5日目 オレだって乙女です。
「――――女のくせにオレとか言っちゃって、超キモイんですけど」
「ぶっちゃけアンタのファンクラブとか親衛隊ってさ、アンタが金払って雇ってんでしょー?」
「…………」
結局、乙男君とは二日も会わないまま……放課後突入してるんですけど。
約束通り体育館倉庫に行ったら、やっぱり集団リンチがオレを待っていた。
つかどうするんだよ、特訓。
約束しちまったからには全力で協力してぇのに……はあ、どうせこの女子たちの仕業だろ。
つか、他人にオレの一人称について文句言われる筋合いはねえし、ファンクラブとか親衛隊が欲しいって金払うくらいなら、オレは道場とか稽古とかやってみてえからそっちに使うし。
「白井君だって迷惑してるんだからね!!!」
すまん、最初迷惑してたのはこっちだ。
……なんて言ったら、ただ火に油を注ぐだけなので絶対に言わないが。
「とにかく、今日はアンタが奥村君に二度と近寄らないって誓うまで、帰さないんだから!!!」
「いや、別に誓っても良いが……
お前等はどうして乙――――奥村の事が好きなんだ?」
「決まってるじゃん、顔だよ。
最近、奥村君が超イケメンになったから……」
そう言って、キャーキャー騒ぎ出す女子たち。
……やっぱ、顔か。
なんか、すげえむかつく。
乙男君の努力を知らず、ただ顔が良くなったからだと?
「……け……」
「何? 白井さん」
「ふざけんなよ!!!
お前等、完全に顔しか見てねえじゃんか!!!!!」
「は、はあ!!?」
「奥村はな、オレの見ている範囲以外は知らねえけど努力してんだよ!!
そんな努力も知らないくせに、お前等はただアイツの近くに居たオレを批難することしかできねえのか!!?」
「っ……煩い、白井さん!!!!」
オレの発言にキレた女子の一人が、オレに平手打ちをしようと手を構えて前に出る。
……まあ、何発か耐えりゃ……諦めるだろ。
覚悟を決め、オレは目を閉じた。
「しっ……白井さんから離れろぉおおおおお!!!」
「きゃっ!!?」
「――――え?」
覚悟が二秒で崩れ去る。
――乙男君がモップを持って、ブンブン振り回しながら現れたからだ。
え、カッコいいかって?
ぶっちゃけ、全然…………カッコよくないぞ。
何故か泣きじゃくってるし、振り回し方はへたくそだし、何より猫背になってるし。
けど、随分と男前になったよな。
最初のアイツなら、絶対に来ないだろ。
どうやってこの状況を知ったのかは分からないが、助けに来てくれたことには変わりがない。
……サンキュ、奥村。
「え……奥村君!!?」
乙男君の登場に驚いているのか、女子たちはオロオロとし始めた。
いや、多分だけど……泣き顔やら猫背に引いてるんだよな。
「っく……し、白井さんを……イ、イジめないでください!!!」
「な、なんか、奥村君やばいよ……見た目と全然違うわ……帰ろっと」
乙男君の行動にビビって(ドン引きして)、女の子たちは速足で帰って行った。
……案外、楽に終わったな。
そう思っていたら、急に乙男君が地面に座り込んで泣きじゃくり……
え、なんで泣きじゃくってるんだ!!?
「乙男君!!
どうしてオレじゃなくて、お前が泣いてるの!!!??」
「だ、だって……っく……白井さんが無事で、無事で……ボクが…うわぁああああんっ!!!」
「あ、ちょ、乙男君ー!?」
乙男君は、やけに物凄いスピードで走り去ってしまった。
お礼を言うの忘れちゃったんだが……よし、明日言おう。
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