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第7話 『コンサート』



「大きい会場じゃないなとは思ったけど、人気のグループなのにこんなに小さい場所でやるんだな?」




 翌日



 イベントの会場に到着したシンは、オミを見つけて最初に言った。


「おう、まぁドームでやったら相当な大人数と握手しなくちゃいけないだろ?それだと流石に時間もかかりまくるだろうよ」

「まぁそうだろうけど・・・」

「じゃぁ握手会なんてしないで大きい会場にすればもっと沢山の人達が歌聞けるのにねー!それに握手会なんて怖いと思わない?!絶対に熱狂を通り越したファンが来るよー!襲われちゃうよ!危ないよ!あっ!でも今日に限ってはシンがいるから大丈夫だね!!何かあってもシンが施錠してくれれば大事には至らないから!」

「起こる前提で話しを進めるなって」

「?シン何か言ったか?」

「いや、何も」



 



・・・ーーー





「テレビで聞いた曲、いっぱい聞けたねー!でもやっぱり動きながら歌うからちょっと声がブレるよね!外したりもするけどでもそれもファンからしたら醍醐味なんだろうね!よくわからないけど!ボクは音源通りのがやっぱり好きだけどね!」


 ライブが終わり、アナウンスが流れた。会場のスタッフが簡易的なセッティングを行い、これから握手会が行われる。アイドル達は今、休憩やメイク直しの時間だ。そして、アナウンスに従って順番に観客たちが少しずつ動き始める。


「・・・オミ、握手はしなくても良いんじゃないのか?」

「ダメだ。握手をしたらその後何も触らずに帰ってきて握手しろって言われてる」

「無理じゃん。電車の吊り革、そもそも飲み物飲むし、ご飯も食べるしお姉さん帰ってくるまで何時間あると思ってんのトイレ行かないわけ?というかオミって変なところ律儀だよな」

「ウルセェなっ?!」

 照れたオミが大きな声で反論した。



「お静かにしてください!!」



 メガフォンを持ったスタッフにオミが怒られた。

 握手会のルールは徹底している。変な行動を取ろうものなら警備員につまみ出される。これなら不審者を自分が施錠しなくても大丈夫だろう。シンはそう思って気を楽にした。その顔を見てかキツネがハッとしてシンに近づき警告をした。


「シン、気を抜いちゃダメだよ!ファンの中には突発的な衝動に駆られる輩もいるからっ!」

「お前変なところ気遣い屋だよな」





「ありがとうございまーす!!」

「ありがとーー!!」

「ありがとなっ!!」


 握手をする度にアイドルがファンにしっかりとお礼を言っている。そして、もう間も無くシンとオミの順番だ。握手の少し前には、手荷物検査もある。しかし、シンとオミはほとんど手ぶらな為、男性スタップに身体検査として服の上からポケットなどを軽く叩かれた。


「はい、大丈夫です。どうぞ」


 そう言われて再度列に並んだ。あと20人ほどで自分達の番である。・・・後15人・・・あと10人。そして、最初の男性メンバーとシンの握手が始まった。

 男女グループの為、男性ファンも女性ファンもいる。男女の比率は半々だろう。そして、二人目の女性メンバーと握手をした。その時、シンは何か違和感を感じた。

「(なんだこの違和感?目の前の彼女か?それとも会場か・・・?)」

 しかし、握手をした彼女はにっこり笑って

「ありがとうござます!また来て下さいねっ!」

 と、営業スマイルだ。ではこの違和感はーーー



「ーーーシンっ!!なんか列とか無視して後ろから一直線に向かってくる人がいるっ!!」



 違和感は会場の出入り口付近からだった。ライブの観客が列やアナウンスを無視してアイドルたちの方に走ってきた。二人いる。体の大きさから見ておそらく男性だ。しかも大きい。懐からナイフを取り出した。これは完全にアウトである。


「そこっ!止まりなさい!!」

 男性警備員が声を上げるもお構いなしにアイドルがいる方へ迫る。会場の観客も悲鳴をあげて散っていく。警備員は取り押さえる側と、アイドルをバックヤードへ誘導する二手に別れたが、アイドルを誘導する方が圧倒的に少ない。迫ってくる不審者の男性の体格が大きすぎて数名では止められない判断だ。アイドル側の警備員は裏方へ誘導するも、怯えてしまった女性アイドルは座り込んでしまった。隣の男性アイドルが立たせようと引っ張るが、立ち上がれない。


「おいっ!!シン危ねぇぞ!逃げよう!!」

 流石の体格差にオミも敵わないと思ったのか逃げる選択をした。

「シンっ!!逃げちゃダメでしょ?!施錠すれば一発でしょ?!」

 キツネがシンとオミの間に割り込んできて喝を入れるかの如く叫んだ。

「いや、引こう」

「シン嘘でしょ?!?!?!」

 この絵に描いたピンチを助けない選択をしたシンにキツネは心底驚いた。

「キツネのくせにキツネにつままれた顔してんじゃないっての」

「駄洒落言ってる場合じゃないと思うけどっ?!?!」


 シンはこんな時でも冷静に考えた。むしろ、このような非現実を目の前にして逆に冷静になった。

「(隣にはオミがいる。目の前・・・というか後ろにはアイドルがいる。そして不審者二人の向かう先が俺が今いる場所だ。つまり、大勢の視界や監視カメラに俺が写ってる。一般人には特に現象が視認できないとは言え、おかしい構図になる。疑われては困るんだ・・・)」


「せめてこの場所から離れないと・・・オミっ!!逃げよう!!」

「こっちだ!!」

 そう言ってオミは走り出した。そして、シンのまさかの発言にキツネが驚いた。

「嘘でしょ?!シン!!何のために力を渡したのさっ?!」

「使うタイミングがあるんだよ!!離れた場所ならっ・・・」


 そう話しながら走り出そうとしたシンだが、服を掴まれて止められた。

 女性アイドルの一人だ。硬直して動けない。座り込むこともせず、ただ立ち尽くしている。オミは後ろを振り返らずに走っている。逃げようと言ったシンがまさかついて来ていないという思考にはならないからだ。


「っーー!!すみません!離して下さい!!アナタも裏方に逃げて下さいっ!!」

 シンが力強くいうが、女性アイドルはもう頭が混乱している。片手で掴んだシンの服を、もう片方の手でも掴んだ。離すどころではない。

「ーーっくそっ!!」

 彼女の手を掴み無理やり剥がそうとした。正直力加減まではコントロールできないがそれでもできるだけ、意識が向く限りは優しく彼女の指を剥がす。不審者が向かって来てるんだ。時間がない。

 そんな時、服を掴んでいた手を彼女が離した・・・と思ったら


 

「!?」

「腕ぇっ?!」

 今度は服ではなく両手でシンの腕を捕らえられた。もうダメだ。片手では両手に対抗できない。

「シンッ!シンッ!!来てるって!怖い人たちっ!!もう無理だよ!!施錠しようよっ?!」

 人目につかない所に移動してから使いたかった術。人に見られても良いのだろうか。不都合はないのだろうか。人に見られたら力がなくなるぐらいなら良いがペナルティが発生したりなんてしたら困る。一瞬そんなようなことを一通り考えたがもうこの状況ではやるしかないだろう。


 握手会のアイドルはほとんどが裏方に避難したが、シンを掴んだアイドルだけが動けない。そこに向かってくる不審者二名。他のファン、観客はもう離れて周りから見ている。オミも背を向けている。不審者が刃物を持って迫ってくる。


 逃げられない。

 覚悟を決めたシンは、それでも人にバレたくない為に小さな声で言った。



「《表印》」

「えっ?」



 ここにきて腕を掴んでいた女性アイドルが反応した。しかしそんなことに構っている暇はない。

 視界に映し出された瞳印と、己の輪郭と手印だけしか見えない透き通った手を前に翳す。両方の印を合わせた。対象の不審者からは恐怖で人が避けている為狙いを定めやすい。


 そして、二つの印の中にまず一人を収めた。



「《強制制御(セイギョ)》っ・・・!」




 【ガシャンッ!!!!!】




 一瞬煌々としていた会場内が暗闇に包まれた。そして雷光が落ちたかのように蒼白く光った。

 心の、怒りの感情が施錠された者は、その場で倒れ込んだ。そして、シンは続けて迫ってきた男にも同じように印の中に収める。

 



「《強制制御(セイギョ)》っ!」




 【ガシャンッ!!!!!】




 立て続けに二人を施錠したシン。そして感情が落ち着いて荒ぶる態度や力が抑えられた不審者はそのまま警備員に連行されて行った。

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