職場の中国人労働者が一時帰国した話
寒いんで、暖かくして下さい。
私の職場には中国人がいる。
高身長のスキンヘッド、四角いメガネをかけたひょうきんなSさんだ。
彼は私に会う度に自分の労働条件の話をする。
「私は××万貰ってるんですヨ〜」
とか、
「アナタ、モッタイナイ!もっと給料増やしましょう、ガンバル!」
とか。
ただ、金の話を抜きにしたらスーパーナイスガイ。仕事も頑張るし。コーヒー奢ってくれるし。
そんなSさんは先月から1ヶ月ほど休みをとっている。
父親の訃報が実家から届いたらしい。
私が既に父親が亡くなった事を覚えていたSさんは、帰国する前にこんな質問をしてくれた。
「自分の父親が死んだ時って、どのような感じでしたか?」
私はどんな感じだっただろうか。
と思いつつ返す言葉は決まってこれしか無かった。
「何もわかんないですね。」
私は無知だ。
父親が死ぬ事、父親が死んでどうなるのか
そして人が「死ぬ」という事。
17歳の頃の私から3年経った今でも理解出来ていない。
いや、「理解したくない」と言ったほうが正しいだろうか。
私の父親は、DVアル中ヘビースモーカーの住宅営業マンから結婚して、未登記の住宅リフォームで無知な田舎の老人か暴利を貪る悪人となった。
施工図も契約書面もデタラメ、施工業者は地元の後輩で中抜き大万歳。
遺品整理の際に出てきた書類を見て父親の慧眼には驚いてしまった。
摘発される事は密告以外有り得ないのだが、手際がとても良いのだ。
そんな父親だが、私の為に本当に一生懸命だった。
野球を1から教え、幼稚園の頃から勉強を1から教え、私の教養を広げるために博物館や美術館へ連れて行ってくれた。タバコも私がぜん息と知ると辞めてくれた。
父親の愛を目一杯に受けたがそれに応えられず、家庭環境も不穏で高校生になる前に離婚、父親は酒とタバコにまた溺れ死んでしまった。
そういえば、父親はモラルというものを知らなかったので私を飲み屋によく連れて行っていた。
そのうちのとあるバーへ行ってきた。
マスターは父親が若い時からの付き合いらしく、よく喫茶店でアルバイトした後に遊びに来ていたらしい。
マスターは父親が亡くなった事を知ると、
棚の奥からそっと年季の入ったボトルを取り出した。
父親の名前が入ったボトルキープのVSOP。
最後の1杯だった。
父親が好きだった酒を空に掲げ、一気に飲み干す。
胸の奥が熱くなる。
この熱さがわかるのはいつになるのだろうか。
理解出来る頃には、この酒の味も感じる事が出来るのだろうか。
お読みいただきありがとうございました。