」
「いや、オレの話を聞け!!
乙男君に、オレから最後の作戦を伝える」
「最後……?」
「ぶっちゃけ、オレは乙男君が恋愛として好きなのかは分からない」
「……う、うん……?」
「けれど、嫌いじゃないのは分かる。寧ろ短期間でここまで成長したお前を凄く尊敬しているから」
「……けど、恋愛として…………」
「だから、オレは自分の抱くこの気持ちが何なのかを知りたい。
――――オレと付き合って、一緒に考えてくれないか?」
「っ……!!!!!!」
オレなりの、精一杯の対応。
本当に乙男君へ抱く、この気持ちは恋愛なのか友情なのかは分からない。
でも、もっと傍に居れば……きっと分かるだろ?
「ふ、ふぇえええっ……!!!!」
「ちょ、泣くな!!認めてやると思った矢先に泣くなよ!!!!」
「だって、だって……嬉しくて……っ」
「……あー……お前は短期間でよく頑張ったよ、もっと胸を張れ!!
お前はオレが認めた、立派な男なんだから!!」
「も、もっと堂々と……わ、分かった……
でも、今はもう少し泣かせてくださぁああああい!!!!」
――――――ものすごく、前言撤回したいんだが。
まあ、大丈夫だ。
乙男君なら、きっと今以上に立派な男になれるはず。
これからは今以上、一緒に頑張ろうぜ!!
【NEXT⇒最終日】