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Parallel Lab  作者: 古今里
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接敵

パラレルワールドに飛ばされた主人公・蒼啓は、仲間たちと共に、元の世界に戻るべく、研究所へ侵入する計画を立てる。リーダーであるシュウによって立てられた計画を聞き、明日の計画実行に向けてメンバーと意思疎通を図る。しかしその決起集会の後、シュウは謎の人物と街で接触し、計画を横流ししていた。シュウと話していた人物は、一体何者なのだろうか。そんな裏取引を知らぬまま、蒼啓たちは研究所へ赴く。

「ん……?あれ、なんだ?」

 研究所と外の街を繋ぐ橋の上には、研究所の施設である監視棟が存在する。そこにはロボたちの橋の行き来を確認する、監視員が数名駐在していた。そのうちの一人が、ガラス越しに眼下の橋を見下ろして、声を上げた。

 監視員のその声に、その場にいた他の監視員たちも手を止めて、声のした方へ顔を向けた。

「なんだ?」

「いや、街の方から何か……来るぞ」


 風が頬を撫でて、頭の後ろへ突き抜けていく。目の前にはシュウをはじめとする仲間の背中。皆が風を切り裂きながら進んでいく。

 足下から発せられる音が切り替わる。先程までの堅いアスファルトを蹴る音から……なんだろう。素材は分からないが、アスファルトよりも軟らかく、足下がほんの少しだけ沈み込むような感触の、軽い音に変わった。今は橋にさしかかったところだ。

 前方から何か音が聞こえる。ガチャガチャと、機械がぶつかるような音。

「やはり来るか」

 先頭を行くシュウの前方にロボの大群。普段街に出ているロボとは違って、手に持っているのは捕獲用の網ではなく、手と思しき場所には銃が内蔵されていて、既にこちらに照準を合わせている。

 その光景にメンバーの何人かは思わず足を止めようとしたが、

「止まるな!」

 シュウの声が轟き、ピリッとした空気に反応して足がまた回転率を上げる。

 その間にシュウは瞬発的に速度を上げ、前へ飛び出す。それと同時にロボの銃口から弾が発射されたが、シュウはそれを全て斬り伏せていく。

 恐るべきスピードと技術でロボの銃弾を排除し、ロボの目の前まで近づいて見せたシュウは、またもや生き馬の目を抜くような速さでロボの間をすり抜けていった。そして、シュウの次に前を走っていたながれ逸石いっせきが、ロボと接触する寸前まで来て、ジャラジャラと大きな音を立ててロボが崩れ去った。仲間たちはそれをさも当然とばかりに、気にも掛けず脅威の居なくなった橋を駆けていく。

 もう少しで橋も渡りきる、というところで、今度はビーッと警告音のようなものが聞こえた。前を見ると、橋の終わりに見える研究所入り口に、ゲートがあり、そのゲートが閉まりつつあった。

 そのゲートは大きく、橋の横幅10mを隙間無くカバーする、分厚いシャッターのようなものであった。しかしそんなシャッターも、先頭を走るシュウによって斜めに袈裟斬りされ、大きく破損する。その後もシャッターは下がり続けたが、袈裟斬りされたために下半分が地面に横たわり、誰でも通過可能になっていた。仲間たちは皆、先んじてゲートを潜ったシュウに続いて、研究所の敷地に入っていく。

 シュウと合流し、仲間たちはまた走り始める。その間に、研究所全体にサイレンが響き渡る。先程のゲートの警告音とは違い、ウーと腹の底から響くようなサイレン。それがひっきりなしにあちこちのスピーカーから流れている。

「恐らく監視棟にいた監視員が、ゲートを突破されたのを見て、サイレンを鳴らしたんだろう。侵入者だと」

 先頭を行くシュウは皆にそう説明した。走りながら。

「でも、こうなることも、想定内なんでしょう?」

 蒼啓そうけいはシュウの隣まで追いついて、聞いた。

「ああ、これで警備員が警戒態勢になるだろう。それに、私が来たことも、既に監視員によって伝達されているはずだ」

 シュウは蒼啓の走りに合わせて少し速度を緩めた。

「警備員は研究棟から外へ出てくることはないんですか?」

「研究所も、私の目的を察して、研究中央棟に人を集めているだろう。私の狙いが分かっているなら、そこを守ろうとするはずだ」

 シュウには確信があるようで、微かな笑みを浮かべて蒼啓の質問に答える。

 そうこうしているうちに、昨日見た地図の場所と思しき、研究中央棟の足下まで辿り着いた。研究中央棟の七つの建物は、またもやゲートに阻まれて、そのゲートから左右に伸びるように、20mはあるであろう高さの壁に囲まれていた。

「さて、ここから別れよう」

 シュウがそう号令を掛け、ゲートの脇にある機械に、なにやら懐から取り出したカードキーのようなものをかざした。ピッという音が鳴り、ゲートが音も無く開く。

「それ、盗んできたんですか」

「ああ、研究員から失敬した」

 蒼啓の質問に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて答えるシュウ。

「これで研究中央棟の敷地に入れる。ここからは昨日見せた地図の通り、6組に分かれて行動しよう」

それぞれ2人ずつ(逸石とシュウは一人)に分かれ、割り振られた目的地へと向かう。

「じゃあ、セントラルラボで会おう!」

 シュウのその一言でメンバーは散開した。


「シュウさんって、どうやってこの組決めたんすかね」

 西の研究所に入り、研究所内の通路を走りながら、蒼啓は隣を行く行雲こううんに話しかけた。

「さあ?なんだろうなー」

 行雲はいつも通り、あっけからんとした声で返す。行雲はいつもこんな感じだ。元の世界で、特に学校などにも行っていないというので、学がないのだと言っていたのを、蒼啓は聞いていた。行雲は考えるより先に行動する人だとシュウも言っていたので、あまり考え事には向いていないのだろうな、と蒼啓は感じていた。

「うーん、性格の相性とかですかね?シュウさんよくメンバーと話してたし、メンバーの性格把握してそうじゃないですか?」

 シュウは基本アジトにいる時は、他のメンバーとコミュニケーションを取って過ごしていた。話の内容は、専ら皆がいた元の世界のことなどであったが、シュウなりの気遣いなのか、メンバー内の確執がないように、取り持ってくれていたような気もする。だからメンバー一人一人の性格も確実に把握しているだろうし、それを踏まえて組分けしているだろうと感じる。

「戦い方とかじゃないか?」

 行雲から予想外の返答が来た。

「あ、そっか、確かに」

 考え事に向かないといっても、考えないわけじゃないみたいだ。大分失礼なことを考えながら、蒼啓は肯定を返す。

「行雲さんも俺も素手での格闘だし、二人で戦うには相性良さそうですもんね」

「つっても、お前のはちゃんとしてる格闘術なんだろ?俺のは自己流だしなー」

「いやいや、自己流であんだけ戦えるの、すごいっすよ」

 行雲と前に話した時、行雲は物心ついた時から一人で、周りには動物たちがいたと言っていた。ジャングルに生まれ、ジャングルで生きてきたらしい。その動物たちと一緒に他の動物の縄張りに入って襲われたり、戦って勝ったりしていくうちに、自己流の格闘術を身につけていったそうだ。

 だから、誰にも教わらずに強さを手に入れた行雲のことを、蒼啓はすごいと思っていたし、実際、体力やタフさは行雲の方が上で、蒼啓は全く敵わなかった。

「それにしても、すごいなーこの建物。広すぎて迷うなー。どこ行っても同じ景色だし」

「そうですね……確か5階にセントラルラボへの連絡通路があるって……」

「じゃあ、とりあえず上に行くんだな」

「はい、この先に階段があるはず……」

 こんな科学技術の塊みたいな建物でなぜエレベーターではなく階段なのかというと、シュウからエレベーターは止められる可能性があるから使うなと言われているからである。確かに、侵入者として認知された以上、研究所の設備に頼るのは危険だと、蒼啓たちも納得した。

 それに、行雲も蒼啓も足が速く、体力もあるため、5階まで階段ダッシュしようという結論に至った。

「あれ……」

 意気揚々と階段を上った先で、行雲は思わず足を止めた。それにつられて蒼啓も足を止める。1階から2階への階段を上ってきたが、その先に、3階への階段が無かった。

「階段ないじゃん」

「シュウさんが研究所は入り組んだ構造になっていて、階段もフロアごとに違う場所にあるって言ってましたよ」

「そうだっけ」

 とぼけた顔で蒼啓を見下ろす行雲は、作戦会議の時は真剣な顔をしていたが、もしかしたらあまり頭に入っていなかったのかもしれないと、蒼啓は感じた。

「西棟の構造は頭に入ってますから。行きましょう」

「おう」

 そう言ってまた走り出したが100mほど通路を進むと、開けた場所に出た。

「なんだここ?」

 2人が到達した場所は、見上げるほどの天井高がある、立方体型の空間だった。しかし異様なのは、その四方の壁に無数の扉があること。大小様々なデザインの扉が申し訳程度の足場の上に存在する。しかもそれはきれいに陳列されているわけではなく、壁にランダムに配置されているようだった。

「こ、こんな部屋、説明に無かったぞ……?」

 蒼啓が困惑していると、行雲が一番身近な扉のノブを掴み、開けた。

「うん?」

 行雲が開いた扉は、開けた先には何も無かった。ただ無骨な壁があるだけで、道も何も無い。

蒼啓は行雲が開いた扉から目線を移し、10mはあろう天井いっぱいに広がる無数の扉に目を向けて言った。

「これ全部フェイクか……?」

 その小さな呟きに、返事をする者がいた。

「いや、どれかは本物だぜ!」

 どこからか聞こえた、聞き覚えのないその声と同時に、蒼啓は背後に殺気を感じて、咄嗟に前へ飛び込み、ぐるっと前転して自分の元いた場所を見た。

 蒼啓が立っていた場所には、大きな鎌が地面に突き刺さっていた。その柄を持ち、蹲っている人物。その人物は声を発することなく、鎌を持ち上げ、ふわりと身軽にジャンプし、部屋の奥へ着地した。

「!」

 続いて行雲も何か身の危険を感じたのか、急にしゃがみ込んだ。

 その刹那、行雲の首があった場所を、大きな鎌の刃が横切る。

「アハッ」

 その柄を持つ人物は、行雲の背後にあった扉から出てきた。さっきまで扉の中は何も無い壁だったのに、なんで……?と思った蒼啓だったが、それよりも、行雲の首を狙った人物と、さきほど蒼啓を襲った人物の服装をジロジロと眺めた。

 その人物もまた、ふわりと宙を舞い、蒼啓を襲った人物の隣に着地した。

 その二人の服装は、よく似ていて、いわゆる双子コーデと呼ばれるようなものであったが、とにかく派手だった。パンク系というか、ヴィジュアル系というか。青と黒半々の長Tはアシンメトリーで、それぞれ左右にベルトの装飾がついていて、二人合わせて対称になるようにデザインされている。また下半身は、片方が黒のマイクロミニのスカート、もう片方は黒のショートパンツ。また、これも二人対称になるように左右にチェーンを下げている。足下は同じで、膝上まである黒いロングブーツ。首にはお揃いの青いチョーカー。髪の毛は、片方はウルフカット。もう片方は前髪なしのマッシュ。色はどちらも青ベースに毛先が黒。肝心の顔はというと、ヴィジュアル系の、パッチリ目元に青シャドウ。黒リップ。そういう人形だと言われたら、すっと受け入れてしまいそうな綺麗な顔立ちをしている。

 しかしそんなフィギュアチックな見た目に沿わず、大振りな鎌を持っているのがなんとも異質だ。

 するとウルフカットの方が、蒼啓たちを見て、はあ、とため息をついた。

「チッ。二人かよ。もっと多い方が楽しめたのに」

 その言葉を聞き、今度は隣のマッシュの方がウルフカットの方へ顔を向けて話す。

「姉さん。これじゃ2対2どころか、3対2になっちゃうよ」

 ”姉さん”?じゃあこいつら姉弟なのか。というか、見た目通り双子なのか?と思いつつ、蒼啓は相手の出方を探る。しかし行雲は正直な性格。目の前の二人がその後も話し続ける中、

「お前ら誰だ?」

と、二人の会話をぶった切って、至極最もな質問をポンと投げかけた。

 しかし二人はギロリと行雲の方を睨み、

「「あ?」」

と腹の底から響くような低い声で威圧した。シンクロして。

「オレたちが話してんだろうが」

「僕たちの邪魔しないで」

 ぴしゃりと言い放つ二人。しかし行雲は気にも留めず、

「お前ら警備員なのか?」

怖い顔をする二人とは裏腹に、あっけからんとした表情で行雲は質問を続ける。

「チッ」

 またもや姉の方があからさまな舌打ちをして、一拍置いた後、観念したように口を開いた。

「ああ、そうだよ!オレたちがこの西棟の警備員。ひと呼んで!『大鎌のソカ』と」

「『ムエン』……以後お見知りおきを」

 そう言いながら二人は背中合わせになり、ソカは左腕を、ムエンは右腕をお互いに絡ませて腰へ手を当てる。そのポーズが本当に人形のように見えて、蒼啓は思わず拍手した。

「?」

 行雲も蒼啓の拍手を見て、自分でもなんだか分からないままつられて手を叩いた。

しかしソカはそれが気に入らなかったようで、

「あ?なんで拍手してんだ。ナメてんのか」

 また強い口調で威圧する。

「いや、ナメてないけど……なんか……息ぴったりだなって」

 蒼啓が正直に答えると、

「……双子なんだから当たり前だよ」

ムエンのフォローが入った。よく見たらムエンも少し怒り気味だ。「僕たちのコンビネーションを疑うなんて」と、表情から見て取れる。

「オイ、今度はそっちが名乗れ。何モンだてめーら」

 痺れを切らしたソカが蒼啓と行雲の方を睨む。

「俺は行雲!ジャングル育ちの野生児?だ!」

 行雲は先程のソカとムエンの口上を真似るように、名前だけでなく自分の説明らしきものを追加した。”野生児”が若干疑問形だったのは、シュウに言われたことを鵜呑みにして、しかしよくは知らずに使ってみたからだろう。

「俺は蒼啓。見ての通り、普通の学生だ」

 蒼啓も遅れて名乗る。行雲につられて、蒼啓も自分の情報を加えた。

「ふーん。その野生児と、普通の学生が、アイツに焚き付けられてオレたちを倒しに来たってワケだ」

「シュウも回りくどいことをするね。まあそうするしか無かったんだろうけど」

 ソカとムエンは研究所の警備員だ。もちろんシュウのことも知っている。だから、シュウが研究所を倒そうとしていることも、予想されていたのだろう。だから今回の計画は筒抜け……とは行かずとも、対処される可能性があると、シュウは言っていた。

「まあ細かいことはいい……今日は久しぶりに楽しめそうだ」

「侵入者なんて……久しぶり」

 ソカは舌舐めずりをして、ムエンは無表情のまま、大鎌を構えて臨戦態勢を取った。それに応じて、蒼啓と行雲もそれぞれ構える。

「蒼啓!行くぞ!」

「はい!……コイツら倒して、元の世界へ戻る!」


「心配だなあ」

 疾風はやてが唐突にそう呟く。

 東棟へ入った疾風と石華せきかは、走りながら言葉を交わしていた。石華はまだ加入したばかりで、まだ仲間とあまり話したことがなかったが、疾風も石華も社交的で明るい性格だったため、同じ組になってからすぐにうち解けた。

「何が?」

 石華が聞き返すと、疾風は少しの間黙って俯き、やがてまた口を開いた。

「いや、夜行やこう沙生さおの組がさ」

「?」

 疾風の言葉に、石華は疑問符を浮かべる。そう。研究中央棟へ潜入する組分け。これは全員の実力や戦い方を知るシュウが決めたものなのだが、その組分けに疾風は若干の不安を感じていた。というのも、メンバーの中で飛び抜けて実力があるのは、シュウ。そのシュウは一人で、その次に実力がある行雲・流・逸石は、それぞれ若い蒼啓やズイと組み、逸石は一人。戦闘力が人並みな自分や、まだ来たばかりの石華が組むのも、まあ妥当であろう。しかし、戦闘経験のない沙生と、実力が未知数の夜行。この二人が組むのが疾風はとても心配だった。

 沙生が戦えない分、相方となる人物に戦闘の負担がかかるのは必然で、それを実力のある4人の内の誰かが担うべきではないかと思って、疾風は作戦会議の時、シュウにそう問うた。しかしシュウは、

「心配ない。夜行には守護霊たちがいるし、沙生に教えたことは、夜行との相性が良いから」

と、きっぱり断言して、組を変えようとはしなかった。

 沙生にシュウが何を教えたのかは、誰も知らなかった。何気なく沙生に聞いても、

「これは奥の手だから、秘密にしておいた方がいいと、シュウさんに言われました」

と言うだけで、教えてくれなかった。しかし「奥の手」だと言うならば、基本的な戦闘に使える物ではなく、いざと言う時の物なのだろう。ならやっぱり通常の戦闘は相方に任せることになるのではないか。そうなると、夜行とその守護霊に沙生を守りながら戦ってもらうことになるだろう、と、そこまで考えて疾風はまた口を開く。

「夜行の実力は未知数だからな……うーん、やっぱ心配だ」

 疾風の言葉を受け、石華は少し口を噤んでいたが、すぐに顔を上げて、微かに微笑んでみせた。

「そうかしら?でも夜行の守護霊さんたちは武器を使って戦えるし……それに、相手の攻撃は幽霊だから受けないのよ?かなり有利な1対多の状況を作れると思うわ」

 石華は、夜行の戦い方は自分に有利な状況になると考えているらしい。しかし疾風はあることを懸念していた。

「石華、攻撃を受けないってことは、体を張れないってことなんだ。敵のどんな攻撃も、守護霊たちの体をすり抜ける。武器で防げたらいいけど、防ぎきれなかったら、守護霊たちを貫通して、後ろの夜行や沙生に当たっちまう」

 疾風の言葉に、石華はハッとした。

「……確かに、そうね」

 石華の顔から笑顔が消え、また俯いて、黙りこくってしまった。

「まあ、シュウさんのことだから、何か考えがあるんだろうが……」

 疾風も心配のあまり、声が小さくなっていった。シュウのことを信用していないわけではないが、それでも不安は拭えなかった。

「俺たちが無事セントラルタワーへ着いたら、そこから連絡通路を通って北東棟へ向かおう。手助けできれば良いが……」

 疾風はそう決意して石華の方へ顔を向けた。意思を確認するように。

「そうね……なら、東棟の突破……手早く済ませないとね」

 石華も同じことを思っていたようで、疾風の方を見て、わずかに笑みを作った。

 動いていた2人の足が止まる。2人は、通路の突き当たりにある、ドアの前に立っていた。そのドアはガラス製で、しかし中が見えない磨りガラスだった。

 疾風が持っていた斧でガラスを割り、割れた穴から中へと入る。同時に、ムワッとした空気が部屋の中から吹き抜けてきた。

「うお」

 建物の中なのに、風がある。それに、皮膚にじりじりと刺激が走る。

「「え!?」」

 思わず上を向いて、驚いた。太陽が、あるのだ。

 高さは15mくらいで、部屋は四角錐のような形をしていた。その空間の頂点部分に、ギラギラと光る太陽が存在している。その太陽は本物より少し小さく感じるが、感じる熱視線や部屋の温度は、晴れた日のそれに近しかった。

 しばらく二人は太陽を眺めていたが、その眺めている間にも、常に2人の耳に入ってくる音があった。

「8792!8793!」

 その音を人の声だと認識した時、やっと2人は上に向いていた顎を戻して、部屋の全貌を見た。

「8799!8800!」

 その部屋は、蒼啓と行雲が到達した西棟の空間とはまた違った異様な光景だった。

「8807!8808!」

 まず目に入ったのは、”研究所”という建物の設備として相応しくない、数多のトレーニング器具。トレーニングベンチやら懸垂マシンやら、ダンベルやら。トレーニングジムに置いてありそうなありとあらゆるトレーニング器具が、太陽の照りつけるこの空間に乱雑に置かれていた。

「8812!8813!」

 それだけなら研究所としては相応しくない光景であっても、異様とまでは呼ばなかった。しかしこの空間をそう呼ばせるに至ったのは、四角錐の底辺、つまり部屋を囲う四つの辺に、あるものが置かれていたからだ。

「8818!8819!」

 そのあるものとは、大小様々なサボテンだった。長いもの、丸いもの、針のあるものないものが、それぞれの鉢に植えられ、並んで置かれていた。部屋をぐるっと囲うように。

「8825!8826!」

 疾風と石華は、その異様な光景の中で動くものを見て、あんぐりとした。

「8831!8832!8833!8834!あともう少しよ!頑張れ私!」

 部屋の奥で床に黒いマットを敷き、一心不乱に腕立てを行う者。いや、よく見たら腕立てではなく指立てだ。しかも片手で。左手の指を立てて全体重を支え、右手は腰の後ろで固定している。

 その人物は疾風がドアを破った音さえも耳に入らなかったのか、集中を途切れさせることなく自分の世界に没入して筋トレを続けた。

 疾風と石華は、その迫力に押され、話しかけるタイミングが掴めないまま、その人物の指立てを見守ることにした。


 一方その頃、心配されていた夜行と沙生は、北東棟に侵入し、コソコソと隠密行動をしていた。

 隠密行動と言っても、流のような忍ではない二人は、ただ足音を忍ばせたり腰をかがめて動いたりしているだけで、プロのそれとは全く似ても似つかない、素人の動きだった。

 しかしほぼ戦闘経験のない二人にとっては、会敵することは恐れることだった。いくら作戦で警備員を倒さなければならないと言っても、急に敵に出てこられたら対応しきれないし、こっちの作戦も台無しだ。

 そして何より、夜行は守護霊たちが動き回っても視認できる広い場所を求めていたし、沙生もシュウに教わった奥の手を使える状況が欲しかった。いや、むしろその状況が揃わなければ警備員を倒すことすら難しいかもしれない。だからこそ、二人は北東棟の間取りを細かくシュウに書いてもらったし、その中で自分たちが戦いやすい場所を見つけ、そこまで到達することが第一であった。

「えっと……地図によると、この先が警備員の部屋……」

 夜行が地図を見ながら言うと、たつが口を挟む。

「おいおい、警備員なのにこんな広い部屋持ってんのか?ゼータクだな」

 龍の言葉に、沙生はシュウから聞いた説明を返す。

「警備員の中には、元研究員だった人もいるってシュウさん言ってました。だから広い自室で研究を進めている人もいると……」

「へえ。研究もできて戦闘もできんのか」

「万能だね」

 龍と鬼婆おにばばが感心しているうちに、やがて警備員の部屋の前までやって来た。部屋のドアは珍しく手動で、内側に開くタイプのドアだった。それに、少しドアが開いていて、その隙間から暗い通路に光が溢れていた。

「警備員、いるかな?」

「覗いてみましょうか」

 夜行と沙生は二人で並んで、ドアの隙間から部屋の中を覗いてみた。

 見える範囲では、部屋の中は机と椅子。それに小さな引き出しがいくつも付いた棚、床には何やら段ボール箱がたくさん積まれていて、お世辞にも片付いているとは言えなかった。

「人、いる?」

「いないですね……少なくとも、見えるところには……」

「人の部屋の前で何してる」

 突然、聞いたことの無い低い声が耳に響き、2人は声のした方を振り返る。声は2人の後ろから聞こえた。

 そこには、黒のスカジャンに茶色のサングラスが目立つ、なんともイカツイ中年の男が立っていた。

「「わああああああ!」」

 2人は驚いた拍子にドアにぶつかり、押されたドアが完全に開く。寄りかかっていたドアが完全に開いたことで、2人は背中を預けるものが無くなり、背中から床に倒れる。

 ドテッと2人仲良く背中から着地したのも束の間、

「お前らが侵入者か?」

目の前のイカツイ男が顔を近づけて凄む。

「ひ……」

「ひえ」

 2人とも縮こまって座り込んだまま後ずさりし、部屋の奥の壁に背中がつくまで無意識に移動していた。

「オイ、夜行に向かってなんつー顔してんだテメェ」

 イカツイ男に対抗するように、龍が夜行と男の間に入って下から男を睨み付けた。その後ろで、守衛門もりえもんと鬼婆が庇うように夜行の前に立った。しかし、男は前に立ちはだかる龍をすり抜けて、部屋に入り、ドアを閉めた。

「……!」

 龍は信じられない、といった顔で、自分を無視した男を見つめていた。守衛門も鬼婆も顔が固まっている。

 守護霊たちはこの世界へ来てから、メンバー内で、逸石や行雲など、霊の見えない人に出会ったことはあったが、それでもまだ半信半疑であった。逸石や行雲のいた世界がたまたまそうなだけで、メンバー以外の他の人なら自分たちが見えるはず……と、そう思っていた。確かにメンバー内でも見えないのは少数派だったし、見える人の方が多いのでは?という考えを持つのも分かる。しかし、今改めて目の前の男に無視されて、その淡い期待も崩れ去った。

 夜行と沙生の目の前の男は、ドアを閉めた手をそのままスウェットのポケットに入れ、タバコの箱とライターを取り出した。そして慣れた手つきで箱からタバコ1本を取り出し、口に咥えて火を着ける。

「ふーっ」

 男が呑気に一服しているのを見て、夜行と沙生の方もだんだんと警戒が解れてきた。それまでは2人とも座り込んでいたが、ここにきてやっと立ち上がり、男の方を改めて見た。

「で、お前ら、侵入者か?」

 男はタバコを噴かしながらもう一度、夜行と沙生に聞く。

 夜行の守護霊たちは自分たちが認識されていないと分かると、警戒心をマックスにして夜行と沙生を守るように2人に寄り添う。それを見て安心したのか、夜行は口を開いた。

「僕たちは確かに侵入者だと思うけど、おじさんは何者?」

 一応侵入者としての自覚はある。この世界の人間でもないのに研究所に入ったから。だからそう答えて話を濁し、逆に目の前の男の正体を探ろうとした。

 目の前の男はなんだが休日に商店街を彷徨くただのおじさんにしか見えなくて、白衣の研究員ばかりだと思っていた研究所内の景色には、全く以て馴染んでいなかった。

「なるほど、お前らが侵入者……ねえ」

 2人の姿を上から下まで舐め回すように眺め、無精髭の生えた顎を手で撫でつける男。

「俺は警備員だ。警備員の三文さんもん

 三文はあっという間に1本目のタバコを吸い終わり、2本目に火を着ける。

「警備員?あなたが?」

 沙生は怪訝な顔をして、今度は沙生が三文の姿を隅から隅まで観察する。そして益々沙生は眉の皺を深める。どう見ても休日にボートレース場にいるおじさんにしか見えない。特に太っているわけでも、痩せているわけでもない、中肉中背の体。警備員というのだから、鍛錬を怠らないストイックな体つきをしているものだと沙生は思い込んでいた。

 そんなことを頭でグルグル考えている沙生とは裏腹に、夜行はこの場の打開策を考えていた。驚くままにこの部屋に入ってしまったが、この部屋に入ってきた入り口以外の扉はない……ように思える(隠し扉でも無い限りは)。それに、この三文という男、まるで戦う意志がないように見える。だから、

「僕たちはあなたを倒して世界線移動装置を手に入れなきゃいけないんです。でも、あなたに戦う気がないなら、ここを通してください」

 勇気を出してきっぱりとそう持ちかけた。

「いいぞ」

「「「「「!?」」」」」

 三文は顔色一つ変えずにそう即答した。正直、頼んだ夜行も、そう簡単にはいかないだろうと思っていたのだが、三文はその上を突いてきた。これには沙生も、守護霊の3人も開いた口が塞がらなかった。

「ま、と言っても、他の侵入者……お前らの仲間はまだ戦ってんだろ?今セントラルタワー行っても、誰も居ねえぞ。だから、ここでちょっと待ってろや」

 三文はそう言って、入り口付近にあった椅子を自分の元へ寄せて、背もたれの上に腕を休めて、前後ろ逆さまに座った。

 夜行と沙生は三文の言うままに、動かなかった。戸惑いながらも、三文の提案を受け入れて、しばらく待機することにした。


「流さーん、待ってくださいよー」

 流の足の後ろでズイの声が響く。

「お前が遅いかどうか見えんが……声が聞こえるくらいには付いてきているようだな」

 今度は流の尻が喋る。

 今二人は狭い通気口の中を匍匐前進で進んでいた。後ろを振り返れる隙間もなく、ズイの方から見ると、前を行く流の尻が喋っているように聞こえる。

 流はさすが忍と言うべきか、匍匐前進が異常に素早い。日常的にこの動作をし慣れていないズイは匍匐前進に苦戦して、なんとか流に付いていこうとするのだが、みるみる内に離されていく。だからその度に大声を出して流に待ってもらった。

 そもそも何故通気口を通っているのかというと、北棟の研究所の通路はロボが多く徘徊していて、見つかる度に交戦していると、キリが無いからである。人間相手なら流は気配を消してやり過ごせるが、ズイもいる上に、生体反応を検知するロボが相手では、忍の術はあまり効果的ではない。そう思った流は、ロボが入ってこれない通気口を伝って、目的の部屋に向かおうとしたのである。

 狭い通気口を進んでいると、突如視界が開けた。狭い通風口の壁が広がり、立つほどの余裕はないにしても、腰を低くすればしゃがんで進めそうなほどの空間が現れた。しかしその空間も長く続いているわけではなく、奥まで3mほどしかなかった。それにその空間の奥には白く輝く壁が見える。

 行き止まりと思いきや、その白く輝く壁の前の床には穴が開いていた。というか、そこが通気口の出口で、白い壁は、通気口の出口と繋がる部屋の壁だったようだ。通気口の出口はその白い壁の部屋の上層の壁に位置していた。

 二人は通気口の中から、下を覗き込む。その部屋は円柱状で、高さは10mほどか。ちょうど9mくらいの位置に、今二人が隠れている通気口がある。

 そして、その空間には、ゆらゆらと前後運動するロッキングチェアに座る、白衣の人物がいた。足を組み、優雅にコーヒーを飲みながら、椅子に揺られて読書を楽しんでいる。

「あいつが警備員か……?」

「白衣だから研究員じゃないですか?」

 流の零した言葉にズイが答える。見たところ、戦うような人物には見えないが……

「気配を消しているつもりだろうが、消えていないぞ」

 突然下から舞い上がってきた言葉に、流とズイは固まる。

「片方は上手いが、もう片方はてんでダメだな。気配の殺し方をまるで分かっていない」

 白衣の人物の言葉は続く。

 流の額から汗が流れる。流は研究所に入ってから、常に気配を消していた。通気口を通る時も、この部屋に来たときも。普段忍として活動する時と同じだ。いつも通りに、やっていた。

 だから、気配を悟られたことに流は冷や汗を流した。この人物は今までに会ったどの相手よりも手練れだ。そう思って警戒心を鋭くした。

「降りて来いよ。私が警備員だ。2人まとめてかかってこい」

 そう言っているが、白衣の人物は未だ椅子に揺られ、本から目を離さなかった。長い指でページをめくり、文字に視線を沿わせている。

 流もズイも、その言動にカチンときた。余裕綽々といった様子で、こちらの方を見もしない白衣の人物。完全にナメられている。そう思い、体が動いた。

 まずズイが降下。椅子に座る白衣の人物の脳天目掛けて、銛の切っ先を向け、真っ逆さまに落ちる。

 銛の切っ先が脳天まであと十センチというところで、白衣の人物は椅子から腰を浮かしてゆっくりと回避。

 しかしズイもそれを見越して、くるっと空中で前転して椅子に着地し、背中を向けた白衣の人物目掛けて、銛を突き出す。

 それと同時に、遅れて流が天井から降ってくる。

水無月流みなづきりゅう……鉄星羅くろがねせいら

 空中で数多の棒手裏剣を放つ流。

 流の棒手裏剣とズイの銛が、白衣の人物の背中を捉えようという時、白衣の人物はぐるんと振り向き、銛の切っ先を右手で掴み、放たれた棒手裏剣を左手に持っていた黒い小刀で捌いて見せた。

 ぐぐっと銛に力を込めるズイに対し、目の前の人物は涼しい顔で、一ミリも震えることなく銛の切っ先を掴む。

 そして白衣の人物は左手に持っていた小刀の頭を親指で軽く押す。すると、小刀がぐにゃりと変形し、黒い物体がもぞもぞ動いたかと思うと、黒い小銃に形を変えた。

 そしてそれを迷い無く銛を持つズイの額へ向けた。

「っ!」

 咄嗟に飛び退く……ことはできず、握ったままの銛を離すこともできず、ズイは思い切り体を反らして、

 ドンッ!

 間髪入れず引かれた引き金と放たれた弾丸をすんでのところで躱し、反った勢いを利用して銛を引き戻そうとしたが戻らず、銛は白衣の人物の手に囚われたままだった。

「くっそ……はなせ!」

 ズイがそう呟いた時、銛を掴んでいた白衣の人物の右手に、サクリと矢が刺さる。

「!」

 さらにその直後、流が白衣の人物の首を狙って苦無くないを振り抜いた。さすがに銛を掴んだままではいられず、白衣の人物は銛を手から離して後ろに飛び退き、苦無を躱す。また流も後ろへ散歩下がり、敵と距離を取る。

 そこで初めて、両者は平坦な地で向かい合い、お互いの顔を見た。

 白衣の人物の顔は、なんとも平凡と言うべきか。どこにでもいる一般人のような、街ですれ違っても絶対に顔を覚えないような、特徴の無い顔だった。髪型もショートマッシュの茶髪という何の変哲も無いもので、純日本人といった雰囲気。唯一気になったことと言えば、目の細さ。糸目で、見えているのかいないのか分からない。

 また服装はというと、上からも見えた白衣の下には黒タートルネックに黒スキニーという、これまた特徴の無い格好。身長は大きめで、下手したら180cm後半くらいあるかもしれない。

 しかしその特徴全てを包み込む圧倒的凡人感。それなのに、先程流を襲った白衣の人物の強者感はどこから来るのだろうか。先程の身のこなしも、容姿からは考えられないほど隙が無いものだった。

「貴様、名は?」

 流が問う。

表裏ひょうり……表と裏で対を為す者だ」

 そう言って表裏は再び持っている小銃を変化させた。今度は黒い物体がうごめいて、綺麗な球に変わった。

 変形させた黒い球体を手で玩びながら、表裏は流とズイを鋭く見つめる。

「お前達は見たところ寄せ集めの兵隊にしか見えんな。先程のコンビネーションも付け焼き刃といった感じだ」

「あ?」

 表裏の挑発にズイは簡単に乗ってしまう。しかし一歩前に出たズイを、横から流の手が制する。

「こちらの事情を分かっているなら、それは事実だと理解できるはずだが?わざわざ確認するなんて、頭が足りないのか?」

 今度は流が鋭い言葉で反撃。

 すると表裏の眉がほんの数ミリ、ピクリと反応した。流はその数ミリを見逃さず、隙を作るタイミングを伺おうと決めた。

「貴様ら如きに頭が足りないなどと言われたくはない。この私の頭脳にケチをつけるほど賢いつもりならば、おめでたいとしか言いようがないな」

「そこまで自らの頭に自信を持っているのなら、得た情報で想定できるだろう。何故自分の頭の中で完結しようとしない?」

 鋭い煽りの応酬。表裏の機嫌により二人称が変わったことも飲み込みながらも流は言葉を途絶えさせない。

 また忍である流と違って本当に頭の足りないズイは黙って様子を見守るほかない。

 ズイを蚊帳の外に置いて、流は言葉を続ける。

「貴様の言うように貴様の頭脳が素晴らしいものならば、何故警備員がそんな頭脳を持つ必要がある?命令に従い戦う兵隊が頭脳を持っているのは、軍師からすると扱いづらいものだ」

 流のその言葉に、密かにヒートアップしていた表裏が失笑する。

「私は元研究員だ」

「!?」

「……」

 ズイはその言葉には驚きを隠せなかった。なぜなら研究員というと、体より頭を使って運動や戦闘とは無縁の生活を続ける、ガリ勉集団だというイメージがあったからだ。

 一方で何も言わない流も、多少の驚きを感じつつ、納得しているようだった。

「現在の博士に異動させられてな。今は警備員という立場に甘んじているが、密かに研究は続けている。これもその一つだ」

 表裏は持っている黒い球体を両手でキャッチボールしながら自慢気に語る。

「与える衝撃によってプログラムを変更し、指定されたモノに変形する球体だ。私は主に武器をプログラムしている。……もう少し私が早く生まれていれば、戦争の時代に間に合い、画期的な装備になっただろう」

 その口ぶりからは、自分に酔っているような様子が見て取れた。

 確かにこの世界は、もう地球の危機、人類存続の危機という人類共通の問題があることで、戦争などやっている場合ではないということなのだろう。国同士で醜く争うフェーズは終わり、地球のため、人類のために協力して問題解決をしようというフェーズに達しているのだ。戦争のない世界という意味では、全世界の人間が長年提唱してきた世界平和という幸福には違いないのだろうが、目の前に滅亡が迫っている状況では、それを享受する余裕もない。実に全世界の人間の幸福とは得がたいものなのだなと流とズイは感じた。

 しかしそんなことよりも、表裏の持つ得体の知れない武器を流は警戒したかった。その仕組みを説明されたとはいえ、横文字が多くてよく分からなかったし、どんな武器が仕込まれているか分かったもんじゃない。ただでさえ、この世界でどんな武器が開発されているかも把握しきれていないのに、未知の武器を仕込まれていたら対応ができない。

 だからできる限り情報を引き出さないと、まともにコイツと渡り合うのは無理だ。忍は基本、情報を集めてから任務を行う。正直、シュウからもらった情報だけでは足りない。

 2対1という状況であっても、先程の気配読みと、未知の武器があっては、表裏の方が優勢だろう。

「さて、どうするか……」

 目の前の強大な敵を、二人は唇を噛んで睨み付けた。

※2025/07/29 加筆・修正しました。

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