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1章01 大魔法使いアリスへ

ただ、白い空間。


果てがあるのかすら分からない、どこまでも続く白。

床も、壁も、天井も区別がつかない。すべてが同じ色に塗りつぶされた世界。


そこには、影すら存在していなかった。


音もない。風もない。温度も感じない。

ただ、■がそこにいるという感覚だけが、ぼんやりと残っている。


■は、そんな何もない空間を、ずっと、ずっと彷徨っていた。


歩いているのか、浮かんでいるのかさえ分からない。

足を動かしている感覚はあるのに、地面を踏んでいる確かな感触はない。足を動かしている感覚はあるのに、走っても、先には何もない。走ってる気すらしない。


それでも、■は前へ進んでいた。


理由は分からない。

ただ、立ち止まってはいけない気がしたから。


どれくらいの時間が経ったのだろう。

一瞬だったのかもしれないし、何年も経っていたのかもしれない。


時間という概念すら、この空間では意味を持たなかった。


名前は■■。


そう、確かに■には名前があった。

でも、その名前の響きが、どこか遠く感じる。


■■をしていて、■■と一緒に■■を■■しようとしていた。


ぼんやりとした記憶の断片。

何か大切なことをしていたはずなのに、そこだけ黒く塗りつぶされたように思い出せない。


誰かと一緒にいたはずなのに、その誰かの顔も声も思い出せない。


……でも、■■に■■されて___。


そこから先だけが、完全に途切れていた。


思い出そうとすると、頭の奥がじん、と痛む。

まるで、それ以上思い出してはいけないとでも言うかのように。


その瞬間だった。


【帰れ】


無機質で、感情の欠片もない声が、白い空間に響いた。


どこから聞こえてくるのか分からない。

上でもない。下でもない。前でも後ろでもない。とはいえ、■はそんな言葉を言っていない。


ただ、空間そのものが喋ったかのように、声だけが直接頭に流れ込んできた。


『え?』


思わず、声が漏れる。


誰かがいるのかと、周囲を見回す。

けれど、見えるのは相変わらず、どこまでも続く白だけだった。


帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ


声が、増える。


最初は一つだったはずなのに、気づけば無数の声が重なり合っていた。

男の声でも女の声でもない。子供でも老人でもない。


ただ「声」という概念だけが、狂ったように同じ言葉を繰り返している。


耳を塞ぎたくなるほどの音量なのに、耳ではなく、頭の内側で直接鳴り響いている。


逃げ場がない。逃げたところで何もない空間から出ることは___


         【起きろ】


その一言が落ちた瞬間、すべての声が消えた。白い空間がほつれたように消えていく。

落ちたらどうなるのか。■には分からない。それが、終わりなのか、始まりなのか。


世界がひっくり返る。

視界が歪む。

白が、全て消え去る。


落ちて、落ちて、落ちて____


「………知らない天井」


ゆっくりと瞼を開いた瞬間、最初に視界に飛び込んできたのは、真っ白な天井だった。


さっきまでいた、あの白い空間と同じ色。


けれど、今度はちゃんと形がある。声は響かない。

四角い天井。蛍光灯。壁との境目。


「……ここは」


掠れた声が、静かな部屋の中に落ちた。


いつから寝ていたんだろう。


体を少し動かすと、シーツがかすかに擦れる音がした。

ちゃんと重力もあるし、ベッドの感触もある。


夢、だったのだろうか。


……そもそも。


■は、ふと気づく。


「……■は、誰なんだろう」


■のことなのに、■のことが分からない。


名前も。

過去も。

どこから来たのかも。


記憶の棚を探しても、何も見つからない。

まるで最初から何も入っていなかったみたいに、空っぽだった。


■■の過去を思い出せないことに気づき、首を傾ける。


ゆっくりと視線を横に向けた。


閉められたカーテン。

厚手の布で、外の光はほとんど入ってきていない。


その下には、小さな白い机が置かれていた。


そして。


「手紙…?」


机の上に、小さな封書が置かれているのが見えた。


まるで、自分が目覚めるのを待っていたかのように。


■はゆっくりと体を起こし、ベッドから降りる。

床はひんやりとしていた。


机の前に立ち、封書を手に取る。


軽い。

中には、紙が入っているようだった。


蝋を割り封を開ける。


中に入っていたのは、三枚の紙と、一つの鏡だった。


まず、鏡を取り出す。

丸い形、何処を持てばいいのか分からない。

使いやすさよりも使いやすさを重視した鏡

何故鏡という単語がすぐに分かったのか、それは分からない。だが、それは鏡で■を映す物だと分かっている。


そして、恐る恐る■の顔を映した。


■の髪はほどかれていて、背中の中心くらいまで伸びていた。

柔らかそうに揺れる長い髪。


だが、その色が妙だった。


両端が桃色で、中心が水色。


まるで、二つの色が溶け合う途中で止まってしまったかのような、不思議な髪色。


目も同じだった。


右目が桃色。

左目が水色。


左右で色が違う、オッドアイ。


「……」


どんな親から生まれたら、こんな色になるんだろう。

そう思いながら、視線を下に落とす。


そして、自分の服を見る。


真っ白な服。

病院の寝間着のようにも見える、簡素な服。

けれど、その胸の中央には――

大きく、はっきりと、文字が刻まれていた。


【この子は寝ているのヨ♡起こさないでネ♡♡】


「……」


意味が理解できない。

それでも、その文字を見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。

なんだろう、これ。

目覚めてすぐなのに、胸の奥がざわつく。

気持ち悪さが、ゆっくりと込み上げてくる。

吐き気すら覚えるほどの、得体の知れない不快感。


■は慌てて視線を逸らし、封書へと戻った。


そして、最初の紙を取り出した。


パサッ、と乾いた音を立てて紙が広がる。


そこには――


びっしりと、手紙のような文章が書かれていた。

――――――――――――――――――――――――

〈一枚目の紙〉

さて、この書を読んでいる君に記憶があったのならばこの書は必要が無いだろう。

だが君がもし記憶を思い出せないのなら、この書を読んでくれ。後、記憶が思い出せなくてもある程度の知識は残っていると思う。読めるなら、安心してくれ


記憶が無くなる前の君、アリスはとある小さな村で産まれた元人類最強の大魔法使いだ。

魔族を一番倒した魔法使いであり魔法を一番多く習得した魔法使い。

だがそれと裏腹にアリスの家庭はまさに地獄だったらしい。

不倫の末蒸発した徹底的に桃髪の母親、母親は会社の社長で家の大黒柱を担っていたと君は言っていた。

その母親の蒸発と生活がまともに出来なくなった絶望で酒に溺れ我が子に暴力を振るうようになった徹底的に水色髪の専業主婦父親。

アリスは3姉妹であり姉アリアと妹アリナがいるらしい。

桃色の髪の少女、長女アリアは父親の暴力に耐えることができず15歳で家出、行方不明となった。

水色の髪の少女 三妹アリナは重度のシスコンでアリアをとても愛していたがアリアが行方不明となったことでその原因と判断された父親はアリアの魔法で殺害された。

その後アリアは逮捕され家庭はいつの間にか祖父と祖母の家で暮らすことになったのだがこれもまた地獄。私が語るのもおかしいが今君のことを一番知っているのは私だからそこのところは許してほしい。


君の白髪の祖父は近衛兵団の副団長であり剣王と呼ばれし者だった。だがそれ故アリスを剣王の次代、つまりは剣姫にしようと修行を始めた。そのうち青髪祖母は元々あった認知症が進行、そのうち病院での入院生活となった。そんな祖母は毎晩病院を脱走してアリスと祖父の家まで来てドアを叩き『帰ってきたよぉ!』と朝まで騒ぐ始末。他者と連絡できるような道具は珍しい。それ故持っていないから病院にも連絡できず、いずれは逃げたことに気づいた医師が捕まえ連行されるのが祖母だった。

そして祖父はある日アリスが武術にめっぽう弱いことに気づいた。その日祖父はいつも閉じてた目を開き言った。『お前はわしの孫ではなかったそうだ。』

そしてその日祖父は王に呼ばれたことを同僚に伝えられたらしく王都に向かい、そして行方不明となった。


これにより豪邸とも言えるようになった彼女の家に勇者が訪ねてきた。

__アリスは【不思議の姫アリス】と呼ばれ幻の存在となっていた。

そう呼ばれていたのは彼女は魔法の上位互換【大魔法】と【無演唱魔法】を極めていたから。


大魔法というのは至ってシンプルな力だが簡単にできるものではない魔法だ。基本1つか2つ習得していればその魔法使いは相当な強さとなるが君の場合は大魔法を全て習得。


そして魔法は演唱が長い為大して強い事はないのが現実、微精霊を集める【初動演唱】と微精霊を集め魔法として放つ【発動演唱】

この2つは魔法を使う上で必須ともいえるものだった。まぁ稀に発動演唱だけでも何とかなるのもいるけど。それ故演唱の時間があればダメージを多く与えられる物理が強いと言われていたのだが君の場合は別。

無演唱魔法はその2つの演唱を必要としない君独自の技で武器を扱えない君が有用な人材として扱われてほしく手に入れた力だった。


その力を稀に人が襲われているのを見る度妹と父を思い出し無意識に助ける癖があったのがアリスが世界から認知されるようになった要因にして勇者が尋ねてきた原因。


勇者はそれはそれは有名な存在で幻でも伝説でもないがある意味【英雄予約】の存在だった。

英雄になる男は勇者の剣なんて使わず鎖で繋がれた棘の鉄球を使う故ちょっと勇者らしさを感じないのだが__それはそれで英雄として世界を守る存在という人々からの理想を最大限守っていた。


アリスは最初は人助けは最低限と考えていた為勇者が頼む『僕の仲間になって欲しい』という願いも切り捨てた。


だがある朝、アリスは散歩帰り散歩帰り大量のゴーレムに襲われた。

普通に考えて勝てる数で勝てる実力があったが都合悪くアリスは昨晩家事に魔法を使っていたことで枯渇していた。

そもそも敵もただのスライムなんかではなくゴーレムだ。


鉄で覆われたゴーレムは拳を一斉に振り上げる。

死を覚悟したアリスは何も抵抗せず目を閉じただ痛みなく終わることを願った。幻のまま終わるのもまた良いと思いさえした。__なのに、


『君が魔物に襲われるなんて珍しいな!』


その日勇者は不思議の姫アリスを守り鎖に繋がれた棘の鉄球一つで大量のゴーレムを討ち倒した。

あの時、アリスは魔物を倒し鉄球を虚空に消した勇者に聞いた。


『なんで朝だったのに私を助けられたの?………まさかストーカー?』


そう聞かれた勇者は突然笑い人差し指を立てれば空に向け__


『まだ君はただの少女アリスじゃないか!僕は君が一緒についてくるまでは君を強者と認めるつもりはない。だって強者は弱者を最低限+αで守るものだからさ』


君は勇者の発言が信じられなかったらしい。

何故平然とした笑みで勇者は少女を見て言えたのか。まるでアリスは【不思議の姫】ではなく【ただ一人の少女】として扱われているかのように__。

勇者は不思議の姫アリスを守り剣一つで大量のゴーレムを討ち倒したのではない。

勇者はただ一人の少女アリスを守り剣一つでゴーレムを討ち倒したのだ。


あの日、少女は自身を強者では無くただ一人の少女として見ていた事に何か特別な感情を抱き少女は彼女は勇者に頼み共に旅をする事になった。それが彼女の始まりでこの世界に語り継がれる一つの伝説__。


さて、その後の事はそれはそれは悲惨だった。

旅をする事になったのは事実、だがそれは他者に認められるような事では無かった。

彼女は小さな村で産まれたと最初語った。そう、その他者というのは村の住民だった。

村でアリスは英雄として崇められていた。

だから村人達はアリスを村から出せば無防備になるようなものだった。

特に村長は強欲でアリスだけでなく勇者も村で使い古そうとした。

勇者は村を他の安全な場所、例えば王都に引っ越させればいいとも思ったらしい。だがそれは無理だった。


村長は強欲だ。


彼は支配者となりたいが故村長となったそうで簡単に村長の座から降りる事はないようだった。


さて、今自己紹介してない事を思い出したから自己紹介しておくと私はこの街の市長だ。

この街は過去、君と勇者に助けられた。

というか、君と私は小さな頃から親友だったんだ。


君はなんか英雄になってるが私は英雄にはなれなかったからなぁ。


さて、ちょいと知り合いに呼ばれたからちょっとの間留守にする。帰ってきてまだ寝てたならまた、記述するとしよう。

――――――――――――――――――――――――

■はようやく一枚目の紙を読み終えた。


読み終わった直後、まず最初に頭の中に浮かんできた感想は――


……髪色の話、多すぎない?


そんな、あまりにもどうでもいいところに意識が向いてしまう■■自身に、■は内心で少しだけ呆れてしまう。

普通なら、もっと重要な部分に目がいくべきなのではないだろうか。

内容の核心だとか、書き手の意図だとか、そういうところに。


けれど、どうしても気になってしまったのだから仕方がない。

実際、本当に多かったのだ。髪の色の話題が。


文章の流れの中で何度も何度も髪の話が出てきて、途中から■は『またか』と思いながら読み進めることになった。


正直なところ、あの市長――絶対に髪フェチなんじゃないかと■は思う。

いや、冗談ではなく、本気でそう思うくらいには執着を感じる書き方だった。


もしかしたら、ただの人間ではないのかもしれない。

悪魔とか、そういう類の存在だったりして。


■はそんな突拍子もない想像を、半分冗談のように頭の中で転がしてみる。


ふと、もう一度紙へと視線を落とす。


文章の終わりに近づくにつれて、文字の形が少しずつ乱れていることに■は気づいていた。

最初の方は整った筆跡で、読みやすい文字が並んでいたのに、後半になると急に線が歪み、間隔もばらばらになっている。


まるで、書いている途中で急に慌て出したかのような――そんな印象だった。


インクの濃さも微妙にばらついている。

筆圧が強くなったり、逆にかすれていたりして、落ち着いて書いたものではないことがはっきり分かる。


きっと、誰かに呼ばれたからだろう。


急いで書き終えようとして、結果として文字が乱れてしまった。

そんな情景が、■の頭の中にぼんやりと浮かんだ。


「作られたみたいな髪型と、過去に闇がある人だな……■か」


■は小さく、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。


自分で言っておいて、少しだけ苦笑する。


たしかに、そう言われても否定はしづらい。

妙に整いすぎた髪型。

そして、過去に何もないと言い切れるほど、■の人生は単純でも明るくもなかった。


■は軽く息を吐くと、一枚目の紙を静かに机の上へ置いた。


紙が机の木目に触れて、かすかな音を立てる。


少しだけ間を置いてから、封書の中へと手を入れた。

中には、まだもう一枚紙が残っている。


指先に触れたそれをゆっくりと引き抜く。


二枚目の紙は、一枚目よりも少し小さかった。

けれど、ぱっと見ただけでも分かる。


その紙もまた、びっしりと文字で埋め尽くされていた。


余白などほとんどない。

小さな文字が隙間なく並び、まるで書き手の焦りや執念がそのまま紙に押し込められているかのようだった。


■はその紙を指で軽く整えながら、改めて視線を落とす。


さて、今度は何が書かれているのか。


ほんのわずかな緊張と、少しの好奇心を胸に抱えながら、■は二枚目の文章を読み始めた。

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