2日目 よくあるギャップ萌え
ギャップとは、素晴らしいモノである。
馬鹿みたいに明るい女の子が、実は泣くほどオバケが嫌い……そんな展開は多くの人々が思わずニヤけるだろう。
少なくとも、オレはニヤける。
例え同じ女性だとしても、ニヤけちゃうよ。
「…………ど、どう?」
「全然、駄目」
―――――――ただし、ギャップには個人差がある。
「ふ、ふぇ? 駄目……?」
「駄目っつーか…なんだよ、その恰好…」
放課後の静かな教室。
オレの目の前には、乙男君。
ただ、いつもの乙男君ではない。
ぶっかぶかの『夜露死苦★』だなんて悪趣味な特攻服を着た、おかしな乙男君だ。
「え、えぇっ!!??
お姉ちゃんが、男らしいって評判の服を貸してくれたのに……」
「そもそもダサい!!っつーか、お前が着ると余計似合わない!!!
というかお姉さんはどうしてこんな服を持ってるんだよ!!!??」
「ひっ!!」
オレのツッコミに怯み、縮こまる乙男君。
つか、乙男君のお姉さんがこんな特攻服を持っている事実に驚くんだけど……姉はそっちなの? グレてるの? 弟と真逆??
うん、考えるのはよそう。
「そういう服はもっとこう……髪が金髪とかオールバックな人が装着する服であって…」
「じ、じゃあ金色にするから…!!!」
「やめてくれ」
想像したくない。想像なんてしちゃいけない。
こんな小動物みたいにオロオロしている子が金髪になっているだなんて無理だ。耐えられない。
と、とにかく今日はちゃんとやらなきゃいけない事があるんだから、早くしなきゃ!!
「乙男君、ちゃんと《アレ》持ってきた?」
「……うんっ!!持ってきたよ!!!!」
待ってましたと言わんばかりに乙男君が笑顔になり、バッグから雑誌を取り出した。
……っつーか、服はそのままなの?ねえ?
「今回の作戦は、名付けて《人の振り見て我が振り直せ》だ!!」
乙男君が持ってきた雑誌―――――――それは普通のメンズ雑誌だ。
ファッションやらヘアースタイルなどなど、お洒落な男の子なら一度は手に取る物だろう!!
コレを見て、自分に合いそうな服や髪型を選べば一層男らしくなれる……はずだ、うん。
「オレは流石に男性の服なんて知らないからさー。
これを見て一緒に研究しなきゃな!!!!」
「うんっ…白井さんのために、頑張るよ!!!」
そういって、パラパラとめくる。
最初のページには……お、髪型か。
乙男君の髪の毛は、少し寝ぐせのような猫っ毛だ。
目が見えてないんじゃないかってくらいに長い。
というか、目を見たことがないぞ、オレ。
オレがじっと雑誌ではなく、乙男君の髪型を見つめていると、それに気づいた乙男君がほんのりと頬を赤らめた。
「…そ、その……ボクの髪に何かついてるっ…?」
「え、いや…乙男君ってオレの顔見えてる?」
「見えてるよ?
…えっと……とっても、綺麗だなー…って思う…!!!!」
ぶっ…!!?
さらっと綺麗とか言うんじゃねえ……は、恥ずかしいっ!!!
コ、コホン……つか、乙男君はオレの顔が見えているらしい。
オレは見えないのに乙男君は見えてるのか…
暫く考えた後、オレは乙男君の前髪を掴む。
「ふぇえ!!!??
な、なにっ…ボク何かしたの…!!?」
「ちょっと顔見せろっ!!」
「やっ…え、えええ!!?」
ふるふると首を振って全力否定する乙男君。
我慢できなくなったオレは、たまたま持っていたヘアピンで乙男君の前髪を上げ、止めた。
その乙男君の顔は―――――――
「うっ…うう……なんか、前髪が無いと落ち着かない…っ…」
「…………………」
「……ふぇ…? あ、あの、白井さん……?」
「―――――――――うわぁああああああああああ!!!!!!!!???」
「ひゃいっ!!!??」
うがあああああああっ!!!
あ、うっ…何アレ何アレ何なのアレは!!!!!
普通にイケメンだ!!!!何アレ、何なのこの展開!!!!!
乙男君、何故キミは前髪を上げずに生きてきたんだ!!?
これさえしとけば、女の子にモッテモテだよ!!?
人生何割か後悔しちゃってるよ!!!
「うわああああ!!!
乙男のくせにっ!!!乙男のくせにぃいい!!!!」
「え、ええっ…ボクの顔、そんなに酷いの!!?
白井さん、ボクの顔嫌い!!!??」
「う、うううううっさい!!!とにかく髪を上げた方がモテるよ、決まりな!!!ってわけで撤収!!!!!」
「モ、モテ…って、白井さんっっ!!?」
何だか恥ずかしくなり、自前の走りで勢いよく教室を飛び出した。
畜生……結局、男らしくなれるような講座できてねぇ…!!!!
「――――――――髪を上げる……?
そうすれば、白井さんはボクを見てくれるかな…」
【NEXT⇒3日目】
白井ちゃんだって乙女だからね!!!
美少年を見たら恥ずかしくなるさ!!うん!!!