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【7】

「あっ、きたきた! 琴美ちゃん、こっちこっち!」


 約束の時間より三十分も早くついてしまったけれども、待ち合わせ場所としてお母さんから指定されたカフェの四人掛け席には、すでに雄介君の姿があった。

 普段はなかなか行かない高級ビジネスホテルのカフェということもあって、何を着ていくか迷ったものの、結局白ブラウスに黒のロングスカートを合わせただけにした。

 あまり気合いを入れ過ぎても、お見合いみたいになっちゃうし、雄介君にその気が無かったら浮いちゃうと思って。そういう雄介君も白シャツにジーンズの清潔感のあるカジュアルな装いだったから、この格好で丁度良かったのかも。


「ごめん。待たせちゃったよね」

「全然平気。実は琴美ちゃんに会えると思ったら、早く来ちゃってさ。暇を持て余して、本を読んでいた」


 そう言った雄介君の前には難しそうな洋書が置かれていた。仕事に関係するビジネス書かもしれない。


「雄介君はすごいね。今はアメリカで働いているんだっけ?」

「大学時代に留学したら、日本とアメリカの文化や経済の違いに圧倒されてさ。別世界みたいだったよ。慣れるまでは苦労したな〜」


 アメリカでの苦労話を面白おかしく話してくれるからか、時々クスリと笑ってしまうが、この世界に来たばかりのジェダもこんな気持ちだったのかもしれないと思うと、どこか胸が痛くなる。

 あの時、ジェダの気持ちをもう少し考えていたのなら、今みたいにすれ違わなかったのかな……。


「ところで琴美ちゃんは今日の目的を知っているよね? うちの母さんが無理を言ったみたいでごめんね」

「ううん。丁度、私も将来を見据えたいと思っていたの。夢……があったんだけど、そろそろ現実を見ようかなって」

「小説家になりたかったんだよね? 琴美ちゃんは子供の頃から本が大好きだったから……」

「そんなこと無いよ。本は好きだし、お話を書くのも好きだけど、それ以外の才能が無かったから小説家にはなれなかったの。でも後悔はしていない。今まで好きなだけ書けたから」

「本当に?」

「本当だよ。たった一人しかファンはいなかったけれども、その一人のために今まで書き続けられたの。それだけでも作者として幸福じゃない? 何の変哲も無い物語だったけれども、一人でもファンを持った小説家になれたのだから!」


 すると、雄介君は両手を叩いた後に、何故か仕切り代わりの観葉植物を隔てた隣の席に声を掛ける。


「こんなことを言っていますけど、どうします? 編集長、ジェダイドさん?」



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