1章04 デスマッチ・アリス
「いやぁ!俺様も驚いたなぁ!」
距離を取った場所で、大砲男は高らかに笑う。
そして大砲男は両手を天に向けて広げ、見えるのか分からない顔で、赤い空を見上げる。
そして叫んだ。
「俺様の名はゲーテス・クーザン!魔王軍が十大魔にしてこの世界の帝王だ!俺様に跪け、全人類よ、全魔族よ!俺様がこの世界の王になる男だからなぁ!!………さて、自己紹介はここまでにしておこうか。俺様の目的を聞きたいか?………聞きたいよなぁ!だがなぁ俺様は人に目的を教えるような口の軽い大砲じゃねぇんだ。弾丸は放つが秘密は放たない。それが俺様ゲーテス・クーザン!記憶喪失のお前はこの光景に絶望する。その俺様の予想を破られちゃぁ困るなぁ、俺様の考えた通りに世界は動くのが俺様の特権!お前らは全員俺様に従って死ぬまで俺様に尽くして俺様の考えた通りの世界にするのが義務だろうが。俺様は十大魔だ。お前ら下等生物が俺様に勝てるなんて天地がひっくり返っても無い話!諦めるがいい、諦めて、俺様の言う通りに尽くせばいいんだ。それがお前の使命だ!世界の使命だ!お前は幸い無演唱魔法を使えるじゃないか。元々は大魔法も使えたのだから俺様に従えば将来安泰だ。俺様はお前を殺さねぇしお前も俺に従えるんだ!win-winすぎて言葉が出ない?それはありがたいなぁ。さて、お前が俺様に従っている時お前には何を命令してやろうか。村とか街を燃やしてもらおうか。そうだ!国王の暗殺も良さそうじゃないか!………あるいは家事に使うのもありだよなぁ。妻として雇って俺様の召使いとなって貰おうか。安心しろ。逆らわない限りは俺はお前を殺さねぇし危害を加えない。そうだ!召使いにするのだから夜は一緒に寝ようじゃないか!召使いと妻は同類!同類なんだからさ!家事をさせ一緒に寝る!俺様もお前の顔に惚れたよ。お前も俺様に惚れただろ?この大砲頭、スリムな体型。さぁ、こちらに来い。名を知りたい。まぁ、1度は過去教えてくれたが俺様は人の名前を2回、いいや。1000回は聞きたい男だからな!何故か?そりゃぁ、もしも改名してた時すぐ知る為じゃないか!それ以外何があると言うのかね。言ってくれよ!面白そうじゃないか、言うつもりは無いんだな?俺様はせっかちだからなぁ!結構質問と回答に時間置けねぇんだわ。ここまで聞いたらお前も俺様の事が好きで好きで仕方なくなるだろう!あ、当たり前のことだったな!元からだし!じゃあ俺様の手を握れ。俺様の家まで案内してやるよ。感謝するがいい!さて、俺様はせっかちだが少しは待とうじゃないか!」
理解不能。■は目を丸くする。
大砲が王になれるのだろうか。
というかこんな【クソゴミカスクズこの世の終わりのような崩壊するべき悪魔の極悪理不尽大砲】の妻になんて何があってもなりたくない。
そんな疑問と事実が頭をよぎった。
だがすぐに、その考えを振り払う。
今はそんな場合ではない。
考えてもいなかったが死んだ時の白い空間。
あの時の言葉を思い出す。
【倒せ】
__あれを倒せるとは思えないんだけど。
そもそも第1の問題。
■が【アリス】ならば■は、相当な弱体化を受けている。
もちろんの話大魔法は使えない。
使えるのは、テレポーテーションだけ。
しかもそれを永遠に使えるわけではない。
魔力には限界がある。それに相手はせっかちらしいから時間もない。
もちろん手を握るなんてしたくもない。血が付いてそうだし握るなら腕ごと握り潰して骨をへし折ってゴミ箱にシュートしてやりたい。
【15時16分の闘い】
それは今、新たな事実により戦名がアップグレードされる。
【閃光大砲の闘い】
そう、それが分かった今。
そこから。
地獄は始まるのだった。
【閃光大砲の闘い】
【勝利条件】大砲男_ゲーテス・クーザンの討伐及び街の住民と共に街から逃げる
【前提条件】アリスは大魔法の使用不可 及びアリスは死に戻り、一部無演唱魔法の使用が可能
【敗北条件】アリスの死 及び街の多くの住民の死
戦乱__再開始
目の前に立つ大砲のような男。自らをゲーテス・クーザンと名乗ったその男は、ただそこに立っているだけなのに、空気を震わせるような圧迫感を放っていた。距離は離れている。だがそれでも、あの白い閃光を一度でも放たれれば、■はあっけなく死ぬだろう。逃げるにしても問題がある。もしここから逃げようとすれば、大砲男から視線を逸らさなければならない。その瞬間、確実に撃たれる。撃たれれば、■はそのまま死へ一直線だ。だが後退りしながら逃げたとしても安全ではない。背後には魔物がいる。もし背後から襲われれば、それもまた死へ一直線だ。
援護を呼ぶこともできない。どこを見ていても、どんな選択をしても死ぬ可能性がある。まるで出口のない地獄のような状況だった。__■は、生きて帰ることができるのだろうか。そんな考えが頭の奥に浮かび続けていた。それでも■は、大砲男の言った「十大魔」という単語のことが引っかかっていた。どんな意味を持つのか、■には分からない。だが少なくとも、敵であることだけは確かだった。
「俺様は手を握れと言っている。いい加減握れ。」
大砲男は何度も同じ言葉を繰り返す。まるで相手を試すかのように、あるいは、というかほぼ、いいや絶対単純に手を握ってもらおうと待っているだけのように。いい加減黙って帰ってくれればいいのに、と■は思った。だがそんな願いが叶う相手ではないことも、既に理解していた。
さて、そもそもの話だ。どうやって勝つのか。それが最大の問題だった。どちらにせよ、死ぬまでがセットのような戦いだ。まともに戦えば負ける可能性の方が高い。いや、ほぼ確実に負ける。勝つためには、協力者を呼ぶしか__
そう考えた瞬間だった。■の真横を、白い閃光が音もなく通り過ぎた。
__【テレポーテーション】
■は即座に無演唱魔法を発動させ、さらに距離を離す。無意味な行為かもしれない。だがもしかしたら射程距離や範囲に限界があるかもしれない、そう思ったのだ。しかし、その考えはすぐに間違いだったと理解することになる。
_刹那、■の体が横に割れた。
__ただ、白い空間。
何もない場所。どこまでも白く、静まり返った世界。その中を、■はまた彷徨っている。名前は■■■。崩壊する部屋から出て、崩壊する階段を駆け下り、無演唱魔法を成功させた。そして外に出て、大砲男に殺された。
【帰れ】
何度も聞いたことのある、無機質な声が空間に響く。
『………』
帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ
【勝て】
■が目覚めた瞬間、建物が崩壊する。瓦礫が落ち、柱が砕け、壁が割れる。即座に【テレポーテーション】を発動させて回避に成功する。しかしその代わり、さっきまで建物だったものは白い閃光によって完全に消し飛ばされていた。
__逃げないと。
瞬間的な判断だった。■は走る。何度も、何度も、【テレポーテーション】を連続で発動する。その度に、さっきまで自分がいた場所を白い閃光が破壊していく。地面が裂け、建物が消え、空気が焼ける。
何故、■は勝てないのか。正直、理由になりそうなものは一つだけ思い当たっていた。
__■は、自分自身が【アリス】だということを、心のどこかで認めていなかった。
そんなに強い存在が、自分であるはずがない。■はずっとそう思っていた。【アリス】という存在はあまりにも強すぎる。だから信じられなかった。だがあの時、階段を駆け下りていた瞬間、不意に自分を【アリス】だと認めようとした。その瞬間、■は【テレポーテーション】を習得した。
しかしそれでも■は、その力を【アリス】の力と同じものだとは思えなかった。そんなに強い力を持っているなら、なぜ自分は死んだのか。理解できなかった。だからあの死体は【アリス】ではない、別の何かだと考えた。
だがもう、認めなければならない。■は■であり、■が■■■であることを。
【私】は、【私】が、【私】であり、【私】が、【アリス】だと認めなければならない。
_否、絶対に認めなければならないわけではないのかもしれない。だがそれでも、もう前までの■のままではいけない。それは必須条件だった。私が私であるために必要なこと。すぐに完全に認めることはできないかもしれない。それでも、少しでも私が私だと認められれば__
【ファイア】【ウォーター】【トロピアル】【サンダー】【アイス】【グランテ】【トルネード】
___突然、大量の演唱が頭の中に浮かぶ。そうだ。これが、私が無演唱魔法を使うための条件だった。私がアリスだとはまだ完全には認められていない。だが、少しだけなら認められた。そんな気がした。
「よく逃げるじゃねぇか。逃走好きの大魔法使いさんよぉ!俺様の名はゲーテス・クーザン。魔王軍が十大魔の一人だ!」
【ファイア】
瞬間、私の両手に火炎球が生成される。ファイアという名前からして火の魔法だとは予想していたが、どうやらその通りだった。火炎球をゲーテス・クーザンへ向かって投げる。火炎球は空気を燃やしながら一直線に進む。
「あ゛?そんなんで俺様ガッ!!」
「やっぱりそうだ。貴方は人ではない。ですが貴方の白い閃光は、貴方が息をすることで成り立っているんですよね?」
「ッ!?」
咄嗟にゲーテスが白い閃光を放つ。それを【テレポート】で回避する。
「どうやら正解だったようですね。私、学習面の記憶は少し残っているようでして。貴方の閃光には【酸素】が使われていると、私は考えました。」
断片的な記憶の中から、私は酸素という概念を思い出す。酸素は空気に必ず含まれている物質。そして稀に、それを魔力として利用する者がいる。私の記憶はそれを【微精霊】に関係するものだと教えてくれる。
【微精霊】は魔力を持つ存在であり、そこから魔力に変換して魔法を放つ。それがこの世界の科学だ。しかし稀に、微精霊は空気中で死ぬことがある。その際、魔力は空気中に拡散する。そしてそれを吸い込むことで、一部の種族は体内に魔力を宿すことができる。
そして目の前の男、ゲーテス・クーザンはその種族なのだろう。だが体内の魔力には限界がある。限界が来れば、息を吸い、空気から魔力を取り込むことで回復する。おそらくそういう仕組みだ。
だから私は、火で酸素をすべて熱した。酸素が燃えれば、それに結び付く魔力も同時に燃え、消滅する。つまり今この場所には、酸素も魔力も存在しない空間ができている。私はその範囲外にいるから息ができる。しかし範囲内にいるゲーテスは、呼吸もできないし魔法も使えない。
__だがその瞬間。
突如としてゲーテスは、自分の手で自分の顔面を握り潰したのだった。
同時刻_街の入り口にて
「君!さっさと逃げろ!」
黒の短髪、ある意味パッとしない青年が開かれた__というか壊れた門を指差し大声で叫ぶ。
「市長!あんたも逃げなさいよ!」
黒のロング髪、化粧の濃い男、アリスの言う【呪服師】が目の前の青年、市長に向かって叫ぶ。
今街にいるのは2人_否、アリスを含め3人と魔物、及び__
「【分裂鬼】ゲーテス・クーザン!さっさと帰ってはくれないだろうか!」
市長【カラーク・ガーク】及び街の治癒術師【イローシ・ヤーク】の目の前にいるのは50を超える鬼だった。
【分裂鬼】ゲーテス・クーザン 彼の能力は肉片分裂という力だ。
この能力は人々の多くに知られ対策も無いまま恐れられてきた。彼の能力は自身を肉片に変え形を変える。そういう単純な力だった。だがそれはある意味強大な力でもあった。何故なら魔族は【自己再生】が備わっているから。魔族はどんな肉片になっても自己再生することが出来る。その際普通は最大1つまでしか100%の形を維持でこない為肉片を組み合わせて再生する。だが強い魔族は違う。大量の肉片それぞれが100%の体となることができそれ故再生方法は組み合わせるのではなくそれぞれが肥大化する
それ故自らを肉片にして自己再生することでゲーテスは実質的な分裂を可能としていた。
だがある時、ゲーテスは勇者パーティーによって討伐された。
肉片を全てアリスの大魔法で燃やし__
だが、一つ誤算があった。ゲーテスの肉片は一つだけ燃やされてはいなかった。それ故に最後の肉片は森の中で自己再生したのだ。
そう、この闘い、【閃光大砲の闘い】は分裂する大砲をどう倒すかという、いわゆる理不尽な闘いだった。




