第53話 『ボウソウ』
三人で会う日が急激に増えた。
約束をしなくても、国生の実家の神社に自然と集まる。甲斐は部活動や門限、家の用事で来ない日もあるが、シンは毎日通っている。
「シンみたいな奴が文化祭が楽しみだったとはな」
「普通の高校生だからな」
「十分普通じゃねぇよ。むしろ普通の要素一個もねぇよ」
「まぁ、ちょっと体調悪いくらいならまだ保つでしょ?文化祭の後に封印の儀をしましょう。それまでに色々準備とかあるでしょうから」
「なんの準備だよ?」
「ほら、やりかけのゲームクリアしたいとか」
「お前それより考える事あるだろうよ?・・・五年も寝るんだぜ?親もびっくりするだろうが!」
甲斐の言う事は最もだ。子供がある日昏睡状態になったら親は驚き不安になるだろう。歩きながら三人は話しを進める。
「自宅のベッドでするのが一番良いでしょうって甲斐くんと話したの。私たち、窓から忍びこんで封印したら出ていくから。朝、起きないってなったら・・・まぁ病院に行くことになるだろうけど」
「大事にならないと良いけどなぁ・・・」
「「絶対なるって」」
「五年の入院費用とかバカにならないよなぁ」
「じゃあやる事って保険入れって事か?!」
「そう言う意味じゃないわ。あと、強運体に関しての費用はバチ当てから出すから・・・にしてもどうやってご両親に接触と説明しようかしらね」
「じゃあ俺と街中でぶつかって打ちどころが悪くて倒れたって事にするか?そしたら一旦費用は全額俺・・・というかウチのオヤジが持って、のちにバチ当てから金を貰うと」
「そうするとバチ当ての説明が甲斐くんの親御さんに出来ない以上、渡したお金は全部甲斐くんに行くでしょ?」
「頭の回転がいいのも考えもんだな」
「バカにしてんのかしら?」
封印と封印後の事は、甲斐と国生がまかせろと言ってきたこともあり、シンも素直にお願いをすることにした。
鞄の中のキツネは特に何も言わない。最近ではシンの部屋でしか話さなくなった。しかし、自分とはまだ話してくれるだけ良いとシンは思っていた。
自分が良いことをしていると思っていたのに、一緒にいる人間が死ぬような力を渡していたのだ。純粋に善行をしていると思っていただけにキツネの心の傷は深かった。
「(・・・だったらキツネに心なんて持たせなければよかったのにな)」
まさか、心まで作り物で演技をしているのではと、一瞬頭をよぎったが考える事をすぐに止めた。
・・・ーーー
この時期、平日の放課後に珍しくバレー部が他校と練習試合を行った。この間も一度来た白羽高校だ。なんでも、大会で今の時点で勝ち残っているのは、あの夏休みの大合宿をした幾多の高校の中でも、天王子学園と白羽高校の二校だけだった。よって、白羽高校の例の三人はまだ引退をしていない。
スズが話の途中で呼ばれてしまった為、別に今日は部活を手伝う予定もないシンだがバッタリと会ってしまったので話し相手をしている。
「そっかー!どこもかしこも文化祭の時期だよねー!忙しい時期に来ちゃったもんだねー!でも会えて嬉しいねー!」
「おい、美子。こちらさんは今日はバレーの手伝いじゃないんだから引き止めんなって」
「ちょっとだけよ!一言喋るくらい良いでしょ!!ねぇ!天王子の文化祭って誰でも入れるんでしょ?!私たちも遊びに来ようよ!三人で来よう!楽しみだなぁ!瀬条くんと鈴くんのクラスは何やるの!」
「全然一言じゃないねー」
「お前も止めろよ?!」
白羽高校の三人の漫才じみた会話が始まった。一人で二人の言動を捌く副部長が非常に忙しい。シンはこの光景がなんとなく好きだった。
「喫茶店です」
「メイド喫茶だけの予定が、執事もやることになりました。シンが執事をやります」
シンと、たった今戻ってきたスズが答えるとマネージャーの榊 美子の顔色が更に明るくなった。
「何それー!絶対似合うじゃん!!写真とか一緒に撮ってもらえるのかな!絶対来ようね!楽しみ!」
「・・・煩くてすまねぇ・・!もう良いだろう?!帰してやれって!」
「文化祭、俺たちも楽しみにしてるね。宜しく。で、食べ物は何店舗くらいあるの?」
「話を聞けっ!!?」
「あ!体育館開いたね!ありがとうー!またねー!」
そうして集合時間より早めに着いた三人を先頭に、白羽高校の他の部員は体育館へと入って行った。スズが来た方向を見ると、天王子学園の男子生徒が一人いた。学年別のカラーを見る限り、一つ上の三年生の男の先輩である。
「スズ、どうした?話してたあの先輩まだいるぞ、バレー部の先輩だっけ?」
「いや、違うんだが・・・まぁ応援してるからって話かけられて」
「人気だなぁ」
「それよりもシン、最近体調悪そうだが・・・」
「ちょっとな、大丈夫だよ。寝れば治るって」
「・・・ならいいが」
スズだけでなく今朝はオミにも心配をされた。どれだけ長く寝ても体調が良くならない。国生の言っていた『体の痛み』がない事が、自分にはまだ少し時間が残されているという実感となっていた。
・・・ーーー
文化祭を週末に控えたこの日。この日は三人で会うが神社ではなく駅で待ち合わせをした。
「いいじゃないの!思い出にちょっと遊びましょうよ!!」
「何が思い出だ。別に俺たちゃ学校のお友達じゃねぇんだよ。その為に今日の集合場所を駅にしたのかよ」
「学校以外のお友達って素敵じゃない!それに、人生には沢山の思い出があった方が良いでしょ?!」
そう言って、街中へと繰り出した。
すっかりと秋になった。涼しい風が吹く。衣替えがあり、シンの学校の特徴的な鬱陶しい程長いブレザーを着る季節だ。トンボが飛び交い、枯れ葉の香りがする。金木犀の香りもたまに漂ってくる。
しかし、自分は後一週間後の文化祭が終わった翌日には封印をする。そう思い、なんともやるせない感覚が押し寄せてくるシン。
「一人じゃなかなか出来ない事、やりましょう?」
そんなシンを見て、国生が優しい顔で言った。
「おい、キツネも出てこい。いつまでもじめじめ湿気ってんじゃねぇよ!!ほら、ファミレス行くぞ!!」
「・・・シンと一緒にハンバーググラタン食べたい・・・」
「じゃあ行きましょう、出てらっしゃい。私が一緒に居ればバチ当ても施錠も解錠も、誰に会っても大丈夫だから」
のそのそと出てきて久々に街中で宙に浮かんだ。
「本当?」
「私No.2だから。大丈夫よ」
「一緒のテーブルで食べる!!」
久々にキツネが楽しそうにしている姿を目にしてシンはほっとした。
夏至を過ぎてから日没の時間が日毎に早くなる。夏であればまだ明るい時間だが、もう西陽が強く差し絵に描いたような夕焼けだ。そして陽が当たらない陰の気温は急激に下がる。
楽しかっただけに急に心が寂しく感じたシン。あと数日後に迫った封印の日が近づくにつれ、何もできない眠ったままになる五年間を考える時間が増える。
そばにいてくれる甲斐と国生の二人には感謝しているシンだが、部活でなかなか遊べないスズやオミともこうやって遊びたかったなと考える。文化祭までに二人が空いている時間がなく、遊ぶことはできなかった。それに、遊びたい気持ちもあるが、ふとした時に封印の事を思い出すと、やはり甲斐や国生が近くにいた方が安心する。そう、シンは不安だった。
そして、付き合いの長い幼馴染より、あって間もないが事情を知る人たちの方が安心できることに自分はとても薄情なのかとも考えた。
「あんま気にすんなよ。もし運よく二年で封印が完了したら俺と同級生だ。俺と同級生だなんて大層幸せだろ?」
「・・・・・。ふっふははは」
冗談を言って空気を明るくしようとあの甲斐が気を遣う。珍しさにシンはあっけに取られた後に笑った。
「なんだよ!!心配してやったのに笑いやがって!!」
甲斐が少し恥ずかしそうに言った。その恥ずかしがる甲斐を見てシンは更に笑った。
「甲斐くんと同い年でも良いけど同じ学校は嫌だよね!」
「テメっ!キツネ調子に乗りやがって・・・!!」
その時だった。
ーーパシュンッ!!!
「ん?」
「は?」
「え?」
シンから一糸の金色の光がレーザーの如く発射した。
その先を見ると、見知らぬ通行人に当たった。そして・・・
【ガシャンッ!!!!!】
施錠が掛かった。
そしてまた少し経つとシンから金色の光が発射し、通行人へ当たり施錠・・・
「ちょっ、ちょっと瀬条くんなにしてるの!?」
国生が驚いてシンを見るが、シンは何もしていない。唱えてもいなければ、手をかざしている様子もない。
「まさか・・・!」
甲斐が思い付き、続いて国生も気がついた。
二人が見る限りシンは一切何もしていない。つまり、勝手に力がシンから飛び出て周りの人間を施錠している。
国生が両手を自分の前に翳した。術をかける体制を取った。そしてシンに事実を告げる。
「瀬条くん・・・これは、力の暴走よ・・・!!」




