第51話 『キツネ』
シンが国生の帰りを待って話をした日から二週間以上経ったある日。
主が不在の神社で甲斐が先に待っている。神社の本殿の前。階段に腰をかけている。おなじみの光景になってきた。今の時刻は16時。参拝客はもう来ない時間だ。後からやってきたシンの顔を見た甲斐は一瞬言葉が出なかった。この短期間にどうしたのだと思った。やっと出た言葉は
「お前ひどい有様だな」
「友達にも言われた」
「・・・溜まってんな。何日してない」
「なっ?!お前っ?!」
「ちげぇよエロガキが。お前の体に施錠する為の力が溜まりまくってると見た。・・・施錠してないんだろ?」
「してない」
「なんで辞めた」
「だって甲斐はいつも施錠し過ぎるなって・・・」
「(あれ?)」
そこまで話していてシンは思い出した。甲斐はシンに対して『施錠を辞めろ』とは言ったことはない。最初もそうだが、『し過ぎるな』とは言われていた。なぜ辞めろではないのかと今になって腑に落ちず質問をした。
「・・・甲斐、俺に施錠を辞めろとは言わなかったよな?」
「あぁ」
「普通、あれだけ色んな説明して害があるって思ってるなら『辞めろ』っていうよな?でも、会った時に『し過ぎるな』とは言ってたな?」
「あぁ」
「なんでだ?」
「・・・」
「言えないのか?」
「直接的表現で伝達した場合、俺が死ぬ仕組みになってる」
甲斐はシンの目を見て言った。嘘でも脅しでもない。本気で本当の事だ。
「そうか・・・いや、ここ何日か考えてたんだけど、俺、この力返すよ。良い事だと思ってやってきたけどやっぱりわからない。人が怒らなくなれば丸く収まると思ってたんだけど、どうやらそれは目に見える事だけだったみたいだな」
「力は返せないよ」
シンに言ったのは鞄から顔を出したキツネだった。そのまま外に出た。
「じゃあもう使わない」
「無理だ」
今度は甲斐が言った。
「残念だが、お前はもう毎日施錠をし続けないと自身の体が壊れる状態になってるんだよ。受け取った施錠の力を使わない事は出来ない。怒りや争いで負の感情が産まれ続けている以上、力を授かった者は施錠をし続けなければならない。一度施錠をしたら施錠をした分以上の力が自動でお前に補充される」
「返せないなんて聞いてない!」
シンの言葉にキツネも甲斐も返事をしない。そのまま甲斐が話を続ける。
「・・・勢いよく毎日施錠して、力を使えば使うだけ、放出した施錠のエネルギーに対して補充エネルギーの勢いも増える。お前の体は今や施錠の為のエネルギーの放出と補充・充填が物凄い勢いで常に行われている。使わなければ施錠をするためのエネルギーが体に溜まり続けて
過多になって・・・」
その先の言葉を甲斐は言わない。言えないのだ。さっき甲斐本人が言った。直接的表現は言ったものが死ぬ仕組みだと。では、それに匹敵する事が起こるのではとシンの頭によぎったその時だった。
「エネルギー過多で体が耐えられなくて破綻するの。つまり、施錠を続けないなら瀬条くんは溜め込みすぎた力で破滅するの。死ぬの。わかってる範囲で出来る応急処置は”力の封印”だけよ」
ちょうど神社に帰ってきた国生が言った。
「シンを脅かす言い方すんなよ」
「事実を言ったのよ。縛りがあってずーーーっと、はっきりと言えない解錠しかできない貴方の代わりに、バチ当てであるワタシがねっ!!大体瀬条くんは強運体だから最後はどうにかなるわよ」
「大遅刻だぞ、副総代」
「正式会議じゃないわ。あと私学校遠いのよ」
「大体なんだお前の根拠のないその自身!!強運体なのに施錠の力持ったんだぞ!もう理が壊れてんだ!何が起こってもおかしくねぇだろ!!」
「頭硬いわねぇ・・あ、違うわ。古いのよね」
国生がくすくすと笑った。明治生まれの甲斐に対する冗談だ。
「それにしても本当に最近救急車の音やパトカー見ること増えたわね。夏休みでもないのに。ニュースにならないからなんだったのかは後で参拝客とか近所に人に聞かないとわからないんだけど。負に変わる前になんとかしてくれる瀬条くん様様だわ」
「ここは治安の悪い街じゃなかったはずなんだけどな」
シンのその言葉に甲斐は考えた。
「(他の施錠にそこまで遭遇したことはないが、なかった訳ではない。昔は親に連れられて遠出をした時にたまに他の人の施錠の音を聞いた。多くて月に三回あるかないかだ。そもそも人が普段からそこまで激昂する場面に遭遇する確率は少ない。シンの遭遇率が異常に多い。俺の生活区域内では最近力を授かったシンの施錠の音しか聞かない。
おかしい・・・。シンの元に騒動が寄ってきているのか、それともシンの行き先で起こるようになってる?そんな事、引き寄せだなんてうまい具合に操作なんて・・・)」
そこまで考えて甲斐はハッとして目を見開いた。
悪神が人間の感情自体を操作しているという程の大事はしない。しかし、人の怒る”タイミング”を操作しているとしたら?と言う考えに辿り着いた。なぜそこまでしてシンの状態がわかるのだろうか。神様と言うのはそんなことができるのか?そもそも一人の施錠にそんなにつきっきりで良いのか?じゃあどうしてそれができる。
そこで更に気づいた。何かが繋がった。
「いるじゃねぇか、シン。お前の行動をずっと見張っててどんなこともできる奴が」
「なんの話だ?」
「シンが騒動に出くわしたら施錠をせざるを得ない。騒動のタイミングさえ操作できれば良い。シンの近くに居て」
「・・・甲斐か?」
「俺じゃねぇよ・・・」
「じゃあ国生さん?」
「私がなんでそんな事」
「それ誰?!だれ?!」
そう言って甲斐は何かわかったような顔と、全く年相応ではない瞳。そう、成人の爆発しそうな怒りの片鱗を隠せずにいる瞳だ。それを向けた先は
キツネだ。
素早く手が出てキツネの頭を鷲掴んだ。
「痛っ!!痛いよ!!辞めてっ!!」
「お前にプログラムされてるんだろ?!術か?!お前がシンの行動に対して何かしてるんだろ!!無意識にそうするように仕組まれてるんだよ!!お前の意志と無関係にな!!」
「わかんない!わかんないよ!!」
「だから言ったろ!!本来、施錠にこんな相棒はつかないんだ!!おかしいと思ったけど俺が生まれ変わるまでに何か変わったのかとも思ったが確認する術がないからわからないままだったが、国生も不思議がってた!!やっぱりお前が元凶だ!!」
シンは目の前で怒る甲斐と頭を掴まれているキツネを見て、何が起こっているのかわからなかった。呆気に取られていたら甲斐が説明を始めた。
「全部、施錠の力の支配者である悪神の仕業だ。こいつを使ってな!!」
甲斐がキツネの頭を掴んだ手をシンに向けて突き出した。
「あまり、乱暴に扱ってやるな・・・本人自覚がないみたいだから」
本気で痛がっているキツネの表情を見ていてシンは心が少し痛んだ。
「馬鹿か!!こいつは結局スパイだ!今もこの状況でこの後も強運体であるお前をどう使うかを考えてるんだ!確かにこいつの意思ではないがこいつ本体はその為に作られた精霊だ!!コイツがいるからだ!!コイツを通してお前の力量を神に知られ!!コイツを通してお前がどこにいるかを教えて!!お前の行く先々にタイミングを合わせて問題という人の怒りを発生させて!!お前だけにこれだけ負荷を掛けて施錠をさせてきた!!」
甲斐に凄い剣幕で言われ、キツネはビクついている。
「そんなっ・・!ボクのせいでっ・・・!!」
「キツネのせいじゃない、気にするな。そんなに負荷じゃないし」
「お前甘いんだよ!!おい、キツネ。お前俺の家に来い。シンから離れろ」
「僕はシンと一緒に居ろって言われて・・・!」
「そりゃ監視カメラみてぇなもんだからな。一緒にいねぇと意味ねぇって事だよ。良いから来い」
「やだぁー!!」
「俺は大丈夫だから」
「大丈夫じゃねぇから言ってんだよ?!」
「私もキツネは一回瀬条くんから離した方がいいと思うわ。うちでも預かれるし」
「やだぁー!!」
キツネの所有を話すが双方引かない。
「ヤダじゃねぇんだよ、施錠の回数を減らしてもう遅いし意味ねぇんだよ!大体問題が起こる事自体がシンの心労になってんだっつってんだろお前が呼び寄せてんだからお前が邪魔なんだよ!」
「ヤーーーーーー!!!!!」
「大丈夫だ。キツネが気にすることはない」
一旦、今まで通りシンの家に行く事になった。
・・・ーーー
シンはその日、帰ってから一人でよく考えた。ちゃんと考えて、力や思惑を理解しないとと。電気を消した暗い部屋でベッドに横たわりながら考える。
「(そもそも、バチ当て様を贔屓にしている悪神様が発端・・・。
施錠と解錠の力は、”バチ当て様”の負担を減らすために生まれた力。そもそもは施錠の力だけでも良いが、反対の力を持つ存在も作らなければならないから解錠の力も存在している。そして、施錠の力を使うとこを見た一般人は施錠の力の身代わりとなる罰則を受ける。
その流れに入ったのが俺という存在である”強運体”。
強運体の強運と、施錠の力が合わさったことで色々と不具合や流れが変わって来ている。そもそも、施錠の力と強運体が一緒になることはなかった。実験なのか、なんなのか、悪神様が望む何かが、『強運体+施錠の力』の組み合わせからしか得られないのか・・・。もしくは不確定要素に何か期待をしている。どのみち、施錠の力の単なるパワーアップ的な簡単な話じゃないみたいだな)」
そこまで考えて、一旦休憩をする。隣ではキツネが不貞腐れて泣きながら寝てしまった。自分がいけないんだと言いながら散々泣いていた。自分の意思ではなく仕組まれたものならば仕方がない。今はまだ体調不良だけで特になんの問題もない。今日の話し合いで国生が言った言葉がシンの頭の中で駆け巡る。
《わかってる範囲で出来る応急処置は”力の封印”だけよ》
シンはキツネを撫でている内に寝てしまった。




