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五話 招待

カトレア王国のはずれ。

 朝早くに家を出た奏縁とナノハは、新しくもらった地図を頼りに空飛ぶ絨毯で魔王城へ向かっていた。途中立ち寄った店や公共施設などには様々な種族がいたが、皆物珍しそうに奏縁たちを見ていた。

「なんでみんな俺たちを見てるんだ?」

 奏縁は不思議そうにナノハに尋ねた。

「そりゃ、あなたが魔王族だからでしょ」

 ナノハは冗談めかして答えた。

 

 庁舎でもらった地図は古いものらしく、魔王城から招待状と共に送られた地図の指定されたルート通りに進むと、魔王城は絨毯に乗ってから1時間程で到着した。

 RPGなどで登場する禍々しい魔王城をイメージしていた奏縁は拍子抜けした。魔王城と呼ぶより、それはむしろ、姫君が攫われる童話にでてくるような城だったからだ。

 

 2人は門番に招待状を見せると、驚くほどあっさりと門が開かれ、執事が待つ中庭へ案内された。

「ようこそお越しくださいました」

 執事の男は礼儀正しくお辞儀をした。その後ろにはクリシュネがいる。彼女は一昨日のローブ姿とは打って変わり、優雅な黒いドレスをまとっていた。

 2人がクリシュネのその華麗な容姿に見とれていた時、執事の男が口を開いた。

「この度は魔王城へのご招待を快諾いただき、ありがとうございます。私は執事のメービルと申します」

「どうも」

 奏縁は軽く会釈すると、メービルが次に口を開く前に核心を突く質問を投げかけた。

「どうして俺を魔王族に登録したんですか?」

 

 メービルは一瞬の沈黙の後、口を開いた。

「それは、あなたが未登録の転生者だからです」

 奏縁とナノハは同時に首を傾げた。

 2人の反応を見たメービルは言った。

「多くの国々を訪ね、登録されているあらゆる転生者のリストを集めましたが、あなたの名前はどこにもありませんでした」

 メービルの言葉に続けて、クリシュネが説明を補足する。

「私があなたを招いたのは他でもない。あなたをゲームに招待したいの」

 

「ゲーム?」

 ナノハが聞き返した。それにはメービルが答える。

「ええ、転生者のみが参加出来るゲームです。あなたには参加資格はございません。」

「そんなこと聞いてない。あの時はカトレア王国庁で奏縁の転生者登録をしに行ってたんだよ?勝手に登録して勝手にゲームに参加させるなんてひどいよ!」

 ナノハはメービルの言い草に不快感を覚え、声を荒げて言った。

「カトレアの登録者リストは既に貰っていたので、その後からカトレアで登録されるとゲームに参加させられないんですよ。だから先手を打たせてもらったのです」

 メービルは冷静に続けた。

「それに、われわれの勝手な行動が酷いかどうかは、彼が決めることです」

 メービルはナノハの言葉を否定した。

 そして、頭を深く下げた。それは決して謝罪の意味ではない。

 何でここまでして奏縁をゲームに参加させたがるのか、二人は不思議で仕方がなかった。

 

 奏縁は状況の不条理さに戸惑いながらも、冷静に質問を投げかけた。

「ゲームって一体何をするんですか?」

 

「それは、ゲーム開始後にお教えします。」

 メービルは頭を下げたまま答えた。

 なにがなんだか分からない。その得体の知れない不安感が、奏縁の心を蝕んでいく。

 

 クリシュネが口を開いた。”それ”は、奏縁にはかすかに聞き取れるほど小さな声量だった。

「……カリ・アンタカ・チャクラ……」

 突如、奏縁の足元に小さな黒い穴が開き、それは瞬く間に広がりを見せた。

 

「これは……」

 奏縁が驚き、一歩後ずさる。

「奏縁ッ!」

「ゲーム参加の呪文よ。」

 ナノハの呼び声を遮るようにクリシュネがそう言うと、奏縁はいつのまにか背後に回っていたメービルに背中を押され、黒い穴に吸い込まれた。


 気がつくと、奏縁は真っ暗な場所に立っていた。

「ここは……どこだ?」

 奏縁が呟いた時、頭の中にメービルの声が響いた。

「ここは、魔王様が用意したゲーム会場です。あなたはイレギュラーな参加となったので直接送り込ませて頂きました。」

 

 メービルの声が止むと、奏縁の前に白い影が現れた。輪郭こそハッキリしていないが、丸みを帯びた物体で、確かに存在感を持っていた。

「何なんだ?これ……」

 奏縁は気味悪そうに呟いた。すると影が声を発した。クリシュネの声だ。


 「ようこそ!転生者の諸君!」

 

 奏縁が辺りを見回すと、いつの間にか大勢の人々が集まっていることに気づいた。まるで急にそこに現れたように。

「ゲームに参加してくれた事、とても嬉しく思うよ」

「ゲーム?参加?何言ってるんだ?」

 集まっていた人々の1人が言った。

 影は嬉しそうに答えた。

「そう!今から君たちにはゲームをしてもらうんだ!」


 影は興奮を抑えきれず、その感情が口から飛び出しそうな勢いで続けた。

 「皆さんにはこれから殺し合いのゲームをしてもらいます!」

 

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