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グーリーアタクー侍 (2)

作者: 野原犬三朗

もっと細かく吹き流しの事を説明すると、四十本の竹に吹き流しを括りくけ、風の取り入れ口が直径十センチの吹き流しが中央から左右に五つ五つさらに直径九センチの吹き流しが左右に五つ五つと端っこに行くほど直径が小さくなり 吹き流しの数が合計四十はある。

「全ての吹き流しを縫い合わせて一枚の布にするのだ」

「吹き流しのどの部分を縫って一枚の布にするのだ」

「風の取り入れ口横から端まで縫い合わせるのだ」

「佐藤踵殿が縫うのか」

「これは女の仕事だ。拙者の具志川ウーチに縫ってもらう縫う」

「拙者も何か手伝うてやれる事は無いか佐藤殿」

「油元殿が出来そうな事は、そうだなあ吹き流しを縫い合わせると、横幅が三十三尺になるが、その後の作業が拙者一人ではえらいのでその時お願い出来るかな」

「よかろう、いつでも呼んでくれ」

と、油元は私用で出て行った。

具志川ウーチは佐藤踵が描いた翼の形をイメージしながら縫い合わせた。

「出来ましたよ、あなた」

と、ウーチは佐藤踵に甘える様に言った。

「いま、あなた、と拙者の事を呼んだ様な気がしたが。あなた、と呼んだのか」

「はい、私達は夫婦でございますこれから"あなた"と呼んでもいいでしょう」

「照れるでは無いか」

と佐藤踵はでれでれしてると、ほの隙にウーチが接吻をした。

「ごめんなすって」

油元火太郎が入って来た。

「三十三尺の布は完成したか、様子を見に参ったでござる」

「おお、油元殿縫い終わったでござる。今から布を庭に運んで組み立てる所だった」

二人は布を広場一杯に広げた。

「これはでかい」

「ここに二百本の紐の束がある、これを布に結んで行くのじゃが」

「その紐を何処に結ぶのだ」

「風を取り入れる窓の所に紐を引っ掛ける輪があるだろう、それに通すのじゃ」

「あれ、吹き流しは尻の所が空いていたのに、これは塞がれておる、何故だ」

「ここから空気を取り入れて風船の様にふくらますのだ。それをラム圧と申すのだが、その為に尾は縫い合わせた」

「ここから空気が入ってマント全体が膨らむのか、それで膨らんでどうなるのだ」

「これを使って空を飛ぶのだ」

「佐藤踵殿、頭は大丈夫なのか、これで空を飛ぼうと思っておるのか」

「うん」

「何処でその様な事教わったのだ」

「拙者の頭で描いた。吹き流しを縫い合わせて鳥の翼の様に作れば、これで空を飛べるのでは無いかと思っただけでごさる」

「思い付きで作っておるのか」

「いやそうじゃない、ベルヌーイの定理を知っておるか」

「なんだそのベルヌーイの定理とは」

「外国の学者の学説じゃ」

「なんの学説だ」

「鳥の翼を科学的に説明した定理じゃ。鳥の翼は上面が盛り上がって下面が一直線で、上面と下面の空気の流れの違いで上昇すると説明しておる。それをこのマントに取り入れて縫ってあるのだ」

「拙者には、ちんぷんかんぷんで訳が分からないでござる」

二人は黙々と紐を取り付けていた。

「これで全ての紐が結ばれた。これをどう飛ばすのじゃ」

佐藤踵は帯で出来たハーネスを持って来た。

「これを着ろ」

「これはなんでござるか」

「全身を固定するハーネスでござる」

「全身を固定するハーネスでござるか、拙者が着けてどうなると言うのだ」

「つべこべ言わずにサッサと着けるのでござる」

「着方がわからないでござる」

「まずは股からハーネスを通すのじゃ」

「こうか」

「そうじゃ」

そうじゃ、こうじゃと複雑なハーネスを装着する油元火太郎であった。

「肩と股とお腹、五箇所の留め金締め付けて苦しいでござる。佐藤踵殿なんとかしてくれでござる」

「ハーネスを緩めればよい」

「留め金で縛ってる部分を緩めるのか、ややこしくて解らないでござる」

「世話の焼ける奴だ。こうだ」

佐藤踵は留め金のベルトを緩めた。

「これは楽になったでござる。これを着て何をするつもりでござるか」

「鈍い奴だなあ、お主があのマントを操ってそらを飛ぶのじゃ」

「拙者があのマントで空を飛ぶと申すのか、冗談は顔だけにしてくれ飛べる訳がない」

「これを固定帯の腹の両端に着いた金具に取付けるのだ」

「これはマントに繋がった帯ではないか、これをこの金具に取付けるのであるのか」

「そうだ、これでよし。お主はもう翼を手に入れたも同然だ」

「何をとぼけた事申すのだ」

油元火太郎は広げられたマントの中心に立っていた。

「そこから後ろを向くのだがその前にこの紐の束を括るのじゃ」

油元火太郎は紐の束を頭から潜らせて後ろを向いた。

「手の位置はそのままでしっかり紐の束を掴むのじゃ」

「腕は互い違いになっておるがこれで良いのか」

「又前に向き直るからそれで良い」

暫くすると海側からやや強めの風が吹いてマントに空気が入り膨らんで来た。

「良いか、今掴んでおる紐の束は翼を羽ばたく時に使う紐で一番目が前紐束と言う。その二番目は中紐束、三番目は後紐束と言う、間違っても飛んだ時引っ張ってはならない、墜落するぞ」

「佐藤殿に申す事がある」

「なんでござるか」

「お主のその口調はまるで飛んだ事がある様な言い方だ」

「飛んだ事も飛んでる所も見た事がない。頭の中で擬似体験してるだけだ」

「擬似体験でごさるか、妄想教じゃ、佐藤踵殿は」

「そうじゃ、拙者の頭の中は擬似の世界がいつも動いているでござる」

「それは多分、はるか先の未来じゃろうな。当たりであろう」

「ご名答でごさる」

「まだでござるぞ、マント全体に空気が膨らんだら真上にマントを立ち上げる。腕の力は要らん、自分の体重で持ち上げるのじゃ、よいか」

「腕の力は無し体重で持ち上げるのだな、了解したでござる」

「では拙者は支援はせんぞ、油元殿だけで立ち上げるのだ。離すぞ」

「離したらどうなる」

「支援してるこの手を離すと飛んで行くのだ、かくごはよいか」

「覚悟とはなんの事だ、そんなにやばい事なのか」

佐藤踵はマントを立ち上げて手を離した。真上で止まったマントが強風で上昇を始めた。

「佐藤殿身体か上へ上と引っばられておるぞ」

「それが飛ぶと云う事だ」

油元火太郎の足が地面から離れると後ろ向きの身体が半回転して前を向いた。

「佐藤どの、これはどっ云う事だ。拙者飛んでおるのか」「飛んでる、飛んでる。成功じゃ」

「ここから何をすればいいのだ。支持を頼むでござる」

「分かった。両端にある紐は舵取りの紐じゃそれをしっかり握れ」

「よいか、何回も云う様だかその舵取りの紐以外何処も触るで無いぞよいか」

「分かったでござる、他の紐を引くと潰れて落ちるので有ろう」

「そうだ、何が起きても舵取りの紐だけは離すな」

「了解でござる」

油元火太郎は砂浜を駆け登る海風で二十尺の高さまで高度を上げて停止していた。

「よし、先ずは右へ舵を取るぞ」

「右へでござるか」

「右の舵取りの紐をゆっくり引くのじゃ」

「ゆっくりでござるな」

油元火太郎はおどおどしく右に舵を取った。

「そうだ、今度は体重を右に掛けるのじゃ」

「こうでござるか」

油元火太郎は身体を右に傾けた。

「そうだそんな感じだ」

するとマントは左に大きく傾いて右方向に急旋回した。

「よし、元に戻すから万歳だ。万歳だ、万歳しろ聞こえるか」

油元火太郎は後方でわめきたてる佐藤踵の声に反応して万歳をした。するとマントは水平に戻り斜面を流れる様に飛行した。

「次は逆の動きで戻って来るのじゃ、聞こえるか」

油元火太郎は佐藤踵の逆の動作で戻れと叫んだ声を耳にするとその逆の動きで左旋回をして戻って来た。

「そうだその感じで同じ所を行ったり来たりするのだ。海岸から外れた所を飛ぶと海側に流され戻れなくなるぞ」

「了解したでござる、楽しいのうこのマントは癖になりそうでござる」

空を飛んでいる油元火太郎に気付いた他の侍達が海岸に集まって来た。

「何事じゃ」

「誰だあれは」

「ヤッホー皆の衆、油元火太郎でござる。ここからよく見えるぞ」

「油元殿なのか」

「凄い油元殿なのか」

海岸に集まった侍達が一斉手を振った。8の字旋回で降りる事なく長々飛んでいた。場面変わって薩摩ではライフル銃を手にした薩摩兵がライフル銃の使い方を習っていた。

「これがあれば江戸幕府を倒せるぞ、徳川の兵は未だ火縄銃だ屋ケ名を落すより江戸幕府を倒した方が薩摩の為にもよい。のお坂本殿」

「江戸では食糧が不足したからと備蓄した米俵を接収しおった」

「許せん、江戸を攻め落として見せる」

「無理は言わんとここから江戸まで何尺あると思っておるのだ」

「山陽道、近畿道、東海道を抜ければ江戸でごあす」

「全国には江戸の兵が駐留してる、その兵を倒しながら進むのだぞ、無理にきまっとるドン殿」

「坂本殿、情勢を知らないな」

「今は平和ボケした日本だ生まれてから一度も刀を抜いた事がないサビだらけの刀を差した侍だらけの幕府と聞いとおる。赤子をひねるような物だ」

「お主本気でゆうとるのか」

「本気で有るぞおいどんは。江戸の為に我が薩摩藩は働いた。もうこりごりだごわす。

「何尺ではない何里であろう」

「今頃何を申しておる」

「話は変わるがお主が申した屋ケ名の財宝だか、ある人物の話しで琉球の何処かに外国の海賊が隠したと申しておった」

「それは誠か拙者は出まかせで言っただけだが」

「お主、嘘をついたのか」

「いやいやすまぬ、大洞吹いたでござる」

「もっと財宝の事聞こうと思ったが、まあいいかでごあす」

「まあいいかではない、その財宝の事話した人物とは何者だ」

「おいどんの従兄だ」

「その財宝の事もっと詳しく聞かせてはもらえないか」

「そんなに聞きたいか」

「財宝だ誰でも聞きたがる」

「坂本殿だから話すが、こう云う事だ」

「地球の裏側の南米大陸の話しじゃが、その昔そこは大族が支配する文明があったそうだ」

「有ったそうだ、とは」

「異国の軍隊に滅ぼされた」

「それはスペインと云う国であろう」

「坂本殿、お主知っておるのか」

「ケントと云う米国人から聞いた事がある」

「お主が話していた通訳の男か」

「さよう、続きをどうぞ」

「その王族は何も抵抗せずスペイン軍に滅ぼされた」

「むごい話しじゃ」

「スペイン軍の目的は財宝だった。事前に探検隊を送り大族の財宝を知った。その財宝の量が尋常ではなかった」

「どの位あった。このくらいか」

坂本は水を救う様に両手を合わせた。

「小判に換算すと日本の全ての小判をかき集めても足りないくらいの量だ」

「なにー、ドン殿冗談は顔だけにしとおけ」

「拙者が申したのではない、従兄が申したのだ」

「従兄の事が嫌いか、ドン殿」

「半分はな、がだ。従兄は拙者を信頼しておる、何でも話す。嘘はないはずでごわす」

「それで、そのスペイン軍は財宝をどうしたのだ。兵同士で分け合ったのか」

「まさか、本国に持ち帰るつもりでいた」

「持ち帰るつもりでいた、とは海賊に強奪された」

「ご名答、大西洋が縄張りの海賊が小舟で軍艦に忍び込み刀で一人一人殺害した」

「日本の忍者か?」

「忍者ではない、海賊とも押しておるであろう」

「そうであった。忍者が出てくる場面ではなかった」

「護衛艦に忍び込んだ海賊は船底に爆弾を仕掛け、全護衛艦を爆破沈没させた。財宝を積んだ運搬船だけになると何処からか海賊船が現れて、今度は海賊船が、運搬船を誘導した」

「大西洋を縄張りの海賊だが、スペイン海軍に目を付けられたらお仕舞いと、パナマ運河を渡って大平洋に逃げ込んだ。その後、時間差でスペイン海軍が追ってきた」

「ひとつ疑問が湧いてきた。聞いて良いか」「なんだ坂本殿」

「財宝の事を話した、お主の従兄だが、作り話ではないのか」

「話してなかったかな?従兄はスペインに渡って、スペイン海軍の視察に出掛けておる、そこの海軍将校が経験した事をそのまま引用して手紙を送って来たのだ」

「海軍将校が何故お主の従兄に財宝をの事を話したのだ」

「あの後、海賊はスペイン海軍から逃れて大平洋を漂流した」

「漂流して行き着いたのが琉球王国だった。ってことか?」

「その通りだ、海軍将校の話しではスペイン政府は強奪さた財宝を求めて琉球王国へ向かっていると書いてある」

「その海軍将校は今何処に」

「財宝を強奪された責任を取らされて謹慎中となって惨めな暮らしをしてると云う」

「財産を全て没収された海軍将校は、スペインでは暮らせないと家族で海外逃亡を計り、従兄が日本人たとわかると、スペイン海軍が琉球に到着する前に、財宝を探し出して欲しいと頼まれたのだそうだ」

「それで、どうするのだ。お主は江戸を攻め落とすのか、財宝を探しに琉球を攻めるか」

「殿、自動連発銃の試し撃ちの準備が整いました」

鉄砲隊の内内幕隊長が襖の向こうで促した。

「坂本殿も来るが良い」

「何が始まるのだ」

ドン大将と坂本は広い庭に出た。

「これは西瓜でござるか、西瓜に鉄兜を被せて何が始まるのだ。西瓜が百個以上はあるぞ、しかも人の形をしておる」

「実弾一発で何処まで貫通するか実験するのだ」

「鉄兜を被った西瓜をか、2、3個であろう」

「驚くでないぞ、よく見ておくがいい」

ドン大将はよしの合図をだした。

「よーし弾を込めーい」

狙撃者が実弾一発を連発銃に装填した。

「よーし討てーい」

ズドーン鈍い音が屋敷に響いた。実弾は鉄兜で保護された西瓜を百個全て貫通した。

「これは凄い何処の銃だ」

「坂本殿が仕入れた銃だ性能くらい確認してこなかったのか」

「いえいえ何も、びっくりでござる、このような恐ろしい武器を持ち込んだのか拙者は」

「これで幕府を倒せるでごあす」

「これで幕府を?」

「幕府の攻撃の形を知っておるか坂本殿」

「幕府の攻撃の形とは将棋で云う穴熊とか櫓とか言う、戦の戦法か」

「そうだ、幕府の戦法は何処の藩も同じ一気乱れず横列に並んで前進する攻撃の形じゃ、徳川はその戦法はで豊臣を滅ぼした。その伝統を引き継いで現在も同じ戦法で戦うはず」

「この武器があれば十万国の兵も一人で倒せる」

「ドン大将殿、確かかここ」

坂本は頭を指差していった。

「拙者の事をアホと申すのか」

「ドン大将はアホでござる。江戸幕府を倒すなど不可能でござる」

「死を覚悟で攻め落とす」

「江戸に攻め込むまで何百と戦を繰り返して行くのだぞ」

「わしのようなアホが一人でもおらんと日本は変わらないでごわす」

「それで、拙者もドン殿の加勢をするのか?」

「坂本殿は琉球王国を、屋ケ名を攻め占領する事でごあす。あの近くの無人島に海賊が財宝を埋めた言う事らしい、従兄の話しでは」

「拙者は戦の経験がない、無理でやんす」

「我輩の部下がお主を援助するから大丈夫でごわす」

と言う事でドン大将は江戸幕府を倒す為10万の騎馬隊を引き群れて長州藩に上陸した。坂本は屋ケ名を攻め落とす為の戦艦30隻を進攻させた。

「坂本殿その服はなんでござるか?」

「アメリカのテーラー鈴木で仕立てたスーツだ」

本はテンガロンハットにカーボーイ靴でかっこ良く決めていた。

「かっこいいでごわす。拙者も作ってもらえないかなあ、そのテーラー鈴木とやらに」

「アメリカへ渡れば作れる」

「さょうか、では、拙者もこの戦が終わればアメリカへ渡って仕立ててもらうでござる」

と、ドン大将の部下。

「艦隊は今どの辺りを航海しておるのだ、ドン大将の部下どの」

「杉本隊長と呼んでくだされ」

「杉本隊長でござるな、失礼つかました」

「今は、奄美大島に向かっている所でございます」

「奄美大島かいい所であろうな、そこで休憩を取らんか」

「坂本殿が指揮官で御座います。お好きに」

「全艦奄美に停泊する。でよろしいかな」

「了解であります」

杉本隊長は敬礼をした。軍艦は奄美港に入港した。

「皆の衆下船じゃ、ここで休憩を取るぞ」

宴会好きな坂本は海鮮料理にうつつだった。大広間に豪華な料理と酒が用意されていた。その夜はドンチャン騒ぎて祭りの様だった。そのころ伊計島では五人の侍達がマントの制作に夢中になっていた。知念ハイビが織った布地を具志川ウーチが裁断してマントに縫い合わせた。それに二百本の紐を結び繋ぎ合わせて、マントを完成させた。完成したマントは油元火太郎が一機一機飛行して機能を確認していた。完成したマントは佐藤踵の家屋内に袋に詰めにして保管されていた。後々、展開する物語にこのマントが使われる期待していただきたい。もう一つ総社総一郎がある機械の図面から起こした動力物があった。それは自動車に使う原動機で原寸の四分の一の寸法で組立てた小型エンジンだった。

「これはなんだ」

油元火太郎が総社総一郎が作ったエンジンを覗いて言った。

「これはエンジンと云う物だ」

「エンジンでござるか」

「仕組みはこうだ。この筒のことをシリンダーと言う」

「中に丸い穴が空いておる。これがシリンダーと申すのか」

「そうだ、この穴にピストンをはめ込む」

「そのピストンに取り付けた金属の棒がコンロットだ」

「なんとなくだが分かるでござる」

「そのコンロットの先にプロペラシャフトがある。ピストンが上下に動くとコンロットがプロペラシャフトに伝えて回転する仕組みになっておる」

「で、動くのかな?」

「燃料がない」

「燃料とは?」

「気化性の油で動くのじゃがそれが無い」

「気化性の油とは何だ」

「図面の説明書に石油と載っておる。その石油は地面深く掘れば発掘出来ると載っておるが、頼めるかな」

「拙者がその石油とやらを掘れと申すのか」

「お主のその鼻で石油の匂いを嗅ぎ分けて発掘出来ると思うが」

「素手で掘って石油とやらを発掘するのでござるか」

「まさか、これを使ってくれ」

「何だこれは」

「掘削機だこれで、石油を発掘してもらえればいい」

手動式の回転ベルトでパイプを回転させて地層深く掘り進め石油を掘り当てる掘削機だった。

「分かりました。やってみるでごあす」

長州藩へ上陸した10万の騎馬隊を引き連れたドン大将を高杉の招きで山口城に招待した。

「ドン大将殿に先をこされた。拙者も江戸幕府を倒す作戦を立てた事があるが、多勢に無勢負け戦に我が兵を投入は出来んと思って、こうしておとなしく幕府の指示にしたがっておるのだが」

「それが正解でござる。幕府と戦をすれば周りの藩が攻めてお仕舞いでござるからな」

「拙者は1番それが心配じゃ、周りの藩が空きあれば攻める構えでおる。これは幕府が裏で操っておるのであろう」

「吾輩もそれを感じておる。許せん幕府の犬ども」

「戦で藩を減らすつもりなのだろう」

長州藩を後に広島藩に向かう途中幕府の使者がドン大将に書状を受け渡した。その内容は此より先には進めない薩摩に戻れとあった。

「こんなもので吾輩が引き下がると思っておるのか」

書状を破り捨てて前進をつづけた。それを、高台から観ていた広島藩の兵50万は戦闘体制にはいった。

「着おった。連射銃隊左右に別れ移動しろ」

広島藩の兵は徳川式横一列戦法で攻めて来た。

「間抜けども吾輩の兵の恐ろしさを見せてやるばい」

それは一瞬だった。連射銃が火を吹いた数分後五十万の兵は全滅した。

「何があったのだ。我が兵はどうなった」

「殿、逃げましょう」

「坂本殿、坂本殿もう朝でござる。起きてください」

飲みすぎて寝込んでいた坂本だった。

「分かった、分かった。今起きる」

と、褌一丁の坂本は消えた背広に気付き周りを探した。

「拙者のスーツは何処だ」

「ここです」

隊長が腕に持っていた。

「かせ」

「駄目です。お風呂から先です」

「何い、お主拙者の女房か」

「その汚い体で戦艦の司令室に来られると困るので」

「何故じゃ」

「私の上官が戦艦に乗船する事になっておるからであります」

「お主の上官?」

「はい、私に変わって彼女が坂本殿の相棒でございます」

「彼女、とは女か」

「はい、だから汚いと嫌われます」

「綺麗か?」

「えっ、誰がです」

「その、お主の上官だ。綺麗か」

「はい、綺麗好きな美しい方でございます。坂本殿」

「そうか、じゃあ風呂に入って拙者も綺麗にするか」

坂本は風呂に入り、鈴木テーラーで仕立てたスーツを着込んだ。

「どうだ、かっこいいか」

「かっこいいです。イチコロです」

「何がだ」

「相棒となる美しい上官がです」

「拙者はその女の事を意識して聴いていると思っておるのか」

「はい」

「ばれたか」

坂本が戦艦に乗船して司令室に入ると、もうそこには女性指揮官が坂本を待っていた。40代半ばの今で云う宝塚歌劇団の女優の様な美しい方であった。

「坂本殿、奄美大島で何したのです」

「はい、あのまだ御紹介を受けてないのでありますが、そなたの名は」

「そうでした。私が屋ケ名上陸の指揮する事になったドン貴子と申します」

「ドン貴子指揮官、ドン大将の娘さんではないか」

「お父さんことは口にしないでください」

「はい、失礼しました。ドン指揮官どの」

「今日からは私がこの戦艦を指揮しますので坂本殿は黙ってて貰えますか」

「杉本隊長は拙者に作戦の指揮管に就任したと申しておったはずじゃが」

「それは私が解任を致します」

「なぜでござるか」

「この先の島々で毎回下船されて、どんちゃん騒ぎされたら戦になにりませんから」

「私は真剣ですぞ」

「黙らっしゃい。昨夜のドンチャン騒ぎて二日酔の兵では戦になりませぬぞ。琉球を甘く観てはならぬ、財宝の事忘れるで無い」

「ドン貴子殿、財宝の事は内密にお願い致す」

「そうでありました。父上から他言するなと強く釘を刺された事でありました」

その頃伊計島では油元火太郎が奇跡の石油発掘に成功した。

「黒い水が地面から吹き出して来たでござる」

掘削機で五十尺掘った所だった。

「バルブとやらをはめねば」

油元は油塗れになりながらパイプにバルブの蓋をねじ込んだ。そして石油を必要な量だけバケツに汲んで蓋をして数時間置放置すると汚れが沈殿して透明な液体になる、これがガソリンだった。その燃料をエンジンに給油して動くか確かめていた。油元は水と洗剤を混ぜ容器に入れて持ってきた。

「これでよいか」

「ありがとう、それでよい」

総一郎は溶液をエンジンに垂らしてもう一度エンジンを掛た。すると、シリンダーの所から泡が湧き出した。

「やっぱりでござる。ここから空気が漏れておる」

泡がブクブク吹き出していた。

「部品と部品を合わせたわずかな隙間から空気が漏れてエンジンが動かんのだ」

「空気が漏れる所に、ネバネバしたゴムと云う木の樹液を塗ったらどうじゃろうか」

「ゴム?、そう云う木が有るのか」

「ほれ、ここに生えておる、これがゴムの木でござる」

と、云う事でゴムの木の樹液をシリンダー加工面に塗って、エンジンを掛けると始動した。

「動いたでござる。これを何に使うのじゃ」

「これで遠くまで飛ぶのじゃ」

そこへ、佐藤踵がプロペラを持って来てそのエンジンに取り付けた。

「油元殿これを背負ってみてもらえないか」

エンジンを固定した帯びに両肩を通してそれを背負って立ち上がった。

「そうだ、これを持って」

佐藤踵はエンジンから伸びた吊り革の様な物を油元に渡した。

「これはアクセルと云う物だ。これを強く握ると回転が速くなり、弱く握ると回転が遅くなる」

その頃ドン大将は大阪藩に攻める構えでいた。百万石の大阪藩には幕府の役人が薩摩藩に対して出陣を出しても、誰一人従う物はなかった。

「拙者の命令が聞け無い者は切腹だぞ、出陣せい」

「わしらなぁ、幕府の事なんかもう、何も聞かへん、あんたが切腹しなはれ」

「薩摩藩に尻尾まいて逃げる幕府やったんや、今まで幕府を恐れていた事がアホみたいや、皆の衆腰抜け幕府を吊るし上げるんや」

と、云う事で、薩摩藩は大阪藩に守られながら名古屋を目指した。その途中大津の温泉宿で長旅で疲れきった体を十万の兵は一晩ここで休む事にした。大津温泉宿周辺で野営する薩摩兵は順に温泉に浸かり、焚き火で炊き出しの飯を食っておった。一部の幹部は大広間を借りて大阪藩の大将の接待を受けていた。

「ドン大将殿、われわれ大阪藩はここまでしか護衛できまへんが、ここから先幕府は忍者隊を送り寝込みを襲ってくるとも限らない。そこで我が大阪藩の忍者隊をドン大将殿の周りに配置して、手助けをと思っておるんやけど宜しいでしょうか」

「それは誠でごわすか、是非ともお願い致しますでごわす」

「江戸幕府を倒す事祈っておるさかい、頑張っておくんなさい」

「ありがたき幸せでごわす」

その夜、大阪忍者隊は幕府忍者隊を警戒して猿のごとく高い所から監視をつづけていた。翌朝何事もなかったかの様に兵達は起き出した。

「よく寝たでごわす。昨夜の温泉が効いたのか気持いいぞな」

殆どの兵達がそんな感じだったのは、全て大阪忍者隊のおかげだった。周辺の木々の天辺には大阪忍者隊が仕留めた幕府忍者隊の死体が何体も吊るされていた。それに気付く薩摩兵は一人もいなかった。

「この先に行く手をさえぎる天竜川がございます。これを使ってください」

宿の番頭が渡し船を提供してくれた。

「これは、これは、かたじけない」

「ドン大将はん、幕府を倒せば高い年貢も安くなりはるのですか?」

「幕府を倒せば年貢と云う物は廃止するでごわす」

「ほんまでっか、ほならあるったけの渡し船使うてください」

と、云う事で名古屋藩の目を盗んで薩摩隊は天竜川を渡り切った。

「殿、薩摩藩の部隊が天竜川を」

「なにい、天竜川は渡れんようしちょったにゃぁか、何で渡らせたんや、出陣じゃ、食い止めんにゃぁいかん、幕府のお偉がたに怒られるにゃぁか、出陣、出陣、しにゃぁせい」

今頃気付いた名古屋藩は四十万の兵を投入して天竜川河川へ向かった。

「ドン殿名古屋藩の騎馬隊か向かってます」

見渡す限りの草原に薩摩軍は名古屋藩の攻撃にそなえた。はるか遠の丘に黒い固まりが現れ、こちらの様子を伺っていた。

「あれだーにゃ、薩摩軍はえれー少ねえにょう」

「殿、ここで野営地を築いて合戦に備えましょう」

「そうするだにゃ」

その頃坂本指揮官のいや、貴子指揮官の艦隊は。与論島の近くを航海していた。生まれて初めて観る珊瑚礁に貴子指揮官は少女の様にはしゃいだ、こんな風に。

「わあーこんな綺麗な海始めてでごんす。ここで戦するアホがおるのでありましょうか」

「貴子指揮官殿、なにはしゃいでおるのでござるか、貴方が戦をするんです」

「これは私ごときが失礼つかました。坂本殿は南海の海は始めてか」

「はい、始めてであるぜよ」

「私も始めてでごわす。この世にこの様な美しい所が有るとは夢にも思うてなかったです」

「南海行けばだいたいこんな景色ぜよ」

「坂本殿は太平洋を渡った経験から興味ないのだろうな」

「半年は太平洋の海原で飽きるほど過ごした。もう二度と船には乗るまいと決めておったが、又こうして、今度はじゃじゃ馬と一緒に船に乗ってしもうたぜよ」

「じゃじゃ馬ですか、私は」

「いや、じゃじゃ馬とは杉本隊長の事であるぜよ」

側で聴いていた杉本がわしの事か、と疑問に思った。

「アメリカのユタ州であるが、どの様な所だったか教えてはもらえないか、私も一度は行ってみたいとおもっておるのであるが」

「岩と砂だけぜよ」

「何か不思議な物はなかったのか」

「一つだけあってぜよ」

「どんな物だ」

「岩が橋の様に空を跨いでおったぜよ」

「自然の岩でござるか?」

「デリケートアーチと申してなぁ、正に芸術であった。貴子殿も一度は行ってみらればよいぜよ」

「神秘的な所でしょうなぁ、見てみたいでございまする」

「拙者と行きましょう。案内してあげますぜょ」

「それは誠でございますか」

「貴子殿の様な美しいお方となら喜んで」

「あらま、それが目的で御座りまするか」

「そのじゃじゃ馬なところが無ければ、申し分ないのでござりますがな」

「また、じゃじゃ馬と申したな。この褌坂本が」

「褌坂本だあ、なにゆえその様な事申すのじゃ」

「奄美大島の宿で其方一人褌一丁で寝ておったからじゃ」

「見たのか」

その時、貴子指揮官の瞳から涙か止めどなくながれた。

「どうされた。拙者の褌一丁の寝姿を思い出して、涙されとるとですか」

「何をバカな事を、父上の事でごさりまする」「そうであった。其方の父上、ドン大将殿は今、愛知藩と戦っておる所でごわすな、あれからどうったか?」

「モールス信号とやらを送る装置が、大阪藩、愛知藩、江戸と三箇所に設置されておって、合戦で勝利すればその信号がこの船には届くはずで御座るが、まだなんの信号も」

「琉球の財宝よりドン大将殿の事で頭が一杯で涙されたのですな、同情するぜよ」

「しかし、私も武士の娘財宝を」

「屋ケ名を攻めて財宝を我が手に、よーそろー、よーそろー」

坂本は舳先に立って叫んだ。その頃屋ケ名では5人の侍達が伊計島からもどり、屋ケ名の風習に従い伊計島で仲良く暮した縁で夫婦と認め同時結婚式を上げた。そして屋ケ名にはすで赤瓦の家が5人の侍の新居として建ててあった。屋ケ名民はカチャーシーと泡盛で五組の夫婦を夜中じゅう祝い世を明かした。のは屋ケ名民で5人の侍達は早寝して、それぞれの新居で朝を迎えた。

「もうお出かけですか?」

具志川ウーチが言った。

「薩摩が琉球を攻める前に、やる事がある」

佐藤踵は立て看板を担いでコザへ向かった。

コザの市場には、食料品や衣類等を売り込みに北谷、瑞慶覧、嘉手納、桃原、諸見里、山内、山里、北谷の村々から沢山の行商人が店舗の準備をしていた。佐藤踵は「飛び人募集中、屋ケ名の仕事です。仕事の無い暇な人、屋ケ名で仕事がまってるよー。受付担当佐藤踵の連絡先はここやさ」と書かれた看板を市場の入り口辺に立てかけた。それをフーミンお婆が腰を曲げ看板に近づいて読んでいた。

「これはわったーマサオに教えないといけないさあ」

フーミンお婆はフウチバーを売り切ると急いで自宅に戻った。

「マサオ、マサオはいるね~」

「何お婆」

暇そうなマサオが熊見たいな髭面で現れた。

「また博打して来たでしょう」

「してないさあ」

「これはなんねえ」

博打の賭けに使う紙が転がっていた。

「知らないさあ、誰か他の人が落として行ったんでしょう」

「借金までして、このバクチャーが」

「あんた分かるねえ~博打の借金で一家こど清国に売り飛ばされて地獄をみたって家族が居るって事」

「大丈夫さあ、博打で借金返すから」

「馬鹿たれが、博打で作った借金を博打で返せる訳無いでしょう。あんたは病氣さあ、博打病、治さないと私まで巻き添えくってしまうから」

「仕事はすぐ見つけるから心配しないで」

「家にゴロゴロしてて仕事見つかる訳ないさあ、あんた屋ケ名行きなさい」

「屋ケ名、何しに行く訳ねえ」

「仕事しにに決まってるさあ」

「あんなど田舎に仕事あるねえ」

「あんたは何も知らないねえ、博打場が無いバクチャーがい無い村さあ」

「琉球国で博打場がない所と言えば屋ケ名しかないし、マサオがそこで働けば博打病も治って普通の人間に戻れるよ」

「うん分かったお婆の言う通りに屋ケ名行って来る」

「行ったら帰って来なくていいよ、コザは博打天国だから、博打病治ってもまた博打するから、屋ケ名に永住して」

「じゃあねえ、お婆、屋ケ名いって働いてくるから」

「マサオチョット待ちなさい」

「なんねえお婆」

「そのヒゲ剃りなさい」

「そうだね、髭面だと雇い主に嫌われて帰れって言われるね」

「お婆が剃ってあげるからこっち来なさい」

お婆は慣れた手付きマサオのヒゲを剃り落とした。

「アギジャビヨー、ヒゲで人相分からなかったけど、ちゅら青年さあ。今だったら顔だけで雇ってくれるさあ」

「本当ねえお婆」

「本当さあ、ちゅら青年さあ」

まじで、マサオは日本一美男子と言っても過言ではなかった。

「じゃあねえ、屋ケ名いくから」

と、マサオは屋ケ名へ向かった。屋ケ名の会場に集まった琉球の青年達は簡単な健康診断を受けて元気であれば採用された。そして、採用された青年達にマントとエンジンを支給して飛ぶ練習をはじめた。気が付くと屋ケ名の空は白いマントで埋め尽くされていた。油元火太郎は火薬を詰めた投下爆弾を製作していた。薩摩藩と愛知藩両軍のにらみ合いが続く天竜川河川では、三日目に入り動きがなかった。

「薩摩藩が攻め込んで来るまで我が藩はここで野営ですか、殿」

「薩摩藩の食料が尽きた頃攻撃だぁにゃ」

「薩摩藩は大阪藩の援助を受けて食料は十分あると思われますが」

「そうだにゃ、待ってもにゃ」

「それでは、攻撃を仕掛けますか殿」

「好きな様に攻撃せい、薩摩藩のドン大将を倒せんしゃい」

「はは、承知致したでござる」

と、与儀元大将は騎馬隊を横一列に整列させて、一糸乱れず家康戦法で前進を始めた。

「ドン殿、愛知軍の騎馬隊が前進して来ました。家康戦法で」

愛知藩の騎馬隊、鼓笛隊、攻撃陣と一糸乱れず行進が続いた。薩摩軍との距離が33尺で一斉に全速力で駆け抜ける戦術とドン大将はいつもの事と幕府を馬鹿にした。

「この戦我輩の物でごわす」

側面の連射式銃が「ドドドドンパ」と火を吹いた。一発の銃弾が何百の愛知兵の命をうばった。

愛知藩の兵が一瞬で三分の一に減らされてた。それでも残った騎馬隊と歩兵はライフル銃を構えた薩摩兵に向かって突進して来た。

「撃て撃て撃て」

薩摩藩のライフル銃が雀蜂の如く愛知兵に銃弾が食い込んだ。わずか三十三尺の距離で愛知藩の騎馬隊、歩兵は全滅した。

「にゃんたる失態」

「突撃、突撃」

薩摩藩兵はライフル銃を撃ちながら愛知藩陣地に突撃をかけた。迎え撃つ兵を減らされた愛知軍は。

「殿、まだ我が藩には兵が後方で待機致しております。兵の投入を」

「みたであろう、負け戦だこれ以上の犠牲は我が藩の崩壊に繋がるにゃ」

と、愛知藩は天竜川河川から引き上げた。

「貴子司令官、ドン大将殿からモールス信号が」

「なに、誠か」

貴子は早足て無線室に駆け込んだ。鉄で出来たヘッドフォンをした無線担当がモールス信号を文字に書き換えていた。

「なんと、送って来た。はよう申せ」

「貴子殿、静かにモールス信号が聴き取れません」

モールス信号の音を性能の悪いヘッドホンで全神経を鼓膜に集中して聴いていた。

「薩摩藩は幕府に捕らわれた。と打って来ました」

「これだけなのか、他には信号は来ないのか」

「それが全てです。今も何も聞こえません」

「これは父上は死んだと言う事か」

「わかりません、捕虜になったのかも」

「全艦隊、引き返すのだ」

「今なんと申された?」

「父上を助けに愛知へ舵を取るのだ杉本」

「貴子殿何を血迷った事を申すのじゃ」

杉本隊長が繋がった眉毛を釣り上げて言った。

「父上を助けに戻ると申しておるのじゃ」

「貴子殿の父上より財宝が先であろう」

「私に逆らう気が杉本」

「ああ、逆らうとも、こうやってな」

杉本は貴子の顔面に拳をお見舞いした。床に倒れた貴子を杉本の部下に抑え込まれ動けなかった。

「この様な事をしたら切腹でござるぞ」

「うるさい、縛り上げて物置に放りこんでおけ」

と、貴子姫は物置に監禁された。そこには先客がいた。

「可哀想に綺麗なお顔が台無しぜよ」

そこに居たのは両手を後ろ手に縛られた坂本だった。

「坂本殿、ここで何を」

「同じ穴の狢、貴子殿と同類と思っておるのだ杉本は、拙者も後ろから鈍器で殴られた」

「坂本ここから逃げる手はないのか」

「無理だおとなしくしてた方がいいぜよ」

貴子は涙を流していた。

「どうされた」

「父上がとうとう幕府に、覚悟は致しておったのですが、涙か止まりませぬ」

「ドン大将殿が幕府に、とは全滅したと言う事か」

「捕らわれたとしか連絡が、生死は分かりませぬ」

「で、其方は杉本に何を」

「艦隊を北へ針路を取る様と申すと、財宝が先と、私の顔殴ったのです」

「杉本の奴、財宝を独占する気だ。おっ、船が速度を落としたぜよ」

「屋ケ名に着いたのです。きっと」

三十隻の艦隊は屋ケ名に到着してイカリを降ろし大砲を屋ケ名に向けた。

「撃て撃て撃て」

杉本隊長の号令で一斉に艦砲射撃が始まった。

「砲弾が飛んでくる、みんな伏せろ」

要塞の狙撃窓にいた屋ケ名兵が叫んだ。艦砲射撃は要塞が完全に破壊されるまで続けられた。

「上陸船で屋ケ名上陸だ、船に乗り移れ~」

ライフル銃を肩に掛た薩摩兵が続々と屋ケ名の海岸に上陸して来た。屋ケ名兵は艦砲射撃の嵐で薩摩兵の上陸を阻止する事ができなかった。完全に破壊された要塞の壁に薩摩兵が突撃をかけた。艦砲射撃が止んだ後の要塞の壁は完全に破壊されていた。薩摩兵は壊れた要塞の間から中へ侵入した。薩摩兵が一人殺られ屋ケ名兵が一人互の兵が減りながら薩摩が屋ケ名を占領して行った。その時だった上空を無数の飛行物体が空を覆った。

「何だあれは、みんなあれ見てみろ」

「うるさいぞおまえ、敵は正面だ空から来る訳ない、上を見るな前を見て攻撃するでごわす」

「でも、あれは」

と、その時黒くまるい物体が雨の様に降って来た。それは油元火太郎が造った投下爆弾だった。その威力は凄まじい物だった。薩摩兵は爆風で吹き飛ばされ全滅した。第一班が全滅し続いて第二班も空爆で全滅した。もう残されたのは第三班のみとなった。

「なんじゃあれは、見たことない。空から攻撃出来る物などこの世にあったのか」

「隊長、どうします。引き上げますか」

「馬鹿者、薩摩に戻れば我輩は切腹じや、突撃、突撃、突撃、我輩に続け」

杉本隊長の最後の兵も空爆で全滅した。屋ケ名の白浜海岸は血に染めた遺体が転がり地獄絵となった。やった勝ったと勝利を喜ぶ屋ケ名兵は一人もいなかった。ただ怪我をして助けにを求める薩摩兵に手を差し伸べ肩をかして屋ケ名病院に運んでいた。無人となった薩摩の軍艦に屋ケ名兵が乗船して船内を探索した。船内に監禁されていた貴子と坂本が発見されて五人の侍の所へ連れていかれた。

「ここで待っててください」

屋ケ名兵は二人を煉瓦の家屋に閉じ込めて侍達を呼びに行った。しばらくして総社総一郎が入って来た。

「坂本殿と貴子殿薩摩の英雄が何故船に監禁されていたのですか」

「杉本と言う男の暴動です。わしと貴子殿を殴って監禁した」

「監禁した。なぜです」

「引き返そうとしたからです」

「薩摩にか?」

「そうです。ドン大将と薩摩兵が静岡藩で幕府に敗れたとモールス信号で連絡が入った。それで薩摩に戻り装備を仕切り直して静岡へ向かうつもりでいました」

「父上をたすけにですか」

「はい、父上の事が心配でなりませぬ」

そこへ4人の侍が入って来た。その中の一人が驚きの顔を作った。

「おーこれは懐かしい坂本殿ではいか、お主が何故ここにおるのだ」

「誰かと思えば下柳禿太ではないかお主こそ、何故ここに」

「拙者は、薩摩に追われておって、ここへ逃げたのだ」

「五人の侍の一人だったのか」

「そうだ、薩摩では拙者の首に賞金が掛かっておるそうではないか。坂本殿は知らないのか」

「興味ない事だから、知らなかったぜよ」

「お主は土佐藩の出身だからしかたない事でもあるな」

「ちょっと間を割ってすまぬが二人の関係は?」

「京都長岡天神で仏の修行で同期だった坂本殿でござる」

「そうだったんですか。分かった。その話は暫く待ってもらえないか」

「なぜでござるか?もっと話したいでござる」

下柳禿太は不満そうなかおをしていた。

「今は不信尋問してるところだ」

「不信尋問とは」

「船内の物置に監禁されてこの戦いには関係ないと申しておるが、自作自演で薩摩軍を指揮した者はこの二人かも知れないと言う事だ」

「しかたない、拙者は隅っこの方で見るでござる。疑いが晴れる事を願ってな」

下柳禿太は隅の土間にあぐらを組んで座った。

「話を戻そう、杉本隊長が暴動を起こし監禁された所までは分かった。その暴動が起きる前は薩摩軍の指揮官だったのであろう」

「はい」

「屋ケ名沖までか」

「はい」

「これはもう逃れ様が無い。同罪でごさるな」

「琉球ではハブ地獄行きだな」

「なんだそのハブ地獄とは」

坂本が叫んだ。

「毒蛇が何万匹もおる穴に突き落とし、ハブに噛まれ毒で苦しみのたうちまわるハブ地獄刑だ」

「ハブ地獄とは、地獄の方がもっとましぜよ、ドン大将殿が危ないのじゃ解放してくれ」

「ドン大将殿が捕らわれたからと同情すると思うな」

「わかった。取引するぜよ」

「なんの取引でござる」

「財宝だ、財宝がある、この琉球の何処かに、それを教える」

「財宝か、この琉球にか珊瑚礁という財宝が周りじゅうにある」

「それは金になんだろう、金銀宝石、金に換算して百億両はある」

「馬鹿でもわかるホラを吹くでない、そんな財宝など訊いた事もない」

「本当だったらどうする」

「別に気にもせん、財宝より幸福が大事だ」

「でももし、その財宝のせいで幸福が失われたらどうするぜよ」

「どう言う意味でござるか」

「幕府もその財宝を求めて琉球を攻めてくるかもしれんぜよ」

「薩摩が攻めて来たではないか、薩摩も幕府のまわし者ではないのか」

「我々はドン大将殿の傘下、幕府とは関係ない」

「杉本と言う奴は、幕府の犬ではないのか」

「ただの裏切り者ぜよ」

「財宝の事に戻るが、琉球の何処にに有ると云うのだ」

「それは、ドン大将殿を救出してからだ」

「それが条件か」

「そうだ」

「断ると言ったら」

「琉球は滅びる、どうする5人の侍達」

「ドン大将殿はもう処刑されてこの世におらんのでは」

左官幸之助がいった。

「いや、一か月後ドン大将殿と薩摩兵は公開処刑されると、監禁されてる時に通信が入った」

「江戸までの航海は一ヶ月は掛かるむりでござるな。あきらめろ」

「いやまて、これがあれば一週間で江戸まで行けるぞ」

総社総一郎が言った。これ、とは巨大なディーゼルエンジンを装備した船だった。場所変わって江戸では、瓦版と講談が流行っていた。現在のニュース番組みたいなもので講談師の芝居小屋には連日連夜行列ができていた。

「さてさてお立ち会い、薩摩藩が山陽道、近畿道、東海道と北上、天竜川河川での名古屋藩との合戦で勝利した薩摩藩は江戸へ江戸へと前進致したのであります。そして静岡藩との合戦で幕府の一万の大砲と百万の兵に阻まれた薩摩軍は兵力の八割を失い、将軍の「ドン大将は生け捕りにしろ」との命令でドン大将と数百の兵は生け捕りにされたのであります。さて、ドン大将は銃殺刑と確定、見せしめにと全国の大名に招集をかけ公開処刑となった。刑の執行は一カ月後に実行されるのでありました」

「何処の処刑場だ、教えろ」

観衆が聞き返した。

「これは申し訳ございませぬ。江戸伝馬場処刑場でござります。これを持ちまして終了とさせて頂きます」

講談師は深深と頭を下げた。屋ケ名港を出航したディーゼルエンジン搭載の巨大な船は屋ケ名空軍パイロットそし屋ケ名兵が乗船していた。ディーゼルエンジンのおかげであっと言う間に黒潮に乗って船は相模湾に到着した。相模湾沖て碇を降ろし坂本、貴子、総一郎、火太郎、マサオが上陸船に乗り込み茅ヶ崎海岸に向った。日も沈み暗闇の相模湾から見える三浦半島の向こうに富士山が夕陽を背景に居座っていた。幕府の監視に引っかかる事なく上陸船はゆっくりと茅ヶ崎海岸に上陸した。その海岸はサラサラした砂で左右に何十里も続いていた。

「これは凄い海岸でごわすなあ」

と、総一郎が呟いた。

「この陸の向こうに武家屋敷跡の牧場があるはず。そこには馬が放牧しておる、それを頂こう」

「坂本殿は鎌倉の事、詳しいのか」

貴子が言った。

「若い頃そこの牧場で乗馬の訓練を受けた事がある」

「それは誠か、坂本殿は水戸黄門の様な旅人、いや世界を股に掛けた日本の英雄でござりまする」

坂本等は上陸船を防風林の茂みに隠し牧草地に向った。遠くの方で馬が「ヒーヒー」鳴くのが聞こえた。それは放牧された馬ではなく野生馬だった。坂本は野生馬を見てユタ州の事を思い出した。カウボーイが暴れ馬に跨がり振り落とされない様に乗りこなす場面を、坂本はそれに挑戦した。

坂本は野生馬の群れにそっと近づき投げ縄を取り出した。そして一頭の白馬を狙って縄を投げた。投げた縄はみごと白馬の首に引っ掛かっり驚いた白馬は急に走り出し縄を握っていた坂本の手をすり抜けようとした。縄の先端が結ばれていてそこで縄を握り返しそのまま引っ張られた。坂本は引きずられまいと必死に走り地面を蹴って馬の背中に飛び乗った。白馬は月の光の浴びて跳ね上がり坂本を振り落とそうとした。腕でバランスを取り腰だけを使って白馬から振り落とまいと反射的に耐えていた。そして、白馬は諦めたかの様におとなしくなり坂本の手綱に従った。坂本は次々と野生馬を乗りこなした。

「これで全員の馬が揃った。後は好きな馬に乗って出発するぜよ」

「坂本殿、一人で乗馬は無理でござります」

「乗馬は苦手でござるか貴子殿、では拙者の後ろに乗るといい、さあお手を」

と、坂本は手を差し伸べ貴子を後ろに乗馬させ江戸へ向った。坂本等は鎌倉の裏街道を通り幕府の役人と出会う事はなかった。横浜を過ぎると多摩川の関所が坂本等をまっていた。

「あの関所を通過しないと江戸へは行けないぜよ」

「あの関所を通れる通行手形があれば良いのか」

「そうです。それが無いと通れないぜよ」

「突破はできないのか」

「無理ぜよ、幕府の役人が裏で何百人も待機しおって、そく捕まりその場で切られる」

「わたしにいい考えがあるさあ」

マサオが言った。

「マサオ君が始めて口聞いたでござります」

坂本が空飛ぶ達人を一人同行してもらっていたのが、こてこての琉球人マサオだった。

「なんだゆうてみよ」

「自分が空飛んで関所の役人の目を引くからその間に渡ればいいと思いますが」

「佐藤踵が作ったマントでこの上を飛んで気を引くのか」

「はい」

「ただ飛んでいても全員の気を引く事はできまい」

「できます」

と、言う事でマサオは野原でマントを広げエンジンを掛けて飛んで行った。

「あれはなんだ」

「凧上げをしてるのであろうか」

「いや、糸がないから凧ではないぞ、あれは人でござる」

「まさか、人が空を飛ぶ訳がないではないか」

と屋敷で待機していた幕府の侍達が外に出てきた。マサオは下界に集まった役人の観衆を関所から離れさせるための曲芸飛行を披露した。

マサオは空を飛びながら発煙筒をまいた。右半分のマントから延びている糸を右手を高い位置で握り外側におした。そして左の操縦紐を思いっきり下に引いた。すると翼がましたに来て回転を始めた。

「あれに乗っているのは猿飛佐助か、見事でござる」

「みごとだ、つまらん花火より百倍面白い」

関所の役人達はマサオの曲芸飛行に夢中になっていた。その横を坂本達が通行手形なしで簡単に通過して、その先の多摩川大橋を渡った。マサオは上空から坂本達が関所を通過した事を確認すると曲芸を終えた。最後に関所の観衆に手を振りながら遠ざかっていった。

「見事であった。皆の衆拍手でござる、強くじゃ強く叩くのじゃ」

役人侍達が拍手する音が点にしか見えないマサオの耳に届いていた。そして多摩川の河川に降りて坂本達と合流した。

「みんな腹は空かないか美味い物食いたいぜよ」

「丁度いい所に市場らしい所が有るでござる。行ってみるぜよ」

その市場は魚介類や穀物や野菜が売られていた。

「これはなんでござるか」

「へい、お客さん知らねえんすかあリンゴでさあ、美味えですぜえ」

「いや、また後で」

坂本は江戸っ子の勢いに釣られて高いリンゴを買わされそうになった。

「坂本殿、米を買ってきました」

左官幸之助が肩に米袋を背負って立っていた。

「米が手にはいったか、あとは釜だが総社殿はどこかな」

「拙者はここでござる。米を炊く釜を買って来たでござる」

「よかった、これで多摩川の河川敷で焚き火で食事が作れる。それではみんな河川敷いくぜよ」

多摩川の土手沿いには桜が満開で坂本等を迎えてくれた。

「これは凄い桜が満開ぜよ、風もないし今日は最高の日和だここで炊き込みご飯するぜよ」

「拙者は薪を集めてくるでごわす」

「私は野草を探してきます」

「自分は米を解いてくるさあ」

「拙者はここで釜戸を作るでござる」

誰が決めたか知らないが、彼等はそれぞれの役割で河川敷に散っていった。貴子が野草を腕一杯に持って。マサオは米を解いた釜を持って。総社総一郎は薪を腕に抱えて戻ってきた。左官幸之助も多摩川の石を積み上げ釜戸を完成させていた。坂本は大の字になって満開の桜を観賞していた。

「坂本殿食事が出来ました」

貴子がうたた寝の坂本を起こしに来た。坂本は薄目を開けて目の前の女性に素直にいった。

「満開の桜よりもっと美しい物が拙者の目の前に映っておるぜよ」

「誰の事申しておるのです。食事でございます。さっさと起きるのです」

「はい、今起きるでござる」

「さあどうぞ」

雑炊の様な物と刺身とみそ汁が運ばれて来た。

「これは旨そうでござる」

雑炊の様な物とはヨモギ雑炊で、琉球料理のフーチバージュウシイだった。刺身と出された肉は山羊の皮の刺身で琉球料理の一種で全てマサオが市場で仕入れた食材で、料理もマサオが担当した。

「これは美味しゅうござりまする。マサオ殿は料理も上手でございますね」

貴子が微笑を作って流し目でマサオを覗いて言った。マサオは貴子の美しい瞳に引き込まれ顔を赤くなった。

「いえ、自分はただのバクチャーだから」

「バクチャーとはなんだ?」

「いや、なんでもないさあ」

場所変わって江戸城では全国から地方代表藩主を城内に招集し将軍様の参上を待っていた。

「上様のおなーりー」

ドンドンと大太鼓が城内に響いた。襖が開きデブで刈り上げの将軍様が現れた。藩主たちは深々とあたまを下げた。

「長旅ご苦労であった。苦しゅうない楽にいたせ」

「存じての通り薩摩藩の江戸戦略で我が幕府は大きな打撃をうけた。薩摩藩の様な反逆行為は薩摩藩ごと抹殺いたす。それを心に命じて明日のドン大将の公開処刑に参上願いたい。よいか」

「は、は心得たでございます」

藩主達は深々と頭をさげた。襖が閉じられ上様は城に引きこもった。

「じい、明日は余も公開処刑に出るのか」

「上様の支持で行った事でございますから、当たり前でございます」

「嫌じゃのう余は城から出たくないぞ、じい」

「上様何を申すのじゃ江戸庶民の前で存在を売り込む機会ですぞ」

「余は群衆が怖いなのだ」

将軍様は泣きべそをかいた。

場所変わって坂本が江戸伝馬町処刑場周辺を描いた地図と手紙をマサオが空を飛んで相模湾に停泊している戦艦に届けた。地図と手紙を受け取とった佐藤踵は「江戸港へ侵攻せよ……」と手紙を読んで江戸港へ向った。江戸港に入港すると幕府の役人が見かけない船と接岸を拒否した。奉行所にその事を報告すると大砲と兵を動員して港に戻ってきた。5人の武士が手漕ぎ船でその船に近づき甲板に向って大声で叫んだ。「何処の藩だ。船長はおらぬか」

すると油元火太郎が顔をだした。

「琉球国だ財宝を将軍様にお届けに参った。怪しい者ではない」

「船内を観たい良いか」

「どうぞ、上がって来られい」

船員が縄梯子を垂らした。乗船した武士達は船内を検査し、暫くして油元火太郎の所に戻って来た。

「将軍様への貢物とはなんだ?」

「これでござる」

油元火太郎は琉球漆器が入った3尺四方の箱の積荷を見せた。

「中を開けて見せてみよ」

「喜んで」

箱の中には美しい琉球漆器がカーサの葉で保護されていた。

「武器はないな」

「その様な物は積んでおりません」

「貢物を港に降ろしたら港を離れるのだ」

「それは無理でござる、不足した食料や物資を積まないと戻れません」

「分かったそれでは一日待とう、明日出港するのだ、よいか」

公開処刑当日、日本橋刑務所に監禁されていた薩摩兵とドン大将は牢屋から連れ出され市中引き回しされた後、江戸伝馬町処刑場へ突き出された。竹の柵で囲まれた処刑場周りには江戸庶民がまじかで見学しょうと押すな押すなと集まってきた。十字架に貼り付けにされたドン大将が曝された。竹柵の内側には侵入者に警戒する武士が立消していた。娯楽のないこの時代江戸庶民の楽しみの一つが公開処刑だったと言っても過言ではない。

「上様処刑場の準備が整ったそうでございます」

「そうか、ではまいるか」

腕の立つ武士を護衛に、将軍は馬に跨り江戸伝馬町処刑場へ向った。江戸伝馬町処刑場へ向かう街道は沢山の江戸庶民がゾロゾロと処刑場に向かって進んでいた。後方から将軍様の行列が来ると固まって進んでいた江戸庶民が左右に分かれ地面に土下座した。

「将軍様だ、始めてみるぜ」

拍手する江戸庶民もいた。頭を下げる者より顔を上げる者の方が多かった。

「上様のおなーりー」

処刑場で待機していた武士が一斉に声のする方に振り向き下座に下がり図を沈めた。

「本日は良い日和じゃ皆の衆ご苦労でござるぞ」

「は、は、ありがたきお言葉、感謝致す所でござります」

「では、じい、世の席へ案内いたせ」

「殿こちらへ」

砂で作った坂道に進んだ。蛇行しながら上がると上様専用の高い位置に到着して顔をだすと江戸庶民が一斉に拍手をした。

「将軍様だ、将軍様だ」

「じい、気持ちいいもんじゃのうこうやって庶民に歓迎されると」

「処刑を引き伸ばした事で全国からわざわざ足を延ばし江戸に来られた観衆もるそうです」

将軍から三十三尺の位置にドン大将とその兵が柱に括られ鬼の形相で将軍を睨みつけていた。

「鬼の形相とはこの事か、じい」

「無礼な奴らだ」

「まてじい、ここで短気を起こしてはならぬぞ、平常心で事を進めるのじゃ」

その時だった。江戸庶民の誰かが叫んだ。

「あれはなんだ。鳥か、凧か」

「あれは人じゃねえか」

屋ケ名の飛び人ハイサイターリーが江戸伝馬町処刑場の真上を手を振りながら飛んで来た。足首に紐を結びその紐の先には「荒川河川で飛行曲芸が始まる」と書かれたのぼり旗をなびかせて旋回していた。

「これはいったい何だ、人が凧にぶら下って飛んでやすぜえ」

江戸庶民の口々から始めて目にする物に対する驚きの声でざわめいた。

「じい、あれは何だ余が主催する行事の邪魔ではないか、ひっとらえろ」

「はは」

とじいは砂場を駆け下りて下で待機していた武士にこう命じた。

「皆の者、狼藉者じゃあの物を捕らえろ」と、天井を指差した。

「あの物とは」

武士達が誰の事か聞き返した。

「外へ出ればわかる、とっ捕まえてこい」

と、武士達は一斉に外に飛び出した。

「狼藉者は何処じゃ」

と刀に手を添えた。

「あれだ、どうやって捕らえるのじゃ」

一人の武士があんぐり口を開けていった。

「あの物を引き摺り下ろせないのか」

「方法がわからん、布団を二階から引き摺り下ろすとはいかない、どうすればよいのだ」

「弓だ弓矢で撃ち落せ」

弓矢隊がハイサイターリーに向けて矢を居った。矢は放物線を描いて地面に刺さるだけで一つの矢もハイサイターリーに当たる事はなかった。

「今度は鉄砲隊だ鉄砲で撃ち落せ」

鉄砲隊が発砲しても銃弾は届く事はなかった。将軍がふと竹の柵の向こう側を覗くと観衆役の江戸庶民が一人もいない事に気づいた。

「じい、江戸庶民は何処だ誰もいないではないか」

「弓矢と銃弾で逃げたのです。丸腰の庶民の前で戦をしてはだめです上様」

「戻る様ゆうてくるのだ」

「だめでしょうな、あれを御覧ください」

荒川河川でマサオとその仲間が曲芸飛行で江戸庶民の拍手喝采を受けていた。そのどよめきが将軍の耳に届いた。と、その時坂本等と船から上陸した琉球空手隊が竹の柵を壊してドン大将の救出に突撃をかけてきた。

「狼藉者が侵入した、阻止しろ」

腕の立つ武士と琉球空手隊が処刑場内でぶつかり斬り合いになった。いや、琉球空手隊はヌンチャクだから刀対ヌンチャクで戦った。その後ろで坂本等が柱に縛られたドン大将とその薩摩兵の縄を切って開放した。そして待機させてあった馬に乗馬させた所だった。

「騎馬隊を出陣じゃ」

ヌンチャク対刀はどうなったかと言う事に気になる所であるが、その事を詳しく説明しよう。このヌンチャクはただのヌンチャクではなかった。棒と棒を繋ぐ鎖に仕掛けがしてあった。どんな仕掛けかというと、楕円形の鎖の鉄に切目を入れて刀の刃の部分が丁度はまる様になっていた。一旦その切目にはまると万力の様に抜けなくなり最後は刀が折れてしまう、そんな仕掛けだった。そうとは知らない武士はヌンチャクで刀の刃をバキバキ折られるので全員たじろんだ。

「刀が使えなかったらさあ、素手でかかってきなさい。ヘクナークーワ」

「わったあやヌンチャク使わんからかかって来ればいいさあ、ウジ虫侍が」

「なにい、無礼な奴らだ皆の物柔道で投げ飛ばしてやれ」

と、琉球空手隊と幕府の最高に腕か立つ武士と、空手対柔道で再戦した。一人の武士が襟をつかみ投げ飛ばそうとした次の瞬間ボキボキと腕が折れる音がした。琉球空手の基本の柔道と対戦する技の一つ腕をへし折る、その為の特訓を毎日受けてきた琉球空手の達人と江戸幕府の武士はみな腕をへし折おられ地べたでのたうち回っていた。

「あれが余の護衛をしていた侍達か詐欺どもめ、騎馬隊はまだか」

その頃街道を騎馬隊が地響きで向かっていた。

細い江戸伝馬町街道を騎馬隊が土煙を巻き上げながら駆け抜けていった。次から次へと長い時間馬の蹄の音が途絶える事はなかった。

「戦でも始まるってえのかい」

岡っ引きの半次が鼻をすすって言った。

「処刑場でなにかあったにちげえねえ」

相棒の銭形が十手を手に下町の巡回中だった。

騎馬隊が江戸伝馬町処刑場の広場に到着すると細い管から噴き出す噴水のように左右に分かれ追跡体制を取った。

「皆の物よく聞け逃げた狼藉者の首一つ百両の懸賞金が掛かっておる、早い者勝ちだ突撃せち」

百両と聞いた騎馬隊の目が血走り我先と突進した。

さてさて、どうした物か戦いの写実がちと難しい自分は理解しても読んでいる者が理解していなければ意味がない。とにかくだな、ドン大将と薩摩兵は牢屋に入れられ体力が尽きた状態で柱に縛られ、その後坂本等に助けられた。そして馬に乗馬した。その馬はロバに近いノロマな馬だった。その後を幕府の騎馬隊が追ってくる。絶体絶命の場面、幕府の騎馬隊の馬はサラブレッドの競走馬でいずれ追いつかれ全員首を切られ江戸の三越にさらされるに違いない。と思ったら大違いだった。そうだす。屋ケ名には空軍があるそれを期待しているのであろう、諸君は。

「拙者が先じゃ、新築した家の借金があるのじゃ拙者に首を取らせてくれ」

「拙者は武家屋敷運営費不足で困っておるのじゃ」

「拙者は博打でこさえた借金で地獄なのじゃ」

「他人がどうなろうと拙者には関係ない金じゃ金が拙者の全てじゃ」

うるさい幕府の武士達だ、いや役人達だ。いい人間と世間に好評を得る労わりの皮を被った仮面がはがれだしたか。幕府の騎馬隊はドドドド…といった感じに坂本等に追いた。

「拙者の物じゃ、よるな斬るぞ」

もう敵も味方もない幕府の武士同士斬り合いになった。

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