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1章03 ナーフ・アリス

【15時16分の闘い】

【勝利条件】白い閃光を放った対象の討伐及び街の住民と共に街から逃げる

【前提条件】アリスは大魔法、及び無演唱魔法の使用不可 及びアリスは死に戻りの使用が可能

【敗北条件】アリスの死 及び街の多くの住民の死


戦闘開始


15時16分の闘い。白い閃光の突破。


それは、あまりにも突然で、あまりにも理不尽な出来事だった。

そもそも――

あの白い閃光は、どこから来たのか。

誰が撃ったのか。

どんな魔法なのか。

それすら、まったく分からない。

ただ一つ分かるのは、あれに触れれば確実に死ぬという事実だけだった。

そして、それと同じくらい分からないことがもう一つある。


なぜ■は、死に戻りの途中で白い空間に飛ばされるのか。

あの空間は何なのか。

誰が作ったのか。

なぜ■だけがそこに行くのか。

その理由も、仕組みも、何一つ分からない。

分からないことだらけのまま、ただ死んでは戻り、死んでは戻る。

まるで出口のない迷宮を、目隠しされたまま歩かされているような感覚だった。


そしてもう一つ、冷酷な事実がある。

大魔法も使えない。

無詠唱魔法も使えない。

そんな■は、【大魔法使い】ではなく、ただの【魔法使い】に過ぎない。

本来なら誇れるはずの称号も、この状況では何の意味も持たない。


さらに厄介なことに、彼女はまだ気づいていないが_

オリジナル魔法の使いすぎも、確実に死に直結する。


つまりこの状況は、例えるならば__


地獄の網。

逃げ道のない罠のようなものだ。

この網を、余裕で潜り抜けることなど出来ない。

もし仮に、大魔法や無詠唱魔法が使えたなら。

それはまるでペンチのようなものだ。

網の隙間をこじ開け、強引に脱出することも出来るかもしれない。

だが今の■には、それがない。

手で網を引っ張るしかない。

力任せに引き伸ばすしかない。


当然__


疲れるだけだ。


__意味がない。


「さっきはベッド辺りで撃たれたっぽいから……」


■は独り言のように呟く。

声は震えていないが、心臓はうるさいほど脈打っていた。


「ちょっと距離でも離すかぁ……」


■はベッドからゆっくりと立ち上がる。

慎重に、周囲を警戒しながら。

部屋の前方へ歩き、壁際に飾られている服の後ろへと身を隠す。

ほんの少しでも、射線をずらすためだった。


そして__


__その瞬間。


突如、部屋が真っ二つに引き裂かれた。


__いや。


正確には違う。

部屋が割れたのではない。

部屋の半分が、白い閃光によって消し炭に変えられたのだ。

その結果、まるで斧で叩き割ったように、部屋は強制的に二つに分断された。


__とんでもない威力だった。


焦げた匂いが、ゆっくりと空気に広がっていく。

消された部屋の残骸は、黒く炭化していた。

そこに人がいた痕跡など、一つも残らないだろう。

あそこに自分がいたと思うと――

背筋に冷たいものが走る。

鳥肌が立った。


__実際。


ほんの数秒前まで、■はそこにいたのだが。

そんなことを考えながら、炭化した壁を見た瞬間__

■は思い出した。


「……結界!」


建物に貼られていたはずの、防御用の結界。

魔物や外敵の侵入を防ぐための、魔法防壁。

普通なら簡単には破れないはずのものだ。

これが壊されるなど、■は一度も考えたことがなかった。


だが__


その瞬間、■の頭の中で一つの仮定が完成する。

相手は、結界を破壊できるほどの強者。

この仮定は揺るがない。

ほぼ確定と言っていい。

むしろ、これが結論だろう。

100%と言い切れない理由は一つだけある。


もしかすると__


■の死に戻りのように、相手にも結界を無効化する能力がある可能性。

その可能性だけは、完全には否定できない。

だから断定は出来ないが__


それでも。


「相手は外か……」


■は焦げた壁を見ながら呟く。


「ここから飛び降りれば魔物の餌になるし……どうするか」


窓から飛び降りるのは論外だった。

ここは高層階だ。

仮に生き残っても、外には魔物がいる。

だが問題はそれだけではない。


炭化した壁に近づけば――


またあの白い閃光が飛んでくるかもしれない。

あの壁のようになるのは御免だった。

いや、本来なら。

■自身がああなっていたはずなのだ。

それを想像すると、背筋が凍る。

その時、ふと記憶が蘇る。


__そういえば。


一回目の死の原因は、落下だった。

魔物に食われたのは、その後の話だ。


「……階段から降りても、何とかなるか」


小さく呟く。


これは賭けだった。

だが他に選択肢はない。


失敗したら――


その時は、その時だ。

一度階段を降りて逃げれば、もしかしたら――


__刹那。


白い閃光が駆け抜ける。

残っていた壁が、さらに半分炭化する。

ギリギリだった。

ほんの僅か。

紙一重で直撃を避けた。

だがそれで十分理解した。

確実に狙われている。

ここにいれば、次は■が炭になる。

時間はない。


「っ……!」


■はドアを勢いよく開け、廊下へ飛び出す。

そして階段へ。

階段を駆け下りる。

ここは10階。

最悪の高さだった。

一階まで降りるには、何度も踊り場を通らなければならない。

一つの階段に、おそらく15段以上。


それを何回も、何回も。


全力で駆け下りる。


背後で音がする。


白い閃光が、階段を破壊した。


破壊。


  破壊。


    破壊。


      破壊を、繰り返す。


              破壊。

  

                破壊。


                  破壊。


次々と、後ろから階段が崩れていく。

まるで追い立てるように。

逃げろと言わんばかりに。

■は振り向かない。

振り向けば足が止まる。

止まれば――死ぬ。

白い閃光が、頭上の天井を炭化させる。

その瞬間。

本来なら床に支えられていた家具が、重力に従って落下した。


椅子。


机。


棚。


そして植木鉢。


それらが雪崩のように落ちてくる。


回避は――


不可能だった。


_否。


不可能という言葉を強く考えれば、それは本当に不可能になる。


だから。


【私】は不可能なんて考えない。

考えるのは、可能だけ。

その瞬間。

突如として、私の脳裏に一つの言葉が浮かんだ。


【テレポーテーション】


意味は分からない。


理屈も知らない。


だが――


ここは、それを叫ぶしかない。


なのに。


「カッ――」


首に衝撃が走る。

上空から落ちてきた植木鉢が、直撃したのだ。

時間がない。

声を出す余裕など――あるはずがない。


__テレポーテーション!


■は心の中で叫ぶ。

最後の希望だった。

手紙に書かれていた【無詠唱魔法】

そんなもの、本来なら使えるはずがない。

無理な話だ。


なのに――


__刹那。


世界が一瞬歪む。


次の瞬間、■は――

崩れ落ちる家具の、ほんの一歩手前に立っていた。

テレポートしていた。

ほんの僅かな距離だが、確実に。


「……出来たんだけど!?」


心の中で叫ぶ。

だが驚いている暇はない。

これはチャンスだ。

■は一瞬の隙も逃さない。

全力で、再び階段を駆け下りた。


__1階が近い。


崩れかけた階段を駆け下りながら、■はそれだけを必死に頭の中で繰り返していた。

もうすぐ1階だ。あと少しで外に出られる。あと数段降りれば、この崩壊していく建物から逃げ出せる。


1階が____


刹那。


■の視界に、焼け焦げた地面が飛び込んできた。


そこには、本来あるはずのものが何一つ残っていなかった。

扉も、壁も、家具も。何もない。


あるのは、建物を必死に支えようとしている何本もの柱だけだった。

黒く焦げ、ひび割れ、今にも折れそうな柱たちが、まるで限界を迎えた老人のように震えている。


そして__


天井だったもの。

床だったもの。

壁だったもの。


建物の残骸すべてが、重力に従って崩れ落ちてくる。

建物の全てに押し付けられ、私の視界はブラックアウト___


一瞬の判断だった。

【テレポーテーション】

それを心の中で唱える。

言葉にする必要はない。

演唱も必要ない。

■が唯一使える無演唱魔法。


瞬間。


視界が歪み、空間が引き裂かれる。

崩れ落ちる建物から、■の体は強引に引き剥がされるように転移した。

そして次の瞬間。

崩れかけていた建物は――


白い閃光に飲み込まれた。


音すら追いつかない速度で、建物は跡形もなく消え去る。

まるで最初から存在していなかったかのように、空間ごと消されてしまった。

地面だけが、焦げ跡を残して沈黙している。


「背後、いいやこの場合前方には気をつけろよぉ?」


どこか楽しそうな、ふざけた声。


「大魔法使い、いいや。魔法使いさんよぉ!」


その言葉を理解するより早く。

視界が再び――


ブラックアウトした。


演唱を唱える間もなかった。

何かが、■の体を貫いた。


衝撃__閃光


意識が遠のく。


■が最後に目で捉えた異物は、人とは思えない姿をしていた。


魔物。


■の知識では、魔物といえば基本は四足歩行だ。

狼のようなものや、爬虫類のようなもの。あるいは巨大な虫。

そういうものを想像していた。_だが、

目の前にいた敵は、それとはまったく違っていた。


二足歩行、体は人間に近い。だが――


顔が、大砲だった。

冗談ではない。


_冗談なんかでは無く事実だ。


本当に、大砲だった。

口のような部分はある。

だが顔の中央には、巨大な砲身が突き出している。

そしてそこから放たれたのは、白い閃光。

建物を消し飛ばしたあの光。

あれが犯人だと、理屈では一目で理解できた。

だが恐怖が、事実を拒絶する。


そんな存在が、この世界にいていいはずがない。



__ただ、白い空間。


何もない場所。


上下も、左右も、奥行きも存在しない。


真っ白な世界を、■はまた彷徨っていた。


名前は■■■。


崩壊する部屋から出て。


崩壊する階段を降りて。


無演唱魔法を成功させた。


そして外に出て。


大砲男に殺された。


【帰れ】


何度も聞いたことのある、無機質な声。


感情の一切ない声が、白い空間に響く。


『………』


言葉が出ない。__冷たい何かが口を塞いでいた。


帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ


その声が空間を埋め尽くす。


やがて。

沈黙の中で。


         【勝て】


その言葉が落ちた。


____


目覚めた瞬間___避ける。

テレポーテーション、その演唱で危険地点から避け前方を見る。

何度も見た顔___いいや、大砲が、そこにはあった

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