3日目 とりあえず落ち着け
「――――なんだ、こりゃ」
朝の学校にて、事件が起こった。
事件は主に二つ。
一つはオレの下駄箱に、大量の画鋲が設置してあること。
そして、もう一つは――――
「し、白井さん……押忍っっ!!」
「……」
オレの名前を呼んだ主に気付かれないよう、そっと下駄箱を閉める。
この名前を呼んだ主こそが、もう一つの事件だ。
オレの目の前には、良い感じの美少年とその後ろに複数の女子。
美少年君は少し震えた声で、オレに「押忍」と言った。
そう、「押忍」と言ったのだ。
見覚えのある顔だし、さらにそんな挨拶をする奴は一人しかいない。
「お……乙男、君?」
「そ、そうだよ!!
えっと、あの……どう、かな?」
モジモジとしながら、オレを見つめてくる美少年――乙男君。
あぁ、そうか……昨日オレが言ったことをやったのか。
――――モテすぎだろ、おい!!!!
アレだろ!!?
下駄箱の画鋲って、絶対お前が急にイケメンになったから仲良くしたいと思いはじめた女子の仕業だろ!?
つか、寝返るの早すぎだっての……顔が良ければそれでいいのかよ。
オレ的には、やっぱ顔よりも男らしさだと思うんだけどなー……まあ人それぞれか。
「おう……似合うと思うよ?
良かったじゃん、モテモテだぜ?」
「ふぇええ……!!??
そ、そんな事ないっ……それに、あの、ボクは……白井さん以外には……」
―――――とりあえず後ろの女子たち、落ち着け。
その殺気染みた睨みだけは勘弁してくれ。
はっきり言って、怖いぞ。
勿論気付いていない乙男君は、後ろの状況なぞ知らず頬を染めながら話を続けている。
……知らぬが仏だ、乙男君よ。
女の世界とは、こんなもんだぞ。
「ねえ白井さん、明日って暇?」
そんなことを考えていたが、ふと後ろの女子A(名前なんて知らない)から声をかけられた。
……ふーん、大体予想できるけどな。
「……あぁ、暇だけど?」
「なら、明後日……ちょっと付き合ってよ。
放課後、体育館倉庫の前で待ってるから」
そう言って、女子たちはオレの横を通り過ぎて教室へと向かった。
ご丁寧に、足を踏むという土産を置いて。
全く気付いていない様子の乙男君に若干腹が立ったけれど、あえて何も言わない。
「し、白井さん……?」
「……あ、ああ…なんでもない。
今日は昼休みに作戦会議をするから、よろしく」
「う、うんっっ!!
早く白井さん好みの、カッコいい子にならなきゃ……」
……そーいや、どうして乙男君はオレに執着するのだろう?
オレが男らしいから?
わからねえや。
まあ、昼休みにでも聞きゃいいか。
…………けれど、その日の乙男君は朝以降……オレの前に現れることはなかった。
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