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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アストリア大陸戦記外伝 竜騎士ヴァロスの最期:聖槍と宝剣が激突した日、英雄の誇りは背後から刺された

作者: 真珠の螺旋

※本作はミッドナイトノベル連載中の『アストリア大陸戦記』の世界観を下地にした、

設定が一部異なるif・パラレル短編です。

ヴァロス討伐へ:王たちの反撃命令

王たちは執務室で、その思考は常に、ヴァロスの脅威とその排除へと向けられていました。ヴァロスが帝都奇襲のために王国から撤退した後、彼は北方の蛮族を掃討し、その勢力を削ぎ落としていました。現在、ヴァロス軍団は、蛮族との戦いを終え、疲弊したまま国境付近に駐屯しているという情報が、シャドウウィスパー騎士団からもたらされました。

この好機を逃すまいと、王たちは、王国を立て直したばかりの精鋭騎士団に出陣を命じました。


「諸君、ついにヴァロスを討つ時が来た。」


カイド王の声が、執務室に響き渡りました。彼の膝の上で、エヴァはその言葉の持つ意味に震えました。


「クレストナイツは、カイドの命を受け、先鋒を務める。ブラッドハウンドは側面から敵を包囲し、シャドウウィスパーは情報の撹乱と奇襲を。アイアンスパインは正面突破、そしてサイレントガーディアンは、王たちの護衛と、敵将の首を取る任務に就く。」


ライナートが、冷徹な目で各騎士団長に命を下しました。


宝剣ルクシオンの託宣

そして、カイド王は、この戦いの成否を左右する、ある秘宝を差し出しました。それは、王国に代々伝わる聖なる剣、宝剣ルクシオンでした。


「エルトよ。」


カイド王は、クレストナイツ隊長であるエルトを呼び寄せました。エルトは、王への絶対的な忠誠心と、比類なき剣技を持つ、クレストナイツの誇りでした。


「この宝剣ルクシオンを、そなたに託す。」


カイド王は、エルトの手に、鞘に収められたルクシオンを握らせました。その剣は、伝説によれば、邪悪を打ち払い、正義をもたらす力を持つとされていました。


「ヴァロスが持つという聖なる槍、セラフィムスピアに対抗するためだ。」


カイド王は、そう付け加えました。ヴァロスの聖槍セラフィムスピアは、彼の武勇を象徴する武器であり、並の攻撃では傷一つつけられないと言われていました。王たちは、ルクシオンの神秘的な力をもって、セラフィムスピアに対抗し、ヴァロスを討ち取ることを目論んでいたのです。

エルトは、その重責に身が引き締まる思いで、深く頭を下げました。


「陛下のため、王国のため、この命に代えても、ヴァロスの首を取って参ります!」


ヴァロスが持つ聖なる槍と、王たちの託した宝剣。この二つの力が激突する時、王国の運命は、再び大きく動き出すでしょう。


王たちの反撃命令が下され、宝剣ルクシオンを携えた精鋭騎士団がヴァロス軍団に向けて進軍を開始しました。その報せは、北方の国境に駐屯していたヴァロスの元にも届きます。彼は、王たちの予想通り、すでに疲弊しきった軍を率いていましたが、その瞳には決して揺らぐことのない決意が宿っていました。


英雄の決断:ヴァロス、迎撃態勢を整える

王たちの出陣の報を聞いた竜騎士将軍ヴァロスは、顔色一つ変えませんでした。彼は、王都の状況から、いずれ王たちが反撃に出ることは予期していました。しかし、そのタイミングは、彼にとって最悪に近いものでした。

帝都防衛のための急な撤退、そしてそれに続く北方の蛮族掃討作戦。

これらの激戦により、ヴァロスの軍団は、帝国屈指の精鋭とはいえ、心身ともに疲弊し、その戦力は確実に弱体化していました。兵士たちの間には疲労の色が濃く、物資も十分ではありません。


「やはり、来るか…」


ヴァロスは、静かにそう呟きました。彼は、王たちの冷徹な思考を理解していました。

自分たちが最も弱っている時期を狙って攻めてくるのは、彼らにとっては当然の選択でしょう。

しかし、ヴァロスの瞳には、諦めや恐れの色は一切ありませんでした。

そこにあったのは、帝国、そして何よりも、踏みにじられた王妃たちの尊厳を守るという、揺るぎない決意でした。彼は、この戦いが、王国の歪んだ支配を終わらせるための最後の機会であると認識していました。


「全軍に告ぐ!迎撃態勢を整えよ!」


ヴァロスの号令は、疲弊した兵士たちに、しかし確かな緊張感と活力を与えました。彼のカリスマ性と、弱き者を守るという騎士道精神は、兵士たちの心の支えとなっていました。竜騎士たちは、咆哮を上げて空を舞い、帝国の旗が風になびきました。


聖なる槍セラフィムスピアと宝剣ルクシオンの対峙

ヴァロスは、自らの愛槍である聖なる槍セラフィムスピアを手にしました。その槍は、彼自身の正義と信念を映し出すかのように、神々しい輝きを放っていました。セラフィムスピアは、過去幾度となく、彼の危機を救い、不可能を可能にしてきた伝説の武器です。

そして、遠方から迫りくる王国軍の先頭には、王国の誇るクレストナイツ隊長エルトがいました。彼の背後には、カイド王から託された宝剣ルクシオンが、不気味な光を放っています。ルクシオンとセラフィムスピア正義と正義、あるいは歪んだ正義と真の正義が、今、国境の地で激突しようとしていました。


「王たちの歪んだ支配を、ここで終わらせる…!」


ヴァロスの心に、固い決意が宿りました。彼の背後には、疲弊しながらも彼を信じて戦う兵士たちと、王妃たちの声にならない叫びが響いているかのようでした。

________________________________________

精鋭竜騎士団との戦いが始まった

国境の平原に、両軍の激しい衝突の音が鳴り響きました。

カイド王たちが放った五つの精鋭騎士団は、士気こそ低いものの数で勝る王国兵を先鋒とし、精鋭のクレストナイツ、ブラッドハウンド、シャドウウィスパー、アイアンスパイン、サイレントガーディアンが、ヴァロスの疲弊した精鋭竜騎士団に襲いかかります。

竜騎士団の誇る竜たちは、疲労困憊ではありましたが、その威容と咆哮は健在でした。しかし、王国のアイアンスパイン騎士団は鉄壁の布陣でそれを迎え撃ち、シャドウウィスパー騎士団は竜騎士団の補給線や伝令に奇襲を仕掛けます。

戦場は、剣と槍が交錯し、魔法の閃光が飛び交う混沌と化しました。ヴァロスはセラフィムスピアを手に、まるで嵐のように王国軍の中央を突破しようとします。彼の動きは神速で、多くの王国兵がその一撃のもとに倒れていきました。しかし、彼の前には、宝剣ルクシオンを構えたクレストナイツ隊長エルトが立ちはだかりました。


「ヴァロス将軍!ここから先は通さん!」


エルトの剣とヴァロスの槍が激しくぶつかり合います。金属がぶつかり合う甲高い音が、戦場に響き渡りました。王たちの「甘美なる支配」と、ヴァロスの騎士道精神をかけた、最後の戦いが、今、始まったのです。

________________________________________________________________________________

王国軍とヴァロス率いる帝国軍の激しい戦いが繰り広げられる中、戦場の中央では、竜騎士将軍ヴァロスとクレストナイツ隊長エルトの一騎打ちが始まっていました。

聖なる槍セラフィムスピアと宝剣ルクシオンが激しくぶつかり合う中、ヴァロスはエルトに、王たちへの忠誠心を問います。


英雄たちの対峙:揺さぶられる忠誠

セラフィムスピアとルクシオンが交錯するたび、火花が散り、鋼の響きが戦場にこだまします。ヴァロスは、その圧倒的な武勇でエルトを追い詰めながらも、彼の心には、王国に蔓延る歪んだ支配への憤りが渦巻いていました。


「エルト隊長!」


ヴァロスの声は、戦場の喧騒を切り裂くように響き渡りました。彼は、セラフィムスピアの一撃でエルトの剣を受け止め、その顔を間近で捉えます。


「あのような王たちに仕えて、恥ずかしくはないのか!」


ヴァロスの言葉は、エルトの心に深く突き刺さりました。エルトは、王への絶対的な忠誠を誓うクレストナイツの隊長であり、王妃たちの「幸福な姿」を信じて王のために戦っていました。しかし、ヴァロスの言葉は、彼がこれまで見て見ぬふりをしてきた、王国の深部に根差す歪んだ現実を、否応なく突きつけました。

エルトは、ヴァロスの真摯な問いかけに一瞬たじろぎましたが、すぐに表情を引き締め、宝剣ルクシオンを構え直しました。


「何を言うか、ヴァロス将軍! 我らは、陛下のため、そして王妃様方のため、この命に代えて戦う! これこそが、我らクレストナイツの誇りだ!」


エルトの言葉は、彼自身の、そしてクレストナイツの信じる「誇り」を必死に守ろうとするものでした。しかし、彼の瞳の奥には、かすかな迷いの色が宿っているかのようでした。彼は、王たちの「甘美なる支配」が持つ異様さを、全く感じていないわけではありませんでした。

ヴァロスは、エルトの言葉に、わずかに眉をひそめました。


「誇りだと? 王妃たちを、道具のように扱うことが、そなたらの言う誇りなのか!」


セラフィムスピアの一撃が、エルトのルクシオンを強く弾き飛ばしました。ヴァロスの言葉には、王妃たちの声にならない叫びが込められているかのようでした。


「王は、自らの安寧のためだけに、女性たちの尊厳を踏みにじり、王国を腐敗させている。それに気づかぬのか、エルト隊長!」


ヴァロスは、さらに言葉を続けます。彼は、エルトが単なる狂信者ではないことを理解していました。彼の中にある、かすかな疑問の火種を揺さぶろうとしていたのです。

エルトは、ヴァロスの言葉にぐっと唇を噛み締めました。彼の心の中では、長年信じてきた王への忠誠と、ヴァロスの言葉が突きつける真実の間で、激しい葛藤が起きていました。王妃たちの悲しい瞳の裏に隠された絶望、諸侯婦人たちの声にならない叫び…そうした光景が、走馬灯のように脳裏をよぎります。

しかし、エルトは、自身の忠誠と、クレストナイツの誇りを捨て去ることはできませんでした。彼は再びルクシオンを構え、ヴァロスへと向かっていきます。


「…王の命は、絶対だ。我らは、それに従うのみ!」


エルトの叫びは、迷いを振り払おうとするかのような、悲痛な響きを帯びていました。二人の英雄の間に、再び激しい剣戟が繰り広げられます。ヴァロスの言葉は、エルトの心にわずかな亀裂を生み出しましたが、それが戦いの趨勢にどう影響するのかは、まだ誰にも分かりませんでした。


ヴァロスとエルトの一騎打ちは、激しさを増していました。ヴァロスの言葉はエルトの心を揺さぶったものの、彼の忠誠心はまだ完全に揺らぐことはありません。しかし、その決着は、予期せぬ形で訪れることになります。


卑劣な一撃:シャドウウィスパーの介入

聖槍セラフィムスピアと宝剣ルクシオンが激しく火花を散らす中、ヴァロスは、その卓越した武勇でじりじりとエルトを追い詰めていました。幾度となく交わされた剣戟の末、ついにヴァロスが決定的な一撃を放ちます。セラフィムスピアがエルトの防御を突き破り、彼の心臓を狙って振り下ろされました。


「これで、終わりだ、エルト隊長!」


ヴァロスの声が、勝利を確信したかのように響き渡りました。エルトは、その一撃を避けることはできないと悟り、悔しげに目を閉じました。

背後からの奇襲

しかし、そのとどめの瞬間、ヴァロスの背後から、漆黒の影が舞い降りました。


「ヴァロス将軍!」


シャドウウィスパー騎士団隊長、サリナスでした。彼は、戦場の影に潜み、この瞬間を待っていたのです。サリナスは、ヴァロスがエルトに止めを刺そうと集中している隙を突き、その背後から、短剣を突き立てました。


「ぐっ…!?」


ヴァロスの身体が、不意を突かれ大きく揺らぎます。聖槍セラフィムスピアの切っ先が、エルトの寸前で止まりました。彼の目は驚きに見開かれ、背中から突き刺さる短剣の痛みよりも、その卑劣な一撃への怒りに燃えました。


「殺し合いにいて、卑怯などという言葉は通用しない」


その光景を目にしたエルトは、激しく動揺しました。ヴァロスとの一騎打ちは、たとえ敵であっても、互いの武を賭けた正々堂々としたものであったはずです。しかし、サリナスの一撃は、その騎士道精神を嘲笑うかのようでした。


「サリナス!何をするっ!?卑怯だぞ!」


エルトは、満身創痍の身体で、サリナスに向かって抗議の声を上げました。彼の顔には、怒り、困惑、そして裏切られたような感情が入り混じっていました。

サリナスは、ヴァロスの背中に深く刺さった短剣から手を放し、冷徹な目でエルトを見やりました。彼の表情には、一切の感情の揺れが見られません。


「馬鹿なことを言うな、エルト隊長。これは、殺し合いだ。

そこに、卑怯などという言葉は通用しない。」


サリナスの声は、氷のように冷たく、一切の感情を排していました。彼にとって、王の勝利こそが全てであり、そのためならば手段は選ばないという、自らの思想を体現しているかのようでした。ヴァロスは、その言葉に、苦悶の表情を浮かべながらも、冷酷な現実を悟ります。

サリナスの一撃により、ヴァロスは致命傷を負いました。彼の聖なる槍セラフィムスピアが、その手から力なく滑り落ち、地面に甲高い音を立てて転がります。戦場の流れは、この一瞬で大きく変わることになりました。王国軍は、この機を逃さず、疲弊したヴァロス軍団へと猛攻を仕掛けます。王妃たちの唯一の希望の光は、卑劣な一撃によって、今まさに消え去ろうとしていました。


シャドウウィスパー隊長サリナスによる卑劣な一撃は、竜騎士将軍ヴァロスに致命傷を与えました。聖槍セラフィムスピアが手から滑り落ち、王国の勝利は目前かと思われました。しかし、ヴァロスの運命は、まだ尽きてはいませんでした。


英雄の継承:ミレオンの奮戦

ヴァロスの背中にサリナスの短剣が深く突き刺さり、彼は苦悶の表情で膝をつきました。王国軍が歓声を上げる中、ヴァロスは絶体絶命の危機に瀕します。しかし、その時、一筋の光が差し込みました。


「ヴァロス様!」


ヴァロスの副官、ミレオンでした。彼は、ヴァロスに劣らぬほどの忠誠心と、そしてヴァロスと互角に戦えるほどの武勇を持つ、精鋭竜騎士団の副官です。ミレオンは、素早い動きでサリナスを牽制し、倒れこむヴァロスの身体を間一髪で支えました。


「ぐっ…ミレオン…!」


ヴァロスは、血に濡れた手で、ミレオンの肩を掴みました。その顔は蒼白でしたが、その瞳には、まだ諦めの色がありません。


「私の命は…ここまでか…しかし…!」


ヴァロスは、途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、力なく転がっていた聖なる槍セラフィムスピアを指差しました。ミレオンは、ヴァロスの意図を瞬時に悟ります。


「以降の指揮を…そなたに託す…。そして…セラフィムスピアも…!」


ヴァロスの声は、かすれていましたが、その言葉は重く、ミレオンの心に深く響きました。それは、帝国の未来、そして王妃たちの尊厳を救うための、最後の希望を託す言葉でした。ミレオンは、師であり、崇拝する英雄であるヴァロスの決意を、その目で見つめ返しました。


「承知いたしました、ヴァロス様!この命に代えても、必ずや…!」

ミレオンは、固い決意を胸に、地面に転がっていたセラフィムスピアを拾い上げました。聖槍セラフィムスピアは、新たな主を得て、再び神々しい光を放ち始めます。ミレオンは、負傷したヴァロスを背負い上げると、精鋭竜騎士団の兵士たちに命じました。


「ヴァロス様をお守りしろ!我々は、決して退かぬ!」


ミレオンの声は、戦場の喧騒を切り裂き、疲弊していた竜騎士団の兵士たちに、新たな活力を与えました。ヴァロスの負傷に動揺していた兵士たちは、ミレオンの毅然とした態度と、ヴァロスから託されたセラフィムスピアの輝きを見て、再び戦意を取り戻しました。

ミレオンは、ヴァロスを安全な場所へと運びつつ、王国の精鋭騎士団へと向き直りました。彼はセラフィムスピアを構え、その瞳には、ヴァロスの意志を受け継いだ者の、揺るぎない覚悟が宿っていました。


「クレストナイツ隊長、エルト!シャドウウィスパー隊長、サリナス!そして王国軍よ!ヴァロス様の意志は、私が継ぐ!これより、貴様らの歪んだ支配を、ここで終わらせる!」


ミレオンの声は、戦場全体に響き渡りました。彼は、ヴァロスから受け継いだ聖槍セラフィムスピアを振り上げ、王国軍へと突進していきました。ヴァロスの負傷という危機は、皮肉にも、ヴァロスの意志を受け継いだ新たな英雄の誕生を告げるものとなったのです。


ヴァロスを負傷させ、勝利を確信した王国軍でしたが、副官ミレオンの参戦により戦況は再び拮抗しました。サリナスは冷静に状況を判断し、ヴァロスを完全に仕留められなかったことに舌打ちしながらも、撤退の決断を下します。


冷徹な判断:サリナスの撤退命令

ミレオンが聖なる槍セラフィムスピアを手に戦場を駆け巡り、ヴァロスの意志を継いで猛攻を続ける中、シャドウウィスパー隊長サリナスは冷静に戦況を見極めていました。ヴァロスに致命傷を与えたとはいえ、ミレオンの登場は計算外でした。彼はヴァロスと互角に渡り合える手練れであり、その存在が王国軍の士気を再び低下させかねないと判断したのです。


「ちっ…あと一歩だったのだがな。」


サリナスは、ヴァロスがミレオンに背負われていくのを目で追いながら、静かに舌打ちしました。彼の顔には、作戦が完璧に遂行されなかったことへの、わずかな苛立ちが浮かんでいました。しかし、彼は感情に流されることなく、すぐに状況を分析します。


「まあいい、ヴァロスは長く持つまい。」


ヴァロスの負傷が致命的であることは、サリナスには明らかでした。たとえ今すぐに仕留められずとも、彼は戦線に復帰できず、その命は長くはない。その事実が、サリナスの冷徹な判断を支えていました。

サリナスは、激戦を繰り広げていたクレストナイツ隊長エルトに、撤退を促しました。


「エルト隊長、これ以上の深追いは無益だ。撤退するぞ。」


エルトは、ミレオンの猛攻を受けていたこともあり、その言葉に一瞬戸惑いましたが、サリナスの冷徹な眼差しを見て、彼の判断が合理的であると理解しました。ヴァロスを確実に仕留められなかった悔しさはあったものの、消耗しきった自軍を無理に戦わせることは、王国の利益にならないと判断したのです。


サリナスの言葉:冷酷な合理性

エルトが撤退の指示に従い、自軍をまとめようとする中、サリナスは彼に冷徹な言葉を投げかけました。


「言いたいことは分かる。そなたは、騎士としての誇りや、一騎打ちの作法を重んじるだろう。だが、これは戦争だ。そして、王の命令を完遂することこそが、我らの使命。」


サリナスの声は、一切の感情を排し、冷酷な合理性に徹していました。彼にとって、ヴァロスを討ち取るという目的のためならば、どのような手段も正当化されるのです。エルトの心に、ヴァロスの言葉によって生じたわずかな亀裂は、サリナスのこの言葉によって、再び閉じ込められていくかのようでした。彼は、王の絶対的な命令と、それに従う自らの使命を再確認させられたのです。

サリナスは、王国の精鋭騎士団に撤退命令を下しました。

王国の騎士たちは、ヴァロスを完全に仕留められなかったことに不満を抱きつつも、その命令に従い、戦場から引き上げていきました。

こうして、ヴァロスと王国騎士団の激戦は、王国側の戦略的撤退という形で幕を閉じました。

王妃たちの唯一の希望は、命は繋がれたものの、依然として絶望的な状況にあることを示唆していました。

王国は、ヴァロスの命を完全に絶つことはできませんでしたが、彼を戦線から一時的に排除することには成功しました。王たちの「支配」は、依然として王国を覆い尽くしているのでした。


英雄の死

王国軍との激戦の後、竜騎士将軍ヴァロスは、副官ミレオンによって何とか戦場を離脱しましたが、サリナスの一撃はあまりにも深く、彼の命を蝕んでいました。安全な場所へと運ばれたゼフロスは、最期の時が迫っていることを悟ります。


「ミレオン…よくやった…」


ヴァロスは、血に塗れた手でミレオンの肩を強く握りしめました。彼の目は、自らの死を悟りながらも、揺るぎない決意を宿していました。


「帝国を…そして…弱き民を守るのだ…!」


ヴァロスは、かすれる声でミレオンに言い残すと、

セラフィムスピアを握るミレオンの手に力を込めました。それは、自らの意志と、そして聖なる槍の力を完全に託す行為でした。


「将軍…どうか…安らかに…!」


ミレオンは、師であり、英雄であるヴァロスの最期の言葉を受け止め、涙を堪えながら深く頭を下げました。そして、ヴァロスは、静かに息を引き取りました。


竜騎士将軍ヴァロス──その高潔な騎士道精神と武勇で多くの民を救い、王妃たちの希望であった英雄は、ついにその生涯を終えたのです。

彼の死は、帝国全土に深い悲しみをもたらすことになるでしょう。



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