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Fairy Sense

Fairy Sense 《乙女の戯れ》

作者: 奈月遥

 夜の海に浸したような深い藍色に染まる髪は、彼女の自慢だった。

 普段は降ろされて腰上で髪先がさらりと揺れているのだが、今は親友の手で結い上げられている。

 その親友は、高校の頃にいつもポニーテールを躍らせていたから、髪を結い上げるのはお手の物で、しかも手が込んでいる。そんな親友がポニーテールをやめた理由が、恋人である彼女の双子の弟から送られたカチューシャを常に身に着けるためであるのというのが、見た目と違って可愛らしいと思う。

 高校時代にプライドの高さと整った顔立ちから、全校生徒に恐れられた風紀委員長も、恋には形無しだ。

 彼女は髪型を崩さないように、ふんわりとその外郭に触れる。

 頭の上にあげられた艶やかな髪をくるりとまとめたレースのリボンは、蝶々の羽を四枚広げて、さらにそれでも胸元まで伸びる後れ毛に寄り添って螺旋を描き、もう一頭の蝶々が毛先に羽を降ろしている。

 いつもながら、彼女には真似できない芸当だ。

 鏡を覗けば、いつにも増して自慢の髪が愛おしく感じる。

 けれど、仕方ない。

 これを解かないと、お風呂に入れないのだから。

 切なくこぼれる溜息は、自分の意志ではないと言い聞かせて、彼女は真珠のようになめらかで白い指を後れ毛に足を絡ませる蝶々にかける。

 そっとつまんで引くだけで、蝶々の姿は解けて夢に消えた。

残るのは現実を透かす黒いリボンのみ。その端にかかるレースが少しだけ夢の名残を思わせる。

 こくり、と喉を鳴らして。

彼女は消えた夢の端を掴んだ手を勢いよく引く。

 弧を描くのは、せめて一思いに、潔く幻想を解こうとしたからだ。直線では腕の長さしか辿れないが、こうすれば二倍近くになる。

 その勢いで跳ねるリボンは、彼女の髪も一緒に舞い上げる。

 ほんの刹那、肩へと流れるうなじが、はじらいの薄紅を見せる。手を見れば真珠の白さしか見えない彼女の肌も、確かにうずく血潮が巡っていて、実際は珊瑚の華やかさが隠されていたのだ。

 それがはっきりとわかるのも、夜闇に溶ける海のネイビーを散らした産毛が添えられていたからだろう。

 そしてリボンが地面へと引かれる頃には、キューティクルが光を跳ね返す髪たちは、自由に宙を舞い、一人の時間を謳歌する。今まで、ずっと纏められていて、随分と窮屈な想いをしていたのかもしれない。

 けれど、その持ち主と同じでさみしがりなのか、すぐに彼女たちは身を寄せていく。

 さらりと音を立てて、いつもの定位置に戻った黒髪は、彼女の細い腰を撫でて、愛おしそうにくすぐった。

 さて、と彼女は息を吐き、自分の姿を見下ろした。

 肩が大きく開いたニットは、寒々しいと周りには言われるが、暖房の効いた家の中ならちょうどいいくらいだし、胸の谷間を隠す白いインナーもなかなか温かいものだ。

 そもそも、寒いというのは氷点下を十度下がってからいうものだ。

 空気にさらされたなだらかな肩にかかる鴇色の紐を、人差し指でいじれば、小さな体躯と反比例した胸が一緒にひかれる。これもあの人の気を惹くには役立つけれど、どうにも文化系の部活だけを渡り歩いた彼女には重い。

 だからそれを外すのは最後にしようと決意して、今度は足へと目を向ける。

 タペストリー柄のスカートからは、淑やか膝上まで黒のニーソックスに守られている。その隙間にある瑞々しい絶対領域は、撫でれば手のひらがすべって心地いいのだけれど、まだ親友にしか許しかいない場所だ。

 ふむ、と彼女は物憂げに細いあごに人差し指をあてる。

 つつ、と指がなめらかな曲線をなぞって、軽く反り返る。

「試してみようかしら」

 たおやかなソプラノがハンドベルにも似た音を鳴らす。

 そして彼女はその小さな手をスカートの中へ忍ばせる。

 すっと、細やかな流れを見せる足を、彼女の白い手が辿り、広げた人差し指と親指が、鴇色の布を一緒にすべらせてくる。

 その、彼女の最後の愛らしさを守る花びらは、春の終わりに散る桜のように、儚く地面に散る。

 タペストリーの繰り返される紋様が、未だに彼女の秘められた花園を覆っているが、その奥にある最後の守護者はもういない。

 鏡に映る自分の姿が、無防備な太ももを撫でて、ニーソックスの縁に指をかけたところで画面から消えた。

 大丈夫。まだ見えてない。

 右足を引いて、つま先を立てる。

スカートの裾を、指先だけでつまみ、膝と頭を、軽く下げる。

 カーテシーと呼ばれる由緒正しいお誘いのお辞儀だ。

 そして、軽やかに、華麗に、一息に、くるりとターンを踏む。

 ふわりと、重力の束縛も遠心力で吹き飛ばして、スカートの裾が膝上から広がり、さらにへそへ向かってめくり上がる。

 すらりとした領域を超えて。

 ふにりとした感触を想像させる丘に足をかけて。

 守るべきものをさらすタペストリーは、その秘所に迫る。

 けれど、一番大切なそこが鏡に映る前に、彼女のステップを踏んだ余韻はフェードアウトして、タペストリーはまた重力に手招きされた。

「ぎ、ぎりぎりだけど……いけるのね」

 ベイビィピンクに頬を若返らせながら、恥ずかしさでうつむきたい気持ちとプライドから目を逸らしたくない気持ちとが彼女の中でせめぎ合い、結局はうるおい溢れる上目遣いで彼女は鏡に映る自分を見つめていた。

 そして、こんなことを実際に目の前で行うには、余りにはしたなすぎると気付いて、彼女は床にうなだれるのに、一分もかからなかった。


Fin


  #RTされた数だけうちのこ脱がします

 これで書いたのが、とてもついったーでは投稿しきれないと悟り、こちらに投稿します。

 自嘲? してますよ? ほら、一番大事なところは(以下略)


 海弥、かわいいでしょ?

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