第9話 『コンビニ』
「・・・で、話しを早めにしてもらいたいんですけど。いくら田舎とはいえ貴女は有名人なんですから俺みたいな一般人と居るところを見られない方が良いですよ。特に今の時期は療養期間だとか聞いてます」
「・・・!そうなんです!療養期間だから療養されにきたんです!!」
梅雨。雨天にてみんな傘を差している。その為、一見してすぐには顔がわかりずらいが、それでも見る人がみれば有名なアイドルだとわかるだろう。そんな人が田舎にいる。しかもその辺の公園に二人で立って話しているのだ。別に大して濡れる心配もないのだが、キツネはシンの傘の中、肩に乗っかっている。
「でもさ、まさかシンが警察官の人に渡すための電話番号を盗み見て?!しかも暗記して?!それでずっと電話してきただなんてね。しかもたまたま持ってた最寄り駅のストラップ見てここ最近ずっとこの周辺に通ってたっていうんだからまぁ熱心だよね!!ってかなんでっ?!むしろ怖っ?!」
シンの肩に乗りながら、怯えるような仕草をして耳に縋るキツネ。
「助けてくれた貴方が私の心の安心材料なんです!結局あのあと彼氏とは別れちゃいました。こんな大事になるようならいつか自分も狙われるかもしれないって言われて・・・。私、一人になっちゃって・・・」
「同じアイドルグループのメンバーがいるじゃないですか」
「だって、今回の事件って私が彼氏作って週刊誌に撮られたことが原因だから、今メンバーとすごく気まずくて・・・」
「謝っても許してもらえなかったんですか?まぁ謝ったからって許してもらえるとは限りませんからね」
「何でそんな酷いこというの?!私には貴方しかもういないのに!!あと、これって私が悪いの?謝らなくちゃいけないこと?確かに週刊誌に載っちゃったからグループの印象は少し変わっちゃったかもしれないけど!」
彼女が距離を詰めて来た。近い事にシンは不快感すら覚えた。アイドルなのに。
「・・・この子、すごくマイペースって感じするー」
あのキツネが少し引いている。
シンは違和感を覚えた。
彼女の所属しているグループが恋愛禁止かどうかは知らない。でも、”謝らなくちゃいけない事?”と言われた時に、シンは彼女がメンバーや周りの人に謝るべきだと思っていた。アイドルという立場の人間が恋愛をしたのだ。それを悪だと思っていたからである。いや、しかし、同じ一人の人間だ。心まで制御する必要があるのか?しかし、それをわかっていてアイドルという職業をしているのだろう?違うのだろうか?ただ多くの人の前で歌って踊って持て囃されたかっただけなのだろうか?
「(でもそれは人それぞれだ。そもそも俺はただの付き添いでファンじゃない。変な価値観を押し付けるのは辞めよう。というか、本当に他人に見られたら危ないからすぐにでも・・・)」
「あれ?!ねぇっ!!《みーたん》じゃない?!絶対そうだよ!」
近くを通っていた女子学生が気付いた。それもそうだ。彼女は迫った勢いでパーカーのフードがズレた。特徴のあるピンクと紫のメッシュが入ったロングヘアーが露呈している。傘はオーロラ色の透過しているものだ。これは遠目でも気づく。
「みーたんだ!撮影かしら!?」
「カメラ無いよ!えっ!行こう行こう!!」
「でも、辞めない?プライベートだよ?」
「本当にちょっとだけですから!」
そう言って女子学生が雨にもかかわらずに傘を差しながら足元の雨水の跳ね返りも気にせずに駆け寄ってきた。
「あれ?!シン!あの子達・・・!」
「この間の電車の女子中学生だっ・・・!」
「あっ!お兄さんこの間の電車で助けてくれた・・・!!」
先頭の女子学生が気付いて声をかけた。
「・・・貴方、日頃から人助けしてるのね」
アイドルのみーたんがさらに距離を詰めて話しかけてくる。
「お兄さん!みーたんと知り合いなんですね!」
「違うよ。ここでたまたま会っただけだよ」
「何で嘘つくの?!電話でここにしようって言ったのそっちじゃん!」
できる限り他の人には詳細を知られない方が良いと判断したシンが適当に誤魔化そうとしたものの、当の本人である女性アイドルである《みーたん》自ら否定をした。みーたんは可愛げを全面に出すことを忘れずに怒り始めた。
「えー!すごい!電話番号知ってる仲?!?もしかして彼氏・・・は、この間週刊誌で載ってた人とは全然違う感じだし・・・?」
シンはこの状況に段々と嫌気が差してきた。
勝手に電話してきて自分の元まで来るアイドル。先日会った女子中学生。そして説明も何もないこの面倒な状況。もう今すぐここから逃げてしまおう。そう思った瞬間走り出した。
そして公園の入り口に行くと、先ほどの女子生徒のグループでこちらに来なかった一人が立って待っていた。
この間の電車の事件の時、おとなしそうにしていた髪の短い・・・ショートカットヘアーの彼女だ。
すれ違い様に彼女はシンに会釈をした。男子高校生と普段関わりがないから恥ずかしいとかだろうか、目は合わない。軽く手を上げる対応をしてシンはそのまま家に向かって走る。
「今!!今の子!!ぼくと目が合ったよ!!!?!」
「馬鹿なこと言ってないで帰るぞ、着いてこられたらたまったもんじゃない」
・・・ーーー
梅雨時期でも晴れはある。
今日はお昼過ぎからの雨予報だ。朝は久々の晴れである。夜通し降った雨粒が太陽に照らされてキラキラと輝く。ここ最近ではなかなか見られない光景だった。人々の心も少し晴れやかになる景色の朝だ。
「いらっしゃいませー」
翌朝、シンは普段の登校時間よりも早く家を出た。あのアイドルである《みーたん》対策である。昨日、制服のまま会ってしまった為、どこの学校かはもう割れているだろう。シンの通う学校の制服のデザインは珍しい。女子生徒の制服は稀にあるデザインだが、男子生徒の制服はほとんど見かけない。冬服のジャケットがコートのように丈が長いのだ。全国に探せば他にもあるのかもしれないが、この近辺ではシンの通う学校以外見当たらない。
つまり、みーたんが気になって制服の特徴を頼りにインターネットで検索でもしようものなら秒で判明するのだ。
流石に、人通りの多い通常の登校時間にいくら何でもこないだろうとは思ったが、念の為にシンは早く家を出たのだ。しかし、起きる時間はいつもと同じ・・・つまりシンが起きようとしていた時間よりは遅く寝坊をしてしまった為、朝食を取れなかった。
その為、通学路にあるいくつものコンビニの中でも利用客がなるべく少ない店舗を選んで入店した。
「ッシン!!これ新商品のお菓子だよ!!あっ!こっちも!!」
キツネはシンが返事をしないことを了承でこのように人がいる所でも話仕掛ける。ただの報告である。
「おにぎりっ!!”ごま油香る、キムチーズおにぎり”だって!!!凄い!!美味しそう!!」
そんなキツネを無視してシンは朝食にとサンドイッチを手に取った。
「シンのおうちはいつも朝ごはんはお米なのに今日はパンにするんだ!朝はお米じゃないと嫌っていう訳でもないんだね!」
他にも商品を見ていたシンの前にするりと浮きながらキツネが視界へ割り込む。それを、虫を払うかのように手で退かす。
店内は軽快なBGMが流れている。賑やかだ。しかし、賑やかとも少し違う音が聞こえてきた。声だ。人の怒鳴り声だ。
「なぁ?急いでんのわかんねぇの?朝何だよ?みんな忙しいんだよ?お前みたいに暇じゃねぇんだから早くしろよ?」
レジの所でスーツの男性が会計をしているアルバイトであろう女子大生に見える女性を急かしていた。女性は男性からの威圧感からもあってか、手を震わせながら作業をしている。
「何で公共料金の支払い処理もろくに出来ない奴がこんな忙しい朝にレジ立ってんだよ?!おい!!店長呼んで来いよ!!時間ねぇんだよ!!」
大声に女性はびくりとして肩を震わせてすくめた。
「あれはかわいそうだねーでも、朝のコンビニでは時折ある現象だって聞いたことあるよ!!てか!シンの出番じゃない?!」
「いや、どっちもどっちだと思う」
「何でっ?!」
「忙しいってわかってる時間に新人らしい人に誰もフォローをつけてない店側も問題だよ。男性の感性も俺はあまり好きじゃないけど。暇じゃねぇんだよって失礼だよ。こんな朝早くから彼女はもう”勤務中”なんだよ。誰かがレジをやってくれないと困るだろう?セルフレジって結構面倒だって俺は思うし。好きな人は好きだろうけど」
「・・・え?で、施錠しないの?」
「するにはするよ、はぁ、さっきまで晴れも相まって凄くいい気分だったのになぁ」
そう言って、棚にあったチョコレートを手に取り買い物カゴに入れたシン。
そして、問題が発生しているレジへと向かいながら唱え始めた。
「《表印」
瞳印と手印で男性の後頭部を捉えた。
店内なのに、朝なのに、周りは暗くなる。
「《強制制御ッ!!」
そして、蒼白い雷が鋭い音と共に落ちる。
【ガシャンッ!!!!!】
「だからお前じゃ話しにならねぇって言ってんだよ!!さっさと店長を・・・!!」
そこまで言って男性は大人しくなった。
「・・・?」
いきなり静かになった事に店員の女性も少し疑問に感じたのか、今まで下を向いて怯えていただけだったのが男性の顔を少し盗み見るように顔を上げた。
その瞬間だった。
ーーーダンッッ!!!!!
シンが割り込みの如くレジに思いっきりカゴを置いた。




