第50話 『シュゲイブ』
「あ、瀬条くん!次、瀬条くんの衣装合わせるね!この子が!」
「よ・・・よろしくおねがいします・・!」
「よろしく」
文化祭の準備が始まった。学校の全てのクラスの出し物が決定して、早速準備に取り掛かる。メイドと執事の喫茶店で、しかも執事をやることが決まったシン。衣装も部分的に手作りするらしく、手芸部の女子が衣装作りの為に寸法を測る。
先日の一件からシンの心が変化した。甲斐から聞いた話のせいである。
心を制御されると人間の体が動かなくなるという話だ。バチ当て様の中ではその考えの素、行動を起こしている。医学が進歩している今、まさか心の持ちようがすべての元凶だなんて原始的な話をされるとは思わなかった。しかし、思い当たる節がとてもある。それはいつも怒っていて体を壊してしまった叔父の件だ。
結局、叔父自身が思っていたことと違うことをしていたかどうかは知らないが、『心』の状態が身体に影響したと思っているのは同じ。だからこそシンは施錠の力で怒る心を抑えれば良いと思い、力を受け取ったのだ。
「俺の考えの、さらに先が、バチ当て様の思想・・・」
ポロっと言葉に出してしまった。
「え?どうしました?何かありました?」
クラスメイトの手芸部の女子が反応した。
「あ、ごめん。なんでもないです。すみません。衣装の修正とか手直しとか、俺が器用だったら自分でやるんだけど
」
「そんな・・・!!瀬条くんの衣装を担当させてもらってこちらが光栄です!!手芸部なんて暗いとかなんか沢山言われてきたけど、それでもこうやって瀬条くんの衣装を担当する日が来るなんて・・・!続けててよかった!」
「なんで手芸部が暗いの?」
シンからしたらよくわからない価値観の話をされて戸惑った。
「え?だって運動部とか他の文化部に比べて動かないし派手さはないし、なんかオタクのやることだって昔から言われてて・・・」
シンは彼女が言いたいことが少しずつわかってきた。文化部に対してよく思わなかったり下に見る人間がいた事は確かにある。
「あぁ・・・手芸部、料理部、写真部、化学部、映像部・・・あげればキリがないなぁ。でも、服ってみんな毎日着るだろうし、制服だってそう、誰かが作ってくれたもの。生活に密接してるどころか無いと困るのにね。陽キャだとか言われてる人たちはなんでか見下す節があるよね。でも、あの人たちだって、服は着るし、ご飯は食べるし、しょっちゅう自分達の事写真に撮ってるのにね」
「えっ・・・」
「派手な服だって、縫われて作ってる。化学がなきゃブームになったあのタピオカだって作れなかった。自然に実るものじゃないからね、あれは加工食品だし。アニメを子供じみたものだとかダサいとかいう人もいるけど、じゃあ一度も見たことがないのか?って言われればそうじゃないだろうし。気にしなくて良いのにみんな気にするよね。俺も多少は気にすることもあるけどさ」
「・・・多分、みんな瀬条くんみたいに考えられないです・・・」
「なんで?」
「・・・嫌われたくない、人に悪く思われたくない。でも自分の好きなことをしたいって気持ちがあって、みんなみんな葛藤してるんだと思いんです。運よく人に認められたらすごくラッキーだし嬉しい。でも、そうでないとずっと人に変に思われたり不振がられたりしてるのに耐えるんです。でも好きだから続けたい。自分の心に従うって難しんです。好きなことと同じくらい、人に嫌われたくないって気持ちがやっぱりどこかにあって消えないから・・・」
「嫌われたくない?」
「瀬条くんはいないですか?嫌われたくない人」
「考えたことないな」
「だから瀬条くんって堂々としてて、みんなから一目置かれるんですよね」
「とっつきにくいだけかと思ってた。でも、君も『嫌われたくない』ってなかなか素直に口に出して言えることじゃないと思う。言いづらいんじゃない?それを言える君も堂々としててすごいと思う。あと、悪く言われるかもしれないって思いながらもちゃんと好きなことを続けられてるのも意志が強いと思うし」
「・・・!そんな!!!私なんかが瀬条くんにすごいと言ってもらえるなんてもうだめどうしよう針の狙いが定まらないっ・・・!!!」
自分の後ろで針仕事をする彼女の話を聞いてシンは考えた。人によっては、自分の心が思うままに生きることが大変で人の意見で生きる人もいるのだと。そういう方法でしか自分を守れない人はどんどん体が動かなくなっていくんだなと。では、一時とはいえ、人の心に施錠をしている自分はなんなのだろうか。確かに負の感情は生まれない。問題も起きない。それがその人のこの先にとって良いと思っていたが、それがその人の先の人生を食い潰す事になってる。
「(施錠は本当に良いものなのだろうか?だから甲斐は施錠をかけることに反対していたのか。バチ当ての教えに背くことだから。でも、そのバチ当て様を大事に思っている悪神はバチ当ての為にと施錠の力と解錠の力を作った。バチ当て様の負担は減るが、バチ当て様以外の多くの人間にとって良い事はないのでは?)」
自分の周りで騒ぎが起こらなければ良いとだけ思っていたシンの考えが静かに崩れ始めていた。
・・・ーーー
「あら、待っててくれたの?なんか嬉しいわ。このままちょっと寄り道して制服デートでもして行かない?」
その日、自宅最寄駅で約束もしていない国生の帰りを待っていたシン。
「でも!僕もいるからデートにはならないよ!!」
「お邪魔虫ね。虫じゃないからお邪魔キツネね」
「・・バチ当て様ってみんないじわるで性格悪いよね」
「なんですって?!」
「あら、今日は甲斐くんは居ないの?」
「甲斐と次に会うのは明日なんです。携帯の連絡先交換してないので、口頭でした約束以外に会うことは偶然以外にないんです」
「なるほどね。で、みーたんの事でしょ?大丈夫。ちゃんと元気よ」
安価な喫茶店に入ってシンと国生が向かい合わせに座った。国生が早速話を始めた。
「よかったです」
「優しいのね。うちで今は神社の手伝いしてもらってるの。ちゃんと雇用したわ。いわば衣食住付き住み込みのバイトね。元気になったわ。アイドルだから出歩けないけど、まあうちの敷地大きいから、庭で騒いで動き回ってるわ。怪我の治りも良好だし」
「そうですか。それで、この間甲斐に言われたことがあって、それを疑う訳じゃないんですけど、確認したくて」
「あぁ、”バチ当ての教え”でしょ。バチ当て論。甲斐くんが現役の時から、今でもその教えは変わってないわ。だから私たちは施錠の力を良くは思ってないの。あ、別に瀬条くんが嫌いって意味じゃないから」
「それ!甲斐くんも言ってた!」
やはりそうなのかとシンの顔が少し曇ったのを国生は見逃さなかった。
「でも、他の施錠はともかく、貴方は”強運体”だからそこまで深く考えなくていいわ。なんとかなるわよ」
「・・・国生さんって楽天的なんですね」
「違うわ、瀬条くんが”強運体”だからそこまで心配してないの。大丈夫よ。だから、貴方が感じて、思った通りに、ここぞって時は施錠すれば良い。無理に施錠を辞める必要はないわ」
「・・・その後のその人の人生が変わっても?」
「だから貴方は”強運体”だからそれすらも大丈夫」
内容には納得はいかなかったが、国生がにこりと優しく笑って言うため、シンは少し安堵してしまった。
・・・ーーー
国生にお墨付きをもらったが、シンはやはり施錠の力を使うことを躊躇っていた。
変わらず日常生活の中で問題に遭遇したり巻き込まれる事がある。しかし、施錠を使うことを辞めてしまった。もし使った先に、その相手に何かあったらと考えるとできなくなってしまう。心と違うことをしているのではなく、そもそも施錠をしたい、するべきだ。という思想が自身から薄れている事に気づいた。
「(でも、それでもわざわざ俺という強運体と言う存在に、施錠の力を授けた意図が本当はあるんじゃ・・・)」
そうも考える時もあり、シンは自分の心が二つあるような気がしてわからなくなってきた。
「シン・・・?最近元気ないね?いや、シンは元々パリピ気質じゃなくてダウナー的だからそもそも元気キャラじゃないんだけどでもそれでも・・・」
キツネの心配も聞こえない。そして段々と体調が悪くなる日が増えていった。




