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Parallel Lab  作者: 古今里
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ドッペルゲンガーとパラレルワールド

 ダンッ!という音と共に、畳と布がこすれる音が聞こえる。青い髪を振り乱しつつも、相手の上に覆い被さらないよう、体勢を保つ。「そこまで!」と審判の掛け声がかかり、体勢を戻して胴着の乱れを整えた。投げ出された相手の選手も姿勢を戻し、二人は向かい合わせに立った。汗が頬を伝い、首を伝って胸元に流れ落ちる。

「そこまで!」

 その声と共に審判が右手を挙げる。選手二人は一礼をし、相手の元へ歩み寄る。相手と握手を交わし、その場から離れようと踵を返した時、手合わせの相手、一徹が話しかけてきた。

蒼啓そうけい、さすが優勝者様々だな。ちっとも腕なまってねえじゃん」

 一徹は短めにカットした黒い髪にタオルを押しつけ、汗を拭いていた。一徹は蒼啓の幼馴染で、ここは一徹の親が運営する道場である。蒼啓は五歳の頃からここへ通い、稽古を続けている。この道場は睦月越宝流むつきえっぽうりゅうという流派で、柔術、格闘などいろいろな武術を掛け合わせた流派だそうだ。その由来は江戸時代にあり、元々あった越宝流という武術の流派に睦月流という流派が混ざってできたらしい。そんな風に伝統のある流派だからこそ、睦月越宝流は全国に道場を持っている。一徹の親が運営するこの道場もその一つで、また他の地域にも睦月越宝流の道場はあり、全国大会なども開かれていて、その大会で何度も優勝するほど、蒼啓は才能に満ちあふれていた。

 一徹の賞賛を受け、汗をタオルにしみこませながら蒼啓は答える。

「いや、これでもなまってる方だよ。最終学年じゃ体育もあまりないし。部活も引退しちゃったしさ」

 最終学年というのは蒼啓や一徹が通うスクールの十回生という意味である。現在の日本において子どもは六歳から十六歳までスクールに通うことが義務づけられている。六歳は一回生、七歳は二回生……という風に呼び名が決まっている。日本の子どもたちはスクールに在籍する十年間で学力、体力はもちろんのこと、社会性や協調性を身につけ、卒業後二年間のインターンに備えるのである。この仕組みは二十一世紀に少子高齢化が深刻になった時にとった教育改革の名残であると伝えられているが、そんなことは現代の人々にとってみればどうでもいい話である。十回生はインターンの準備期間ということで、人によっては資格取得や試験勉強などの理由で忙しくなるため、授業が他の学年に比べ少ない。また十回生は夏で部活を引退するため、蒼啓に限らず、多くの十回生が運動不足に陥ることは明白であった。

「俺なんかほぼ毎日道場に顔出してたのに……」

 一徹は実家が道場ということもあり、寮生活のかたわら、時間に余裕ができた十回生の間は毎日道場に顔を出していたようである。一徹の実力は道場の上位五人の中に入るか入らないかといったところであるが、誰よりも努力を続け、親の名に恥じぬよう努めてきた。そんな努力を知っているからこそ、蒼啓は一徹に対し励ましの言葉を投げかけた。

「お前だって努力してるじゃないか。いつかこの道場継ぐんだろ?」

 寮に戻る準備をしながら二人は会話を続ける。

「まあな。でもこの実力じゃ継がせてもらえないだろうな。せめて一回ぐらい大会で優勝しないと」

 一徹の言う通り、彼はまだ全国大会で優勝したことがなかった。入賞はあっても、優勝まではいったことがない。せめて一回ぐらい優勝しないと……と彼の親がそう漏らしていたのを聞いたことがある蒼啓は、それ以上何も言えなかった。

「……」

「まっ、くよくよ考えてても仕方ねえ!別の話!別の話!」

 一徹がそう言って話題を切り替えようとしたのを見て、蒼啓は内心ほっとした。

「そうだな!明日の話でもしようぜ」

 寮への帰り道をたらたら歩きながら、二人は明日の楽しみについて語り合う。そう、明日は卒業式である。と言っても、卒業式が楽しみなのではなく、大事なのはその後であった。

「シマんちで焼肉!楽しみだぜー」

 焼肉。食べ盛りの彼らにとって、これ以上の楽しみはない。蒼啓と一徹の共通の友人であるシマは実家が焼肉屋で、蒼啓たちは何かとお祝い事の日に通い続けていることもあり、常連ということで格安で焼肉を食べさせてもらっているのである。明日も、卒業式ということで蒼啓、一徹、シマ、それからもう一人の友人ハチと共に卒業祝いをしようということになっていた。

 蒼啓は明日のことを想像すると、それだけで涎がでてきた。涎をゴクンと飲み込みながら、蒼啓は何事もなかったかのように続ける。

「朝から腹すかせて行くぜ」

「いやお前は答辞なんだから。答辞の途中で腹鳴ったら笑ってやるぞ」

 そう。蒼啓は答辞を読まなければならないのであった。蒼啓は睦月越宝流の選手として数々の大会で優勝しているかたわら、勉強面でも隙が無い男だった。成績は常に学年トップ。蒼啓自身、何の努力もしなかったわけではないが、何かに死に物狂いで努力した経験はなかった。勉強も運動も少しの努力と満ちあふれる才能で頂点に立った男、それが蒼啓であった。

「それもネタになるんじゃね?」

 そんなことを言い合って笑いながら、二人は寮への道のりを歩いて行った。


 卒業式当日。桜の花がひらひらと舞い落ちる春の日に、スクールの十回生、九回生と教師たち全員が講堂に集まり、卒業式が執り行われた。

「卒業生、答辞」

 抑揚のない声で司会が卒業生の代表を呼んだ。

「ハイ」

 蒼啓は大きく息を吸って返事をした。数々の大会で優勝しているおかげで、こういった式典の場に慣れている蒼啓は、落ち着き払った様子で赤いカーペットを一歩一歩踏みしめて歩いて行く。いつもは着崩している学ランも、今日ばかりはきちんと整えている。壇上に上がり、全生徒の前に立つと、十年間の思い出が走馬灯のように蘇ってきた。思わず涙があふれそうになるのを抑え、蒼啓は大きく息を吸って、言葉を紡ぎ出す。

「暖かな春の日差しに包まれ、花の蕾も芽吹くこの季節に、私たち十回生は卒業の日を迎えました」

 蒼啓の紡ぎ出す言葉は時に思い出を彷彿とさせ、時に苦労し努力した日々を思い出させる。蒼啓の答辞を聞き、嗚咽を漏らし泣き出す者もいれば、静かに涙を流す者もいた。

「スクールのますますのご発展と先生方のご健勝を祈念し、答辞といたします」

 最後に日付と名前を言い、蒼啓は答辞を終えた。前を見ると、自分を見ている者、俯いて泣いている者、天井を仰いでいる者と様々だった。壇上から降り、また一歩一歩踏みしめて歩く。すると、抑えていた涙があふれ出し、蒼啓の目を濡らした。


 卒業式が終わり、担任の先生の長い話も終わって、蒼啓はまだ何人かが残る教室で自分の席に座り、制服を着崩そうとボタンに手を掛けた。

「蒼啓、答辞お疲れさん」

 真っ先にそう言い近づいてきた一徹が、蒼啓の肩にぶつかってきた。その後からついて来た二人はシマとハチである。

「答辞良かったぞ」

「まあまあだったな」

 シマは心から蒼啓の答辞を誉め、一方ハチは負け惜しみとも言うべき言葉を吐いた。ハチは蒼啓の良きライバルであり、勉強面、運動面共に競い合い、高め合ってきた。ハチは勉強面では蒼啓に続き二位をとり続け、運動面では蒼啓とは別の種目で全国大会優勝を飾った成績もある。ハチ自身も非常に成績の良い人物なのであるが、本人は蒼啓に「負けている」と認識しており、何かにつけて蒼啓に勝負をふっかけていた。

「お前に勝ち逃げされた気分だぜ……」

 ハチはがっくりと肩を落としながらそう呟いた。もう三人からはハチの表情は見えず、ハチの金色に輝く髪しか見えない。それを見たシマは慌ててハチをなだめる。

「いやいやお前も十分すごいって」

「そうそう」

 一徹も慌ててシマに続く。

「なんてったって!二人とも一流企業行きだしな」

「そうそう!俺たちからしたら蒼啓もハチも充分すごいって!」

 一徹とシマがハチを褒めちぎるが、その甲斐なくハチはどんどんしょんぼりとしていく。

「俺が負けたことには変わりない……俺が答辞言いたかった……ブツブツブツ」

 ハチが下を向いてブツブツと呟くようになると、蒼啓・一徹はため息をつき、シマは額に手を当てて「あちゃあ」という顔をした。

「また始まった」

「よし、じゃあ早めに焼肉行くか」

 蒼啓は席を立ち、一徹と肩を組んで歩き出す。

「はいはいハチ行くよ」

 シマがハチの背中を押して、四人で教室を出て行く。長い学校生活の大部分を過ごした教室との別れだった。


 ハチの介護をシマに任せ、蒼啓と一徹は寮の廊下を歩きながら話をしていた。

「いやあでもお前もハチもすごいよ」

 一徹は先程教室でした話の続きをしようと蒼啓に話しかけた。

「まあな」

 蒼啓は自慢げに答えた。ハチがいる時はあまりこういった様子を表に出すことはないが、蒼啓は自分の功績を誰よりも誇らしく思っていた。だからこそ、幼馴染である一徹の前では自分の正直な気持ちを答えた。

「なんだむかつくなこのやろー」

 一徹は蒼啓の肩をバシッと叩き、笑顔でそう言った。叩かれた蒼啓も笑顔だった。その笑顔からは、蒼啓も一徹も、少しの機嫌も損ねていないことが見て取れる。彼らにとっては何気ない日常の会話であるが、その日常は今日で終わりなのだと二人はとうに知っていた。蒼啓は一徹とは別の会社へ入社する予定であり、二年間のインターンの間でも休みはあるものの、忙しくて会えなくなることは明白であった。

「……」

「……」

 その事実を知っていたからこそ、会話がうまく弾まなかった。二人の間を風が吹き抜ける。無言が続いていた。

「そ……」

「あれ!?蒼啓!?」

 一徹が蒼啓の名を呼びかけた時、思わぬ場所から声が聞こえた。

「?」

「あ!やっぱり蒼啓だ。なんでここにいんの?」

 その声の主は蒼啓と一徹のクラスメイトであった。そのクラスメイトは首をかしげてそう言った。

「は?」

 蒼啓はその質問の意味が理解できず、思わず不躾な返答になった。

「なんでここにいるの……って、寮への帰り道だよ」

 完全に思考停止している蒼啓の横で、一徹が代わりに答えた。

「え?いや、蒼啓さっき職員室の方に歩いてったじゃん?いつの間にこっち来たのかなって」

「え……?」

 クラスメイトの予想外の返答に、蒼啓はまたもや思考停止した。

「いや、俺職員室の方通ってないけど……」

 一時思考停止したものの、今度は蒼啓が答えた。職員室は寮への帰り道とは完全に逆方向である。この時、蒼啓の頭の中には一つの仮説が浮かんでおり、この言葉はそれを振り払いながらやっとのことで絞り出した言葉であった。

「え?あれ絶対蒼啓だと思ったんだけどなー」

「おいおい、ドッペルゲンガーかよ」

 クラスメイトと一徹は笑いながら答えるが、蒼啓はそれどころではない。

「えっホントに俺だった?似た奴とかじゃ……」

 蒼啓は不安を取り除こうとクラスメイトに詰め寄った。蒼啓は何よりオカルトの類いが苦手なのである。クラスメイトの言葉を聞いた時、蒼啓は瞬時に自分のドッペルゲンガーがいたのかもしれないと真っ先に考えつき、思考停止した。こういった事象は、苦手な人ほど、深く詳しく考え込んでしまうものなのである。

「い、いや、髪青かったし、服装……は違ったかも?」

 詰め寄る蒼啓の気迫に押され、クラスメイトはしどろもどろになりながら答えた。

「髪青いのなんて蒼啓ぐらいだよな」

 一徹が蒼啓の髪を掻き上げながらそう言った。

「で、でも服装違ったんだろ!?俺ずっと学ランのままだし!よし!Q.E.D!」

 蒼啓は汗をかきながら両腕を水平に広げ、「セーフ」とばかりに必死にそう言った。蒼啓としてはなんとしてもドッペルゲンガー説を濃厚にしたくなかったのである。この話題を打ち切るかのように、蒼啓はクラスメイトの持った荷物を指さした。

「そ、それ!大荷物だな!どうした!?」

 不安でテンションが変になっている蒼啓は、大声で不安をかき消すようにクラスメイトに尋ねた。

「ああ、これ?引っ越しの荷物だよ。俺明日にはここ出てくから」

 クラスメイトは蒼啓の思惑通り、ドッペルゲンガー説から離れ、自分の荷物について話し出した。蒼啓は心の中でガッツポーズをした。

 このクラスメイトのように、全ての学生は卒業と共に学生寮を出る。その時期はインターン先によって変わり、このクラスメイトは卒業後すぐに会社の寮へと移るらしい。学生寮に居ることができるのは三月三十一日までで、卒業生は全員それまでに順次寮を出て行くことになっている。

「そ、そうか。大変だな。」

 蒼啓は内心ほっとしながら話題を進めた。心にもない……わけではないが、わりとありふれた言葉をクラスメイトにかける。

「いや、俺なんかは荷物少ないほうだと思う。もっと多い奴見たしな」

 クラスメイトはにこやかな笑顔で言葉を返す。その笑顔を見て、蒼啓は少し悲しくなった。もうすぐこの見慣れたクラスメイトの笑顔も見れなくなる。そう思うと心に来るものがあった。

「じゃ、俺作業に戻るわ。蒼啓、元気でな!一徹も!」

 クラスメイトはそう言ってさわやかに身を翻し、去って行った。去り際、蒼啓と一徹に挨拶をして。

「俺おまけかよ」

 一徹が不服そうにそう漏らした。


 その後蒼啓と一徹は二人の幼少期の話をしながら、寮の廊下を歩いていた。そのうちに二人は部屋の前までやってきた。二人の部屋は、隣同士である。左側に蒼啓、右側に一徹の名字を記した表札が並んでいた。二人は玄関の鍵を開け、ドアノブに手を掛けた後、一度お互いを見合った。

「じゃ、あとでな一徹」

「ああ。寝んなよ蒼啓」

「寝ねーよ!」

 そんな会話を交わし、二人は揃って玄関の鍵を閉めた。


 玄関から続く廊下をパタパタと歩き、自分の寝室のドアを開ける。ドアを開けて中に入ったと思うと、バタン、と蒼啓はベッドに体を投げ出した。「寝ない」と宣言したにもかかわらず、思わずベッドに身を投げ出してしまったのは、答辞と先程の不安による疲れがどっと押し寄せたからである。

「ふー」

 大きく息を吐き、先程までの不安により高鳴った心臓の音を整えていく。ベッドの脇にある棚に目をやると数々の大会優勝、成績の表彰のメダルや盾、賞状が目に入る。どれもこれも、蒼啓が十年間で得た功績だった。それを見て蒼啓は、十年間の思い出を頭に巡らせる。そのうち、頭がだんだんと思考を止め始めた。それにつれ蒼啓の意識も薄らいでいく。幸せな十年間の思い出に浸りながら、蒼啓は眠りについた。


 ヴー、ヴー、と無機質な電子音が部屋に響く。蒼啓の瞼がかすかに揺れ、一定のリズムを奏でていた寝息もかすかに乱れる。電子音の正体はスマホである。液晶には電話の呼び出し画面と「シマ」の二文字。電子音が鳴る度に蒼啓の瞼がだんだんと開いていくが、真正面に光る蛍光灯を見た蒼啓の目は、三日月のように弓なりに細められた。まだ睡眠から戻らない頭をもたげ、頭の近くにあったスマホの液晶をのぞき込む。その間も無機質な電子音は蒼啓の睡眠を妨害し続け、「起きろ」と命令する。その音を聞き飽きた頃、蒼啓は画面をタップして電話に出た。

「おっ、出た!蒼啓何やってんだよ!」

「今起きた。ごめん。今何時?」

 けだるげな声で蒼啓はスマホに声を掛ける。

「もう一時だよ!もう俺二時間もハチの愚痴聞いてんだけど!?」

「あー。ごめん。寝てたわ」

「知ってるよ!一徹も連絡つかねえし!あいつも寝てんだろどうせ!」

「あー?一徹来てないの?」

 まだ眠りから覚めきらない頭で蒼啓は聞き返す。

「来てないよ!俺だけでハチの愚痴聞いてるのもう無理だよ……まじで……」

 シマはかなりまいってるようで、その様子を感じた蒼啓は少し申し訳なくなった。またそうこうしている内に蒼啓は完全に覚醒していて、頭も舌もよく回る状態になっていた。

「ごめんて。今から行く。一徹も連れてくからもうちょい頑張ってて!」

 そう告げると蒼啓は一方的に電話を切り、ベッドから立ち上がる。ベッドの側にある姿見で寝癖や制服の乱れを直し、ドアに近づいた。

 ガチャ、とドアが開いた。もう一度言う。ドアが、ひとりでに開いた。

「え?」

 ギィィィときしむ音を立て、ドアがひとりでに開いていく。だんだんと見えていくドアの向こうの光景に、蒼啓は頭が真っ白になった。

 そこには、蒼啓と全く同じ顔をした人物が立っていた。蒼啓と同じ青い髪、青い瞳に目鼻立ちの整った顔、しかし違っているのは、服装。蒼啓は学ランを着ているのに対し、その人物は白衣を着ていた。シャツ、ネクタイにズボン、どう見ても医者か研究者にしか見えない服装のその人物は、蒼啓を見て、ゆっくりと微笑んだ。

「……」

 蒼啓はしばらく思考停止して、その場から動かなかった。いや、動かなかったのではない。動けなかったのだ。先程感じた恐怖が、再びぶり返してきたことで。一徹とクラスメイトが言っていた言葉が蘇る。

「ドッ……ドッペルゲンガー……」

 蒼啓はなんとか声を発したが、目の前に居座る恐怖に勝てず、尻餅をついた。蒼啓が動けなくなっている隙に、その人物は部屋の中へ入ってきて、バタンとドアを閉めた。

「ふむ……」

 謎の人物は盾やメダルが飾られている棚に目をやると、その中の一つに目を留め、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて呟いた。

「やっと辿り着いた……成績優秀、運動神経抜群、加えて睦月流か……うん、いいね」

 謎の人物は部屋の中を見回しながら、ブツブツと独り言を言っている。一方で蒼啓は恐怖のあまり腰が抜けているため、逃げることができない。そもそも部屋の唯一の出入り口であるドアの前に謎の人物が立っているので逃げられるはずもなく、蒼啓は恐怖で固まったまま謎の人物を見上げていた。

 すると、謎の人物は部屋を見回していた目を蒼啓に向け、こう言い放った。

「ねえ君。君に、全世界の未来を託す」

「……は?」

 恐怖でいっぱいだった蒼啓の頭は、一瞬にして思考停止に追い込まれた。謎の人物の言葉が理解できず、思ったままの疑問を謎の人物にぶつけた。

 一方で謎の人物はというと、白衣のポケットから何かを出し、蒼啓に投げてよこした。

「これ、持ってて」

 ひょいと蒼啓に投げてよこしたそれは、手のひらサイズのきれいな水晶玉のようなもので、充分磨かれているのか、蒼啓の顔がきれいに映っていた。

「お、おいこれ何だ……」

 よ、と言おうとした蒼啓の声帯がヒュッと音を鳴らした。謎の人物は蒼啓に銃を向け、真剣な表情でこう言い放った。

「いいかい?研究所を壊すんだ」

 そう言い終えると同時にバァンッという銃声が部屋に響き渡る。銃弾は蒼啓が持っていた水晶玉に命中した。バリィンッと水晶玉が割れると音と同時に、蒼啓の部屋の壁に亀裂が入った。いや、壁に亀裂が入ったのではない。蒼啓のいるこの空間、背景そのものに亀裂が走ったのである。その亀裂は蒼啓以外、もちろん謎の人物にも及び、それらが割れると、その割れた中から新しい背景が広がっていった。

 蒼啓は銃声がしたときに目を瞑ってしまったため、その変化には気がつかなかったが、水晶玉と背景が割れる音だけは耳に残っていた。おそるおそる蒼啓が目を開けると、そこには先程とはかけ離れた景色が広がっていた。

「え?」

 蒼啓の寮だったはずのその部屋は、壁紙が剥がれ、机はボロボロのまま横倒しになっており、割れた窓ガラスからはヒューヒューと風が吹き込んでいた。先程まで寝ていたベッドも跡形も無く消えており、そこには割れた花瓶が転がっていた。壊れかけの棚にも、先程まであったメダル、賞状、盾はなく、写真のない写真立てが一つ飾られているだけだった。

「さっきの奴は……?いや……それより、ここは……どこだ?」

 蒼啓が立ち上がり、辺りを見回そうとすると、ガシャアンッと窓ガラスが割れる音が背後で響く。蒼啓が振り向く前に、窓ガラスを割って侵入してきたモノがピィー、ガガガッと音を立てる。

「ニンゲン発見。捕獲シマス」

 侵入してきたモノは人間くらいの大きさのロボットだった。その機体は驚くほど白く、荒れ果て汚れたこの部屋には似合わない白だった。四足歩行で動いているのか、ゴツゴツとした二本のアームに、足は膝らしき場所にキャタピラがついており、どうやら膝を曲げればキャタピラで移動できるようになっているようだ。顔は四角く、モニターのような画面が埋め込まれている。その異質さに怪訝な目を向ける蒼啓は、自分に向けられた敵意を感じ、反射的に臨戦態勢を取った。

 目の前のロボからどう逃げようか、それだけを蒼啓は考えていた。正直言ってここがどこなのか、謎の人物はどこへ行ったのかなどはそっちのけで、身の危険を感じていた。この荒れ果てた空間に似合わない小綺麗なロボの存在。それに加えロボが今さっき発した「捕獲」の言葉。幼い頃から鍛えてきた勘が、「危ない」と言っている。だから蒼啓は臨戦態勢を取った。

「(コイツ……捕獲って言ったな……人の言葉をしゃべってる……)」

 蒼啓は冷静に状況を整理する。蒼啓はオカルトにはめっぽう弱いが、自分に対する敵意には敏感だ。幼い頃から睦月越宝流で鍛えてきたから、敵意に対する対処は散々学んでいた。もはやそれらは体に染みついている。また、相手は幽霊でもドッペルゲンガーでもない。少し異様とはいえただのロボである。「捕獲」という言葉に反応し、蒼啓の心に勇気が生まれた。

「お前は言葉が話せるのか?」

 蒼啓は試しにロボに話しかけてみた。人の言葉が話せるなら会話も可能ではないかと思ったからである。会話ができれば情報を引き出すことができ、今の状況も説明できるかもしれない、と蒼啓は瞬時に考えた。

「捕獲シマス!」

 次の瞬間、ロボはまっすぐ蒼啓の元へ突っ込んでいき、大きなアームを振り上げた。

「っ!」

 振り下ろされたアームを避けながら、蒼啓はロボの背後に回る。

「(会話はできそうにないな)」

 とりあえず狭い部屋の中では不利だと思って、蒼啓は割れた窓から外へ出る。

「ニンゲン逃げた!追跡スル!」

 そう言ってロボも割れた窓から外へ出てきた。とりあえず外へ出たが、それは吉か凶かで言えば凶であった。ロボが外にも数体待機していたのである。蒼啓は数体のロボに囲まれる形となってしまった。

 しかし蒼啓は動じない。一対多の訓練なんぞ、体に染みついているからである。

「……機械は殴ったらダメだと教えられてきたけど……しょうがないな」

 ふう、と一息ついて、蒼啓は技の構えを取った。

 次の瞬間、蒼啓はまず一番近くにいたロボに素早く近づき、ロボが捕獲用の網を振るう前に拳を突き出し、ロボの頭部と思わしき部分を粉砕した。ガシャァン!と大きな音を立ててロボが倒れるよりも早く、蒼啓は振るった拳を翻し、その隣にいたロボを粉砕する。

「ナメるな!ニンゲン!」

 そう言って背後から網を振りかぶった二体のロボも、蒼啓の足によって頭部を粉砕された。目の前の敵に対してふるった拳を戻す前に、蒼啓は体をひねり、腰を軸に回転させて足を振るったのである。

 そうやって拳と足を振るい続けると、いつの間にかロボはいなくなっていた。足下にはロボだった鉄くずが散らばっていた。

「ふう……おさまった……か?」

 蒼啓は周りを見渡し、ロボがもういないことを確認すると、どかっとその場にあぐらをかいた。

「はあー……もうワケが分かんねえ……」

 蒼啓はもう一度辺りを見回し、呟く。

「ここどこだよ……」

 蒼啓は頭を抱えた。今の今までロボに襲われ、流れでなんとなく戦ってはいたが、改めて考えてみるとおかしい状況に蒼啓は頭を悩ませる。自分と瓜二つの人物に水晶玉を渡され、銃で撃たれたと思ったら全く知らない場所にいて、ロボに襲われた。考えれば考えるほどワケが分からない状況に、蒼啓は危うく思考を放棄してしまうところだった。

 なぜ蒼啓が思考を放棄しなかったか。それは、この状況を説明する答えが、空から振ってきたからである。

「やるねえ君。強いじゃないか」

 突如頭上から振ってきた声に、蒼啓は驚いて顔を上げる。見上げた家の屋根の上には、人影があった。

「?」

「やあ」

 その人物はにっこり笑って家の屋根の上からひらひらと手を振る。蒼啓がロボと戦っている様子を上から眺めていたらしいその人物は、手を振り終えると「よっ」という掛け声と共に屋根から降りてきた。

 蒼啓は前に立った人物を見て驚いた。雲衝くばかりの大……男?女?とにかく大きいのである。ざっと百九十センチくらいはあるのではないかという背丈に、弁柄色の袴に象牙色の着物、腰まである艶やかな黒髪は頭頂部でまとめて、組紐で結んである。華奢ではないが、体つきからして筋骨隆々という感じはしない。だが謎の圧がある。その切れ長な目と、浅緋の瞳からは何も感じられない。形容しがたい威圧感に押されながらも、蒼啓は口を開いた。

「誰ですか?あなたは……」

 自分より明らかに年上のように見えるその人物には、蒼啓は敬語で話しかけた。

「私はシュウと言う者だ。このあたりをうろついている」

「……」

 そんな徘徊みたいに……と思ったがそれはともかく、やっと話の通じる人に会うことができ、内心ほっとしている蒼啓は、次の質問を投げかけた。

「あの、ここはどこですか?」

 先程までいた寮の自室とはまるで違う光景だった家の中から抜け出しても、その疑問は解決しなかった。むしろより疑問が増したと言ってもいい。家の外はひび割れた道路、潰れた家、ゴミや雑草があちこちに点在しており、蒼啓が今までいた世界とは別物であった。

「君の思い描く答えはなんだい?」

 質問に質問で返されたことを少しムッとしながらも、蒼啓は自分の正直な意見を答えた。

「まるで……違う世界に来たみたいです」

「当たりだ」

 シュウは人差し指と親指を立てて、ウインクしながら答えた。

「ここは君の生きていた世界とは違う世界……同じ時間軸に平行に存在する、パラレルワールドなんだよ」

 シュウのまるで決め台詞のような説明に、蒼啓は困惑した。

「ここが……パラレルワールド?」

 蒼啓はしばし考え込みながら、今までの光景を振り返る。ドッペルゲンガーに会ったと思ったら、銃で撃たれ、全く知らない土地に来てしまった。確かに、見知らぬ地、見知らぬロボットの存在、何もかもわからぬ状況に、何か答えをつけるとしたら、シュウの言った言葉ほど辻褄の合うものはなかった。

 シュウは蒼啓の疑問を無視し、続けた。

「水晶玉のようなものを見なかった?あれは世界線を移動するための装置でね。正式名称はポータブルクリスタルと言って……」

「なんですかそれ!名前ダサッ!」

 ペラペラとしゃべるシュウの言葉を頭に入れつつ、蒼啓は気になった言葉に反論する。

 その言葉を聞いたシュウは肩をすくめ、「私が決めたんじゃないしー」と呆れ顔で言う。

 しかしそこは冷静な蒼啓、シュウの言葉に反応を示しながらも、同時進行で頭をフル回転させる。

「(パラレルワールド……都市伝説みたいなもんだと思ってたけど……存在するのか?少なくともここが日本なのは日本語通じる時点で確実だよな……でも、まだどこか俺の知らない日本のどこかって可能性も……いや、それにしたって俺のいた所から瞬時に別の所へ飛んだなんて考えられねえ……)」

「おーい、おーい」

 蒼啓は自分を呼ぶ声にハッとして顔を上げる。

「聞いてる?」

 シュウはちょうど蒼啓の顔の位置に合わせて腰を曲げ、首を傾けて蒼啓の顔をのぞき込んでいた。

「あ、いや」

 蒼啓はシュウの不思議な圧に気圧されながらも、口を開いた。

「あの、今は何月何日ですか」

 蒼啓はパラレルワールド説を確かめるため、質問を投げかけた。

「んん?最近暦なんて気にしてないからなあ……この前研究所行ったときは三月十日だったっけ……じゃあそこから五日で……三月十五日だ!」

「そうか……」

 もうこの時点で、蒼啓はシュウの言った言葉を受け入れ始めていた。オカルトが怖い蒼啓は都市伝説など信じたくない気持ちがあったが、考えるのに疲れ、何よりシュウの言葉に謎の説得力を感じていた。

「もう一つ聞いてもいいですか?」

 蒼啓はついにパラレルワールド説を決定づける質問を投げかける。

「ん?」

「ここは東京ですか?」

「ん?ああ……元東京だな。もう日本にはこの街以外ないのよ」

「え?」

「日本はどこも住めなくなってね。ほとんどの人は海外に出てったし、日本で地上に残ったのは唯一東京にある研究所だけ。まあ直に海外も住めなくなるだろうけど」

 シュウが語ったこの世界の現状を、蒼啓は頭の中で反芻した。ここは確かにさっきまでいた、自分が通っていた学校も、寮もあった東京の街。しかし別の世界線に飛ばされた。新たな世界の東京は人の消えた、荒廃した街だった……まとめるとこんなところだが、蒼啓はその事実を受け入れ、頭を整理することができた。

 しかし、肝心の謎が解けていないのである。なぜこの世界に飛ばされたのか、先程のシュウの説明を聞いてはいたものの、そんな瞬間移動を、しかも時空を越える移動を可能にするものが現代の科学力で作ることができるのか、蒼啓は単純に疑問だった。

 そんな蒼啓の疑問をよそに、シュウは説明を続ける。

「研究所は近い将来地球に住めなくなるという予測から、宇宙で生きていくために人類を改造しようとしているんだ」

 突然始まった脈絡のない話に蒼啓は困惑する。

「え?何の話ですか?」

「君たちがここに呼ばれた理由さ」

 シュウはチャーミングに人差し指を口に当てながら話を続ける。

「まあ最後まで聞いてくれ。人間を改造するにはやっぱ手本になるサンプルが必要なんだよ。だけど宇宙で生きられる人間なんてこの世界にはいない。そこでだ。別の世界線からサンプルを取ってくることにしたのよ」

 突然始まった科学的な話に、蒼啓はついて行こうと努力した。。

 シュウはそのまま続ける。

「他の世界線なら、進化を遂げた人類や、貴重な技術を持った人材がたくさんいるだろうと研究所は考えたらしい。いろいろなサンプルと知恵を借りた方が研究も早く進むからね。世界線を移動できるようにして、研究所に別の世界から呼び寄せた人を集めたんだ」

 シュウはそこまで説明すると、蒼啓を指さして言った。

「その被害者が君たちってワケ」

 シュウの説明を最後まで聞いて、蒼啓は納得すると同時に口を開いた。

「『君たち』ってことは……俺以外にもいるのか。飛ばされてきた人が」

 独り言だったが、シュウはそれに答えてくれた。

「いるよ。たくさん。この街にもね。ポータブルクリスタルは行き先を研究所に設定しているんだが、世界線を越える時になぜかズレが生じて、対象が研究所付近の街に散るんだ。だからその人たちを回収するためのロボたちが街を徘徊しているのさ」

 現在自分の置かれている状況を確認することができた蒼啓は、改めて自分の危機的状況に焦りを感じた。もう人もいない街に放り出されて、どうやって生きていけばいいのだろう。そもそも元の世界に帰れるのか。そんな疑問が頭の中を駆け巡り、思わず顔が強張った。

「そこで本題なんだけど……」

「?」

「今研究所を襲撃して元の世界に帰るための計画を立てているんだ。戦える人を集めていてね」

 そこまで言うとシュウは真剣な顔つきになって、蒼啓の目をまっすぐ見据えた。

「君、元の世界に帰りたいかい?」

 蒼啓はすかさず口を開いた。

「当たり前じゃないですか!」

 シュウは顔色一つ変えずに蒼啓の言葉を聞く。

「いきなりこんな世界に飛ばされて大人しく研究所に捕まる気はありませんよ!それに……」

 蒼啓は飛ばされる前に会ったドッペルゲンガーについて思考を巡らせていた。あれは一体なんだったのか。今向こうの世界で何をしているのか。もしかしたら自分に成り代わっているかもしれない……と考えるとゾッとした。

 蒼啓が怖い顔をしている一方で、シュウはにっこり笑顔でこう言った。

「私としては君も是非メンバーに入れたいと思っているんだけどね。他の仲間には戦える奴を連れてこいと言われてるんだ」

 だから……とシュウは続けた。

「君を試させてくれ」

 と、言った途端、ドォンッと地鳴りがした。

「!?」

 蒼啓は波のようにうねる地面から離れそうになる足を、必死で踏ん張った。腹の底を震わすほどに鳴り響く重低音に驚きながらも、蒼啓は辺りを見回した。

「お、来たかな?」

 シュウは余裕の表情で腕を組みながら仁王立ちしている。

「君に言い忘れていたことがあった」

 シュウが口を開いたが、蒼啓は地面の揺れでそれどころではない。

「さっき君が倒したロボはね、壊すと仲間を呼ぶんだ」

「え!?」

 蒼啓は驚いたのではない。聞き返したのだ。こちらに向かって近づいてくる重低音で、シュウの声が聞こえなかったのである。

 シュウは構わず続ける。

「最初に君が倒したのは偵察ロボ。何の戦闘能力もない人はこの時点で捕まる。でも……」

 揺れる地面になんとか食らいつきながら蒼啓は必死でシュウの言葉を聞こうとする。

「偵察ロボじゃ手に負えないほどの戦闘能力を持った人間がいたら……」

 その瞬間、突然シュウの背後の家を突き破って、さっき蒼啓が倒したロボの十倍はあるであろう巨大なロボが現れた。家の瓦礫が飛び散る音と共に、ピーガガガッとロボから音が発せられる。

「こんな風に、より戦闘に特化したロボが派遣されてくる」

 シュウは巨大なロボを前にしても(実際はシュウの背後にロボがいるのだが)、呑気に説明を続ける。

「緊急信号ノ場所ニ到着」

 やってきたロボはそう言葉を発すると、蒼啓に標準を合わせた。

「人間発見。捕獲シマス」

 ロボはさきほどの小さいロボよりもやや低い音でそう言った。蒼啓の頭に警鐘が鳴る。先程よりも明らかに手強い相手。戦うにしても大きすぎるため、蒼啓は逃げるべきだと判断する。

「やばい……シュウさん!逃げま……」

 ロボに釘付けになっていた目をシュウの元へ戻す蒼啓。しかしそこにはもうシュウの姿はなかった。

「!?」

「さっき君を試すと言ったよね」

 背後から声がした。蒼啓はすかさず振り返る。向かいの家の屋根の上にシュウは立っていた。

 シュウは驚く蒼啓を見下ろしながら、悪戯っぽい笑みを浮かべてこう言い放った。

「この街で三日間、生き延びることができたら、仲間に入れてあげよう」

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